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教育コロナ会議:公立中学高校の力強い取り組みから学ぶ組織マネジメント-園部中学校・若狭高等学校の事例から-(2020.5.9版)

 

進行

14:00 開始
14:00-14:05 趣旨(溝上)
14:05-14:15 ブレイクアウト1「参加者同士の状況シェア」
14:15-14:45 (京都府南丹市立)園部中学校の取り組み(國府常芳校長)
14:45-15:15 若狭高校の取り組み(中森一郎校長)
15:15-15:35 ブレイクアウト2「感想や議論」
15:35-16:00 3、4グループ発表と質疑・議論
16:00-16:10 まとめ・閉会(溝上)

 

議事録

溝上:過去3回の会議は比較的、全国の学校の情報収集を中心にしていた。私が個人的に集めた情報に加え、本会議において全国の学校から深い情報をいただきながら状況の整理をしてきた。今回は、ゲストスピーカーのお二人から、事例を紹介いただく。
 今回の趣旨について述べる。私立学校(中学高校)の多くはオンライン授業を進めている。一部の私学では4月当初から正規の授業を始めているが、多くの学校はGW前までを準備期間として連休明けから正規の授業を始めている。一方私学であってものんびりしている学校もある。私の印象では、中学を抱える中学高校の私学は、受験マーケットでの競争が激しく、早い取り組みをアピールしている。
 すべての公立学校(中学高校)を一括りにはできないが、公立は全国的に見て取り組みが遅い。県や教育委員会との関係もあり、校長、管理職が板挟みになっていることもある。学校の教員たちを独自の判断で統率していくことができている学校は全国的に見て少ないが、そのような学校の取り組みは先進的である。組織マネジメントが問題となるのはここである。また公立では予算の関係もあり、オンライン環境を整備していくにも学校一つで決定できない。このような背景で、一般的にみると公立と私立で格差が生じている。
 連休前から連休中にかけて、一部の県や市区町村では、ICTの整備の方針を発表している。とはいえ、すぐにハード環境が整うわけではないため、現時点では「号令」がいくつかの県で出てきていると理解すべきだろう。個人的な考えとしては、オンライン授業に向けた整備は、公立であっても進めていかなければならない。しかし、資源が限られているので、その中で何ができるのかを議論しなければならない。これが今日のテーマである。
 本日はゲストを2人呼んでいる。一人目は、京都府南丹市立園部中学校の國府常芳校長である。園部中学校は、私の印象では典型的な公立の中学校である。中学校周辺は、いかにも田舎という雰囲気で、都市部と異なりさまざまな面で制約も多い。資源はあまりにも限られている。しかし、それでもここまでできているという点を紹介したい。
 二人目は、福井県立若狭高等学校の中森一郎校長である。若狭高校は福井県の西側、嶺南地域の進学トップ校である。しかし、その取り組みはただ進学校だからできているということでは片づけられない。校長のリーダーシップ、職員との関係づくり、地域との関係づくりなど、組織マネジメントができているからこそできているという取り組みである。逆に言えば、この組織マネジメントができていれば、進学校でなくとも県の重点校でなくても、十分にできるということである。2つの事例はこういう意図のもと、紹介される。皆さんと取り組みを共有したい。
 本日の参加者のかなり多くは、公立の教員、管理職、教育委員会や研究機関の方々である。とはいえ、大学や民間の方もいるので、ブレイクアウトでは柔軟に議論して欲しい。本日送付した資料にブレイクアウトのルールを提示しているので、それも確認してほしい。基本的に3人でブレイクアウトを行う。1人で長く話をしすぎないように、司会の方はうまく話題を振ってください。よろしくお願いします。

 

ブレイクアウト1「参加者同士の状況シェア」
(参加者が3名でグループを組み、グループ内で現状の共有を行った)

 

