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田村(2011)は、「各学校が、学校の教育目標をよりよく達成するために、組織としてカリキュラムを創り、動かし、変えていく、継続的かつ発展的な、課題解決の営みである。」(p.2)と定義している。
田村の定義でカリキュラム・マネジメントは十分に説明されていると思うが、文部科学省の同用語の説明を読むと、「教育課程」という、英語にすれば同じ用語(curriculum)がカリキュラム・マネジメントのなかで併記して用いられており、教育関係者の混乱を招いている。
2016年12月に出された学習指導要領改訂に向けた中央教育審議会答申(注1)で、カリキュラム・マネジメントは次のように説明されている。
(p.23、下線部、太字は筆者による)
混乱を収拾するためには、学術的な「カリキュラム」が行政用語としての「教育課程」よりも広い概念であることを理解する必要がある。
簡単にいえば、「カリキュラム」はヒドゥン・カリキュラムのように、教育の目的・目標に向かって明示的・暗示的に取り組まれる教育活動すべてが編成の対象となる。 しかし「教育課程」は、学習指導要領において教科や特別活動等の教育活動を編成対象として特化しており、「カリキュラム」より狭義である。 ヒドゥン・カリキュラムのようなものは対象とされていないのである。
「教育課程」の編成の対象は、学校教育法施行規則第五十条(小学校)、第七十二条(中学校)、第八十三条(高等学校)において次のように定められている。要は、教科だけでなく、教科外の特別活動などまで含めた「教育活動」全体を対象とするということである。
(注2)各教科(国語、地理歴史、公民、数学、理科、保健体育、芸術、外国語、家庭、情報)に属する科目(国語であれば、国語総合、国語表現、現代文A、現代文B、古典A、古典B)を指す。
学習指導要領改訂に向けた答申(注1)では、当然のことながら学習指導要領で規定する教育活動(教育課程の編成対象)の「編成(P)」「実施(D)」「評価(C)」「改善(A)」というPDCAサイクル(注3)をまわすことが「カリキュラム・マネジメント」だと説明されている。
さらに答申では、カリキュラム・マネジメントの三つの側面が次のように示されている。PDCAサイクルは②で示されている。
(答申(注1)、pp.23-24、太字は筆者による)
①の「教科等横断的な視点」、③の全文は、学術的なカリキュラム・マネジメント以上のものである。つまり、学術的なカリキュラム・マネジメントであれば、 ①の教科等横断的な視点や③を必ずしも含み込む必要はない。それが含み込まれるか否かは、カリキュラム・マネジメントをおこなう手前の学校教育の目的・目標による。今回の学習指導要領改訂では、社会に開かれた教育課程の理念のもと、子供たちの資質・能力を育んでいくことが最重要課題だとされている。 そのために、①の教科等横断的な視点や③まで視野に入れたカリキュラム・マネジメントが必要だと考えられているのである。