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(用語集)習得・活用・探究

要点

 

 

第1節 習得・活用・探究とは

習得・活用・探究は、学習指導要領改訂に向けた2008年の中教審答申(注1)(以下、2008年答申)で登場した行政用語である。あまり丁寧に説明されていないものの、そこでの習得・活用・探究が、答申の前年(2007年6月)に改正され追加された、学力の三要素(注2)と呼ばれる学校教育法第三十条2の条文に対応していることは確かである。

 

生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。

(学校教育法第三十条2、太字は筆者にる)

 

条文では、学校教育における学習は、基礎的な知識及び技能を身につける「習得」を基礎・基本として、その習得された知識や技能を「活用」して「課題を解決する」こと(=探究)と定義される。条文に「探究」という言葉は記されていないが、「課題を解決する」ことを具体的に「探究」と見ていることは、2008年答申の次の文章からも推測される。

 

本来、教科では、基礎的・基本的な知識・技能を習得しつつ、観察・実験をし、その結果をもとにレポートを作成する、文章や資料を読んだ上で、知識や経験に照らして自分の考えをまとめて論述するといったそれぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を行い、それを総合的な学習の時間における教科等を横断した課題解決的な学習や探究活動へと発展させることが意図された。(p.18 太字は筆者による)

 

(注1)中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)』(2008年1月17日)
(注2)本ウェブサイトにある「(用語集)学力の三要素」を参照。

 

ここで2点注意が必要である。

1つに、基本的に、習得・活用は各教科における学習を指し、探究は総合的な学習の時間における学習を指すとしていることである。上記の2008年答申(p.18)には、その対応が具体的に示されている。

2つに、そうは言いながらも、習得・活用・探究の学習は、各教科、総合的な学習の時間をスパイラル的に関連し合いながら取り組まれるべきものだともされていることである。2008年答申では、この点次のように釘を刺している。

 

各教科での習得や活用と総合的な学習の時間を中心とした探究は、決して一つの方向で進むだけではなく、例えば、知識・技能の活用や探究がその習得を促進するなど、相互に関連し合って力を伸ばしていくものである。(pp.24-25)

 

つまり、こういうことである。「課題を解決する」という意味での探究的な学習は、何も総合的な学習の時間のみで求められることではなく、教科の習得・活用の学習の中にあってもよいものである。実際に、問いを立てたり問題を解決したりすることは、教科学習の習得・活用の中でも少なからず実践されている。逆に、総合的な学習の時間においても、たとえば情報の収集・整理の仕方(図書館やデータベースの使い方、思考ツールの活用など)や活動のまとめや表現の仕方(発表の仕方、パワーポイントの作り方、レポートの作成など)など、「基礎的な知識・技能を身につける」習得的な学習はなされている。

以上2点をまとめると、基本的に、習得・活用は教科内の学習を指し、探究は総合的な学習の時間における学習を指す。しかし、習得・活用・探究の学習は、各教科や総合的な学習の時間を超えてスパイラル的に取り組まれるべきものであり、そうして各教科・総合的な学習の時間の学習を発展させるものである。

 

 

第2節 小中学校の「総合的な学習の時間」と高校の「総合的な探究の時間」の違い

各教科の中で、小学校、中学校、高校と学校種が上がるにつれて、学習内容がカリキュラム的に高度化していくのは当然のことである。小中学校の「総合的な学習の時間」と高校の「総合的な探究の時間」との関連においても、基本は「高度化」するカリキュラム体系の視座で理解すればよい。『解説』では、高校の総合的な探究の時間は小中学校の総合的な学習の時間よりも、「質の高い探究」を目指すものとされている。

 

①探究において目的と解決の方法に矛盾がない(整合性),②探究において適切に資質・能力を活用している(効果性),③焦点化し深く掘り下げて探究している(鋭角性),④幅広い可能性を視野に入れながら探究している(広角性)などの姿で捉えることができる。

 (文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説:総合的な探究の時間編』(平成30年7月、p.9より)

 

その上で、総合的な探究の時間は総合的な学習の時間よりも、自律的に行われるものと説かれる。単なる問題解決ではなく、自身にとって関わりがある課題を発見し、それが自身の生き方に繋がるような取り組みとなることが期待されている。

