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(用語集)概念と理論

第1節 概念(concept)とは

(1) カテゴリーと概念

 私たちは乗用車を見て、それがオートバイやトラクター、クレーン車とは異なる種類の自動車であることを区別して理解するだろう。同様に、乗用車を見て、それが同じ自動四輪車とはいえ、トラックやバスとは異なる種類の自動四輪車であることを区別して理解するだろう。何が異なるかを説明できるかは別として、同じ種類のカテゴリーとして理解しないということである。
 『日本国語大辞典(第二版)』(小学館, 2001年)によれば、自動車は「原動機およびこれに用いるエネルギー源を搭載して、道路上を走行する車両。車輪の数が二個以上のものの総称であるが、通常は四輪車を意味することが多い。形態上から自動二輪車・三輪車・四輪車・特殊自動車(トラクター・クレーン車など)などに分類できる」と説明される。これに表1の道路交通法に基づく自動車の種類の情報を加えると、図1のようになる。“乗用車”と“オートバイ”“トラクター”“クレーン車”は同じ自動車であるが、図によると、乗用車は“自動四輪車”とカテゴリー化され、オートバイは“自動二輪車”、トラクター・クレーン車は“特殊自動車”とカテゴリー化される。同様に、“乗用車”と“トラック”“バス”は同じ自動四輪車であるが、乗用車は“普通自動車”と、バス・トラックは“中型自動車”あるいは“大型自動車”とカテゴリー化される。“バス”が旅客を運送するものであれば、“二種(免許)”というカテゴリー化もなされる。

 

表1 道路交通法に基づく「自動車」の種類

*道路交通法施行規則第二条より

 

 図1 自動車の種類(カテゴリー)

 

 このように、私たちはさまざまなものや事象を認知するとき、しばしばそれらを分類して理解する。このものや事象を分類する認知的働きを、「カテゴリー化(categorization)」と呼ぶ。カテゴリー化とは、複数のものや事象同士を等価なものとして一つにまとめることを指し(清水, 1983)、まとめられたものや事象の集合体は「カテゴリー(category)」と呼ばれる。
 また、カテゴリーが存在するとき、そのカテゴリーに対応する知識も存在することになる。それが「概念(concept)」である。概念とは、カテゴリーに含まれるものや事象に共通する特性を抽象化したものであり(井上, 1995)、言い換えれば、そのカテゴリーの一般的特徴を定義したものである。
 なお、学問上の議論における言葉や用語の定義においては常につきまとうことであるが、「概念」もご多分にもれず相当多義的であり、これまでさまざまな立場や見方の定義が提示されてきた(清水, 1983)。私の上述の説明もそのうちの一つにしか過ぎないことに留意してほしい。ただ、私が「カテゴリー(化)」「概念」を用いる場合には、上記の定義に基づいたものであるとはいえる。
(2) 概念における内包と外延
 河原(2002)は、所属事例に共通する性質を抽象化して概念化されるものを、論理学の用語を用いてカテゴリーの「内包(connotation)」と呼んでいる。内包とくれば「外延(extension)」である。外延とは、概念化されたカテゴリーを個別のものや事象に当てはめることである。たとえば、図2に示すように、特徴A、B~Xをもって概念化されるカテゴリーAを適用して、ものや事象A, B, C, E, Fが理解される。ものや事象DとGにこのカテゴリーAを適用することができず、別カテゴリー(NOTカテゴリーA)で理解されるものや事象と理解される。

 図2 カテゴリーの内包・外延

 

 内包と外延という見方は、ものや事象をあるカテゴリーでうまく理解できないときに有用である。というのも、人は概念化されたカテゴリーをものや事象に当てはめて理解するといっても、実際にはうまく当てはめられないものや事象が世の中には数多く存在するからである。その最たる身近な例の一つは、症状を診てある病名をつける医者の診断行為であろう。症状が典型的で特徴的である場合には病名を容易に特定することができるが、複数の特徴が複雑に絡んで症状化している場合には、一つの病名を当てることが難しく、誤診となることがあるのは承知のとおりである。ものや事象の特徴(症状)を診てカテゴリー(病名)を当てようとする医者の診断行為において、ものや事象と概念・カテゴリーとの関係がうまくとれないことが起こっているのである。

 

第2節 理論(theory)とは

 私は、アクティブラーニングは概念であり、理論であると論じてきた。概念は第1節で説明したとおりである。ここではもう一つの「理論」について説明をおこなう。
 山本(2016)は、西周が『百學連環』と題しておこなった講義のなかで、theoryを「観察」と訳していることを紹介している。theoryの語源は、古代ギリシャ語のθεωρíα(テオーリア)に遡り、テオーリアは「見ること」「見られるもの」「考察」「探究」の意味とされる。「見ること」「見られるもの」をそれにとどまらず、考え究めることまで含めて理解するならば、そこでの「見る」は「観る」に近いものとなり、西の「観察」というtheoryの訳はなるほどということになる。「観る」は、「観察」「観測」「観光」「主観」「客観」といったように、広く「みる(見る)」という行為のなかでも、「ものをよく眺めみる」(『日本国語大辞典(第二版)』小学館, 2001年)という意味を表したいときに当てる漢字だと考えられている。
 今日、theoryは「理論」と訳されることが多い。理論は、先の『日本国語大辞典(第二版)』によれば、
「ある物事に関して、原理・法則をよりどころとして筋道を立てて考えた認識の体系」
の意とされる(注1)

 

(注1実践(practice)に対して対比的に、ときとして揶揄して用いられる「理論」(実践を伴わない論理的な知識の意)もあるが、それはここでは横に置く。

 

 また、『認知科学辞典』(共立出版)で長谷川(2002)は、
「一貫した概念規定のもとに、諸法則や境界条件を相互に関連づけながらまとめ上げた体系的構造的な知識の総体」
と説明している。

 「原理・法則をよりどころとして」というか「一貫した概念規定のもとに」というかの差異は、さほど大きくない。私の言葉でまとめると、理論とは、さまざまな個別のものや事象に共通する特徴を認めて抽象化したときの規定(これを第1節にしたがって「概念」と呼び、大きく一般化できる場合には「原理・法則」と呼ぶことができる)を一貫して使用し、その規定に基づいて他のものや事象、概念、理論、法則等と関連づけたりグルーピングしたり、あるいは演繹して推論されることを筋道立てて論じたりしてまとめる、認識の構造的体系のことである(図3を参照)。

 図3 理論としてのアクティブラーニング

 

 

文献 

長谷川芳典 (2002). 理論 日本認知科学会(編)認知科学辞典 共立出版 p.850.

井上毅 (1995). 概念と思考 森敏昭・井上毅・松井孝雄 (1995). グラフィック認知心理学 サイエンス社 pp.57-76.

河原哲雄 (2002). 概念 日本認知科学会(編)認知科学辞典 共立出版 p.111-112.

清水御代明 (1983). 概念的思考 坂本昂 (編)  現代基礎心理学7-思考・知能・言語- 東京大学出版会 pp.71-105.

山本貴光 (2016). 「百学連環」を読む 三省堂

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