溝上:それでは、中学高校の2校から事例紹介をしていただき、とくに以下の点を中心におうかがいするというお話をしています。
① 3月、4月の学校の取り組み(概要)
② 校長として学校をどのように組織的にマネジメントしてきたか?
③ 生徒たちとの繋がりと学習の推進をどのように図ってきた(いく)か?
④ コロナ禍以前の学校の取り組みとの関連はあるか? です。
 ①について私が特に整理していきたいポイントは、「④コロナ禍以前の学校の取り組み」を、コロナ禍の状況とどうつなげて今を迎えているのかという点である。ここで重要になるポイントが、組織マネジメントである。次の「②校長として学校をどのように組織的にマネジメントしてきたか?」については、校長として、職員、教員、保護者を含めて、学校をどのように組織的にまとめてきたのかについてお話をいただきたい。「③生徒たちとの繋がりと学習の推進をどのように図ってきた(いく)か?」については、学習を進めたいという思いもあるが、まずは生徒たちの気持ちや安心感を踏まえたうえで、教員と生徒たちとの繋がりをどのようにつくり、学習の推進をはかってきたか、について。「④コロナ禍以前の学校の取り組み」については①にも繋がるが、コロナ禍以前の学校の取り組みとの関連はあるか?について。この4つの観点から、1校25分ほどでお話しいただく。

 

京都府南丹市立園部中学校の事例(学校HP:http://www.kyoto-be.ne.jp/sonobe-jhs/cms/
 <資料>・教育コロナ会議要項
     ・教育コロナ会議 写真
     ・資料1 臨時休校中の園部中学校の取組
     ・資料2 家庭訪問を終えた担任の感想
     ・資料3
     ・別紙資料 家庭学習ファイルの取組
  ※事前資料をリンクしていますが、下記の話は資料を見なくてもわかるようになっています。

 

國府校長:京都府南丹市立園部中学校の國府です。よろしくお願いいたします。
 本校は、溝上先生にご紹介いただいた通り、田舎の中学校であり、非常にアナログの学校である。そういった学校を預かるうえでどのように学校を運営してきたのかについてお話させていただく。臨時休校中、私自身ずっと悩んでいて、悩まない日はない。その中で一番大切なことは、すべて止めてしまうことはリスクを伴わないので、非常に楽である、ということだ。早い段階で多くの教育内容を止めている学校が多い。しかし私は最後まで判断をするのを控えながら、いろいろ考えている。全て止めればリスクはない、されどやらなければいけないことをやるという視点で、コロナ禍の間に取り組みを進めている。それはなぜかというと、目の前に生徒がいるからである。判断をする際には、生徒目線、保護者目線、職員目線 の3つを考えることを大切にしている。また学校には様々な意見が来るが、軸をぶらさないことを大切にしている。大切な軸は、生徒にとってどうか、である。
 それぞれの校種によって、ミッションが異なる。京都であっても、南から北までまったく異なる。各教育委員会の判断も異なる。その中で我々がやらなければならないことを考えていかなければならない。このコロナ禍を通じて、学校の組織力を上げたいと考えている。こういった事態があったからこそ、やれている取り組みもあり、これは今後の取り組みにも活きてくると思う。
 それでは具体的な取り組みについて述べていきたい。
①3月、4月の学校の取り組み(概要)
 2/27に緊急事態宣言が発令された際、すぐに担当教員を収集し、臨時企画会議を行った。生徒目線、保護者目線、教員目線で考え、まず不安を取り除くためにすぐに方向性を示すことが必要だと感じた。
1.緊急事態宣言後の式の実施 
 卒業式ができない可能性や在校生が参加できない可能性があったため、①2/28のみ登校可能、②3/2も登校可能、という2パターンに対して、何ができるかをシミュレーションした。結果、校長の指示で、全校集会と全校合唱を行った。卒業生、在校生、保護者も喜んでいた。在校生は不参加であるが、卒業式も行った。
