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(AL関連の実践)【高校/英語】受験指導におけるアクティブラーニング-メタ言語的知識の定着と活用をめざして- 冬野寛人(清教学園中・高等学校)
清教学園中・高等学校のウェブサイト
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対象授業
- 授業:高校3年生 英語表現Ⅱ(4単位)
- 生徒:38名
- 教材:自作プリント
第1節 授業の目標
今回の授業は1学期の最終授業となり、受験生ということもあって、夏休みの学習の動機付け、復習すべき事項の確認が大きな目標でした。1学期の取り組みとして長文教材を扱いながら、文中の意味のまとまりを捉えられるように、品詞、文型といった基礎項目の確認からはじめ、1学期前半は特に述語動詞と主語の発見および節をつなぐ接続詞、関係詞、疑問詞に焦点をあててきました。1学期後半からは述語動詞と準動詞の違いを形から見分け、意味を押さえられるように都度確認をしてきました。
本時は準動詞(不定詞、動名詞、分詞、分詞構文)の確認をする一連の授業の最終授業であり、また1学期の最終授業でもあったので、分詞構文の習得に向けてのトレーニングおよび1学期の事項のメタ言語的な知識の確認を行いました。
第2節 授業(50分)の流れ
(1) 述語動詞、準動詞の形と基本的な意味の確認(10分)
ペアで述語動詞と準動詞になる形を説明させることから始めました。また、それぞれの述語動詞、準動詞の形の意味についても説明をさせていきました。教師は説明させている間にポイントの板書をするようにし、また、ペアで考えさせた後には個人指名を行い、理解の確認およびより深い説明をするように心がけました。ペアで説明をさせる活動はできる限り行い、例え同じ内容であっても日々の授業で繰り返しペアワークを行うことでターゲットとなる項目の習得を意図しています。
(2) 分詞構文のトレーニング(30分)
自作のプリントを与え、例文(図表1)をペアで英語から日本語、日本語から英語、従属節から分詞構文句への変換などのトレーニングをさせました。押さえて欲しい事項もプリントには載せていますが、説明の前にまずトレーニングから入るように心がけています。また、ペアワークは1回につき30秒から1分程度で終わるようなトレーニングとなるように調整しています。
図表1 自作プリント(分詞構文)
(3) 分詞構文の作り方の確認一学期学習事項の確認(10分)
ペアワーク後疲れていそうだったので30秒間だけ休憩を取り、その後トレーニングをした英文の一部を解説しました。時間的な余裕がなかったので、形容詞で始まる分詞構文の説明のみを行い、品詞の理解の重要性を説き、1学期の既習事項の重要性を訴えました。既習事項については、自問自答できるように1問1答形式のプリント(図表2)を作成し、プリントの最初の部分のみペアで確認させ、夏休みに復習をしてくれることを願いながら本時を終えました。
図表2 自作プリント(英文読解の基本事項)(
大きく)
第3節 授業で大切にしていること、うまく機能していると感じること
あくまで「できる限り」、そして「当たり前のこと」が多いのですが、下記のような点に気をつけています。
- 授業規律。具体的には(1)チャイムで始まり・チャイムで終わる、(2)忘れ物をしない・させない、(3)メリハリをつける、です。そのために(1)休み時間から準備をして、授業中に常に時間に気を遣い、(2)こまめに持ち物の確認を行い、(3)活動や説明の区切れには沈黙して全体が揃うのを待ったり、「顔を上げて」「プリントを見て」など細かく指示をしたりするように心がけています。
- 生徒の学習時間の確保。私は練習したことが上手になると考えているので、できる限り授業は生徒のトレーニングに時間を使いたいと考えています。トレーニングさせるにあたって、一人一人に役割・責任感を与えやすいペアワークを多用し、教師の説明もできる限り短くしその後ペアで確認させる、また、生徒の家庭学習に任せるだけでなく教室内でトレーニングの時間を確保する、などを心がけています。
- 指名、質問は具体的なものから抽象的に。「ペアで話して」などと初めから指示しても、どちらが先に言うか決めるのに時間を使ってしまうので、「右の生徒が左の生徒に説明して」、「準動詞の形を3つ、用法を3つ説明して」などと具体的に指示するようにしています。場が温まっていそうであれば多少抽象的に「ペアで確認して」、「できる限りたくさん考えて」などと指示をするようにしています。
- ペアを頻繁に変える、活動の時間を区切る。同じ生徒でペアワークをさせ続けると「慣れ」や「飽き」から集中して活動に取り組めないように感じるので、同じ練習をさせる場合でもペアを変えるようにしています。時間もだらだらしないように短く区切り、メリハリをつけるようにしています。ペアを変える際は、縦や横の2列ごとに時計回りや反時計回りに移動させることでペアを変えることが多いです(
