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(AL関連の実践)【高校/数学】 級友との練磨-「問い学ぶ」教育による「生きる力」の育成-
芝池宗克(近畿大学附属高等学校)

近畿大学附属高等学校のウェブサイト

(溝上のコメントは最後にあります)

第1節 目標

『今日のような情報が溢れる時代には、情報の波に流されるのではなく、 自らが主体的に情報を取捨選択する態度が望まれます。 その時の「ものさし」になるのが「問い」です。適切な「問い」により、 正しい情報へのアクセスが可能になるだけでなく、情報を分析し、 すでにある知識や他の情報と統合することによって、 問題解消にたどり着くことや新たな知を創造することも可能になります。』

(反転授業研究会 問学教育研究部の設置趣意書より)

 

 

数学の授業では教師が発問することが中心で、生徒が「問うこと」はあまり重要視されず、「学ぶこと」に重点が置かれ、教師から効率よく与えられた情報や知識を理解し活用する能力が望まれてきました。この方法は数学の定型的な問題解決のスキルは獲得できますが、問題発見・問題作成スキルは身につきにくい学び方です。また、個人中心に学びが行われるため、対人関係スキルを身につける場ではありませんでした。たとえこれらのスキルの育成をしようと考えたとしても、時間的な制約のためにその育成のための時間を十分に費やすことが困難でした。

これらの問題点を解消するために、ICTを活用した授業設計を行うことによって、生徒中心の活動に重点を置く授業展開を行い、数学力だけでなくプラスαの力もつけることができるのではないかと考えました。その具体的な方法が反転授業でした。反転授業は解説動画を用いるので、今まで行っていた教室内の学びを教室外に持ち出すことで、授業時間を柔軟に使うことが可能になりました。現在は、その時間を活用しながら、生徒自身が「問うこと」と「学ぶこと」をバランス良く行う(問学する)ことによって、思考を深化・定着させると同時に様々なスキルを習得する授業ができるようになっています。

生徒自身が、これからの時代を生き抜く力として、数学力に加え、問題発見・問題解決および対人関係スキルの力を身につけることが、私の授業目標です。

 

 

第2節 授業デザインと時間配分

反転授業を実践し始める以前は、私の授業は教師主導でした。しかし、反転授業を始めることで、教師主導だけではなく、協働的な学びに取り組むことができるようになりました。その理由は、反転授業は教師による一方的な講義を動画にして授業中の講義時間を削減することで、発表スキルの育成などの様々な取り組みに多くの時間を当てることができるからです。

 

授業デザインは以下の通りです。

 

ステージ1 内容理解部分(主に家庭学習における予習) 下図①②
ステージ2 内容定着部分(授業中に行う教師主導の授業) 下図③④
ステージ3 内容活用部分(「級友との練磨」による協働学習) 下図⑤
ステージ4 振り返り(一連の流れから学んだことの確認をする) 下図⑥⑦

 

授業デザイン

 

ステージ1では、長期休暇や週末を利用するように早目の取り組みを促しています。

ステージ2では、教師主導の授業展開が中心ですが、ペアに座らせていて、教師からの発問に隣同士で答え合う形式をとり、

相互学習・相互点検をさせています。

ステージ3では、「問い」を中心にした「級友との練磨」です。

ステージ4では、「問い」を行った結果、「学ぶ」に至った知識やスキルの確認部分です。

 

これら一連の流れの時間配分を下に示します。

(例)週4時間 x 5週 20時間の授業時間配分

授業時間配分

 

※ ① ② ⑥は家庭学習で行う部分です。

※ 生徒の活動準備時間とは、各グループで問題解答作成および解説動画を作成するための活動時間のことを意味します。

 

 

第3節 「級友との練磨」で育む力

ステージ3では、生徒が作問し、それを他の生徒が解き、作問した生徒が採点および解説するという取り組みです。まさに生徒の、生徒による、生徒のための新たな数学演習の形です。このような学びを私は「級友との練磨」と名付けました。

これには「作問する」「解説する」「採点及び解説動画を作る」という活動があり、それぞれに重要な意義があります。それらを以下に詳解します。

 