 また、ほとんどの学校が中止になっていた離任式においても、2メートル以上距離を取ったうえで実施した。その際に生徒が登校してくるので、家庭学習課題を配布することもできた。
2.登校日が設定できない期間の取り組み
 令和二年度、教育委員会から、登校日の設定ができない指示が出た。登校が許されないということで、生徒の顔が見られないという問題が生じた。
 本校では緊急事態宣言から、毎日連絡網を通じて、午前中と午後に健康観察を実施している。また、生徒指導の一環として一日2回、毎日近隣のコンビニに生徒がたまっていないかを確認している。幸いにして、ほとんど指導することはなかった。
 家庭訪問もほとんどの学校で中止していたが、本校は実施した。新入生においては、入学以来、2回しか会っておらず、家がどこかわからない、親の顔もわからないということでは危機管理上、問題であった。そこで4/20より、家庭訪問を実施した。教員から感染不安の相談を受けたこともあり、訪問前日に保護者に訪問の通知、例年のように直接のお話を長くはできないなどを話したうえで、訪問を実施した。訪問方法は以下の通り。
① 到着したらご家庭のインターホンを鳴らすか、電話で連絡
② 生徒は取り組んだ課題をドアの前に置く
③ 教員は課題を回収し、新たな課題を置く。置いたことを、インターホンまたは電話で報告。その場から2m以上離れる。 ④ 十分に距離を取ったうえで、保護者と簡単な会話をする。
 この取り組みは、教員や保護者からの印象が良かった。
3.休校期間再延長後の対応
 次の段階として、京都府では5/31まで休校が延長されることが決定された。生徒のことを考えると、目標にしてきた全日中の大会(全国中学校総合体育大会)や近畿の大会が中止となり、身近なところでは、各ブロックの大会も中止になるなど、心の衝撃はいかばかりかと感じた。また、登校日がまったく設定できないことも危惧された。そこで本校では2つの取り組みを行った。一つは、担任に副担任も加えての体制で、前回と同様の方法で家庭訪問を実施した。今回の家庭訪問は生徒に会うことを目的とした。DVやネグレクト等の影響がないかも確認できた。この取り組みを通じて、教員が元気をもらっている。
 二つ目の取り組みとしては、少しでも早く学校としての気持ちを生徒に学校メッセージで送ろうと、「校長メッセージ」と「生徒指導主任のメッセージ」をホームページにアップした。批判もあるとは思ったが、それよりも思いを届けることを第一優先とした。しかしYouTubeにそのまま載せるということはプレッシャーが高いこともあり、現在は誰でも見られるYouTube ではなく、保護者や生徒にしか視聴できない方法で、配信できるようにしている。ホームページの窓にアクセスをし、保護者や生徒がクリックして ID とパスワードを入れると見ることができる。そこに各学年主任のメッセージを順に載せている。
 来週(5/11)以降は、各教科担当が映像を撮影し、家庭学習の課題の解き方やポイントについての動画を上げていく予定。次は簡単な授業を動画で配信する予定である。ただし各学年ホームページを閲覧できない生徒が数人いるので、プリントとDVDの配布(直接各家庭にポストイン)で対応。
 今回の取り組みを通して、新たな学びに向けた教員の意識の向上、意識づくりをベースとし、保護者、生徒、地域と一緒になって、意識を変えていくことができると考えている。いずれGIGAスクール構想に歩調を合わせていく際、対応できるスキルを積み上げていきたいと考えている。今回Zoomの会議は、高齢の先生に好評であった。今だからこそ、意識改革できるかという考えを持っている。また、今の取り組みは次の教育につなげることができると考えている。Zoomによる不登校の生徒への対応など、今後に活かせることが多々ある。今だからこそ、各教員がスキルアップし、本校の組織力を上げ、キャパシティを広げることで、より充実した生徒のための教育を目指したい。もしご関心があれば、ファイル学習などのアナログな取り組みなど、資料をご参照ください。

