教育コロナ会議の趣旨と目的はこちら 溝上慎一のホームページ
教育コロナ会議(中学高校)議事録(2020.5.2)
本日の議題
①オンライン授業における生徒のモチベーション
②対面授業とオンライン授業の相違点を知る ほか
進行
・挨拶・注意点(溝上)
・セッション1:
-ブレイクアウト「ご自身の中学高校の現況等状況シェア」
-全体シェア
・セッション2:
-ブレイクアウト「オンライン授業における生徒のモチベーションについて」
-全体シェア
・セッション3:
-ブレイクアウト「対面授業とオンライン授業の相違点について」
-全体シェア
議論
(お断り)
・学校が特定されてはいけませんので、特定情報は抽象化しているか削除をしています。
・情報を多角的に収集するために、参加者は管理職から一般の教員までさまざまです。会議ではあまり気にせず情報をいただいています。
溝上:過去2回の会議では、参加者を10人程度、中高の先生方に限定し議論を行ってきたが、今回は参加者を限定せず、半ば公開でおこなっている。一部大学の教員もオブザーバーで参加している。
本日は、①オンライン授業における生徒のモチベーション、②対面授業とオンライン授業の相違点を知る、について議論し、情報の共有を行っていく。本会議では、3-4人のグループでディスカッションする場(ブレイクアウト)を設けている。
セッション1「ご自身の中学高校の現況等状況シェア」
(参加者が3-4名でグループを組み、グループ内で現状の共有をおこなった。)
溝上:それでは情報の共有を全体で行いたいと思います。適当に当てますので、2名の方にグループ内での議論を報告いただきます。
参加者A(私立):
参加者B(私立)の学校では、Zoomで生徒は6時間、時間割通り授業を受講しているが、保護者からは生徒が疲労しているとの声があがっている。また、生徒の手元の状況まではZoomでは把握が困難のため、生徒の到達度を測る小テストを配信して、把握している。
参加者C(私立)の学校では、YouTubeでの動画を配信しており、GWまでは生徒が各々で視聴している。英数国などは視聴回数が多いが、理科や社会では半分ほどしか視聴していない。GW明けから数名ずつのHRをZoomで開始していきたい。分散登校についてはまだ検討できていない。
私の学校(私立)では、ZoomやClassiで担任と生徒をつなぎながら、5月18日以降からZoomでオンライン授業を開始予定。ただし最初は週に1科目1度のみの授業であるため、前後の課題や非同期の動画をどのように組み合わせいくかに課題がある。
参加者E(私立):私立の2校については、部分的、全体的であれオンライン授業は開始されている。
参加者F(公立)の学校では、ベテランの先生の存在感が大きく、オンラインの積極的な活用が進みにくい環境である。
参加者G(公立)の県では、行政のトップ、管理職を含めて、オンラインツールの活用、推進についての具体的な支援がない、もしくは薄い。
溝上:観点の整理として2つまとめておきたい。
一つは、大学と異なり、公立と私立の違いが顕著に出ている。私立は比較的、コロナ以前より生徒にタブレットを持たせるなどICT教育を推進してきた学校が多いため、コロナ情勢の長期化をにらんだ取り組みを早くから進めてきた。現状、私立では、オンライン授業をまったくやっていない、課題のみを与えて生徒とまったく繋がれていないという学校はないのではないかと思われるほど少ない。一方公立では、一部の県や地域で、休業状態の学校が多くある。教育委員会と学校の間の縦の指示系統がうまく機能していない。学校で今後どのような取り組みを実施していくのか、個々のトラブルにどのように対処していくか、などの具体的な内容について、県全体の方針が伝わっていない。学校の考えも進んでいない。一方その状況下でさえ、できることを徹底的に考えて、校長がリーダーシップをとっている公立の学校もある。公立ではリソースに限界があることは認めながらも、校長を主導として組織マネジメントを図っていくことが重要だろう。
もう一つは、分散登校について。私立では緊急事態宣言が延期されても、オンライン授業で対応していけると考えている学校が多い。一方公立は、昨日文部科学大臣から発表された分散登校のような形で対面授業が開始されたのち、遅れを取り戻そうと期待している印象がある。