図表3)。立たせて活動を行ったり、席を移動させたりするのは、その活動に集中させるのに非常に有効な手段です。
図表3 席の移動のイメージ図と実際の様子
- 順番にこだわりすぎず、反復を重視。いわゆる伝統的Presentation-Practice-Production(PPP)には反しますが、ターゲットとなる英単語、英文そのものに興味を持たない場合、説明よりも先に活動をやらせることで、ターゲットとなる項目に興味を持たせる場合もあります。1度の説明、トレーニングでは言語習得に結びつかないので、順番よりも繰り返すことを大切にしています。
- インプット強化(図表4)。ターゲットとなる項目を、主に括弧、下線、太字を使用して目立たせ、学習者の気づきを促すようにしています。
図表4 自作プリントのインプット強化の例
- 単純な指示・説明は英語、複雑な指示・説明は日本語。All Englishという手段を目的と間違えないようにし、必要に応じて使い分けるようにしています。特にメタ言語的知識まで英語で指導する必要性をまだ感じたことがなく、また英単語であっても多くの場合は日本語を取り入れて指導をした方が、学習効率が良いのではないかと考えています。
- 授業のテンポ。プリント、プロジェクターを使って授業をコントロールし、生徒の活動のタイミングで板書を行うように心がけ、だらだらと授業をしないように気を付けています。
第4節 今後の課題
限られた時間の中で授業効率、言語習得をどうやって最大化するかが課題ですが、下記のような点が特に現状取り組めていない部分だと考えています。難しいものもあるのですが、少しずつ改善したいです。
- 活動の単位、机の位置の研究。現状机を動かすということまで授業で求めることは少ないのですが、机を横に並べる、向き合って並べる、グループにするなど、活動の目標、特性に応じて使い分けをできるようになりたいです。特に、今回溝上先生にご指摘いただいたペアワーク時の生徒の体の向きなどは、机の配置を変えながら指導すると構造的に指導できると思うので、必要に応じて取り入れたいです。
- 即興的アウトプット活動の充実。現状、単語・例文・教科書の各種音読、基本例文のパターンプラクティス、ペアによる既習事項の説明など、ある程度定まった答えを回答するトレーニングに終始することが多いです。もう少し即興的な言語スキルの習得のための活動(ディクトグロス、ショウ&テル、プレゼンテーション、パフォーマンステストなど)を手段として取り入れたいです。第3節でも述べましたが、練習したことが上手になると私は考えているので、授業時間にアウトプットの練習をより取り入れたいです。
溝上のコメント
- 夏休み前の1学期の最後の授業ということもあり、しかも受験を控える高3生の授業でもあり、徹底的な習得(知識の確認、定着、活用)を目指すアクティブラーニング型授業であった。課題を与えて深い学びにもっていくだけがアクティブラーニングではないので、これはこれで十分いいと思う。
- 冬野教諭の授業はテンポが良く、指示がきめ細かく、的確である。教諭の説明にもあるように、「顔を上げて」「プリントを見て」といった指示が頻繁に入って、生徒は1つ1つにしっかり応答していた。
- 図表5のように、ペアワークが徹底的になされる。「右の生徒が左の生徒に説明して」と指示されるが、生徒はそれで自分が「右」なのか「左」なのかを瞬時に理解していた。私は後ろで見ていて、教師から見て「右」なのか、生徒から見て「右」なのかと迷ったが、生徒が迷っていないところを見ると、これはふだんの授業の成果だということがわかった。
図表3のペアの入れ替えも時計回り、反時計回りなど移動のルールがあり、生徒は瞬時に理解して移動していたので、これもふだんの授業の成果ということである。
課題として、ペアワークをおこなうとき、生徒の身体の向き(身体性)やパーソナルスペースについてもう少し考慮した方がいいかもしれない。図表5右の写真のように、生徒によってはペアワークの相手との物理的・心理的距離が遠くなり、学習の質が下がる可能性がある。
図表5 ペアワーク
- 場が温まっていない始めの時間帯では、「準動詞の形を3つ」「用法を3つ」と、具体的に数を上げて考えさせる。場が温まってくれば、「できる限りたくさん考えて」と抽象度を上げる。技が細かくて、すばらしい。
- 英語のアクティブラーニング型授業ではよく見られるが、生徒は立ってテリング・リテリングをしていた(図表6)。
図表6 立ってテリング・リテリング
プロファイル
冬野寛人(ふゆの ひろと)@清教学園中・高等学校(英語科)
- 一言:やったことが上手になる、と信じています。限られた時間の中、どういう生徒を育てたいのか、そのために何をしたら良いのか模索しながら、日々の授業を通じ、生徒の人間性、英語力の向上に寄与したいです。