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(記事・書籍等)【書籍】 ニルソン, L. B.(著) 美馬のゆり・伊藤崇達 (監訳) (2017). 学生を自己調整学習者に育てる-アクティブラーニングのその先へ- 北大路書房

 

学生を自己調整学習者に育てる-アクティブラーニングのその先へ-

 

 

溝上コメント

 

 

主な内容(抜粋、下線は溝上による)

pp.4-5

端的にいうと、自己調整学習とは、脳の複数の領域がかかわる、総力的な活動である。この活動では十分な注意と集中、自己意識と内省、率直な自己評価、変化への開放性、真の自己規律、自己の学習への責任を受け入れること、すべてが含まれる。これらの要素は、認知的な能力というより、性格の次元のように思えるかもしれない。文献では、自己調整は測定された知能にはほとんど関連がなく、およそ誰でもが発達させられると主張されている。実際のところは、子どもの自己統制(self-control)がどう発達するかを研究している社会認知心理学者が、1960年代初めに自己調整に関する初期の研究を行っている。それによると、反応を抑制することや満足の遅延、自己調整の基準を獲得することが、自己統制の基礎となっていた。ここで使われている用語を考慮すると、性格(少なくともそのいくつかの側面)が自己調整学習を定義づけるうえで重要な役割を果たしていることが先行研究から示唆されているようだ。

長期的な目標の追求における自己統制や自己規律、忍耐、決断は、中等教育以降の学業的な達成(児童の場合は単語の綴りテストの成績)に対してIQよりも高い予測力をもつ。博士号を取得したものであれば誰でも、これらの特性が単に賢いことよりも重要であることに同意するだろう。学業達成において他に重要なものとしては、満足を遅延する力があげられる。この力は、多くの研究により、自己効力信念と自信、内発的動機づけ(intrinsic motivation)、課題価値、(遂行目標<performance goal>ではなく)習熟ないし学習目標志向性("mastery" or "learning" goal orientation)、援助要請、認知的な学習方略(リハーサル、精緻化、体制化、メタ認知)の使用、学習関連行動と環境の調整など、多くの要因と密接に関連することが明らかにされている。これらすべての研究は、自己調整学習とは、行動的実践、価値、信念、人格特性(このうちいくつかは性格(character)とよばれるものに含まれる)の集まりが混ざったものだという考えを裏づけるものである。

 

p.51-52 講義前の活動-活性化された知識の共有

活性化された知識の共有は、知識に関する調査に似ているが、授業の初めに行う。まず、学生にその日の授業のテーマに関する質問のリストを配布する。これらの質問には、明確にするべき概念、特定するべき人物あるいは関係、正誤判断と、その意見、解説すべき現象の原因や影響、あるいは解釈するべきデータなどがあるかもしれない。まず、学習はペアになりできるだけ質問に答え、次につまずいた質問に答えるため他のペアと話し合う。最後にいろいろなペアに解答の説明を求める。 この活動は、学生のもともともっていた知識を活性化させ、与えられたテーマのどこから始めればよいかが理解でき、的確に話すことが可能になり、学生の思い違いなどを明らかにできる。 自己調整学習を高める手段として、活性化された知識の共有は学生にそのテーマについて知っていることと知らないことに気づかせ、授業で何を聞くべきかを気づかせることができる。

 

 

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