判断の一般化は難しい。感染者の多い都道府県内であっても、ある地域では感染者が出ていないところがある。このような地域では生徒が過密地域を通って通学することも少ないため、分散登校が可能かもしれない。うちの中学高校では、特定警戒都道府県ということもあり、また大多数の生徒が過密地域内を、大混雑の公共交通機関を使って通学してくるため、分散登校というのは現実的ではないだろうと議論している。高校では、県立の高校でも電車・バスの通学がけっこうあるので、分散登校はどう判断されるのだろうか。
(途中ホスト側のネットワークが落ち10分中断。その間にZoom使用におけるセキュリティの問題について意見交換した)。
参加者(オブザーバー大学教員):3月にZoomのセキュリティが問題になって1ヶ月経っている。世の中のZoomのセキュリティに関する議論は古い。あれからZoom社は三度プログラムを更新している。最新のものにアップデートして使用すべきだ。
教育の使用で、企業の機密事項や特許などの漏洩という意味でのセキュリティを気にしすぎることよりも、生徒の学習環境をオンラインで実現し、少しでも教育を実現することを考えた方がいい。
セッション2 「オンライン授業における生徒のモチベーションについて」
溝上:ホスト側のネットワークが復旧しました。申し訳ありません。次のテーマに移ります。本セッションでは、対面授業でもしっかりついてこない生徒がいる中で、オンライン授業でもつのか、どのように生徒のモチベーションを維持していくか、について議論してもらいたい。
(参加者が3-4名でグループを組み、ブレイクアウト)
溝上:それでは情報の共有を全体で行いたいと思います。適当に当てますので、2名の方にグループ内での議論を報告いただきます。
参加者H(公立):
参加者I(私立)の高校では、8割くらいの生徒がオンライン授業に参加してくる。2割の生徒の不参加の理由についてはさぼっているのか、情報機器の環境の問題なのかについてはわかっていない。参加者J(私立)の高校では、オンライン授業を時間割通り行っているが、1日おきに自学自習のみの日を設定している。
溝上:うちの学校もオンライン授業を時間割通りやっていく予定であるが、50分×6時間の授業では生徒がもたない。そこで30分で終わるように指示を出している。一方、時間割通りに授業を行っている学校もいくつかある。今のところ問題は聞いていないが、時間割通りに進めて生徒がどこかで倒れることも考えておく必要があるか。
参加者K(私立):授業内容をレコーディングしたり、生徒の状態を記録しておくことなど、ログを残すことの重要性が議論された。学習支援も重要だが、今最優先で取り組むべきことは、生徒の生活支援なのではないか。現在私の学校では、朝のHRや夕方のHR、HRの間の時間は1対1で面談を行う予定。ネット環境が不十分な家庭には電話で対応している。
溝上:私が参加していたグループ内の議論も踏まえて、議論の観点を整理します。
対面授業ができない中、私立を中心にオンライン授業が進んでいる学校がある。毎朝オンラインHRをしている学校も少なくない。他方で公立を中心に、学校と生徒の間でまったくオンライン上のつながりをもてていない学校がある。いずれにしても共通してポイントになるのは、学校と子供たちのつながりをどう確保していくかという点である。
ほとんどの大学ではオンライン授業を推進するとなっているが、このつながりを重視しないで、コンテンツを提供するだけで終わっているものが少なからずある。大学や授業からリモートしている学生の心情を見て取る配慮に欠けている。早晩離脱者が出てくるだろうと予想される。自宅学習でオンライン授業を続けていくときには、生徒が気持ちの上でつながっているかを徹底的に確認していくことが重要である。学習の質はその後でよい。この順番を間違えないことが重要である。
