溝上慎一のホームページ

                                    

コロナ情勢に対する学校の状況(高等教育)(2020.4.29版)

(お断り)
・本ページは、教育コロナ会議等を通して「コロナ情勢に対する学校の状況(高等教育)」を溝上がまとめたものです。しっかりしたものを作ろうと考えすぎると時間がかかるので、たたき台程度として随時更新する形を取ります。理解や状況把握がうまくできず、不適切な説明になっている箇所は遠慮なくご指摘ください。必要に応じて修正していきます。
・教育コロナ会議の趣旨と目的はこちらを参照してください。
・「大学」と表記することが多くありますが、必要に応じて「短期大学」「高等専門学校」と置き換えてお読みください。

 

①緊急事態宣言解除に向けた大学の状況
・5/6に緊急事態宣言が解除されないで延長される雰囲気の中、さすがに連休明けから対面授業を開始(再開)できると考える大学は少ないようである。早くても夏まではオンライン授業を行うように指示している大学が多いという印象である。
・しかし、たとえば6月から3密回避の制約下でも対面授業が実施可能となったとき、それでも前期あるいは夏までは対面授業を行わず引き続きオンライン授業のみで行うという大学と、多少でも対面授業を実施し、オンライン授業で不十分な部分を補完しようとする大学と分かれる。もちろん、いずれの方向性も組織的な意思決定ができていない大学は少なからずある。
・大学だけではないが、小中高の学校も含めて、学校の組織マネジメントが大きな問題として露呈している。臨時休業や授業開始の時期までは組織的な通知がなされていても、たとえば緊急事態宣言が延長されたときのその後の対応や、6月以降の対面授業・オンライン授業の選択可能性など、上から何も組織的な意思や思考が伝えられていない大学は少なくないようである。一般教員は、組織的な取り組みの見通しが見えない不安を大きく抱えながら過ごしている。一部の意識の高い教員は、その中でもオンライン授業を行ったり学生とレクリエーションをしたり、オンラインの教材開発をしたりと最大限の努力をしているが、何もしていない、できない教員も少なからずいる。組織マネジメントが機能しない大学では、一部の意識の高い教員にお任せ、放り投げ状態である。
・履修登録を始められていないまま緊急事態宣言に入っている大学が少なからずある。このような大学は、たとえオンライン授業で行うにしても、そもそも学生が履修科目を決めていないので、授業を始められないでいる。まずは、緊急事態宣言が解除されて、ガイダンス・履修登録を始められるのを待っている状態か。ICT教育を進めてきた大学では、学生のオンライン環境を確認しながら、現在履修登録(確認期間を含む)を進めており、連休後にオンラインでの授業開始を予定している。
・学生のストレスや不安などを軽減するべく、少なくとも週1度は双方向のやりとりをしたほうがいい。教育の質や進度も重要であるが、まずは大学/教員と学生が心理的に、安心して繋がっていることを何度も確認することが重要である。その上での教育の質や進度と考えるべきである。全国の様子を聞いていると、学習課題を送ってはいても、学生へのコンタクトや双方向のやりとりがほとんどなされないまま1ヶ月を過ごしている大学もある。学生の心境を第一に考える大学であってほしい。

 

②学生のオンライン学習環境について
・多くの大学では、学生のオンライン学習環境をアンケート調査などで確認している。一人一台のノートPCやタブレットを持たせてきた大学は別として、一般的にPCかそれに準ずるタブレットを100%の学生が自宅で整備できているとする大学はない。たとえ3%でも学生がスマホしか利用できる端末がないとなれば、スマホレベルでのオンライン授業を構築すべきである。ここに最低基準が見定められてきたことは、この1週間の成果であり前進であるかもしれない。他方で、ノートPCを貸し出すことで、PCを前提としたオンライン授業を進める大学もある。
・オンライン授業を夏まで行うとしている大学で、自宅でオンライン学習環境がどうしても整備できない学生に対してPC等端末、モバイルWiFiルータを有償・無償で貸し出す支援が行われている。緊急事態宣言が解除されれば、3密を回避した上でのPCルームや情報センター等でのPCやWiFiの利用を促すとする大学も少なからずある。

 

