溝上慎一のホームページ
コロナ情勢に対する学校の状況(中学高校)(2020.4.29版)
(お断り)
・本ページは、教育コロナ会議等を通して「コロナ情勢に対する学校の状況(中学高校)」を溝上がまとめたものです。しっかりしたものを作ろうと考えすぎると時間がかかるので、たたき台程度として随時更新する形を取ります。理解や状況把握がうまくできず、不適切な説明になっている箇所は遠慮なくご指摘ください。必要に応じて修正していきます。
・教育コロナ会議の趣旨と目的はこちらを参照してください。
①緊急事態宣言解除に向けた中学高校の状況
・依然と、中学高校の取り組みは私立と公立とで相当の差が生じていると見える。この点、先週の状況とほぼ変わりがないが、以下まとめておく。
・私立の中学高校で、はやい学校は4月初めからオンライン授業を正規の授業として進めており、そうでなくとも、準備期間として現在朝のオンラインHR、オンライン学習をおこない、教師と生徒との双方向性を日々確立している学校が多い。緊急事態宣言が5/6で解除されるかどうかに関係なく、連休明けよりオンライン授業を正規の授業として開始しようと準備している。こうしたことができる背景には、これまでICT教育を積極的に進めてきて、一人一台のノートPCやタブレットを保有していること、家庭のほとんどにオンライン授業ができる十分なWiFi環境が整備されていることが挙げられる。
・他方で、これまでICT教育を積極的に推進してきていない、WiFi環境が十分でない家庭が多い、という私学も少なくなく、次に述べる公立の中学高校と同じような現況にある学校も少なからず聞いている。しかし私学は、コロナ情勢を通して経営的に厳しい状態に陥ることが予想され、経営破綻や閉校を心配しないで済む公立と違って、無策のまま時を過ごすことは許されない緊張感がある。大学も定員割れなどで2025年には100大学が経営破綻するだろうと言われてきたが、ここに来て前倒しの感がある。深刻である。
・公立の中学高校では、休業期間とそれが明けた授業開始期が教育委員会から通知されているだけで、その間は学校の采配に委ねられている場合が多いようである。授業開始期は5月末まで延期されている県があり、その場合授業開始は6月1日からとなる。
・重点配置の指定校とされる一部の高校を除き、全般的には公立の中学高校では、オンライン授業を準備・整備を進めていないようである。予算の関係で進められないのかもしれないし、進めるには県からの認可が必要などと縦割り行政の弊害が出ているのかもしれない。休業期間が明けた後は、ぼんやりと対面授業を再開できるとしているように見える。
・意識の高い一部の教員がオンライン授業や生徒との双方向的な取り組みを実現している公立の中学高校はあるが、学校全体の組織的な取り組みとはなっていないことが多い。そのような中でも、校長のガバナンスが機能していて、教員と一体になって限られた資源の中でできることを精いっぱい取り組んでいる中学高校の事例も聞いている。同じ公立の中でもこの差はすさまじい。やはり校長をはじめとするガバナンス、組織マネジメントが重要だと改めて感じる。
・教員のデジタルデバイドに無策の学校が多い。アクティブラーニングや主体的・対話的で深い学びの取り組みと同じ状況を呈している。
・課題を送っても、それに取り組むかは生徒の自発性に委ねられており、課題に取り組まなくても何もなく、取り組んだからといって先生からコメントがもらえるわけでもない学校もあると聞く。1週間に一度程度メールや電話で家庭に連絡を取ることはしているようだが、毎日オンラインHRをしている私学と比べると、すさまじい差があると感じるのは正直なところである。
②時間割通りに進めるオンライン授業はいかがか?
