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(講話)大学教育(教える・学ぶ)は変わってきているのか-高校関係者向けの説明

要点

  • 1990年代以来、大学教育の改革は続けられている。流れは大きく4つの時期に分けて理解される。
  • 第I期 大学教育改革の始動(1991-1997年)
    第II期 組織的な教育改善の基盤づくり(1998-2007年)
    第III期 学士課程教育の質的転換に向けて(2008-2014年)
    第IV期 質的転換に高大接続を加えた学士課程教育の学修成果・内部質保証(2015-現在)

     

  • 大学はこの25年、多くの苦労を重ねて教育改革を進めてきた。現時点で改革の疲弊感が相当なものとなっている現場の雰囲気のなか、第IV期の、質的転換に高大接続を加えた学士課程教育の学修成果・内部質保証が重くのしかかり、大学は最高潮に達した難作業に取り組んでいる。
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    はじめに

     高大接続をにらんでの学習指導要領の改訂、「大学入学希望者学力評価テスト(仮)」をはじめとする大学入試改革が進んでいる。高校は、全教科でのアクティブ・ラーニングの視点(主体的・対話的で深い学び)による授業改革、「何を理解しているか、何ができるか」(知識・技能)だけではなく「理解していること・できることをどう使うか」(思考力・判断力・表現力等)、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」(学びに向かう力、人間性等)も含めた資質・能力の育成が求められている。教科を超えて、そしてホームルームや生徒会、学校行事といった特別活動をふくめて、生徒の学びを総合的に構成し、社会に開いて資質・能力を育てていくためのカリキュラム・マネジメントも求められる。個々の高校の取り組みを見たときに温度差はあるものの、全体的にはかつてないほどの大規模な教育改革として進展している(中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』2016年12月21日)。
     他方で、大学のほうはどうなのか、変わってきているのかと、高校関係者からよく尋ねられる。自分たちはこれだけやっているが、大学のほうは変わってきているのか、自分たちの改革をほんとうに受け止めてくれるのか、という疑問である。もっともな疑問であり、今後各大学がしっかりそれに答えていく必要がある。本ページでは、ここ20年の大学教育の改革の流れを高校関係者向けに説明し、大まかな状況ということではあるが、疑問への回答としたい。

     

    第1節 第I期:大学教育改革の始動(1991-1997年)

     今日の大学教育改革は、大学審議会(1987-2001)から出された計28の答申・報告をもとに進んでいる。その中で、長らく変わらないといわれてきた大学教育の改革を促したのは、1991年の『大学教育の改善について(答申)』であり、それに基づく大学設置基準の大綱化であった。今日の大学教育改革を理解する第I期としての起点である。
     これによって多くの大学は、一般教育・専門教育の科目区分を廃止し、学部学科の新設・再編もあわせて、特色あるカリキュラム構築を大々的に進めた。旧帝大を中心とする一部の大学では大学院(重点)化も進められた。他方、高等教育の大衆化をふまえて答申は、学生の学習が意欲、時間ともに問題であることを繰り返し指摘し、教授学習(教える・学ぶ)に関する改善提言を細かく、多方面にわたっておこなった。これを受けて大学は、シラバスやTA(ティーチング・アシスタント)制度、授業評価アンケートを導入し、教員研修としてのFD(ファカルティ・ディベロップメント)を推進し授業改善に努めるようになった。答申は一方通行型の講義からの脱却も強く求めており、FD推進もあって、コメントシートやミニッツペーパーを用いての双方向型の講義、今でいうところの原初的なアクティブラーニング型授業(溝上, 2014, 2016)をおこなう教員も少なからず出てきた。
     天野(2006)にいわせれば、1991年のものを含め大学審議会の1997年までの一連の答申は、1960年代半ばに始まった高等教育の大衆化課題への対応(後始末)に過ぎなかった。一連の答申の内容は、四六答申と呼ばれる1971年の中央教育審議会『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について(答申)』と共通するものが多かったからである。本来なら、1970~1980年代にかけて取り組まれるべきだったものが、空白の20年を経て、1990年代に入ってようやく大学審議会の手で具体化され、実施に移されたのであった。

     

     

    第2節 第II期:組織的な教育改善の基盤づくり(1998-2007年)