 

溝上:國府校長は京都府の中学校校長会会長をされており、京都の他の校長先生方が國府先生とともにできることをやろうとされている。素晴らしいリーダーシップである。それでは次は福井県立若狭高校の中森一郎校長です。お願いします。

 

福井県立若狭高等学校の事例(学校HP:https://www.wakasa-h.ed.jp/index.html
 <資料>・若狭高校臨時休業期間中の取組
     ・資料①保護者・生徒への文書 令和2年4月13日
     ・資料②若狭高校保護者対象生徒の生活状況調査(4-23試案)
     ・資料③保護者・生徒への文書
     ・資料④大島会長 200430 若狭高校 保護者の皆様へ
     ・資料⑤臨時休校日R2教室配置(案)最新
  ※事前資料をリンクしていますが、下記の話は資料を見なくてもわかるようになっています。

 

中森校長:私の方からは、溝上先生に出していただいた4つの質問のうち、「④コロナ禍以前の取り組みはあるのか」についてまずお話しさせていただき、「①3月、4月の学校の取り組み」、「③生徒たちとの繋がり、学習の推進」あたりを関連づけ、最後に「②校長のマネジメント」の話をさせていただきます。
 若狭高校は、人口3万人ほどの福井県小浜市にある総合高校である。普通科、国際探究科、理数探究科、海洋科学科、定時制普通科の5学科をもっている。生徒は約840名。
 全日制においては、SSH、OECD-ISNの研究指定を受けて活動している。海洋科学科では、生徒が作ったサバ缶が、高校生が製造したものとしては初めて、JAXAの宇宙日本食に採用された。
 私は本校に赴任して以来、コロナ禍以前から圧倒的な危機感を抱いていた、危機感の源は2つある。一つは、普通科の生徒の基礎学力の低下である。国でも問題になっているが、普通科をいかに活性化していくかが、本校においても大きな検討課題となっている。
 二つ目は、福井県で私立高校の授業料が無償になったことであり、県立高校では軒並み定員割れが生じ、県立高校の危機感が高まっている。幸い本校では定員割れはなかったものの、生徒の状況や地域の状況を踏まえて、とにかく危機感をもって学校経営に携わる必要があった。
 特に普通科の活性化については、保護者からも声が上がっていた。偏差値偏重の進路指導をしているのではないか、という厳しい意見もあった。生徒の主体的に学んでいく意欲をいかにつけるかを課題としてきた。
 学校としては、キャリア教育をしっかり推進していく必要があり、その柱として、①探究学習、②授業改善の2つを据えてきた。そのような二つの柱で取り組みを進める中、もう一つ問題が生じた。本校は、20代の先生が職員の1/3を占めているが、彼らのクラス経営力が大きな課題になっている。
 今申し上げた探究学習と授業改善については、教職員全体の共通理解や能力が上がってきている。しかし、クラス経営に課題があり、これが生徒の学習意欲や進路選択に影響しているのではないかと考えられた。そこで3月末に大きな改革を行った。福井県は多くの高校が部署制度を採用しており、部署を中心に校務分掌がまわっている。しかし本校は部署中心から学年会を中心にした学校経営に変更した。このような体制変更が、休業期間中の学校の取り組みに大きな効果を及ぼしたように思う。
 各学年の学年主任を中心に、担任が生徒の状況を的確に把握。各学年で生徒に対応するとともに、学年主任3人が毎日のように情報共有を行い、3学年の足並みをそろえた。学校全体として生徒にどう対応していくのかについては、毎日のように校長である私のところに状況が上がってくる。
溝上:ここは大事なポイントなので、一つ質問させてください。校務分掌の部署方式は全国でも一般的な取り組みだと思うが、それを学年レベルで置き直す時に、学校の部署は残っているのか?それとも、解体したのか?
中森校長:もちろん部署制度は残している。これまでの部署を残しながら、学年団という新たな校務分掌を位置付けたということだ。基本的に担任の先生は担任の業務に専念できるようにしたい。それで、担任以外の先生で他の校務分掌を受け持つということ。しかしそれでは教員数が足りないところが出てくるので、今年に限っては、兼務という形でやっていく。
 それと合わせて、副担任についても各クラス一人ずつつけていたが、副担任がうまく機能しなかったり、担任が個人で生徒を抱え込んでしまったりして問題となっていた。そこで4月からの取り組みとして、学年会全体で生徒を見ていく体制を構築しようとしている。
溝上:もう一点質問をさせてください。この学年団という考え方は、福井県の方針なのか?それとも、若狭高校独自の取り組みか?
中森校長:福井県のほかの高校でやっているところがあるかどうかはわからない。県から降りてきた話ではない。
溝上:わかりました、それでは続けてください。
中森校長:4/7の入学式ができないことがわかったため、4/6,4/7の2日間、新担任に依頼し、各担任の携帯電話を利用して、すべての生徒に電話連絡をいれるよう指示した。連絡の際に、担任の自己紹介および、クラスのLINEグループを作っていいか、保護者に確認し、了承を得てもらった。