 

①自分にとって関わりが深い課題になる(自己課題),②探究の過程を見通しつつ,自分の力で進められる(運用),③単なる探究活動ではなく、それが「自己の在り方生き方を考える」活動にも繋がるように考えられていること。

(文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説:総合的な探究の時間編』(平成30年7月)、p.9より)

 

この相違をまとめた図表1も併せて参照されたい。総合的な学習の時間では「課題を設定し、解決していくことで、自己の生き方を考えていく」ための活動であると説かれ、総合的な探究の時間では「自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を発見し、解決していく」ための活動であると説かれている。

 


図表1 「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」の違い
文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説:総合的な探究の時間編』(平成30年7月)、p.9より

 

 

第3節 高校における教科・科目等の「探究」の新設定

(1) 教科の探究と総合的な探究の時間との違い

前学習指導要領では、「探究」とは具体的に「総合的な学習の時間」を指してきた(第1節を参照)。新学習指導要領(注3)においても、高校では「総合的な探究の時間」と名称を変えながらも、基本的には同様に理解してよい。

 

(注3)中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(2016年12月21日)

 

ところが、高校の新学習指導要領では、教科・科目等における理解をより深めるために「古典探究」「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」「理数探究基礎」「理数探究」の科目(以下「教科の探究」)が設置された。『解説』では、総合的な探究の時間との違いを述べる中で、教科の探究の特徴について説明されている。

 

具体的には,総合的な探究の時間で行われる探究は,基本的に以下の三つの点において他教科・科目において行われる探究と異なっている。

一つは,この時間の学習の対象や領域は,特定の教科・科目等に留まらず,横断的・総合的な点である。総合的な探究の時間は,実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在する事象を対象としている。

二つは,複数の教科・科目等における見方・考え方を総合的・統合的に働かせて探究するという点である。他の探究が,他教科・科目における理解をより深めることを目的に行われていることに対し,総合的な探究の時間では,実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在する問題を様々な角度から俯瞰して捉え,考えていく。

そして三つは,この時間における学習活動が,解決の道筋がすぐには明らかにならない課題や,唯一の正解が存在しない課題に対して,最適解や納得解を見いだすことを重視しているという点である。

なお,実社会や実生活における課題を探究する総合的な探究の時間と,教科の系統の中で行われる探究の両方が教育課程上にしっかりと位置付き,それぞれが充実することが豊かな教育課程の実現につながると考えられる。

(文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説:総合的な探究の時間編』2018年7月 p.10より。下線部は筆者による)

 

要は、教科の探究は、教科の系統の中で行われる、教科理解をより深めるための探究だということである。それに対して、総合的な探究の時間は、教科における習得・活用、教科の探究を基礎として、特定の教科にとらわれない横断的・総合的な、そして実社会・実生活における自身の生き方在り方にも繋がるような課題を発見して、自律的に取り組むものとされる。

 

(2) 課題の設定が教師主導か生徒主導かで理解する

教科の探究と総合的な探究の時間との違いは、課題設定の主体が教師にあるのか、生徒にあるのかによっても理解される。

まず、教科の探究は教科内の学習であるから、課題は基本的に教師が設定するものである(=教師主導)。課題に取り組むために必要とされる知識や技能は、その手前の基礎的な学習として習得・活用がなされていることを前提としている。

それに対して総合的な学習の時間は、第2節で説いたように、課題は生徒にとっての自己の在り方生き方と一体的で不可分なもの、しかも生徒自身が発見することが期待されている(=生徒主導)。上記の『解説』の説明にあるように(p.10)、実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在する事象を課題としながら、特定の教科・科目等に留まらず、横断的・総合的に学習することが目指されている。生徒主導で、教科等で培った資質・能力を最大限に用いて、さらにそれらを伸張させ、社会に開かれた教育課程の最終的な仕上げを行う学習としての意味合いを持たせていると考えられる。

 