     1998年に大学審議会が新たに出した『21世紀の大学像と今後の改革方策について(答申)』は、第I期を総括し、21世紀に向けての個性が輝く大学像の構想を打ち立て、さらなる教育改革を促した。答申では「過去10年の間に高等教育全体として改革の動きが始まったことは大きな前進であり高く評価されるべきであるが、その進展の度合いは個々の大学等により様々であり改善すべき問題点も依然として少なくない」(p.6)と述べられている。依然として一方通行型の講義がおこなわれている、成績評価が甘い、学生は授業に出席しない、質問をしない、授業外学習が不十分である、議論ができないなど、教育内容・教育方法、学生の学習状況について引き続き多方面にわたって改善点が指摘された。
     第II期の大きな教授学習の改善・発展の動きの一つは、2003年に始まった「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」という文部科学省の支援事業の推進であった。支援事業では、カリキュラムや教育方法の改善、学生の学習支援やプロジェクト学習の組織的取り組みのGood Practiceが、はじめの3年間だけでものべ185大学・学部(複数大学での共同事業を含む)採択され、年数回の報告会・セミナーを通じて全国の大学に示唆を与えた。事業は、その後「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」など枠を拡げながら、現在「大学教育推進プログラム」と大きくまとめられて継続的に実施されている。
     同じく2003年には、専門職大学院(法科大学院や教職大学院、ビジネススクールなど)でのFD義務化が制度化され(専門職大学院設置基準の改正に基づく)、それにあわせて2007年、(大学設置基準の改正により)学部でのFD義務化も制度化された。高校関係者向けに説明すれば、このFD義務化は、大学という名をつけた教育機関である以上、大学・学部が教員を対象に授業等教育改善・研修をおこなうことが、法律的に遵守すべき義務事項となったのである。
     こうして進められてきたFDの状況について、最新の文部科学省調査の結果から見ると、全国の国公私立大学の93.8%がFDを実施、そのうち49.4%は専任教員の4分の3以上ないしは全員が参加しているとされる(『平成25年度の大学における教育内容等の改革状況について』2015年9月10日)。研修内容でもっとも多いのは「講演会、シンポジウム等」(60.8%)であるが、「教員相互の授業参観」(51.8%)、「教育方法改善のためのワークショップまたは授業検討会」(46.3%)も高い実施率となっている。
     なお、21世紀に入って、大学教育改革を促した深刻な外部要因もあったので、その点を補足しておきたい。つまり、大学や短大の入学定員割れに伴う大学の経営危機、規制緩和に伴う高等教育ユニバーサル化(大学全入)を進めるなかで、学生たちの学力や学習意欲の低下、就職難とフリーター・ニートの問題化、国立大学の法人化(2004年)や教職員の採用減、インターネットや携帯をはじめとするICTの発展に伴う情報化・グローバル化への対応などがそうである。大学審議会、その後の中央教育審議会大学分科会の答申に、このような深刻な外部要因が加わって、2000年代大学教育改革はいっそう進められたと理解される。

     

     

    第3節 第III期:学士課程教育の質的転換に向けて(2008-2014年)

     第III期は、2008年の中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(以下、学士課程答申)に基づく教育改革である。今日進められている大学教育改革の作業のなかで、学位プログラムに基づく教育改善・改革、学修成果(注1)・内部質保証が非常に大きな課題となって、いわば第II期以降の大学教育改革の本格的な仕上げにさしかかっている様相さえあるが、その基本的観点はおおかたこの学士課程答申でまとめられている。

      学士課程答申の主な観点は、①学部・学科による縦割り教学経営としての学部教育から脱却し、専門分野別の学位プログラムの観点から「学士課程教育」を構築すること、②学位の授与方針(ディプロマ・ポリシー[DP])を策定し、教養・専門に関する知識・理解だけでなく、21世紀型市民としての資質・能力(コミュニケーションや論理的思考力、問題解決能力など)としての「学士力」(知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、総合的な学習経験と創造的思考力)育成もふまえた4年間のカリキュラムを、DPに到達しその学修成果を示せるかたちで構築すること(カリキュラム・ポリシー[CP])、③高校へは、大学と受験生とのマッチングの観点から、学位の授与方針(DP)、学習内容や教育方法を含むCPをふまえた入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー[AP])を明確化して示すこと、となる。
     2012年に出された中央教育審議会『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)』、いわゆる「質的転換答申」では、学士課程の教授学習(教える・学ぶ)に踏み込んだ質的転換を提言し、大学教育改革をいっそう促進している。その中で高校関係者にも大きく関わる提言は、例の「アクティブ・ラーニング(能動的学修)」の推進提言であった。答申では次のように説明されている。

     

    「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等によっても取り入れられる。」

     

     実質的には、第I期より提言され続けた講義一辺倒の授業を脱却、ひいては学生が能動的に授業に参加することを、より具体的に、ディスカッションやディベートなどを取り入れながら主体的に問題発見・解決をしていくこと、その過程で認知的、倫理的、社会的能力を育てることと定めて提言されている。さらに、第II期より指摘され続けている不十分な授業外学修についても、授業前の準備、授業の受講、授業後の展開といった能動的な学習過程を充実させるのに必要な学修と見なして、その時間に着目した教育改善が提言されている。知識伝達を主目的とするだけの講義では授業外学修を充実させることは難しく、知識伝達型でありながらも、そこに課題や資質・能力育成を絡ませて、授業外学修の実質化をはかろうとしている。質的転換答申では、授業外学修の実質化の観点からも、アクティブ・ラーニングの重要性が提起されたことになる。
     先の最新(平成25年度版)の文部科学省調査の結果によると、アクティブ・ラーニングを効果的にカリキュラムに組み始めている大学数は、2012年で55%、2013年で62%であり、その割合は増加している。どのくらいの割合の教員や授業がアクティブラーニング型になっているかはまだこれからの課題であるが、多くの大学の改革課題にアクティブ・ラーニングの導入が含まれていることは意義深い。あとは、学位プログラムの学修成果、内部質保証と関連をもたせて、どう実質化していくかである。