 4/8からそのLINEグループやGoogleフォームを利用し、生徒の現在の様子を調査。調査を行った結果、生徒の実態はあまりにも悲惨な状況であり、愕然とした。生徒の中には昼夜が逆転してしまって深夜まで起きている生徒、一日中ずっとスマホを眺めている生徒、学習時間が0の生徒、友人関係がうまくいかず孤立を深めている生徒など。4割ぐらいの生徒は割合計画的に学習していたが、多くの生徒は非常に危機的な状況に陥っていることが分かった。とにかくこういった生徒を何とかしなければならないというところで、作った LINE グループと Googleフォームを活用して、2年生でまずオンラインST(ショートタイム)を試行した。生徒は、8:20から9:00までの間に検温等の健康チェック、起床就寝時間、学習時間、担任への一言等を載せて担任に送信する。担任はその内容を確認して、気になる生徒がいればその日のうちに連絡を取り、相談に乗る。この体制を全校で4月13日から開始した。また実施にあたってはホームページで、①生活リズムの改善、②学習支援、③悩み相談の3点を行うと保護者に発信した。このSTの取り組みの結果、2年生の学習時間は一日平均40分伸びた。担任の先生がLINEを通じて生徒を励ますことで、少しずつ生徒の状況も改善している。
 また4/22以降は教員間の情報共有とテレワークの効率化を図るため、自由参加のチャットワークを導入した。休業期間が延長されそうだということで、授業動画をいかに作成するかなど、全国の事例を紹介しあいながら今後の対応の準備を進めている。
 3月の休業期間に入ってからは、学校として毎週月曜日10時に課題をホームページにアップしている。一週間に一度課題を更新しており、生徒は一週間ごとに課題をこなしている。国語科は、課題を出しっぱなしにするのではなく、回答を携帯で送付させ、教員が採点をし、生徒に一言添えて返すようにしている。こういった声かけ、双方向のやり取りは非常に大事だと考えている。また英語科はZoomで暗唱テストやリーディングテストを実施しており、社会科はYouTubeを用い、既存の優れたコンテンツを活用しながら、社会科としての独自の教材と組み合わせて課題を出している。各教科、工夫をしながら課題を進めている。
 次に、4/26以降は休業要請が延期されそうな中、保護者の声を聞く必要があるのではないかと考え、PTA会長による、保護者対象アンケートをGoogleフォームで実施した。結果、生徒の家庭の困難な状況が見えてきた。生活の乱れ、学習への不安、部活動や行事への不安などである。その結果を踏まえ、PTA 会長が保護者対象アンケートの結果報告と5月7日以降の学校の対応等について、支援と協力を ホームページで保護者に呼びかけた。また会長の提案で、各家庭で生徒たちのために、どのような工夫や取り組みがなされているのかもヒアリングした。
 4/28に県知事から休業の延長が発表されたため、28日に改めて今後の取り組みを発信した。県の施策としては、週に一回の登校日、動画による授業を行うということであったが、併せて学校として、三者面談を希望者を対象に実施したいということを伝えた。三者面談は電話やオンラインでも可能である。この週明けに三者面談を実施する予定。
 この間の県教委の対応としては、4月末にGoogle Classroomを一斉に導入した。今後、福井県は一気に各家庭での支援、とりわけ課題の支援等が進むと思われる。また Web 環境が十分に揃っていない生徒に対しては、DVD の再生機の貸し出しが可能である。また入学式については、ゾーニングを行ったうえで実施した。入り口を3箇所、生徒の行動範囲を完全に4箇所に分け、生徒が自分たちのゾーン以外に立ち入らないようにする。これによって、仮に生徒の誰かが感染しても、感染のリスクがある生徒は1/4に絞られ、3/4の生徒の感染のリスクは極めて低くなる。リスク管理においてゾーニングは完全ではないが、学校で取りうる対策となり得る。併せてPTA 会長から、生徒にまず感染予防のための動画を作って見せてほしいということを依頼されたため、教員に作成を依頼し、入学式と登校日の最初に動画を流した。
 最後に、マネジメントについて述べる。コロナ禍において、一番重要なのは、現状把握である。現状を把握し、それを教員間で共通理解して、学年会を中心に、できる対策をすべて投じていく。本校は平成26年から授業改善活動に学校全体として取り組んでおり、教員のコミュニティを大切にしてきた。このコミュニティがコロナ禍で有効に機能しており、これが本校の大きな強みだと考える。生徒や保護者の実態をしっかり把握したうえで、現状把握に基づいた迅速な対応が取れたことが非常に重要だと思う。単にアンケートで把握するだけではなく、本校は毎朝 ST をやることで、刻々と生徒の状況が変わっているところを把握できている。気になる生徒がいれば、即日対応で解決をしている。校長である私自身も、全ての生徒の学習状況や健康状況、担任へのコメントなどを確認し、気になる生徒がいれば担任の先生に確認している。担任からは非常に的確な答えが返ってくるので、ある意味、普段以上に生徒の状況を担任が掴んでいるといっても過言ではない。
 本校では今後、5/11から動画配信を開始する予定であるが、何人かの教員は4月の早い時点から既に動画の配信を始めている。全体の研修会において、その教員がうまくいったこと、いっていないことを情報共有している。その後各教科会を開き、各教科として動画をどのように作って配信していくのかについて検討している。個人で動画を配信するのではなく、教科としてどのように動画を配信していくのかという取り組みを実施できている。5月11日から毎朝3時間動画配信をしていく予定である。
 また校長に着任して以来、 PTA との連携を非常に大切にしてきた。会長や役員と相談をしながら学校経営をすることが、非常に大事だと思っている。最後にもう一つ大事にしているのが生徒会の役割である。このコロナ禍でも、生徒会の執行部は生徒会活動をしている。毎日のようにZoom会議を行い、自分たちの出来ることが何なのかということを、生徒自身が自分たちで考えている。行事の実施計画を立てたり、生徒会のホームページに質問箱を作成し、回答したりしている。今後についてはGoogle Classroomを中心に動画配信等を入れながら授業を実施する予定。

