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コロナ情勢に対する学校の状況(高等教育)(2020.5.4版)

(お断り)
・本ページは、教育コロナ会議等を通して「コロナ情勢に対する学校の状況(高等教育)」を溝上がまとめたものです。しっかりしたものを作ろうと考えすぎると時間がかかるので、たたき台程度として随時更新する形を取ります。理解や状況把握がうまくできず、不適切な説明になっている箇所は遠慮なくご指摘ください。必要に応じて修正していきます。
・教育コロナ会議の趣旨と目的はこちらを参照してください。
・「大学」と表記することが多くありますが、必要に応じて「短期大学」「高等専門学校」と置き換えてお読みください。

 

 

①緊急事態宣言解除に向けた大学の状況
・中学高校では、私立のほとんどすべてと言っても言い過ぎではないほど、何らかの形でオンライン授業を推進しているが、公立では一部の県や進学校の高校や特別重点校等を除いて、ほとんどオンライン授業はなされていない。連休明けに少しでも実現しようと進めている学校もあるが、組織的にはできていない学校が多い。対面授業をただ待っている県や学校がほとんどといった印象である。もっとも、先日政府が分散登校の可能性を指示してきたので、感染が未確認・少ない県や地域で対面授業が開始・再開されることは予想される。
・これに対して大学では、国公私立の別なくオンライン授業の実施を指示しているところが大多数である。連休明けから本格化して開始される見込みである。もっとも、国公立大学には比較的この傾向が強いが、地方の私立大学や医療系・体育系などの実技科目を多く抱える専門職系大学の中には、ウェブサイトを見ても休校期間以外何も書かれていないところがいくつかある。他方で、対面授業ができるようになるのをただ待てばいいかのような指示が出されている大学も少なからずある。
・はやい大学の今後の進め方については2手に分かれる。
 5/3に、特定警戒都道府県においては5月末まで緊急事態宣言が延長、それ以外の地域では一部を除き緩和と発表されたが、緊急事態宣言に関係なく、前期あるいは第1・2クォーターの主に講義科目は引き続きオンライン授業で行うとしているところが多くある。この理由には、小中高と違って大規模な大学の事情の中、オンライン授業、対面授業ところころ指示を変えられない事情がある。また、感染者が出れば再びキャンパス閉鎖、第二波が来て再び緊急事態宣言が出されるという可能性も高いので、リスクヘッジを取っているということもあるだろう。
 他方で、たとえ感染者が出てキャンパス閉鎖や緊急事態宣言が再度出されようが、可能な時には対面の授業をできるだけ行っておきたいとする、とくに実習や実験等の実技科目を多く抱える学部や大学も少なからずある。はやくても1年は終息しないだろうとコロナの長期戦を見込むならば、たとえ断続的になっても、できるときに対面授業をしておこうと考えるのは悪いことでない。

 

②前期・クォーターの最終日を決めていない大学が多い
・5月の連休後の緊急事態宣言やコロナ情勢を見て、対面授業を開始・再開する(できる)と考えている大学、あるいは休校期間だけを示してその後どうするかをしっかり考えられていない大学は、前期やクォーターの終わりの日を考えていないという実態が見えてきた。ほとんどの大学で、アカデミックカレンダー通りには進んでいないが、取り組みのはやい大学は前期やクォーターの期間を修正して、その期間を学内、学生には通知している。むしろこのように定める大学は、前期や第1クォーターはオンライン授業のみの実施と通知している傾向がある。
・前期・クォーターの最終日が示されないと、夏休み等での補講や集中講義などを予定できない。最終日を示しているということは、夏休み等での補講や集中講義などによる補完を考えているということである。

 

③履修登録は何とか進んでいるようだ
・履修登録が終わらないまま4/16の緊急事態宣言の全国拡大を受けた大学のほとんどは、急遽オンライン方式に切り替え、連休前までに何とか進めたようである。しかし、機能停止している大学もやはり存在する。

 

