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松枝秀樹(桐蔭学園小学部)
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桐蔭学園小学部は、小学1・2年では国語・算数・総合(生活科)・道徳は担任が受け持ち、その他は教科担任制で、3年以上の学年では全教科が教科担任制による授業システムをとっています。 しかも、5・6年の国語・算数・英語においては、本学園の教育の特色である「習熟度別授業」を実践しています。
本学園小学部の「習熟度別授業」は、「今の自分のペース(理解度・進度)に合った、わかりやすい授業が受けられる」ことで学習理解を深めていく授業システムです。同じぐらいの学習ペースの人たちが一緒に集まって、同じペースでよく聞いて、じっくりと考えていくことで、同じように「わかる」ようになり、やがて「できる」ようになることを目指します。同じレッスンルームにいる児童が、同じペースで、一緒に「わかる」「できる」ようになることで、自信を持ち、楽しく学び、「もっとできるようになりたい!」 「もっとたくさん知りたい!」と思うようになることが理想であり、そう思えることで子どもたちの内面に「自己肯定感」が芽生え、育っていくと考えています。
このような学習システム環境の中で、本校国語科の教科目標を次のように定めています。
言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次のとおりに育成することを目指す。
(1) 相手に伝わる話し方、相手の話を聞く力を身につけ、コミュニケーション能力を高める。
(2) 身近なことを表す語句の量を増やし、会話や発言、文章の中で使うとともに、語彙を豊かにする。
(3) 文章を読んで理解したことに基づいて、自分の考えを深める力を養う。
この教科目標の達成に向けて、本校ではアクティブラーニング型授業を活用し、児童の話し合いや考えの深め合いの機会を増やし、自分の考えだけでなく、 他者の考えも共有しながら、得た情報や知識を吟味しながらまとめ、発表へと繋いでいきます。そうして得た情報を更に自分の考えと照らし合わせながら見直し、 新たな発見をしてまとめ直していくという、「個-協働-個」のサイクルによって、個々の理解を深めていくようにしています。このような学習を繰り返す中で、 児童は自分が十分な理解に至っているか、また、何が足りないか、他者はどういう視点で捉えているかなどの発見をし、そこから新たな理解や関心へと広がり、 学びがさらに深まっていきます。
アクティブラーニングが、ホームルーム授業における一斉授業の中で行われると、多様な考えや多角的な視点の児童による多岐にわたる知識・情報が期待できます。それが、本校高学年で導入している「習熟度別レッスン」の中で行われていくと、同じ学習レベルのグループになるため、上位・中位・下位のレッスンに分けることによって授業として成立しにくいのではないかと思われるかもしれません。特に、下位レベルのレッスンになると、思考が深まらずに停滞してしまうことが懸念されるかもしれません。しかし、決して停滞してしまったり、一様な考えに留まったりすることはありません。その学習活動の中では、考えの広がりや理解のペースに多少の差はあっても、お互いに違った視点や考えによる深め合いへと発展していきます。「習熟度別」という学習環境では、語彙力をはじめ、思考力や表現力の差による知識量や情報量の違いはありますが、それぞれのグループでお互いが理解しやすい言葉や表現による学び合いは確実に行われています。
例えば、最上位レッスン(Sα)の児童は、読解演習において、「児童が先生役になって解説する」ことも実践できます。その解説に対して、 聞いている他の児童から質問をし、それに答えたり、説明したりすることにより、より高い読解力・理解力・判断力・思考力、そして説明力が身につきます。
逆に、最下位レッスン(β)では、ある発問に対して、まず自分の考えを持たせます。それを、ペアワークによって自らの考えに根拠をもってお互いに発表し合うことで意見交換(情報交換)をします。そこから共通点や相違点を見い出し、より深い考えを練るようにします。それらを発表することで、同じ考えに至ったペアでグループを組み、更に考えを練らせます。そして、発表し、互いに意見を出し合う中で、自分の考えのどこと同じで、何が違うかに気づきます。こうすることで理解力・判断力・思考力が深められ、これを繰り返していく中で苦手としている説明力や表現力が徐々に豊かなものとなっていきます。こういった積み重ねから、ディベートなどの討論も成立するようになります。むしろ、下位レッスンの児童にこそ、一斉授業よりもペアワークなどのグループ学習による外的刺激を得られる方が授業としては活性化し、 それによる理解の深まりは高いと言えます。
