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(用語集)資質・能力

 

(1)「資質・能力」の行政用語としての文脈と定義

 今日の文科省施策で使用される「資質・能力」という用語は、2014年3月の検討会でまとめられた『論点整理』(注1)に依拠している。
(注1)文部科学省・育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会『育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会-論点整理-』(2014年3月31日)
 論点整理での説明を引用しよう。

 

 

 

(2) 資質・能力の三つの柱

 2016年中教審答申(注2)では、新学習指導要領の骨格として機能するものを「資質・能力の三つの柱」として整理している。

 ①何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)

 ②理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」の育成)

 ③どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)

(注2)中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(2016年12月21日)


 図表1 育成を目指す資質・能力の三つの柱
  *注2の補足資料より

 

 これら三つの柱は、2007年に学校教育法を改正して示された学力の三要素(「(用語)学力の三要素」を参照)の新学習指導要領版である。
 資質・能力の用語自体は能力や技能・態度を表すものであるが、新学習指導要領で示される資質・能力の三つの柱はそれよりもかなり広く、イコール「学力」と言い換えてもいいものである。資質・能力の三つの柱を育てるということは、新しい社会に向けての真の学力をつけることに他ならない。
 なお、図表2に示すように、資質・能力の三つの柱は、観点別評価の3つの観点にもそのまま対応している。もっとも、資質・能力の「学びに向かう力・人間性等」の部分は、さすがに「主体的に学習に取り組む態度」として、人間性評価を回避している。

 

 図表2 旧学習指導要領との対比で見る新学習指導要領に基づく観点別評価


 

 

(3) 資質は伸ばせるものではない?-よくある疑問

 『日本国語大辞典(第二版)』(小学館, 2001年)を引くと、資質は「生まれつきの性質や才能」と説明される。『広辞苑(第六版)』(岩波書店, 2008年)でも同じ意味が示され、加えて「資質に恵まれる」「作家としての資質がある」と例示される。基本的に、先天的な能力を指して用いられることの多い言葉だといえる。
 ここで、「先天的な」能力という言葉に意識を向ければ、それは生まれ持った遺伝子に規定された能力を指すことになり、教育で伸ばせる対象とはならない、結果、能力を伸ばすことはできても資質を伸ばすことはできないという見方に陥りやすくなる。しかし、個人の発達が生物学的要因(遺伝子)と環境的要因(生育環境や保護者の養育態度、教育、他者との交流など)との多様な相互作用の結果であるという見方は、発達心理学の長年にわたる研究の成果として示されている(坂上, 2014)。遺伝要因を統制して環境の影響がどの程度、どのように機能しているかを検討する行動遺伝学の研究から見ても、遺伝子を受け継ぐことがその遺伝子の発現に必ずしも至るとは限らないことは基礎的事実とされている(安藤, 2000, 2006)。一卵性の双生児でも、環境が異なることで遺伝子が異なる表現となることは、ごくふつうに見られるのである。
 生まれ持った遺伝子が発現するには環境が必要である。たとえ遺伝子を受け継いでも、環境がよくなければ、その遺伝子は発現しない。いくら親からすばらしい遺伝子を受け継いでも、ある年齢期までに適した環境が与えられなければ、子供は天才的な音楽家、作家、アスリートにはなれないのである。
 教育は環境の一つである。資質(遺伝子)は適した教育環境との相互作用によって発現する。そのように理解すれば、資質は「伸ばす」ことができ、教育の対象となる。また、どんな能力でも多かれ少なかれ遺伝的に規定されていることをふまえれば、能力も資質の一つとして広くとらえることは可能である。こうして、『論点整理』での上記の下線部の意味がとおってくる。
ここで、「資質」とは、「能力や態度、性質などを総称するものであり、教育は、先天的な資質を更に向上させることと、一定の資質を後天的に身につけさせるという両方の観点をもつものである」(田中壮一郎監修『逐条解説 改正教育基本法』第一法規, 2007年)とされており、「資質」は「能力」を含む広い概念として捉えられている。
 さて、「作家としての資質がある」といった言い方は、ある優れた結果や行動に与えられる高い社会的評価を指すことが多い。その意味では、資質は社会的に高い能力をもっていることを賛辞するときに用いられる言葉であるといえるかもしれない。しかし、初等中等教育で展開する資質・能力の育成、ひいては大学教育で打ち出されている学士力、汎用的技能の育成も、将来の仕事・社会に適応してやっていくための最低要件(minimum requirement)としてのものを基本的には指している。絶対評価や目標に準拠した評価にも繋がるところである。より高い資質・能力へと育てることは目指されるべきであるし、結果として、社会的に成功したプロフェッショナルや専門家になることはあってよいが、まずは最低要件の基準を全員越えようと考えるのが教育課題となるときの基本的な見方である。この点には注意したい。

 

 

文献

安藤寿康 (2000). 心はどのように遺伝するか-双生児が語る新しい遺伝観- 講談社ブルーバックス

安藤寿康 (2006). 遺伝と環境 二宮克美・子安増生 (編) パーソナリティ心理学(キーワードコレクション) 新曜社 pp.10-13.

坂上裕子 (2014). 発達するとはどういうことか 坂上裕子・山口智子・林創・中間玲子 問いからはじめる発達心理学-生涯にわたる育ちの科学- 有斐閣ストゥディア pp.8-27.

 

 

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