③オンライン授業の取り組み
・先週は、オンライン授業・学習を進める中、準備する中、学生がログインIDやパスワード、レポートや課題の提出ボックスの場所がわからないなど、テクニカルな質問が多かったと聞いていたが、ここ数日はそのような質問や相談件数はかなり減っているという報告を多く聞いている。丁寧に対応して教えていけば、これから学習の幅が広がるので、この機会にしっかり対応してあげたい。
・スマホ1つで、PDFを開いて資料を読み、耳に当てる形で動画の音声を聴き、受講しているという学生の姿も報告されている。しかし、学生自身は大した負担と思っていないケースも少なくないようで、あまり気にしないでいいという意見もある。
・Wordで課題提出を求めたら、Wordは何かという質問が多く出て、そこから指導しなければならないという様子も聞かれる。できるだけ教員も学生も負荷を落とした方がいいので、Wordなどの特定のアプリやソフトウェアに限定しない指導で進める方がいいかもしれない。
・20年前に数千字のレポートを携帯のメールで書いて送ってくる学生の姿が見られ教員を驚かせたが、そのレベルの分量を今の学生がスマホで書くことができるかは疑った方がいいという意見もある。受け方・聴き方(インプット)と課題の提出や書き方(アウトプット)は分けて考える方がいいかもしれない。
・中学高校では、多くの教員が高画質のオンデマンドの授業動画を一斉に生徒に送り、ネットワークの速度が落ちたり、一度に多くの生徒がサーバーにアクセスをしてサーバーがダウンしたりといった問題が多発している。授業動画を作成するときには、画質を落とすなどの工夫をして容量を下げる推奨がなされている。大学ではまだこの事例は聞いていないが、正規のオンライン授業が始まると問題が報告されてくるかもしれない。
・Zoom等で双方向の授業を行うとき、とくに女子学生の中に、化粧していない、外出用の服を着ていないなどの理由で顔出しを嫌がる報告が出ている。顔出しを強要して、アカハラになるという懸念が出されている。
・オンライン授業の質を対面授業に近づけ、それをもって教育の質を保証するという考えがある。ここは考え方の問題になるが、私はオンライン授業は対面授業の代替にはならないと考えている。テクノロジーの問題を横に措いて、教授学習過程に見られる教え方や課題や教材の与え方、学生の参加の仕方や学習の仕方において、対面授業とは異なっている側面を見出す方が容易なくらいである。
 しかも、本格的に授業が始まると、脱落していく学生が少なからず出てくると予想され、その意味でも学生の参加をさまざまな方法で促す、まさに関与(エンゲージメント)が求められる。しかし、それはアクティブラーニング型授業の推進をもってすでに求められてきたことでもあり、その意味では、この非常事態下での取り組みをもって、学生主体の授業運営を学ぶ機会としたい。教育コロナ会議でも、オンライン授業のメリットを活かして、学生から引き出す主体的な力を育てたいという意見もあった。まったく同意見である。
 なお私の大学では、オンライン授業でできることを精いっぱい行い、6月以降の対面授業、補習で補完していく指示をしている。再度の緊急事態宣言、感染者が出ることによるキャンパス閉鎖があっても、柔軟にオンライン授業と対面授業をブレンドして前期を乗り切るよう、教員には指示をしている。

 

④入試について
・5、6月のオープンキャンパス中止を表明している大学は多いようである。大学の中には、9月まで中止としているところもある。オンラインでのオープンキャンパス、Zoom等で、高校生との個別対応をしていく流れが主流のようである。
・総合型・学校推薦型選抜を実施できるかの見通しが立たないので、入試要項を仕上げられず、まずは緊急事態宣言の解除か延期かを待っている状態か。
・高校側も、高3生の1学期の考査を中止している学校が多く、夏以降始まる選抜型入試に向けた調査書や評定をどのようにまとめればいいか検討している。とくに学校推薦型選抜は校内順位を決めなければならないので、生徒や保護者の中に過度に神経質になっている人が多いと聞いている。

 

⑤4年生の就職活動について
・団塊世代の退職ラッシュと人手不足の中、大学生にとって超売り手市場と言われてきた労働市場は、今や完全に冷え切っているようである。その中でも、このコロナ情勢下で業績を大きく伸ばしている業種があり、他方で、史上例を見ない大きな赤字決算、すでに倒産に至っている企業や業種も見られる。
・インターンシップ等が早まる昨今の流れであったから、このような中でも早々と内定を取ったり、あるいは特定の企業と面談まで進んだりしている学生がいる。他方で、キャンパス閉鎖の中、キャリアセンターも業務を停止しており、学生の個人的努力でウェブ面接など就職活動が続けられている状況が垣間見える。
・キャリアセンターに連絡をしてくれれば、何らかの形で職員やキャリアカウンセラーが相談に乗る、情報提供を行うとしているようだが、大学の中には学生からの連絡待ちとなっている状況があり、学生全体がどのように今就職活動を進めているかをあまり把握していない大学が少なからずあるようである。
・キャリアセンターから全学生への案内をするか、あるいは学部のゼミ教員等を通して、個々の学生の就職活動の状況を把握するか、いずれかの取り組みを行った方がいい。

 

⑥その他
・実験・実習・体育・芸術等の実技科目をどうするか。オンライン授業で講義できる部分はオンライン授業で行い、実技の部分は夏休み以降の期間で補習や補講を工面するという進め方が一般的である。もっとも、実技科目の中でも、受講生の半減等の工夫を行い3密を回避した上で実験や実習等を行える科目においては、緊急事態宣言の解除後に行おうとする大学もある。
・取り組みのはやい大学では、成績の付け方が議論になり始めている。合否だけで判定する、本年度の履修単位についてはGPAに影響しない形で処理するなど、特別対応を取る考えが一般的のようである。
・留学生の対応にはオンライン授業で丁寧に対応することが求められる。中国の学生にはGoogleが使えないので、他のアプリで特別に対応しているという報告も聞いている。

 

→過去の記事(目次) http://smizok.net/education/subpages/a_corona.html
・コロナ情勢に対する学校の状況(高等教育)(2020.4.21版)
・コロナ情勢に対する学校の状況(中学教育)(2020.4.21版)

 

 

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