教育コロナ会議の趣旨と目的はこちら 溝上慎一のホームページ
教育コロナ会議(高等教育)議事録(2020.5.2)
本日の議題
①オンライン授業における学生のモチベーション
②対面授業とオンライン授業の相違点を知る ほか
進行
・挨拶・注意点(溝上)
・セッション1:
-ブレイクアウト「ご自身の大学の現況等状況シェア」
-全体シェア
・セッション2:
-ブレイクアウト「オンライン授業における学生のモチベーションについて」
-全体シェア
・セッション3:
-ブレイクアウト「対面授業とオンライン授業の相違点について」
-全体シェア
議論
(お断り)
・学校が特定されてはいけませんので、特定情報は抽象化しているか削除をしています。
・情報を多角的に収集するために、参加者は管理職から一般の教員までさまざまです。会議ではあまり気にせず情報をいただいています。
溝上:過去2回の会議では、参加者を10人程度の大学教員や職員に限定し情報共有を行ってきた。しかし今回の会議から、完全公開ではないが、業者や記者を含めた様々な立場からの参加を認めている。そのことを踏まえ、情報の機密性や正確性に配慮したうえで発言をお願いしたい。
第二回教育コロナ会議から1週間たって、修正点やアップデートする点もある。また、昨日(5/1)文科大臣より公立小中、義務教育段階の分散登校の考えが示された。大学は緊急事態宣言の解除に関係なく、夏あたりまでは登校禁止、授業をオンラインで実施としているところが少なくない。したがって 直接関わることではないが、今後少なからずこのような状況をふまえて大学としての判断が求められる。ブレイクアウトで議論してほしい。
セッション1「ご自身の大学の現況等状況シェア」
(参加者が3-4名でグループを組み、ブレイクアウト)
溝上:それでは情報の共有を全体で行いたいと思います。適当に当てますので、2名の方にグループ内での議論を報告いただきます。
参加者A(私立):本グループでは、GW明けに授業を開始する大学がほとんどであったが、終了日については各大学で差があった。全ての大学で、GW明けはオンライン授業で対応する。ただし、6月以降オンライン授業を続けるかについては、まだ正式な発表がなされていない大学もある。
オンライン授業の実施方法については、同期、非同期(オンデマンド)を併用。ただし授業のやり方に関しては個々の先生に任されているところが多い。出席の取り方については決定打がない。大学の運営側は、教員に対し、学生に配慮するよう指導しているが、具体的な方法について指示は出ていない。
参加者B(私立):3大学すべてで、オンライン授業を開始している。三密に配慮したうえで大学の教室を開放し、自宅だけでなく、大学でオンライン授業を受講できるように保証をしている大学(立地は首都圏外)もあった。
参加者Cの大学(私立)では、大学1年生を含めて、Zoomの授業講習会を実施しているため、ストレスなくオンライン授業を開始できている。
分散登校については、大学としてもオンライン授業がいつまでできるかわからないため、このような形態での登校を視野に入れながら、授業をすすめていく、という議論にとどまった。
溝上:私が参加していたグループ内の議論も踏まえて、議論の観点を整理します。まず、ほぼすべての大学が、なにかしらオンライン授業を開始している。中学高校では、私立の多くが大学と同様にオンライン授業を開始しているが、公立の中学高校は、教育委員会等の自治体からの指示が十分になされておらず、あるいはオンラインの環境整備が進められず、オンライン授業を始められない学校が多い。公立の中学高校は、公的な機関であるがゆえにオンライン授業の受講環境の整備を家庭に強く求めることも憚られている。公立と私立の間に格差が生じている。一部の自治体では、小中学校全児童に1台のタブレットを配備する方針を発表したが、年度内ということで、現況のコロナ禍への対応にはなっていない。1人1台のタブレット、教室でのWiFi環境の整備を謳うギガスクール構想があと1年早ければと悔やまれる。施策が一歩間に合っていない。
二つ目は、分散登校についてである。文科省の考えは小中学校の義務教育段階に発せられているものであって、とくに大学には直接関係がないが、そうはいっても、今後どうするかの判断の材料になることは間違いない。