④オンライン授業の特徴を把握してポストコロナに備える
・対面授業に対してのオンライン授業の特徴を理解していく必要がある。というのも、おそらくこれだけオンライン授業が世界的に一般化してなされる状況が進むと、コロナ終息後の授業の仕方が、オンライン授業を含めたブレンディッドの形で刷新されることが容易に想像されるからである。企業で言えば、テレワークでできることをなぜ職場に行ってしなければならないのか、といった働き方改革に繋がる話でもある。
・しかも、一部の意欲のある教員の授業ということではなく、制度・カリキュラムレベルに及んでいくとも考えられる。今は自分の大学は関係ないと思っていても、そういう大学が少なからず出てきて、全体のトレンドとなっていくと、それが受験者や学生の大学を見ていく視座となる。
・とくに、この時期を元気よく過ごせている学生の学習の仕方が注目されている。最もわかりやすい例は、オンデマンドの授業ビデオを2倍速、3倍速で見ている学生である。このような姿はeラーニングなどでは決して目新しいものではないものの、少なくとも対面の授業では認められてこなかったものである。今回のオンライン授業で新たに引き出されつつある学生たちの学習力を、大学はポストコロナで引き受けていけるのだろうか。教員の中には、コロナ終息後、この手の学生たちは教室で皆と同じ時間を過ごし、何の変哲もない一方通行授業を聴かされることに耐えられないのではないかと予測している。
・1、2週間経験した教員から出ているオンライン授業の特徴は、次のようにまとめられる。
①知識提供の部分はオンラインコンテンツで十分だ。
②思考力を培う課題も、オンラインで行う方が学生の課題への集中力が高まり、対面では表れない考えや意見が出やすくなる。
 ※(溝上コメント)この見方は中高の教員からもよく聞いている。
③グループワークでさえ、Zoomのブレイクアウトで行えば簡単にできる。
 ※(溝上コメント)しかし、一人が話をしまくり、グループの議論になっていないという問題の報告も少なからず受けている。しかし、これは対面で行っても同じことが起こっており、要はグループワークを行うにあたってのルール作りや指導が必要だということなのだろう。
④医療や史跡の現場から専門家が動画中継して、それを見ながらオンライン授業を受けるという授業もなされている。従来なら、専門家が教室に来て写真や動画を見せながら解説したのだろうが、現場の臨場感をライブ配信しながらオンライン授業をすることが一般化していけば、教育の質は格段に上がるはずである。

 

  ①が問題なくできるなら、教室では課題や演習問題、教え合いといったアクティブラーニングを行えばいいということになる。これは反転授業と呼ばれてきたものである。課程で教えなければならない基礎的な知識量が膨大で、グループワークなどの時間をなかなかとる余裕がないと言ってきた理科系の授業で多く取り入れられてきたアクティブラーニング型授業の方法である。もちろん、グループワークだけなら③でも可能だろうが、人と人とが対面で行うグループワークや発表には、ジェスチャーや表情などのノンバーバル・コミュニケーションも必要となり、本質的には使い分けるという考えになるのだろう。
 ②、④はオンライン授業ならではの特徴が示されており、単純におもしろい。もっとこのような特徴を集めていきたい。

 

⑤良いFDになっていると考える
・オンライン授業の実施、とくに以下2点が強く求められていることが、教員の良いFD(ファカルティ・ディベロップメント)になっているという意見が見られる。
①学生の状況を見て取りながら授業を進める必要に迫られている。
②学生をオンライン授業にあの手この手で関わらせないと、脱落者が少なからず出ることが予想される。

 

 ①は、これまで学生主体の授業、大きくは学習パラダイムに基づく教授学習観と説明されてきたものである。学士課程答申(2008年*)では、「何を教えるか」(教授パラダイム)ではなく「何ができるようになるか」(学習パラダイム)への転換と説明されており、最近のグランドデザイン答申(2018年*)では、「何を教えたか」から「何を学び、身に付けることができるのか」と説明されている。いくら良い授業内容や教え方でも、いくら授業準備をしっかりしても、学生が理解できなかったり力を身につけていなかったりするなら、それは良い授業ではないという考え方である。学生が多様化し、知識の提供だけでなくさまざまな資質・能力を育てることまで求められるようになった昨今の教育の流れを受けた考え方とも言える。
  *中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(2008年12月24日)
  *中央教育審議会『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)』(2018年11月26日)

 

 ②は、学術的に「エンゲージメント(学生関与student engagement)」と呼ばれてきたものでもある。学生に教師との関わり、課題や活動への関わりをさまざまな角度で求めていく。声かけやフィードバックなどはその代表的なものである。そのような関与無しに、教育コンテンツだけで、とくに学習意欲の高くない中下位の学生たちがオンライン授業を乗り切ることはないだろう。対面授業である程度ごまかせたことが、オンライン授業ではごまかせない。徹底的にエンゲージメントをはかったほうがいい。ここでその授業力を養えれば、対面での授業の仕方も変わってくるはずである。だからこそ良い研修になるとも言える。
 ちなみに世の中では、一流の専門家の講義やYouTube動画など、すばらしい学習コンテンツがオンライン上に溢れていると言われる。中学高校では、塾や予備校の一流の講師がパフォーマンスの高い学習コンテンツを配信している。しかし、そのような学習コンテンツを見て学習を進められるのは、学習意欲の高い学生、あるいは自律的な上位層の学生だけである。そうでない大部分の学生たちは、誰に教えられるか、誰が授業者かという教師-学生の特定の関係性をかなり必要とする。一般的に、赤ちゃんや子どもが養育者なら誰でもいいわけではなく、特定の親・養育者にしかなつかない、特定の親・養育者のケアをもって育っていくというアタッチメントの法則に似ている。

