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(講話)授業進度の問題をどう解決するか

要点

  • 生徒学生の深い学習や資質・能力を育てつつ、授業進度の問題を克服する努力が教員に求められている。極端な二者択一の選択ではなく、両者の中間あたりに落としどころを見つけなければならない。
  • 授業進度の問題を解決するのに、全教室にプロジェクター、スクリーンを設置するハード面の整備が求められている。しかし、それは必要条件であっても十分条件ではない。整備できないなら工夫をすればいいし、逆に整備できれば授業進度の問題が解決されるというわけでもない。
  • 授業進度の問題を解決する最後のポイントは、ソフト面、すなわち「すべてを教えないと生徒は理解できない」に代表される、授業進度の背後にある教師の教授学習観(授業観)を変えることである。
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    第1節 難易度の高い授業進度の問題

     多くの教員がアクティブラーニング型授業をおこなうにあたってつまずいている大きな問題のひとつに、授業進度がある。アクティブラーニングの重要性や意義を理解しても、それを入れていては、教えなければならない範囲を授業期間内に終えることができないのである。高校では、体系だった教科書で順序よく教える数学や理科、社会でこの傾向が強く、すべてを教えておかないと、大学入試に対応できなという考え方も相まって、状況を深刻にしている。大学でも、理系の専門基礎科目に同様の傾向が見られる。
     しかし、期間内に進め、何とかすべてを終わらせたその授業内容を、果たして生徒学生は理解しているのだろうか。各単元やテーマにおける深い理解をしているのだろうか。教師が自分に課せられた範囲を消化して自己満足しているだけではないのだろうか。生徒を大学、仕事・社会に送り出して、力強く学び成長していく基礎をつけられたといえるのだろうか。いろいろ思うことはある。
     だからといって、授業進度なんて気にしなくていいのです、生徒学生の深い学びがあればそれでいいのです、といった乱暴なことをいいたいわけではない。現実的な落としどころは、極端な二者択一の選択ではなく、両者の中間あたりにあるだろうと思う。

     

     

    第2節 ハード面を整備してアクティブラーニングの時間を作り出す

     桐蔭学園(中学高校)では、授業進度の問題をどのように解決すればいいかを、この2年間頻繁に議論してきた。先日、桐蔭学園にその議論をまとめてもらったので、興味のある方は参考にしてほしい(詳細は「アクティブラーニングの時間を生み出すための工夫」を参照)。
     ここでも少しだけ紹介すると、ハード面では、プロジェクター、スクリーン(電子黒板を含む)を全教室に設置し、全教員にiPadを配付した。これは、できるだけ板書をやめて、その時間をアクティブラーニングの時間に充てるためである。しかし、アクティブラーニングのためだけでなく、これだけICTが発達したいま、あるいはこれだけ深い学習や資質・能力の育成が謳われているいま、教師が板書をして、生徒がそれを深く考えることもなくノートに写すという旧時代的な教授学習スタイルがどれだけ有効なのかと見直すためでもある。これからは、なぜ板書が必要なのかを徹底的に考えて、どうしても必要だと思われる部分だけを板書するということにしたい。
     実際、中学・高校ではまだまだこれからだろうが、大学ではほぼすべての大学で完全にプロジェクター、スクリーンが設置されている。教室にプロジェクター、スクリーンのない大学など、近年見たことがない。
     桐蔭学園では、全学園のアクティブラーニング型授業の推進を進めるために、この整備を1年でおこなった。桐蔭学園は、中学段階で1学年約500人、高校段階で1,100人在籍する大きな学校なので、全体で187もの教室がある。プロジェクター、スクリーンの導入が必要だと判断してから1年で整備できた背景には、経営者である理事長の英断がある。悠長に進んでいては大改革は成し遂げられないとの考えから、ここは他の使用経費を後回しにしてでも、プロジェクター、スクリーンの設置を優先して進めようと判断されたのである。
     公立の中学高校でこのようなことを易々とはできないだろう。私立の学校だからできるというものでもない。地方のある公立中学校で見たアクティブラーニングの時間を作り出すための工夫だが、教師は板書内容をプリントにして配り、それを受け取った生徒は、(いつものとおりグループ机の真ん中に置かれている)はさみとのりを使って、ノートに貼り付ける作業をしていた。結果、板書をできるだけしないで授業を進めるという教授学習スタイルは、桐蔭学園と同じものとなっていた。しかし、その中学校の生徒の多くは、教師の話を聞きながらノートの空いたところにメモもしていたから、ただスクリーンを眺めている桐蔭学園の生徒以上のものでもあった。ほんとうにすばらしかった。プロジェクター、スクリーンがなくても、この工夫があればいいのだと思う。設備があるにこしたことはないが、ないのなら、不満や愚痴を述べる前にできる工夫をおこなっていきたい。

     

     

    第3節 授業進度の背後にある教師の教授学習観を変える

     プロジェクター、スクリーンが設置されたくらいで、授業進度の問題が易々と解決されれば苦労はしない。桐蔭学園では、全教室にプロジェクター、スクリーンを設置し、教師全員にiPadを配付して1年が経つが、それでこの問題が解決されたわけでは決してない。問題解決の糸口が少し見えた程度の状況であって、この問題を見極めていくにはまだまだ数年はかかる見通しである。
     この原因は、授業進度の問題の背後にあるソフト面の問題があるからである。先の公立中学校の事例をふまえれば、ハード面の教育環境は教師の創意工夫と、問題を克服して前へ進もうとする気概さえあれば、何とかなると思う。しかし、ソフト面の問題、とくに「すべてを教えないと生徒は理解できない」に代表される、授業進度の背後にある教師の教授学習観(授業観)を変えることは、まじめにアクティブラーニング型授業への転換に取り組む教師にとってもなかなか厄介な問題となっている(教師の授業観については「泳げるようになってから水に入るのではなく・・・-理解したらALに取り組むという考え方では進まない」を参照)。
     そうはいっても、変えるべきポイントはそう多くない。桐蔭学園のページ(「アクティブラーニングの時間を生み出すための工夫」を参照)では、次の点が挙げられている。他にもあるだろうが、まずはこのあたりから取り組んでいくしかない。

  • 教科書・資料を自分で読ませる
  • 授業外学習をしないと参加できない授業にする
  • 時間を管理する
  • 網羅主義から脱却する
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