    (注1)質的転換答申で、すべての「学習」が「学修」に置き換えられた。本稿では、質的転換答申に関わる内容では「学修」を用い、それ以外の箇所では「学習」を用いる。

     

     

    第4節 第IV期:質的転換に高大接続を加えた学士課程教育の学修成果・内部質保証(2015年-現在)

     第I期は、個々の教員レベルでの授業法、シラバス、評価などの改善を求めた改革期であった。第II期は、それにGood Practiceの示唆を与え組織的改革を促進し、そして、教員個々人の授業改善・研修をFD義務化のかたちで必須とした改革期であった。第III期はその大枠を、学士課程教育としての学位プログラムの教育活動と定め、DPの学修成果・内部質保証に向けて教育改善・発展をおこなっていくこととした改革期である。第IV期は、中央教育審議会『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)』、いわゆる「高大接続答申」を起点とする改革期だといえる。
     答申の題目が示すとおり、高校教育・大学教育・大学入学者選抜の三位一体の改革が進められており、高大接続システム改革会議で引き続き検討がなされ、『最終報告』(2016年3月31日)がまとめられたことは記憶に新しい。さらに、初等中等教育の学習指導要領においても、高大接続にトーンを置いた、そして「アクティブ・ラーニング(の視点)」もふまえた改訂がなされようとしており、その答申も、中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(2016年12月21日)として出されたところである。高校関係者を対象として、このページで大学教育の改革を紹介しているのも、まさにこの流れからである。
     この流れに関して、今日大学で喫緊の作業となっているのは、第III期で示された学士課程教育の質的転換の実質化、とくにアクティブ・ラーニングを導入し、かつDP、CPに基づく学位プログラムとなっているかの学修成果・内部質保証を示すことである。2004年からなされている大学機関別認証評価(第三者評価)が、2018-2019年より第3期サイクル(大学改革支援・学位授与機構)に入っているが、そこでは自己点検・評価を活用しての内部質保証に向けての組織体制の構築が強調されている。具体的に求められているのは、本ページに関連する部分だけを述べれば教学IR(インスティテューショナル・リサーチ)の体制を充実させること、データの分析結果をDPやそれに基づく学修目標に照らして、教育改善へのPDCAサイクルを構築することである。個々の教員の授業改善や開発、個々の授業の学修目標は、DP、CPに関連づけてなされていく。
     高大接続に関しては、2017年3月に学校教育法施行規則の改正をにらんで各大学のAPの策定(すでに策定しているところは修正)として課され、作業が進められた。具体的には、自身の大学でどのような学生を求めているか、そのためにどのような選抜を実施するかが策定された。先の教学IRのデータにも、入学前の高大接続データが加えられる流れもあり、どのような高校生が入学してきて、彼らが大学でどのように学び成長するかを、各大学レベルのデータとして収集され始めている。

     

     

    第5節 大学での教える・学ぶの改革は進んでいるのか、の問いに答えて

     進む高校教育改革のなか、ときどき高校教員から、個人の狭い経験と印象だけで「大学も変わっているんですか」と批判的に尋ねられて、苛立ちを隠せないときがある。そういいたくなるほどに、大学はこの20年間、多くの苦労を重ねて教育改革を進めてきた。そして、現時点で改革の疲弊感が相当なものとなっている現場の雰囲気のなか、第IV期の、質的転換に高大接続を加えた学士課程教育の学修成果・内部質保証が重くのしかかり、大学は最高潮に達した難作業に取り組んでいる。
     今日の大学での教える・学ぶは、90年代以前のそれとは比較にならないほど、変わってきている。しかし、それが理想的なものへと変わった姿なのは、多くの教員は半信半疑ではないか。それが実情ではないかと思う。しかし、学生をこのように育てたいと掲げるのは大学・学部自身であり、その具体的な内容がDPや学修目標として示される。教える・学ぶは相当に変わってきたといえるが、それらがDPや学修目標に照らして変わってきたかといえるかは、これからの作業である。その意味での第IV期である。アクティブラーニングもまだまだ実施されているとはいい切れない現状だが、どの大学のDPや学修目標を見ても、それに到達させるのにアクティブラーニングは不可欠であることは一目瞭然である。こうして、高大接続も加えて第III期の教育改革を実質化するために課せられる作業が、学修成果・内部質保証であり、改善へのPDCAサイクルを機能化させることである。今まさに、最大の山場といったところである。

    文献 

    天野郁夫 (2006). 大学改革の社会学 玉川大学出版部

    溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 東信堂

    溝上慎一 (編) (2016). 高等学校におけるアクティブラーニング:理論編 東信堂

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