 

溝上:2点だけ質問・コメントを入れてブレイクアウトに移りたい。中森校長に確認したい。生徒の実態把握をすぐに行って、それに基づいてさまざまなマネジメントを行っていくという点は、私も本当に大切だと思っている。桐蔭学園でも、4月の一週目にはすでに幼稚園から大学まで実態把握のアンケート調査を行った。ところがどうしても回答しない生徒(家庭)、学生がいる。このような生徒・学生をしっかり見ていく必要があると考えてきた。もちろん、それはアンケートが返却されないということであって、担任や教科の教員とはオンライン授業等で繋がっていることがほとんどである。このあたりどうか。
中森校長:そういった生徒はいない。ただし、朝のSTの、8時20分から9時の間に応答がない生徒はいる。たとえば起床時間が遅くて、その時間に回答できなかったということはあるが、後に確認できており、実質的には全生徒の把握をしている。

 

溝上:次に、チャットルームでZoomのセキュリティ問題について議論が多くなされていた。これは、どの時点のZoomの脆弱性の話をしているのかをまず問題としなければならない。Zoomのセキュリティホールが指摘されて、すでに3度大きなプログラム更新をしている。今参加されているみなさんは、最新版のZoomにアップデートしているだろうか?生徒にも最新版にアップデートして、授業に参加するよう促していく必要がある。
 また Zoom のセキュリティ問題はたしかにあるが、企業のトップ機密が漏れる、漏れないという議論と、教育機関における教育内容、個人情報の議論とは分ける必要がある。個人情報にはもちろん配慮する必要はあるが、ミーティングルームの入り方や URL の渡し方などに配慮し、Zoomの様々な特徴と限界を認識した上で使っていけば、ある程度セキュリティの問題は防げると専門家の間では議論されている。リスクがまったくないということはあり得ないが、その話をするなら、ネットワークにPC等端末が繋がっているだけで、プロが操作すれば端末にある情報はすべて持って行かれるという話にまでなってしまう。1,0でリスク判断するのではなく、40対60のように、メリットの方が少しでも大きいなら、目的に鑑みて、避けられるリスクを最大限回避して、使用していく勇気も必要だ。このあたりの話は、今までの会議でも議論が行われているので、議事録を読んでほしい。
 それではこれから20分、自身の学校の状況とすり合わせて、週明け以降どのように取り組むかというあたりを念頭において、議論を行ってください。

 

ブレイクアウト2「感想や議論」
(参加者が3名でグループを組み、グループ内で議論を行った)

 

