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「化学変化とイオン」 -仮説検証実験を通して、化学電池の仕組みを説明する-
(1)水溶液とイオンに関する事物・現象に進んで関わり、それらを科学的に探究するとともに、事象を日常生活との関わりでみることができる。
(2)水溶液とイオンに関する事物・現象の中に問題を見いだし、見通しをもって観察、実験などを行い、事象や結果を分析して解釈し、自らの考えを表現できる。
(3)水溶液とイオンに関する事物・現象についての観察・実験の基本操作を習得するとともに、観察、実験の計画的な実施、結果の記録や整理など、事象を科学的に探究する技能の基礎を身に付けることができる。
(4)観察や実験などを通して、水溶液とイオンに関する事物・現象についての基本的な概念や原理・法則を理解し、知識を身に付けることができる。
本時の実戦に向けて次のことを配慮して授業づくりに取り組んだ。
①生徒が夢中になる課題設定
②生徒同士の批判的思考力を育成する場面の設定
①について、生徒は日頃の授業からも実験は大変積極的に取り組む様子が見られる。実験操作だけでなく、仮説を考えたり、実験方法を検討したり、 結果から考察したりする場面においても、主体的な活動を生み出せるよう工夫を図りたいと考え課題を設定した。
本時の活動では、身近な果物を使った果物電池づくりで生徒の興味を喚起しつつ、電圧を上げる工夫と、なぜ電圧が上がるのかその説明内容を考えさせる活動に取り組んだ。
本授業の後には、電池の開発の歴史について学習を行う。電圧を上げる工夫を見つけ出すことに夢中になって取り組んだ後に「国の産業として考えたときに、このまま果物電池の開発を進めた方が良いですか」という発問に対して考えることで、 果物電池の問題点や、乾電池が生まれてきた背景などについて視野を広げさせたいと考えていた。
電池の電圧を上げる仮説を考える場面や、国王からの指令(図表1)をもとに報告書を作成する場面では、本校で実践を積み重ねているミエルトークを行った。一人一人の意見を傾聴し受け入れつつ、 疑問点や発想の根拠などに迫る内容などについても質問し、集団全体の思考を深めさせたいと考えて取り組ませた。
主な学習活動 | 指導の手立て | 時数 |
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(思考・表現) |
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(思考・表現) |
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(知識・理解) |
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(思考・表現) |
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(思考・表現) |
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本時 7/8 |
(知識・理解) |
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果物電池の電圧を上げる工夫とそのしくみについて、質問したり、承認したりすることを通して、果物電池の問題点について考えを深める。
(2)展開過程 | 学習活動 | 指導の手立て |
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題 設 定 |
1 前時の発表を振り返る。 2 課題を確認する。 電圧向上大作戦から報告書を作成しよう
~果物電池の問題点は何だろう?~
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国王からの指令 要旨 「果物電池の電圧を上げる工夫について仮説を立てて考え、その成果を報告書としてまとめよ」 |
題 追 究 ・ ( 問 い 直 し ) |
3 各班の発表を聞いて質疑応答する。
4 全10班の発表を基にしながら、果物電池の電圧を上げる工夫と問題点について、考察をまとめる。(国王への報告書)
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り 返 り |
5 振り返りを行う。 学習シートによる、NES評価、および記入内容の発表をする。 |