(1)生徒が作問する意義

生徒が作問することで次のような効果が期待できます。

  1. 問題の本質が見える
  2. 解答が出ない問題に当たることもあり、それを分析することで理解が深まる
  3. 級友にとって良い問いかけを行うために、自分の持っている知識・想像力をフル活用することで共生の感度を養える
  4. まだ誰も考えたことのない新しい問いかけを創造することができる
  5. 出題者の意図などが読めるようになる

 

これまでの演習問題は、問題集や先生から与えられるものと相場が決まっており、生徒はそれを解くことのみを行ってきました。しかもそれは答えがきちんと存在しており、定型的であり、ネット上を含めて、どこかにその解法が存在する問題でした。

もちろん受験数学をマスターする上では有効で、効率的な学習方法であることは否定できません。しかし、与えられた問題を解くだけでは答えを得ることに注意を払い過ぎてしまい、その過程を分析するという深い思考が省かれる危険性があります。ましてや個人の活動に終わっていたのでは、「共生の感度」や「協働する力」は獲得できません。

ただし、注意すべきことは、生徒だけが解説していても、知識の深まりは必ずしも望むことができないということです。生徒たちが作問によって獲得した知識と、教師が持っている知識の深さをバランス良く混ぜ合わせていくことが重要です。

 

(2)生徒が解説する意義

解説する生徒に私が課していることがあります。それは解説を聞いている生徒に対して必ず良い問いかけを行うということです。「問い」により「学び」が促進されるからです。

発問は、聞いている生徒の「注目」「気づき」「修正」「定着」「習熟」「深化」「応用」 「ピアメタ認知介入(※)」を促す効果があります。

解説を黙って聞いているだけでは、十分な思考をしていない可能性があるので、思考を活性化させて深い学びに誘うような多くの良い発問が必要かつ重要となります。

 

(3)生徒が採点する意義・解説動画を作る意義

生徒が採点することの意義は、自分を採点者の立場に置くという行為の練習です。立場を変えることで、異なったものの見方や考え方を得ることができます。

ここで注意すべき点は、友達の成長を本当に思う気持ちを持ち、厳しい態度で採点するということです。いい加減な採点では級友との信頼関係は生まれません。

また、生徒が解説動画を作る意義は、どのように解説を行えば相手に分かりやすく伝えられるかを考える機会の提供でもあり、共感力を育む機会でもあります。

このようにグループの仲間とともに採点をしたり解説動画を作成することで、他者と協働してものを作るということを経験し、共感する力を養いながら対話的な学びの場も作っています。

 

※ ピアメタ認知介入とは造語・・・メタ認知(自分の思考や行動そのものを対象として客観的に把握し認識すること)をさせるための友人からの問いかけのこと

 

 

第4節 「級友との練磨」授業実践例

授業では生徒たちが作問した問題を教材として使用しています。生徒の創造性を最大限引き出すために、具体的な作問の指示は出さず、作問範囲と「級友のための作問」という観点から作問をするように指示を出しています。例えば、今までに学んだ分野と融合させた問題を作成するなど私が思いもしなかった作問が見られました。

生徒たちの解説授業が行われる1週間前までに、作成した問題が提示され、それを全員が最善を尽くし級友との練磨解答用紙に解きます。それを、問題作成班に解説授業が行われる3日前までに提出します。提出された解答用紙の採点は、問題作成グループが協力して行い、解説当日に各生徒に返却し、生徒たちの解説授業が行なわれます。

 

解説授業では、ジグソー法の動きを取り入れています。3人~4人編成のグループは、座席の近くで構成され、定期考査ごとに再編成しています。

問題解説は問題作成グループの生徒の一人が、授業の前半20分程度を利用して行います。3問同時に3か所で行い、そこで各グループから最低1人解説を聞くことになっています。つまり、グループ内の誰かが必ず解説を聞く仕組みになっています。解説の際には、スムーズに解説を行うためにKeynoteを利用する生徒もいれば、白板に書いて説明する生徒もいます。分かりやすい解説を行うことが目標で、その手段は問うていません。型にはめないことで、生徒間のコミュニケーションを活性化させ、生徒の創造性を引き出したいと考えています。

 

授業風景

 

