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(AL関連の実践)【中学校/地理】主体的・対話的に学びを深める生徒の育成-防災・減災について考える- 藤山和也([京都府] 南丹市立園部中学校)
南丹市立園部中学校のウェブサイト
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対象授業
- 授業:中学2年生 地理
- 生徒数:31名(男子17名、女子14名)
- 教材:『新しい社会 地理』(東京書籍)
第1節 授業の目標
園部地域は、2013(平成25)年に台風18号により、河川の氾濫などの大きな被害を受けている。そこで本校では、社会福祉協議会や地域防災委員長など、地域で防災の取組をされている方と連携して、そのときの災害の様子や対応などについて、1年生時に地域防災学習として学んでいる。この学年の生徒は当時小学2年生であり、そのときの記憶がある生徒も多く、災害を身近なものとしてとらえている。1年生での学習や過去の体験をもとに、災害に対応する力を高め、生きていくために役立つ力を身に付けさせたい。
第2節 授業の流れ(50分)と工夫
(1) 前時の内容の復習(3分)【全体】
- 前時の内容の復習については、パワーポイントを活用し、リズムよく行う。災害の様子をビジュアルに見せることを大切にする。【全体】
図表1 視線が上がり、集中して復習に取り組む様子
(2) 園部地域の過去の災害と目標の提示(4分)
- 1年生で行った地域防災学習を思い出させ、過去に園部地域で起こった災害(平成25年の18号台風)の様子をふり返る。身近な地域の事象と関連させることで、学習への意欲を高める。【全体】
- 電子黒板(ICT機器)に目標を提示し、全体共有を図る。黒板の左上、電子黒板、ワークシートの3カ所に示し、いつでも「目標」に立ち返ることができるよう工夫した。【全体】
図表2 ICT(電子黒板)を活用し、資料を提示する
(3) 役割分担をして、家族会議を行う。(20分)
- 同じような災害が起こった場合に備えて、家族会議のシミュレーションを行う。班ごとに、シチュエーションを変えた。また、班内で家族内の役割分担をさせ、いろいろな立場になって考えさせた。シチュエーションや役割分担を割り振ることで、さまざまな視点からの発言があることを期待した。【個人】
- 学習班(3人または4人)でグループ交流を行い、それぞれの意見やまとめた意見をホワイトボードにまとめさせた。【グループ】
図表3 短時間(役割分担)の交流もこまめに行う 図表4 ワークシート(個人)の様子
図表5 グループでの交流の様子 図表6 ホワイトボードにまとめる様子
(4) 家族会議の結果を交流。(12分)【全体】
- ホワイトボードを前の黒板に貼りだし、発表者がそれぞれのグループで出た意見を発表する。
- 発表者は、ホワイトボードを持ち、みんなの方を見て、発言するように指導をしている。
- グループで出た意見は黒板に短冊で示すか板書をし、意見の論点がはっきりするように工夫した。短冊を使うことで、「時間の構造化」を図った。
- 交流の後、電子黒板を使って、実際に家族会議を開く場合に考えておくべき項目を整理した。
図表7 発表の様子 図表8 「時間の構造化」の様子(短冊の活用)
(5) 三助について説明し、ハザードマップを確認する。減災について説明する。(6分)【全体】
- 電子黒板を使い、三助(自助・共助・公助)について説明をする。
- 防災マップ(園部地域の実物資料)を見せ、防災への取組が行われていることを確認する。
- 防災マップについては紹介のみとなったが、その後廊下に掲示をした。
- 災害が起こった時の減災の意識を高める。
(6) まとめ。(5分)【個人】
- 学んだこと、考えたことを100字程度の文章にまとめさせ、学習内容の整理を行う。
図表9 ワークシート(終了時)の様子
第3節 成果
【教科指導】
- 身近な地域の事象を取り上げることで、生徒の関心・意欲を引き出すことができた。