果物電池の電圧を上げる工夫とそのしくみについて、質問したり、承認したりすることを通して、果物電池の問題点について考えを深めている。科学的な思考・表現(学習シート) |
(3) 評価規準
果物電池の電圧を上げる工夫とそのしくみについて、質問したり、承認したりすることを通して、果物電池の問題点について考えを深め、その内容をまとめている。
□=評価
○生徒の主体性を引き出す学習素材
本時の前には、「身近な果物や野菜で電池をつくってみよう」という課題に取り組ませた。身近な果物や野菜で電池はできるのかという疑問を解決することで、 興味・関心が増し「果物電池の電圧を上げるためにはどんな工夫が考えられるか」という次時の課題へ意欲をもつことができていたようである。
○パフォーマンス課題の工夫
本時は仮想的な場面を設定して生徒に課題を提示し思考を必要とさせるパフォーマンス評価の手法を取り入れた。課題としての報告書を考えた後の問い直しにより、 「乾電池」が生まれてきた背景にまで視野を広げさせることを狙った。生徒は条件をクリアするために互いの実験結果をつぶさに見合い、実験装置の改善点や実験データの誤差などを指摘し合うことができていたようである。
○一人一人の意見を尊重するミエルトークの活用
ミエルトークを班の話合いに取り入れた。ミエルトークでは、学習班を形成する4人の生徒が必ず意見を発表し、それについて理由や根拠を問い直す「なんでさん(質問者)」の役割が機能することで、考えを深め、新しい考えに気づくことができるようになっている。「果物電池の電圧を上げるにはどのような工夫が考えられるのか」について仮説を考える場面では、班員4名全員の意見をお互いに聴き合い、その根拠を確認し意見を1つにまとめた。ミニホワイトボードを使って班の意見をまとめそれを全体で共有するという実践は積み重ねてきている。ただ、このミエルトークでは班のリーダーの意見に偏りがちな班の話合いを、あえて班員全員が意見を伝え合い傾聴し意見をまとめるという話合いのルールを明確にしている。個人での思考を促し、一人一人の意見を尊重できるようになったという点が最大の特徴である。 本校では4月以降学級活動においてミエルトークの進め方を確認し実践を積み重ねており、その進め方を理科に応用したので生徒の取りかかりはスムーズであった。今後も、特別活動や道徳との連携を視野に入れながら、実践を積み重ねていきたい。
△本時のねらいに向けた授業構成
本時のねらいは「果物電池の電圧を上げる工夫とそのしくみについて、質問したり、承認したりすることを通して、果物電池の問題点について考えを深めている。」であった。生徒の質疑応答が活発に行われた点は良かったと考えられるが、 果物電池の問題点にまで考えを深めさせるには、発問の内容や授業展開などにおいて工夫が必要であったと反省している。
△クラスでの発表における質疑応答・議論時間の確保
各班による発表に対する質疑応答について、どの程度まで話合いを深めさせるかは、授業時間との兼ね合いもあり課題の1つといえる。10班がそれぞれの仮説を検証し、 その結果を発表し合ったが、結果の誤差や、その誤差が生まれた実験装置の改善点などについては、さらに質問を考えていた生徒が数名ほどいたようだった。5分という制限時間を設けたことで、 質疑応答に十分な時間を確保できなかったと反省している。
△多くの生徒が意見を発言するような仕掛け作り
これまでの理科における話合いにおいて、質疑応答は活発であるが、発表している生徒は各班の代表者など一部の生徒に限定される傾向にあるという反省点を基に、より多くの生徒が発表できるように、 生徒の活動内容や質問内容に工夫を図った。発表する場面としては、①班の発表の後に質疑応答する場面、②生徒司会により実験の報告書を発表させる場面、③問い直しに答えさせる場面、 ④本時の活動を振り返る場面、の主に4つの場面を考え、①→②→③→④と、普段は発表することが少ない生徒にも発表ができるような場面を設定していた。とくに④の本時の振り返りでは、毎時間振り返りシートに記入しているので、 どの生徒も発表が可能であると予想し、場合によっては教師からの指名も考えていた。しかし、①の質疑応答に時間がかかったため、④は授業後にシートを通して振り返るのみとなってしまった。授業のねらいを達成するために活動内容の精選と、 活動時間の確保については今後の課題としたい。
(*参考)溝上慎一 (2018). アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性(学びと成長の講話シリーズ第1巻) 東信堂
島田勝美(しまだ かつみ)@秋田大学教育文化学部附属中学校(理科)