解説が終わると生徒は元のグループに戻ります。全員が戻ると、次に解説を聞いてきた生徒がグループ内で解説を行います。授業の後半部分にあたります。こうすることで、どの生徒も聞き役になるし、解説者にもなります。

ところで、最初の解説の終了時間は問題によって時間差が生じますが、先に終了した生徒には、余った時間を使って自分の解説準備や解き直しをするなど各自ですべきことを考えて行動するように指示しています。

グループ内での解説が終了した後は、各生徒が自分の解答用紙を見直す時間にして、この授業は終了となります。この授業形態を通じて、解説する生徒も、される生徒も、発問を通じて深い学びにすることを常に意識させています。

 

授業風景

 

最後に級友との練磨の振り返りとして、解答用紙に正しい解答を記述して私が行う総括的な評価の前に提出をさせています。

 

 

第5節 学習内容の振り返り「学びの検証」・総括的評価

学びとは、言い換えると「知識」と「スキル」を習得することであると捉えています。ここでは、「学びの検証」として、一連の学びの中で出てきた様々な「問い」を通して、獲得した知識とスキルの確認をします。例えば、問題を解く生徒のレベルを想像(共感)して作問できたのか、あるいは、その作問で創造性が発揮できたのかなどです。自分自身への「問い」かけを続けながら、何が学べたのかをメタ認知化することで、次の「問い」や「学び」のサイクルに繋げていきます。

 

 

第6節 課題

家庭学習の量が多いという意見が生徒からあげられることがあります。その場合に考えられる原因は、生徒のタイムマネジメントの問題です。しかし、これには、2種類の状況が考えられ、それぞれの状況に応じた指導が必要ですが、学びに対する主体性についての課題が浮き彫りになる時があります。

一つは、生徒自身が主体的に学習に取り組むアクティブラーナーであれば、学習をこなすことはそれほど負担を感じることはありません。但し、すべき課題が多くある場合には、時間の有効活用が求められます。これが本来の意味でのタイムマネジメントです。このような生徒には、タイムマネジメントの発想を活かし、効果的に学習する指導が求めれます。

それに対して、生徒自身が主体的に学習に取り組むアクティブラーナーでない状況が生み出す問題です。アクティブラーナーでなければ、学習に対する姿勢や行動も積極的でないために効果的な学習ができず、時間を浪費してしまいます。学習を強いられているという気持ちを持つ生徒は、たとえ少ない課題でも不満を感じます。これは時間管理の問題を口実にしているだけで、実は、マインドセット、つまり、学習に対する心構えができていないことで起きる問題です。これが、私の授業の最大の課題です。

日頃から私は自分の授業デザインについての意義を伝えています。大部分の生徒は十分な理解を示しています。しかしながら、そうでない生徒がいることも事実です。授業目標に掲げている「これからの時代を生き抜く力としての学力やスキルの育成をする」ことの意義を、これからも様々な手段を通して伝え続けていかなければならないと痛感しています。そのために欠かせないのが、生徒に「問い」続けることです。「問い学ぶ」、つまり「問学」体験を通して、生徒が学習に対してより主体的に臨むようになって欲しいと願っています。

 

【参考文献】

✔ 芝池宗克・中西洋介(2014)『反転授業が変える教育の未来ー生徒の主体性を引き出す授業への取り組み』明石書店

✔ 中西洋介(2017)「反転授業:アクティブラーニング実現は『問い学ぶ』教育に道(よ)る」大学英語教育学会(JACET)関西紀要19号 P.19~39

 

【参考サイト】

反転授業研究会 問学教育研究部

ベネッセ教育総合研究所 『VIEW21』高校版 2017年度 6月号 「生徒自身が作った問題の解説を通して議論を深め、真の理解と協働する力の育成を目指す

 

 

溝上のコメント

 

【参考ページ】

(理論)反転授業とは

 

 

プロファイル

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  • 芝池宗克(しばいけ むねかつ)@近畿大学附属高等学校
  • 一言: 知識とスキルを身につけられる教育を行いたい。そのために反転授業×協働学習(ジグソー法)を利用し、数学の学びを変化させた。さらに今年からは「問い学ぶ」(問学)教育を推進している。

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