分散登校は、現状各自治体の首長の判断とされる。たとえば、県では感染者が確認されていても、県内の地域によってはまったく感染者が出ていない場合がある。そのような現状を把握したうえで学校再開の判断を行うのだろう。緊急事態宣言を継続する特定警戒都道府県内の大学や、学生の多くが公共交通機関を利用して通学してくる大学では、分散登校や対面授業の再開は難しいのではないか。
確認であるが、緊急事態宣言は、登校しないという意味での臨時休業を求めるものであって、オンライン授業を行い正規の授業を行ってはいけないことを意味しない。大学や中高のいくつかは、この緊急事態宣言下すでに正式な授業を始めている。また多くの大学では、おそくともGW明けから授業を開始できるように準備を進めている。ただし、その後の対応については大学によって方針が異なっている。一つは、春学期の授業をすべてオンラインで実施することを決定している大学。もう一つが、緊急事態宣言が解除されれば三密回避という制約の中で対面授業を行いたいとする大学である。医療系や専門職の学部がある大学は、後者の対応を求めている。
最後にマネジメントの問題である。大学だけではないが、小中高の学校も含めて、学校の組織マネジメントが大きな問題として露呈している。たとえばトップ層から、オンライン授業の実施や授業開始(再開)期については通知がなされていても、具体的な授業の運用については、何も組織的な意思や思考が伝えられていない大学が少なくない。ミドル層のマネジメントが機能しない大学では、学部や教員に丸投げ状態である。うちの大学では、学部長、学科長、ICT委員を配置し、オンライン授業に携わる教員の授業運営における状況や支援をおこなうミドルマネジメントの体制を敷いている。問題は下から吸い上げ、全体に共有する仕組みも構築している。中高でもそのようなボトムとミドル、トップの情報の往還ができている学校は、スピード感をもって状況に対応できている。
セッション2 「オンライン授業における学生のモチベーションについて」
溝上:それでは次のテーマに移ります。セッション2では、対面授業でもしっかりついてこない学生がいる中で、オンライン授業でもつのかという点について議論してもらいたい。また、モチベーションに配慮したうえで、授業をどのように運用するか、脱落した学生に対してどのような組織的な対応が求められるのかについて、議論してほしい。
(参加者が3-4名でグループを組み、ブレイクアウト)
溝上:それでは議論を終えて、情報の共有を全体でしたいと思います。2名の方にグループ内での議論を報告してもらいます。
参加者D(国公立):一人の学生に、重層的なケアを提供できるかが重要であると考える。たとえば、参加者Eの大学(私立)ではキャリアセンターと学部が連携して学生のサポートを実施している。ただし文系と理系での取り組みは異なっているようだ。私の大学では、原則担任の教員が学生の指導をして、そこで取りこぼした学生に対して、学生支援センターなどが対応にあたっており、重層的な仕組みが出来ている。
一方、サポートだけではなく、よい成績をおさめるためのインセンティブをはたらかせ、学生の主体性を高めることも必要という意見も出た。
参加者F(私立):学生の情報環境に差があることから、特定の方法でしか学生が受講できないということがないよう、複数の選択肢を提供することが重要である。また、学生にしっかり指示を出すことで、学生がしないといけないことを明確に理解できるようにしたり、動画時間を短くするなどの対応があるのではないか。
私の大学では、オンライン授業に対応できない学生のサポートが個別になっていて、教職員の負担が大きくなっている。資料やFAQを公開していても、学生はその内容を閲覧する前にメールで確認してくるため、サポートセンターが対応しきれていない。学生同士や教員同士のコミュニティをつくることで、自然と学びあいができる環境を提供することが必要か。また学生に、まずはFAQをみてから連絡するよう促すことも必要である。
溝上:対面でついてくることができない学生が、オンライン環境ではどうなるのか、ということが問題になってくる。そのうえで、学習内容の質の保証から議論を始めるのではなく、まずは学生が関わっていけるように、教員がさまざまな方法で参加を促していかなければならない。学術的には「エンゲージメント(関与)」と言われてきたものである。ある程度学生がついてきていれば、学習の質を検討していく。順番を間違えないようにしたい。