 

⑥ミドルマネジメントが機能していない
・端的に、ミドルマネジメントが機能していない大学が多い。学長をはじめ執行部からは休校期間やオンライン授業の実施などの指示が出るものの、授業動画の作成、アップロードの方法、オンラインアプリを使用するときの制約や問題点、著作権の扱い等のガイドラインが示されていない、支援部署や支援員がいないで教員に丸投げとなっている大学が少なくない。
・この手の問題で、職員やセンターに支援を求めても、この非常事態下で対応できず結果機能していないという事例報告は多い。学科単位で教員の委員を決めるように学長や学部長が指示を出すべきである。そして、個々の教員の相談に応じる体制を構築すべきである。技術的な問題だけなら、その委員が専門職員やセンターに相談すれば、ほぼ間違いなく回答は得られる。
・オンライン授業を始める最初の1週間は、学生からアプリの使用方法がわからない、ログイン・PWがわからない、Wordで課題提出とあるがWordとは何かなどのような質問が多く出て、授業者はてんてこ舞いとなる。しかし、2週間オンライン授業を経験している大学からは、そのような学生からの質問はずいぶん減っているという報告を受けている。ずっと続くわけではないと理解して、学生にITリテラシーを教えるくらいのつもりで丁寧に対応してあげてほしい。
 それにしてもWordを知らない学生がいることには驚いている(ちなみに、ある大学の授業では手書きで書いて写メで送ってきたらしい。送ってくるだけまだいいと考えるべきか)。
・教員が個々ばらばらで、さまざまな提出方法やアプリの使用を求めると、学生はわからないことが多すぎて混乱し、オンライン授業に参加しなくなる、脱落するという報告をすでに受け始めている。これも学部や学科で、使用するアプリや提出場所・方法などのガイドラインを作って限定した方がいい。多くの教員がリアルタイムの授業を同時に行うと、サーバーへの集中アクセスが発生し、サーバーのダウンやネットワークのスピード遅延が生じる。中高では、この経験を4月にして大混乱に陥っている(まだ継続中である)。オンデマンドの動画の画質を下げるなどの工夫も必要である。こうしたガイドラインが組織のミドルレベルで求められる。

 

⑦最後に
・この10年求められてきたアクティブラーニングやICT教育などの基盤整備、その組織的な推進、3つの方針に基づく教学体制・教学マネジメントは、本質的に組織マネジメントをベースとする。教員に丸投げ、教員の授業は個人商店といった時代はとっくに終わっており、組織の方向性とそれに基づく教員同士の連携・協働が求められていたわけである。率直に言って、教学マネジメントをはじめ、組織マネジメントをある程度しっかり進めてきた大学の今回の対応は迅速であり柔軟であると感じる。今回のコロナ禍に対する準備をしてきた大学など、1つとしてない。しかし、この1ヶ月の中でミドルマネジメントやガイドライン、中にはシラバスの全面改訂を進めた大学さえある。予測困難な社会の到来に向けて、Society5.0の社会に向けて、審議会や政財界からさまざまな提言を受けてきたはずである。それに真摯に対応して取り組みを進めてきた大学と、適当に受け流してきた大学の差がわかりやすく表れている。今からでも遅くないので、コロナ終息後にどのような大学運営を行っていくかを見直しながら、取り組みを進めるべきである。
・多くの大学では、5月の連休明けからオンライン授業が本格的にスタートする。はじめは緊張感があって参加していた学生の中に、慣れてきてだれてくる学生が出てくる。脱落していく学生、ひいては退学を考え始める学生も少なからず出てくるだろう。引き続き緊張感を持って対応していきたい。

 

 

→過去の記事(目次) http://smizok.net/education/subpages/a_corona.html
◆高等教育
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.21版)
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.29版)
・コロナ会議(2020.5.2版)
  ①オンライン授業における学生のモチベーション/②対面授業とオンライン授業の相違点を知る 
◆中学高校
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.21版)
・コロナ会議:コロナ情勢に対する学校の状況(2020.4.29版)
・コロナ会議(2020.5.2版)
  ①オンライン授業における生徒のモチベーション/②対面授業とオンライン授業の相違点を知る 

 

 

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