- 防災に対する意識を高め、平時の準備やいつ起こるか分からない災害への心構えをしておく意識を高めることができた。
- 防災マップや減災の考え方に触れ、被害を最小限におさえることの重要性に気づかせることができた。
【主体的・対話的で深い学び】
- 普段の授業から学習班(3~4人)でのグループワークを取り入れていることで、話し合いの形式ができ、スムーズに意見交流することができるようになってきた。
- ホワイトボードを活用し、みんなの意見をまとめ・掲示するという流れができた。
- みんなの方を向いて、ホワイトボードを見せながら発表するという形ができた。
- 毎回の始業と終業のあいさつ「礼」をしっかり行うことができた。
- 学びに向かう姿勢ができつつある。
第4節 課題
【教科指導】
- 防災マップを丁寧に確認する時間がとれなかった。
- シミュレーションや役割分担を細かく行ったことにより、それぞれの立場をイメージしにくい生徒がでてきてしまった。今回のように家族会議をジグソー形式で行う場面では、シチュエーションや立場をより理解した上で考えることができるような工夫が必要であった。
【主体的・対話的で深い学び】
- 発表するときの声が小さく、みんなに伝わりにくかった。
- グループ学習の場面では、司会を立て、進行を取り仕切らせるべきであった。
- グループの中での関わりが弱く、意見交流からの深まりがなかった。
- 多くの内容をこなそうとするのではなく、深く考えさせるためにテーマをしぼり、他者の考えを知った上で再度自分の考えを深めるための活動を充実させたほうがよかった。
第5節 研究授業全体の振り返り(社会科の取組、事前の取組も含む)について
園部中学校は、「地域と共にある学校」を目指し、地域社会との連携を図っている。その一環として、毎年1年生(総合の時間)に「地域防災学習」として、社会福祉協議会や地域防災委員長などと連携した防災学習を行っている。「地域防災学習」を行うまでに、何度も協議会を持ち、授業内容や授業方法について話し合いをしている。地域の方も授業に参加されたり、講演をしていただいたりしている。そのような取組をさらに深め、防災への意識を高めるために本時を設定した。また、社会科と総合の時間との間で教科横断的な扱いになるように努めた。
身近な地域社会の出来事をとらえ、過去から学び、これからの生き方を考えるという視点を大事にした。これからの社会の担い手として、非常時備えて何ができるのか、どのような行動がとらなければならないのかを考えさせる必要があると考えた。日本は災害の多い国であり、過去の災害から多くの教訓を導き出している。園部地域で起きた災害を題材に考えることを通して、防災や減災についての理解を深めることを目指した。
園部中学校の研究主題は「主体的・対話的で深い学びが実現できる授業展開の確立」である。今回の授業の中では、「傾聴の姿勢」や「個人→グループ→個人」の形態、ワークシート形式の授業スタイルなど学びに向かう姿勢については確立されつつあった。しかし、「深い学び」に向かうための工夫がまだまだ不十分であった。今後は、「深い学び」に至るための課題設定やグループ学習時の司会の役割などをさらに充実させていく必要があると感じた。
溝上のコメント
- 生徒が課題に集中する、議論するときには他の生徒としっかり向き合うといった、アクティブラーニングの基本形が見事に示された授業でした。
- 個-協働-個の学習プロセスがしっかりデザインされていました(図表4~9)。前に出てきて発表は、生徒が頑張って発表していて良かったですね(図表7)。
- ワークシートで、「自分の考え」「(グループワークや発表を聞いた後の)みんなの考え」と2つの欄が用意されていて良かったと思います(図表9)。
プロファイル
藤山 和也(ふじやま かずや)@(京都府)南丹市立園部中学校
- 一言:社会科を学ぶことを通して、これからの社会のあり方を考え、未来を創ることのできる力を育てたいと考えています。基礎知識を知るだけにとどまらず、学んだことを活用する力を育てる授業を目指して、これからも精進していきます。