オンライン授業で対面授業と同じ教育・学習の質を保証するのは難しい。オンライン学習とオンライン授業は異なる。あくまで非常事態下でのつなぎであり、補習や夏休みなどで質を補完していく必要がある。対面通りの授業を実現していこうという教員が少なくないが、多くの学生は耐えられないと思う。
学生からオンライン授業へのアクセスや課題の提出場所などについて多く質問されて対応できないという、教員の疲弊が多く報告されている。学生とのつながりを大切にしていこうとすれば、ある程度質問に答えていく必要はある。FAQを大学・学部単位で作成し、質問を受けるごとにアップデートしていく。学生にはまずFAQを確認してもらい、それでなければ個別に対応する、そういう体制を構築する。この機会に、学生のPC・ITリテラシーを向上させていかなければならない。他方で、1週間から10日経つと学生も状況に慣れてくるため、質問が減ってくるという報告も多くいただいている。
オンライン授業の受講にあたって、教員がさまざまなアプリやツールを活用し、学生が混乱しているという声もある。なるべくチャンネルを少なくして学生のハード面の負担を下げることが必要である。
サポートセンターに頼ると、サポートセンターの事務職員に負荷が多くかかり、パンクする可能性が高い。
セッション3「対面授業とオンライン授業の相違点について」
溝上:最後に、対面授業と対面授業の代替としてのオンライン授業との相違点について、参加者同士で議論してもらいたい。これは、対面授業の代替としてのオンライン授業が成り立たないことをどれだけ認識するかに繋がる作業である。もちろん、対面授業に近いものを目指すという意見があってよい。対面授業でできないことが、オンライン授業でできることもあって然るべきである。それがどういうことなのかを議論してもらいたい。
(参加者が3-4名でグループを組み、ブレイクアウト)
溝上:それでは議論を終えて、情報の共有を全体でしたいと思います。2名の方にグループ内での議論を報告してもらいます。
参加者G(私立):知識伝達や、思考力を測るような課題であれば、オンデマンドでも十分対応可能なのではないか。また表現力などに関しても、Zoomを使って少人数でグループさえつくれば、対面でなくともある程度充実した学びを作っていけるのではと思う。また、目的を共有しながら全員が取り組めるという点では、対面では生じがちな任せっぱなしが無くなったり、アウトプットの質が高まる可能性もある。
むしろ、対面の授業でしかできないことはあるのか?という点について答えが出ていない。
参加者C(私立):多くの大学で実施しているオンデマンド授業の成否は、学生の意欲によるところが大きい。私の大学では、全授業でZoomライブ配信を実現するため、非常勤も含め全教員参加のFD勉強会を3回実施し、最低2回以上の全学生対象の事前Zoom授業練習を実施した。また、学生に対し、可能な限りZoomでビデオオンをするよう伝えている。相手や自分が見えると最初の5分の集中力が違うように思う。また授業開始後45分で課題を出し、その課題で出席をとっている。情報環境の整備の問題については、学生から希望があった場合のみ、ライブ配信の収録動画をオンデマンドで配信する予定。
溝上:私が参加していたグループ内の議論も踏まえて、議論の観点を整理します。
知識の伝達、課題を出して思考力をはかるもの、協同的な学びなど、オンライン授業でも十分に対応できるものは多い。今後、学生からはオンライン授業のほうがよいという声が出てくる可能性もある。実際一部の学生は、オンデマンドコンテンツを3倍速で視聴しているようで、このような学生は今後対面授業が始まった際、普通の授業に耐えられないのではないか。
しかし、オンデマンド授業は、一部の受講意欲の高い学生しか対応できない。オンライン授業の離脱を防ぐには、学生とかかわりのある具体的な教員が、たとえすでにオンデマンドコンテンツにあるような話であっても、一から講義をしていくことが求められる。特定の先生の授業を受講しているという感覚を学生に与えていくことが重要である。
以上