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溝上慎一のホームページ
(記事・書籍等)【書籍】
竹本三保 (2018). 56歳の青春宣言-女性自衛官 校長になる- 星湖舎
溝上のコメント
- 竹本先生が自衛官を定年退職されて、民間人校長として大阪府の狭山高校に赴任された頃からの長いお付き合いである。民間人の視点で学校がどのように見えるかが、詳細に記されていて、学校とはこういうものだ、ということに慣れすぎてしまっている教育関係者には新鮮な見方を提供する書物になっている。
- 校長として学校の、とくに授業改革に関わった部分を下記に抜粋するが、ほかにも、肩肘張らずに、生徒の目線でいっしょに文化祭の行事やさまざまな活動に参加した場面が紹介されている。民間人校長としての奮闘記である。前著『任務完了-海上自衛官から学校長へ-』(並木書店, 2012年)も紹介しておく。
主な内容(抜粋、下線は溝上による)
- pp.32-33
二年目からは、四月の職員会議で、「今年の授業観察評価シートはこれです」といって、全員に配りました。先生方も悪い点は取りたくないから、工夫をし始めました。ご覧になるとわかると思いますが、一年目(平成二四年度版)は、評価項目も少なく、「校長が理解できるか」という項目に、何と四十点も配点しました。これはとんでもない上げ底です。二年目は、評価項目に「ICTの活用」と「グループワーク」を入れたので、「校長が理解できるか」は二十点になりました。三年目は十点に減り、四年目、五年目は五点になりました。名残をとどめておきたかったので、最後まで項目は残しました。
このような評価シートを作成し、百点満点で点数をつけ、本人に返却するという大胆なことを行った校長は、おそらく私だけだと思います。また、全員の得点の分布表をエクセルで作ってグラフにし、参考に貼り出したこともあります。最初はぎくりとされた先生も多かったと思いますが、こちらもそれは真剣に観察しました。私は教育の専門家ではありませんから、自分の常識と生徒がどのように感じているか、という観点を重視しました。ですから、早めに教室に入り、休んでいる生徒がいるとその席に座ったりします。生徒とペアワークをしたことも、グループディスカッションをしたこともあります。
年を重ねるごとに、工夫されたさまざまな授業が展開されるようになりました。生徒から見ていろいろな授業があって、飽きずに刺激を受ける、というのが理想です。このようにして、狭山高校では様々な形態の授業が誕生していきました。自ずと生徒の授業満足度も上がっていきました。もちろん最後の年には、「授業については、学校全体で様々な授業が生徒に提供されていますので、大いに満足しています」と先生方にも伝えました。
- pp.35-37
「ICTの活用」と「グループワーク」を極力授業の中に取り入れてほしい、という要求を教員たちに訴えたのは、廿日市高校研修の後であり、二年目の授業観察評価シートには項目としてきっちり入れました。ICTを活用する教員は一年目三名だったのですが、二年目は十五名に増え、三年目には二十五名の教員が何らかの形で活用を図るようになりました。ICTの中には、プロジェクターだけではなく、iPad、書画カメラも含んでいます。ある時、英語のM先生が「ICTを活用して授業をすると授業が五分早く終わりました。」と困惑顔で話してくれたので、私はすかさず、「その五分を捻出するためにICTを活用するのですよ。その五分で、先生の人生を語って下さいよ。失敗談とか、大切にしてきたものとか、生徒の将来に役立ちそうな親しみのある話を。生徒は、授業の内容は覚えてないけど、先生が自らを語る話は、ずっと覚えているものなんですよ」と言いました。そして、他の先生方にも、ICTを活用して生まれたこの五分を大切にしてほしいという話をしました。
グループワークについては、一方的な講義では受け身の生徒がますます受け身になってしまうので、グループで話し合う機会を作りたかったのです。自信がなくて手を挙げられない、意見を言えない生徒が、グループで話し合うことで、「みんな一緒だ、これでいいんだ」と自信を持ち始める効果があると思います。五十分授業の一部でもいいので、グループワークの時間を取り入れると、生徒たちは学習の内容が定着するのではないかと考えました。「グループワーク」を取り入れてほしいという要求の後は、徐々に、授業中各教室から机や椅子を動かす音が聞こえるようになりました。