溝上:それでは情報の共有を全体で行いたいと思います。適当に当てますので、グループ内での議論の報告や、先ほどの事例紹介のご感想などをお願いします。また、ゲストのお二人に質問がある方がいれば、質問していただいてけっこうです。
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(お断り) ・学校が特定されてはいけませんので、特定情報は抽象化しているか削除をしています。
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参加者A(公立)参加者B(公立)の高校では、県の方針として今後、スタディサプリを使ったオンライン授業を検討。これまでの期間参加者Bは、個人で校長に相談し、Zoomで授業をしていた。生徒との関係ができ、また保護者も大変感謝していたとのことであった。ただし学校全体の流れがあるので、連休明けはスタディサプリで対応する形になる。
 私の学校は、郵送で一度、課題を出している。その取り組みと並行してベネッセやスタディサプリを使って、課題の配信、採点もしていた。現状の課題は新1年生との関係ができていないという点である。今週から分散登校が始まるが、生徒の生活面などが心配である。
溝上:報告ありがとうございます。何かゲストスピーカーの方に質問はありますか。
参加者A(公立):中森校長に一点質問をお願いしたい。学年を中心にした組織を作られたということであるが、校務分掌でやることと、学年でやることの分担が、どのように校長から指示をなされたのか、もう少し詳細に教えて欲しい。
中森校長:1月ぐらいから議論を始めて、教員に様々な意見を聞きながら進めていった。校務分掌において、各部署が最低どれぐらいの人数なら可能か、最低ラインの人員を確認し、決定しながら検討した。本年度においては、どうしても手が回らない場合は、担任がこれまでの部署に括弧付きで入り、特定の業務を手伝いながら行う。
溝上:それでは次の方、お願いします。
参加者C(公立): 家庭訪問はリスクが高い中、覚悟と勇気が素晴らしいと思う。私も、子供達との繋がりや、やってほしいこと、できることを考えながら取り組みをして来たが、保護者に対してできることを考える時間が少なかった。本当に何もできなかったというところを反省している。来週からは面談登校で、生徒が登校してくるが、その前後の時間で少しでも保護者の声を聞けるようにしたい、工夫できればと考えている。
 私の県ではオンライン環境がなかなか構築されず、 Google フォームですら利用できない。本当に切ない。オンライン授業ができないから、分散登校というような対応を取ったのではないかと思っている。今回お話しいただいたゾーニングについても、管理職に共有を行いたいと思っている。本当に貴重なお話をありがとうございました。

 

溝上:國府先生、家庭訪問の状況についてもう少し詳細に教えていただきたい。
國府校長:家庭訪問はどこも早期にやめている。しかし、我が校ではやった。家庭訪問の時間は短時間であるが、親も生徒も待ち望んでいたように思う。非常にいい交流になった。ある学校が、我が校の方法を参考に家庭訪問を実施したが、保護者から「なぜ休みをわざわざとっているのに、こんなに短いのか?」と不平不満が生じた。前日に保護者に対し、訪問方法や目的、時間を伝えておくことが重要である。家庭訪問はリスクもあるが、必要なことはやるべきだと思っている。

 

溝上:それでは次の方、お願いします。
参加者D(公立):私の県では、 Google のアカウントを、市町村と県の教員、児童生徒が利用できる準備が整い、県内の幼小中高一部の国立大学で、 Google の G Suite for Education を使える状況ができている。これまで準備から半年もかかったが、このコロナ禍にタイミングが合って、一気に広めることができた。以前から使いたいという先生はいらっしゃったが、県域でプラットホームを用意するだけで、勝手に情報共有があちこちで行われていく状況に驚いている。保護者同士もSNS上で話を始めて、親同士で問題を解決しており、保護者対応も楽になっている。ただ一方で、はじめてのことに取り組むことによる混乱はある。
参加者E(公立):ブレイクアウトでは、アクセス数が非常に増えていることを踏まえ、ホームページ等での発信の重要性について議論した。本校のホームページに、オンライン授業推進の取り組みが掲載されているが、いくつか実例を紹介したい。一つが、オンラインフィールドワークである。本校は探究の時間に力を入れている。私はその探究をデザインする立場であり、今回、オンライン上のフィールドワークを行った。看護師に来ていただき、Zoomで生徒と双方向の交流をした。凄く良かったという感想をもらったので、第2弾を企画している。もう1つは、志望理由書の作成相談の、オンラインの講座である。それも生徒の印象はよかった。

 