つまり、小学生の習熟度別レッスンにおいては、アクティブラーニング型授業こそ有効な授業形態であると実感しています。
小学校学習指導要領では、〔言語事項〕の「文語調の文章に関する事項」に「易しい文語調の文章を音読し、文語の調子に親しむこと。」と定められています。
そこで、本校が高学年国語の授業において、古典(特に古文)を扱う意義としては、古来の日本語の持つ言葉の美しさを知り、その言葉の持つ音・響きを味わい、その言葉からイメージする言語感覚を養うことを狙いとしています。それに伴い、古典に親しむ態度を育てるとともに、 我が国の文化や伝統について関心を深めることも併せて考慮しています。
そこで、本校の国語科カリキュラムにおいて、教育のイメージを以下の図表のように定めています。
児童の学習目標としては、次の2点です。
この2点の学習目標に基づき、平安時代の代表的な作品である『枕草子』の有名な「第一段」を題材として、図表のイメージで学力の3要素を育成することを目指しています。そこで、大事な点として育てたいのが、古文特有の文章表現から情景をイメージし、自分なりの表現を工夫しようとする姿勢と、文語調の独特な文章を正確に音読する力です。特に、古文においては、独特な文語調の「ことば」をいかに自分の中で自分なりのイメージを捉えるか、そして、その感じたものをどのように表現し、 アウトプットするかが、表現力を豊かにしていくためには重要であると考えています。
授業時数 | 学習内容 | 授業の様子 | |
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第1時 |
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第2時 |
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第3時 |
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第4時 |
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第5時 |
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第6・7時 |
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本校の国語で古典を扱う場合、独特な文語調の「ことば」から、そのことばの持つ「音」や「響き」、ことばから得る「イメージ」をどう捉え、表現するかを大切にしています。これによって、言語に対する感覚を養い、想像力を広げさせることに繋ぎ、自分の中に湧き起こってきたイメージをどのように表現し、アウトプット(外化)していくか。 これが、自己の考えを深めるとともに、表現力を豊かにしていくための重要なポイントであると考えています。
そこで、古典を扱う際には、自分の中に湧き起ったイメージを「絵」で表現するという手法を取っています。一言で「絵」と言っても、どのような表し方をするかは児童個人の自由です。あくまでも、絵の「上手い・下手」を評価するのではありません。どの言葉に感動し、どの言葉が心に残り、それをどうやって他者に伝えるかを自分なりの方法で表現できればよいのです。その描いた絵について、自分の言葉で、どう説明して表すかが、イメージを広げ、語彙力の幅も広がっていくと考えています。だから、絵を表現するにあたっては、色鉛筆でも、カラーペンでも、クレヨンや絵の具でも、何を使ってもよいことや、折り紙や色紙をちぎって貼った「ちぎり絵」にしてもよいことなど、写真や挿絵以外のものならば、何を使って表現してもよいことにしています。 自由な発想で描かせることによって、想像力・創造力や表現力を膨らませながら「ことば」の広がりをつかませたいという意図です。
「ことば」から感じて自分の中に芽生えた思いを、どうやって相手(他者)に伝えるか、また、伝えたことによって相手(他者)の感じたことがフィードバックされ、そこからまた自分の中でより練り上げられていくという、言葉からのインプットを、自分なりの表現でアウトプットし、更に他者からのアウトプットを自分の中にインプットしていく、この繰り返しが「個-協働-個」のスパイラルとなり、 より深く感じ、考えていくことに繋がっていくと考えています。
発表するにあたり、次の5つのポイントを押さえて、できるだけわかりやすく話すようにし、一人当たり1分程度で説明するように指示しました。
①どの季節を選んだか。その理由は?
②選んだ季節の文章のどこが最も気に入ったのか。その理由は?
