このページは、溝上の学術的な論考サイトです。考えサイトポリシーをご了解の上お読みください。         溝上慎一のホームページ

(用語集)学力の三要素

要点

 

 

第1節 学力の三要素――『学校教育法』による規定

 学力の三要素は、確かな学力の構成要素として示されているものである。確かな学力というのは、児童生徒に、新しい社会を力強く生きていくために育むべき力として設定された、「豊かな人間性」「健康・体力」「確かな学力」――これらを総称して「生きる力」と呼ぶ――の一つである。このうち学力については、これまで「ゆとり」か「詰め込み」かの二項対立的な議論がなされてきたものを、いわゆる「学力の三要素」としてとらえなおし、2007年6月に学校教育法も改正して示したものである。学力の三要素は次のように規定されている。

学校教育法
第三十条2 生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。

 この規定をもって、

  1. 基礎的な知識・技能
  2. 思考力・判断力・表現力等の能力
  3. 主体的に学習に取り組む態度

と簡略化して紹介されることが多い。

 

 

第2節 「高大接続改革答申」での学力の三要素

 学校教育法の学力の三要素は小学校の教育に向けて規定されたものであり、中等教育の学校(中学校・高校・中等教育学校)には別条項で準用されるものとなっている(注1)。 2014年12月に出されたいわゆる『高大接続改革答申』(注2)では、高校教育、ひいては大学を射程に入れた高大接続に向けて、学力の三要素が、

学力の三要素を、社会で自立して活動していくために必要な力という観点から捉え直し、高等学校教育を通じて(i)これからの時代に社会で生きていくために必要な、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」を養うこと、(ii)その基盤となる「知識・技能を活用して、自ら課題を発見しその解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」を育むこと、(iii)さらにその基礎となる「知識・技能」を習得させること。」(p.6)

と示されている。第1節に対応して整理すると、次のようになる。

  1. 基礎的な知識・技能
  2. 思考力・判断力・表現力等の能力
  3. 主体性・多様性・協働性

 

(注1)『高大接続システム改革会議「最終報告」』(2016年3月31日)

(注2)中央教育審議会『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について-すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために-(答申)』(2014年12月22日)

 

 学力の三要素といえば、基本的には第1節の学校教育法のものを指すが、高校で学力の三要素を示す場合には、本節の高大接続改革答申のものを用いてもよいと思う。とくに、「多様な人々と協働して」学ぶという態度を追加するのは、小学校よりも出口に近い高校教育での役割、ひいては学校から仕事・社会へのトランジション(詳しくは「(理論)学校から仕事・社会へのトランジションとは」を参照)を見据えて重要だと考えられる。多様な立場、役割、異文化の人々と協働する機会が少なからずあるという、昨今の高度化・複雑化する社会・文化状況を反映させた学習を高校教育、さらには大学教育で実現する、それによって多様な人々と協働する態度を育てようと考えるのである。

 

 

第3節 新学習指導要領では学力の三要素を「資質・能力の三つの柱」として

 講演会等でよく示される図だと思うが、新学習指導要領改訂の方向性は、図1に示すように、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」というかたちでまとめられている。

 


 図1 学習指導要領改訂の方向性
 *注2の『答申』, 補足資料より

 

 そのうちの「何ができるようになるか」は、学力の三要素に対応させ、かつOECDで議論される2030年社会にも対応させて、「資質・能力の三つの柱」としている。

  1. 生きて働く「知識・技能」の習得
  2. 思考力・判断力・表現力等
  3. 学びに向かう力・人間性等

 

 資質・能力とだけ聞けば、コンピテンシーやリテラシー、21世紀型スキルなどの能力や技能・態度と呼ばれてきたものを思い浮かべるかもしれないが、文科省の資質・能力は、それだけでなく知識まで含めて「学力(の三要素)」として概念設定している。私なりの理解で言い換えれば、資質・能力を育てることは、イコール、「学力」を身につけることである。

 資質・能力の三つの柱のそれぞれについて、やや長いが、答申での説明をそのまま引用しよう。

①「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」

 各教科等において習得する知識や技能59であるが、個別の事実的な知識のみを指すものではなく、それらが相互に関連付けられ、さらに社会の中で生きて働く知識となるものを含むものである。

 例えば、"何年にこうした出来事が起きた"という歴史上の事実的な知識は、"その出来事はなぜ起こったのか"や"その出来事がどのような影響を及ぼしたのか"を追究する学習の過程を通じて、当時の社会や現代に持つ意味などを含め、知識相互がつながり関連付けられながら習得されていく。それは、各教科等の本質を深く理解するために不可欠となる主要な概念の習得につながるものである。そして、そうした概念が、現代の社会生活にどう関わってくるかを考えていけるようにするための指導も重要である。基礎的・基本的な知識を着実に習得しながら、既存の知識と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより、学習内容(特に主要な概念に関するもの)の深い理解と、個別の知識の定着を図るとともに、社会における様々な場面で活用できる概念としていくことが重要となる。

 技能についても同様に、一定の手順や段階を追って身に付く個別の技能のみならず、獲得した個別の技能が自分の経験や他の技能と関連付けられ、変化する状況や課題に応じて主体的に活用できる技能として習熟・熟達していくということが重要である。例えば、走り幅跳びにおける走る・跳ぶ・着地するなど種目特有の基本的な技能は、それらを段階的に習得してつなげるようにするのみならず、類似の動きへの変換や他種目の動きにつなげることができるような気付きを促すことにより、生涯にわたる豊かなスポーツライフの中で主体的に活用できる習熟した技能として習得されることになる。

 こうした視点に立てば、長期的な視野で学習を組み立てていくことが極めて重要となる。知識や技能は、思考・判断・表現を通じて習得されたり、その過程で活用されたりするものであり、また、社会との関わりや人生の見通しの基盤ともなる。このように、資質・能力の三つの柱は相互に関係し合いながら育成されるものであり、資質・能力の育成は知識の質や量に支えられていることに留意が必要である。

 こうした学びや知識等に関する考え方は、芸術やスポーツ等の分野についても当てはまるものであり、これらの分野における知識とは何かということも、第2部の各教科等に関するまとめにおいて整理している。

 

②「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」

 将来の予測が困難な社会の中でも、未来を切り拓ひらいていくために必要な思考力・判断力・表現力等である。思考・判断・表現の過程には、大きく分類して以下の三つがあると考えられる。

  • 物事の中から問題を見いだし、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、振り返って次の問題発見・解決につなげていく過程
  • 精査した情報を基に自分の考えを形成し、文章や発話によって表現したり、目的や場面、状況等に応じて互いの考えを適切に伝え合い、多様な考えを理解したり、集団としての考えを形成したりしていく過程
  • 思いや考えを基に構想し、意味や価値を創造していく過程

 

③「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」

 前述の①及び②の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、以下のような情意や態度等に関わるものが含まれる。こうした情意や態度等を育んでいくためには、体験活動も含め、社会や世界との関わりの中で、学んだことの意義を実感できるような学習活動を充実させていくことが重要となる。

  • 主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考の過程等を客観的に捉える力など、いわゆる「メタ認知」に関するもの。一人一人が幸福な人生を自ら創り出していくためには、情意面や態度面について、自己の感情や行動を統制する力や、よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等を育むことが求められる。こうした力は、将来における社会的な不適応を予防し保護要因65を高め、社会を生き抜く力につながるという観点からも重要である。
  • 多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するもの。
  • (注2の『答申』、pp.28-31より)

Page Top