公立の先生も多く参加していて、私立との差が大きいので、公立中学校の先進的な事例を紹介する。その地域は家庭の貧困度も高く、家庭にオンラインの環境を整えるよう要求するのが難しい地域である。給食があってようやく栄養補給ができているという家庭も、多くはないが、学年100人のうち3~5人はいる。校長は教員を2グループに分け、交代で全家庭を定期的に訪問するよう指導している。訪問時には、玄関先で接触しないように、庭先で離れて話す、課題プリントは玄関前に先に置いておき手渡ししない、などのルールも徹底されている。また、コロナ以前から毎日行っていた課外学習プリントを教員が渡し、添削して各家庭に返却することもなされている。オンラインは実現しないが、ホームページで毎日(動画)メッセージを更新して送り、それを見るようにと投げかけている。校長の組織マネジメントがすばらしく機能しており、教員は一丸となってできることを行っている。精いっぱい知恵を出して工夫をし、子どもに友人や先生とつながっている感覚を持たせている。ちなみに、この中学校の地域では感染者はゼロである。
生徒とオンラインでつながることができれば望ましいが、仮に難しいとしても実現できることを行っていくことがこのコロナ情勢下では必要である。
・セッション3「対面授業とオンライン授業の相違点について」
溝上:現況下では、対面では求められなかった学習や日常の過ごし方が求められている。オンライン授業は生徒の主体性によって大きく差が生じてしまう。優れたコンテンツは様々にあるが、生徒が主体的に取り組むかは別の問題である。このような状況下で、新しいオンライン学習や生活を通して開花・成長する生徒が一定数出てきている。他方で、こちらが働きかけても、つながり切れない生徒もいる。オンライン授業下や、家庭学習中心の学習下で育っているものは何なのか、今から議論をしておきたい。
(参加者が3-4名でグループを組み、ブレイクアウト)
溝上:議論を終えて情報の共有を全体で行いたいところだが、途中10分ホスト側の問題で時間をロスしてしまい、終わりの時間が来てしまっている。私が参加していたグループでの議論も踏まえて、最後私が観点を整理して終わりにする。
公立の学校を中心に、オンライン授業にまったく関わっていない生徒が全国で一定数存在する。しかし、他方で実数としては相当数の生徒が何かしらのオンライン授業に関わっている。そのような生徒の存在を踏まえるとコロナ終息後、これまでの教育に単純には戻らないのではないかと考えられる。授業をオンラインで受講できるのであれば、対面で受講する必要はあるのか?という生徒の不満が確実に出てくるだろう。このような声は学校にとっては耳が痛いものかもしれないが、新たな時代に転換していくために望ましい意見と捉えるべきかもしれない。アクティブラーニング推進の際にも何度も話してきたが、教師が一方的にコンテンツを投げるだけの授業が主流だった時代は終わりにしたい。今回の取り組みはこのような考えに関わっていくものではないだろうか。
午前中の大学のセッションでは、知識の提供はオンデマンドで十分可能だという議論が多くあった。反転授業の形で、オンデマンドコンテンツで課外学習を行い、対面授業では対面でしかできないことをやっていけばよい。
また、私が参加していたグループで、教員が生徒にYouTubeのコンテンツを見させて、コメントや疑問を提出させたところ、対面では見られない盛り上がり、課題に集中する生徒の姿が垣間見えたとの意見があった。一部の生徒が、対面の授業では育てられなかった能力を開花させているのではないか。今後、対面授業が再開された際には、オンライン授業で開花した生徒をどのように対面授業につなげていくのか、考えていかなければならない。
最後にもう1つ。これは大学のセッションでも議論されたが、オンライン授業の推進においては、教材作成はもちろんのことであるが、生徒との関係やつながりまであの手この手で作っていく必要がある。対面では意識しないで行っていたことを自覚的に作り出すことが求められている。しかしそのことが、生徒をどのように授業に関わらせていくかという、生徒主体の授業づくりでは基本と言われる、学術的に言うところの「エンゲージメント(関与)」の能力を授業者が育てる研修の機会になっている。コロナの状況前から生徒をエンゲージさせようと努力してきた先生は、このようなたいへんな状況下でも対応できている。一方で、そのような努力が不十分であった教師は苦労している。このようなコロナ以前の取り組みとの関係も見て取れるようになってきた。オンライン授業で生じている教員の力量の差は、オンライン授業への慣れの差以上に、生徒にエンゲージさせる技術力の差という見方もある。
以上