③そこから、どんなイメージが浮かんできたか。
④そのイメージを絵として表現するために、どんな工夫をしたか。
⑤発表を聞く人が聞きやすいように、声の大きさと言葉をはっきりと伝えることに注意する。
これらのポイントを押さえながら、どのように説明するかをノートにまとめるように指示。
次に、発表を聞く人の約束を確認。
①発表する人の方を向いて、どんな工夫をしてイメージしたかをしっかりと聞き取る。
②発表が終わったら拍手をする。(発表者の考えを承認する)
③発表内容の良かったところをノートにまとめる。(後で発表することを予告)
発表の順番は、挙手・指名制で行いました。時間の都合上、第6時は7名、第7時は残りの3名の発表となりました。また、 発表を聞くごとに、個々の発表内容の良かった点を、箇条書きでノートに書き留めさせました。
第7時に、全員の発表が終わったところで、それぞれの発表において気づいた点(よかった点)を発表させました。
【児童から出た個々の発表に対する感想例】
「夏は夜 月の頃はさらなり やみもなほ ほたるの多く飛びちがひたる」
「春はあけぼの やうやう白くなりゆく 山ぎは少し明かりて」
〇K・Mくんへの感想
〇K・Oさんへの感想
〇M・Yくんへの感想
〇A・Mくんへの感想
どの感想についても、その段の場面が想像しやすく、言葉から感じとった印象を自分なりのイメージで表現したことが、相手(他者)にも十分に伝わっていました。日常の生活から感じたり、 捉えたりしている自然観が、作品中の言葉と結びついて、うまく表現できていると思われます。
このように「絵」で表現することで、「ことば」から得たイメージをアウトプット(外化)した一例です。
今回の学習活動、特に、表現活動を通じて、児童の「ことば」への関心の高まりや、「ことば」からイメージを広げていくことを楽しんでいることを感じました。人前で発表する、順序(筋道)立てて話す、どのような言葉で、自分の思いをどう伝えればよいか、という経験をしたことにより、「自分で考える」ことや「自分の考えを伝える」ことの楽しさと、その達成感を感じていたようです。実際に、これらの経験をとおして、表現力や発表力が向上し、それとともに理解力も深まってきたり、 学習の中での「気づき」を持てるようになったりしてきています。言語表現による学習活動を通じて、児童の国語力伸長の兆しを感じています。
また、個々の発表について、発表内容や発表の仕方等について「よかった点」をノートにメモさせ、全員の発表が終わった後、それぞれが気づいた「よかった点」を発表させたことで、「認められた(承認された)」ことによる達成感や意欲が増し、自信にも繋がったように思われます。つまり、友だちの小さな「気づき」が励みとなり、自己肯定感が少し上がったように感じました。 このことは、単元学習後の振り返りシートでもうかがい知ることができました。(図表6参照)
習熟度別レッスンという同質の少人数の学習集団のため、それぞれのレッスン間での理解の深さや表現の幅などに違いはありますが、同じような視点や近い考えが共有しやすい点で、お互いの理解の深まりが、むしろ容易だったのかもしれないと思います。習熟度によらないホームルーム単位の集団ならば、より多様な考えや表現に触れ、より多くのイメージを得られることでしょう。習熟度によらず、お互いに違う個人や集団の意見・考え・印象・感性等に触れることで、 児童はより多くの刺激と経験が得られ、より多様な、より深い「学び」へと繋がっていくことも期待できます。
この点においては、少人数グループでの学習の成果や利点と、幅広い学力層の多様性のあるグループでの学習での成果には当然違いは生じます。しかし、それぞれの学習集団の性質の違いから、そこだから得られるもの、そこでしか得られないもの、そして、 情報や経験(時間)を共有し合うことで、より多く学び、得られるものはあると思います。
今後は、小グループだけでの共有に留まらず、学年単位の多様なグループで共有できる機会を設けることで、「学び」の幅を広げたり、より深めたりすることを考えていきたいと思います。これらを踏まえ、 「習熟度別レッスン」のメリットを生かしつつ、より深い「学び」に繋がっていく学習経験や機会を与えていきたいと考えています。
松枝秀樹(まつえだ ひでき)@桐蔭学園小学部・国語科(幼稚部・小学部教頭)