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宮田隆徳(名城大学附属高等学校)
名城大学附属高等学校のウェブサイト
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高等学校における数学の授業は、「教科書の内容の説明(教師)→例題の解説(教師)→類題の演習(生徒)」という展開が一般的だと考える。以前までは私もこの展開で授業をすることが多く、それが当たり前だと考えていた。しかし、従来の展開では生徒が習得しようとする知識・技能を活用する機会が授業内には少なく、その活用する機会を家庭学習(宿題)に求めることになっていた。
今回の授業では、「教科書の内容の説明(教師)」の予習動画を自分で作成した。その動画を利用した反転授業を展開することにより、知識・技能を活用する時間を授業内で多く確保するとともに、深い学びに繋げることをねらいとした。
対象生徒は1年生のときからアクティブラーニングの視点を取り入れた授業を受けている。そのため、2年生後半の時期には主体的に学ぼうとする姿勢が見られる生徒が多くなり、グループワークなどの活動を取り入れた授業においても対話的な深い学びに繋げられることが多くなった。
また、2年生10月以降の受験対策の演習授業に入ってからは、すでにYouTubeを利用した反転授業で演習授業を受けている。アンケートを取り、事前事後の変容を確認したところ、予習時間(平均値:14分→26分、最頻値:10分→30分)、復習時間(平均値:19分→26分、最頻値:0分→30分)、予習時間が増えた(93%)、復習時間が増えた(42%)、家で予習をしている(24%→84%)という結果になった。この結果を受け、反転授業には生徒の主体的な学びを促し、質の高い学びのサイクルに繋げるなどの効果があることを確信し、今回の授業の計画に至った。
(1)配布資料
図1 実際のScrapboxのサイトの様子
配信動画(例)
(2)授業計画(数学Ⅲ:複素数平面・二次曲線)
回 | テーマ | 予習動画 |
1 | 複素数導入と極形式変換 | ① 複素数平面導入 ② 極形式変換 |
2 | 極形式の積と商と回転移動 | ③ 極形式の積と商 ④ 回転移動のまとめ |
3 | ド・モアブルの定理 | ⑤ ド・モアブルの定理 |
4 | 複素数と図形 | ⑥ 複素数と図形 |
5 | 図形への応用 | ⑦ 図形への応用 ⑧ 図形への応用続き |
6 | 放物線 | なし |
7 | 楕円 | 楕円(1)、(2) |
8 | 双曲線 | 双曲線(1)、(2) |
9 | 二次曲線の平行移動 | 二次曲線の平行移動 |
10 | 二次曲線の応用 | 二次曲線の応用 |
(3)予習動画の作成方法
反転授業を実施するときに問題になるのが、生徒の学力や適切な内容の予習動画の入手方法だと考える。私は、自分で動画を作成することにより、授業と動画の一体感が出ると考え、iPhoneとMacBookAirを利用してオリジナルの動画を作成した。また、1回あたりの予習動画の時間は15分程度とした。
作成した動画は、限定公開(URLを知らないと動画が見られない)でYouTubeにアップし、発行されたURLを自作サイト(Scrapbox)に記載するという流れで、生徒に公開をしている。(2)でも書いたが、生徒はScrapboxのURLを知っており、ブックマークしておくように指示をしている。Scrapboxがあることにより、生徒が知るべきURLが一つだけでよく、予習動画を見る手間は大幅に軽減された。
(1)授業の展開(①は自宅、②~⑤は授業)
① 自宅などで指定された予習動画を見る(15分)
授業の当日までに、指定された予習動画を見て、通常の授業と同じようにノートにまとめ、授業内で必要な知識・技能を理解してくる。このときに、自分の道具として一度わかったという状態を作ってくることを生徒には求めている。
② 4人グループで予習動画の内容の情報共有(5分)
予習をした段階でわかったことをグループ内で話し合い、自分が理解したことをアウトプットするとともに、自分の理解で間違っている点がないかグループ内で情報共有をし、確認する。
③ 予習動画のポイントを黒板で確認(5分)
本時のテーマを生徒との対話を通して、短時間で確認していき、テーマの理解度を高めていく。
④ グループワークでテーマに沿った問題の演習(35分)
基本から発展・応用までの演習プリントを作成し、グループワークで取り組む。グループ内でお互いに協力し、インプットとアウトプットを繰り返しながら、ワークを進めるように心がけさせる。
⑤ 振り返り(5分)
演習問題のポイントの解説と本時のまとめを行う。
(2)授業の様子
②の情報共有の時間はとても大切な時間だと考える。生徒は、自分の理解が正しいかどうか予習をまとめたノートを見ながら友人と積極的に確認をする。また、予習動画を見忘れてしまった生徒は、この時に友人に質問をし、本時で必要な知識・技能を理解しようする。これは、質問をされた生徒にとってもアウトプットする大切な時間だと考える。
授業内でもっとも大切にしていることは、グループ内でインプットとアウトプットを繰り返すことである。特に④のワーク中は、教室が静かになることなく、適切な活動ができているか、机間巡視をしながらワークをコントロールするように心がけている。
反転授業は予習の質の向上と知識・技能を活用する時間の確保に効果が高いと強く感じる。予習動画を見ることで、予習の質が向上し、ある程度分かった状態で授業に臨むことが出来るため、授業中の理解度は上がる。その後、演習プリントを解く時間があるため、さらに理解を深めることができると考える。授業中に理解が至らなかった生徒も家に帰り予習動画を今度は復習用に見ることができる。また、授業中のワークの様子からも、講義を受けるという受動的な姿勢から、主体的に学ぼうとする姿勢へ変化したと考える。
「予習動画と演習プリントの内容が当該クラスのレベルにあっているのか」この意識を持ち続けることが大切である。予習動画と演習プリントの内容如何でワークの到達度は大きく変わってしまう。そのため、手を抜くことなく事前準備をし、授業中はワークが円滑に進んでいるかを注視していくという姿勢が必要である。
今回の授業は生徒のIT環境が整っていた(98%の生徒がYouTubeを見られる)ことで成立した。また、家庭での予習を前提とするため、他教科の理解や家庭・学年の協力が必要である。しかし、反転授業には前述したような課題はあるが、予習の質の向上や主体的な学び、深い学びを促すには効果は高いと考えているため、今後も継続して実施をしていきたい。
【参考ページ】
宮田隆徳(みやた たかのり)@名城大学附属高等学校