溝上:現在ホームページは、生徒たちと繋がっていく基盤メディアとなっている。世の中の議論は、オンライン授業で直接生徒と繋がっていこうという話ではあるが、園部中学校はそういったことも一部やりながら、ホームページで動画や課題、応援メッセージなどを掲載している。そのあたりをもう少し説明してほしい。
國府校長:見る側の立場に立つとホームページは更新していないと見ようと思わない。校長就任から4年たつが、1年目の時に、一度ホームページを活性化しようというところでスタートした。2年目3年目では、各学年の校務分掌を変更し、ホームページ担当を各学年に配置している。1週間に1回は行事や生徒会の紹介などを掲載している。生徒も保護者もホームページをよく見てくれている。
 また、ホームページに窓をいくつか作っておくことによって、校長室に訪問する生徒もたくさんいる。校内表彰などを受けた子は目立つのだが、それ以外の地道に頑張っている子の紹介もしている。そういったことを進める中で、生徒の自己受容感が高まり、学習意欲の向上に繋がるということもあるように思う。
 私はホームページを毎日確認しており、ただ教員が載せたいことだけでなく、生徒や保護者のニーズがどこにあるのかを意識しながら、掲載内容をコントロールしている。掲載したほうが良い情報は、職員に適宜伝えている。
溝上:組織的に取り組めているという学校は、ホームページが頻度高く更新されており、様々なメッセージが掲載されている。一方、ホームページがないところさえある。
 それでは最後にもう一人、F先生お願いします。
参加者F(公立):公私の差ではなくて、校長のマネジメントの差が大きいなと思う。やれるところはやるという姿勢が大切なのではないか。現場で頑張っている先生はすごいなと思いながら、上にいる管理職がもっと頑張らないといけないのではと思う。

 

溝上:他にもいろいろ意見をうかがいたいところではあるが、時間が来ているので、ここで私の方から、取り組みを見ていく視点を整理して、終わりたいと思う。
 一つ目は管理職の組織マネジメントである。これは公私問わず重要である。私学ではやっているように見えても実は形だけで、中身は伴っていないという場合がある。中身を議論していく際に肝になるのは、校長のリーダーシップ、これに尽きるのだと私は思っている。新学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントとして、教科を越えた学校の組織的取り組みの重要性が打ち出されている。大学では、学士課程答申をはじめとするさまざまな教学マネジメント改革で、ガバナンスの重要性が声高く叫ばれてきた。学長、学部長をはじめとして、教員のしたいことをボトムから受けながらも、全体として組織の流れをまとめていく、そして場合によっては教職員に声をかけながら組織を作っていく。
 國府校長の最初の言葉を借りれば、リスクをゼロにしようとすれば何もできなくなる。感染リスクを抑えられても、別のリスクを抑えられていないことに気づいていないこともある。リスクを多側面ですべてゼロにするということはあり得ないのである。問題は次々に出てくる。回避できるリスクに最大限留意しながら、アクションを前に進めなければならない。
 二つ目は学校の組織づくりである。現在の状況では、3月以前からしっかり組織づくりに取り組んできた学校において、マネジメントがうまく機能していると見える。生徒や教員に対して日常の声掛けがあった学校では、こういった緊急事態下であっても、組織的な動きに繋がっている。若狭高校で、3月末から4月にかけてすぐに調査ができ、LINEで生徒と繋がれるというのは、校長が指示を出して教員がすぐに取り組めるような、日常的な組織づくりがあったからではないか。園部中学校においても、緊急事態宣言発令が出たその日の夜に幹部会議を緊急に行ってその後の取り組みを意思決定しているが、これは現場の先生、管理職との関係がすでにできていたからこそできたのだと思う。とはいえ、それができていない学校でも、今からでも決して遅くないので、またコロナ禍はまだまだ序盤だと思うので、先を見据えて取り組んでいってほしい。
 三つ目は、ポストコロナの学校教育を議論していくことである。今後取り組みが落ち着いてきたら、ポストコロナの学校教育をしっかりと議論していきたいと考えている。一部の生徒はこの緊急事態下の状況を力強く生き抜いている。わかりやすい例では、一部の生徒は2倍速3倍速で、しかも一流の、パフォーマンスの高い講師のオンデマンド授業動画を視聴している。そのような生徒が、従来の対面授業に戻って、皆と同じペースで、場合によっては平凡な講義を聴くということに耐えられるのだろうか。これは世界的に議論が起こり始めている。対面授業がなくなることは決してない。しかし、オンライン学習との関係のもと、その意義はもっと精査されることになると思う。また、ICT教育もこれまでのものから大きく刷新されるはずである。進化した授業の形を一群の学校がうち出せば、全国の流れともなる。もう少ししたら検討していきたい。

 

→過去の記事(目次) http://smizok.net/education/subpages/a_corona.html
◆高等教育
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.21版)
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.29版)
・コロナ会議(2020.5.2版)
  ①オンライン授業における学生のモチベーション/②対面授業とオンライン授業の相違点を知る 
◆中学高校
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.21版)
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.29版)
・コロナ会議(2020.5.2版)
  ①オンライン授業における生徒のモチベーション/②対面授業とオンライン授業の相違点を知る 

 

 

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