・時間割通りの授業を1日6時間行っている取り組みのはやい私立の学校がある。マスコミでも賞賛されて報道されているが、これがほんとうに良い取り組みと言えるのかは、個人的に疑問がある。
・この取り組みの背後には、オンライン授業を対面授業と同等のものにする、あるいはそれに近づけるという教育観がある。しかし、学校の教室で、周囲に友だちもおり6時間過ごすことと、家庭で一人で、生徒のセルフコントロールを頼りに6時間過ごすことには雲泥の差がある。しかも、対面授業でさえしっかり授業を受けられない生徒が、家庭のオンライン授業で十分に受講できるのかははなはだ疑問である。
・このように考えて、オンライン授業はあくまで非常事態下の特別形態の授業であり、コロナ終息の後、対面授業や補習を通して全体を補完していくことを考えるべきだというのが私の考えである。初めは生徒も緊張感や物珍しさがあって頑張ることができても、すぐに慣れてきてだれてくるに違いない。脱落者も出てくるだろう。今からそういう事例が多く出てきそうだと予想している。
・もちろん、時間割を基にオンライン授業を実施することを否定していない。桐蔭学園では、1時限を30分に短縮して、残りの20分は授業以外の時間で課題に取り組み補完する。オンライン授業はお昼までに終える形での授業を準備している。
・オンライン授業は、生徒にあの手この手で参加を促していかないと、一方向で受け身の聴くだけの授業、課題に取り組むだけの授業や学習では、おそらく脱落していく生徒が少なくないだろう。それができるのであれば、対面の授業でこんなに苦しんでこなかったであろう、我々の現実を今一度思い出さねばならない。
さまざまな方法で参加を促す考え方は、学術的には「関与(エンゲージメント)」と言われてきたものだが、それは生徒主体のアクティブラーニング型授業の基本的考え方でもある。オンライン授業のメリットを活かして、学生から引き出す主体的な力を育てたいという意見もある。教員には、この非常事態下での取り組みをもって、生徒が学び成長する授業運営のポイントを学ぶ機会としてほしい。
③家庭のオンライン学習環境について
・①で報告した通り、私学の多くの家庭ではある程度オンライン学習環境が整えられており、オンライン授業がすでになされている、あるいは連休明けの授業開始に向けて準備が進められている状況である。私学で、オンライン環境を整備できない家庭にPCやタブレット、モバイルWiFiルーターを貸し出す動きも報告されている。臨時支出を柔軟にできる私学の体制がここではうまく機能しているように見える。
・公立では、この手の予算が瞬時に組めないので、現場の取り組みを進めようにも進められないのだと見える。休業期間中にある程度の生徒を対象にしたオンライン授業を行うことはあっても、それを正規の授業とするには、すべての生徒がオンラインで学習できる環境を確保しなければならない。
・それでも、学校にあるノートPCをかき集めてオンライン環境を整備できない家庭に貸し出し、何とかオンライン授業の取り組みを進めようとする公立の学校の取り組みはまったくないわけではない。しかし、一般的ではないとみた方がいいだろう。
・県の教育委員会がGoogleのアカウントを県下の全学校が使えるようにしたという取り組みも報告された。県の職員も、まさに倒れんばかりに頑張っている様子も聞いている。制約の中、様々にできることを模索している。
・ノートPCやタブレットを一人一台持たせてICT教育を進めてきた学校は別として、基本的にはスマホが最低あり、WiFiが制限はありながらも使える家庭環境があることを確認すればよいという現況であろう。初期には、スマホでは充実したオンライン授業は難しいという意見が少なからずあったが、そんなことよりも生徒と繋がって双方向のやりとりをすること、その上で学習を進めることがまずは重要なステップだという認識に移行してきているようである。ここはこの1週間でずいぶん認識が変わってきた印象である。
④大学入試について(情報提供)
・5、6月のオープンキャンパス中止を表明している大学は多いようである。大学の中には、9月まで中止としているところもある。オンラインでのオープンキャンパス、Zoom等で、高校生との個別対応をしていく流れが主流のようである。
・総合型・学校推薦型選抜を実施できるかの見通しが立たないので、入試要項を仕上げられず、まずは緊急事態宣言の解除か延期かを待っている状態である。
⑤その他
・大学のオンライン授業で、Wordで課題提出を求めたら、Wordは何かという質問が学生から多く出て、そこから指導しなければならず混乱を招いている。できるだけ教員も学生も負荷を落とした方がいいので、Wordなどの特定のアプリやソフトウェアに限定しない指導で進める方がいいと方針を示している。
→過去の記事(目次) http://smizok.net/education/subpages/a_corona.html
・コロナ情勢に対する学校の状況(高等教育)(2020.4.21版)
・コロナ情勢に対する学校の状況(中学教育)(2020.4.21版)