(3) 教科の探究を「探究」と呼ぶ理由

この問題への正解は一つではない。どの部分を強調して見るかで解は二手に分かれる。

一つの解は、教科の探究を「活用」学習として見るべき立場である。安彦(2016)は、教科の探究に相当する学習を「活用II」と呼び、教科内における習得・活用(I)のさらなる発展的な「活用(II)」学習と位置づけてきた。その上で、探究は「総合的な探究(学習)の時間」を具体的に指すという、前学習指導要領の考え方(第1節)を踏襲していた。

もう一つの解は新学習指導要領の立場である。新学習指導要領では教科の探究を、同じ教科内とは言え、教科内の習得・活用とは切り離し、「探究」という、社会に開かれた教育課程の最終的な仕上げを行う学習の一つとして位置づけている。そうして、『解説』で述べるように、「実社会や実生活における課題を探究する総合的な探究の時間と,教科の系統の中で行われる探究の両方が教育課程上にしっかりと位置付き,それぞれが充実することが豊かな(社会に開かれた)教育課程の実現につながる」(p.10、括弧内は筆者による)と考えられている。

 

 

第4節 おまけ――「活用」の誕生はどのようにして

第1章で説いたように、習得・活用・探究は2008年の中教審答申で登場した用語である。その中教審の審議の過程で、この用語がどのように議論されて最後示されるに至ったかは、中教審委員を務めた安彦(2016)でまとめている。長いが、そのまま引用する。興味のある方だけ読まれればよい。

 

そもそも現行の学習指導要領の趣旨は、中教審で明示的にうたった「実社会・実生活に生きる力」の育成である。この「実社会・実生活に」という一句が「生きる力」の頭に付いたことが、筆者に言わせればOECD/PISAの影響である。その育成をどう具体化するかを議論したとき、委員の一人であった東京大学教授の市川伸一氏が示してきた学習の二つの型が参考にされた。それは「習得型」と「探究型」と名づけられた学習の型であった。市川は、「ゆとり教育」が「教えずに考えさせる教育」であったことを批判して、「教えて考えさせる教育」を唱えていた。そのための学習の二つの型が「習得型」と「探究型」であった。ただし、最初に明言しておきたいことは、このような学習の「型分け」は中教審では行ったが、現行の学習指導要領においては、一切行っていないということである。これは行政担当者の判断であったと言える。

他方、文部科学省の事務方は、「ゆとり教育」の象徴であった「総合的な学習」が質の悪い思考や遊びに近い活動に終わっていて、それでは望んでいる「質の高い探究的な学習」になっていないこと、また教科学習で得た知識・技能が総合的な学習とは乖離していて、探究的な学習に生かされていないことを批判されていた。このため、何とかこの教科学習の成果を総合的な学習につなぐ方途を考えねばならない状況にあった。そこで、事務方として提案してきたのが、「活用型」学習を「習得型」学習と「探究型」学習の間に導入して、この両者をつなぐものとしたいということであった。

これに対して、当初は市川自身が、そのような学習の型は、すでに「習得型」のそれにも、「探究型」のそれにも含まれているので、取り出す必要はないと言われた。しかし、他の中教審の委員からは、この種の型の学習の導入は好意的に受け取られて、これを取り出して意図的に「探究型」の学習につなぐ役割をもたせて、教科学習の中に位置づけることとし、市川もこれを容認された。同時に、「活用型」学習の意義も、決して「探究型」学習に結びつく一方向的なものでなく、「習得型」学習にもプラスに働くという両面性を強調することで、図式化されないように留意した。それを平成20年の中教審答申では次のように言っている。

 

今回の改訂においては、各学校で子どもたちの思考力、判断力、表現力等を確実にはぐくむために、まず、各教科の指導の中で、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、観察・実験やレポートの作成、論述といった、それぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を充実させることを重視する必要がある。

各教科におけるこのような取組があってこそ総合的な学習の時間における教科等を横断した課題解決的な学習や探究的な活動も充実するし、各教科の知識・技能の確実な定着にも結び付く。 

このように、各教科での習得や活用と、総合的な学習の時間を中心とした探究は、決して一つの方向で進むだけでなく、例えば、知識・技能の活用や探究がその習得を促進するなど、相互に関連し合って力を伸ばしていくものである。

(中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)』2008年1月17日 pp.24-25)

(安彦, 2016, pp.59-61)

 

 

文献 

安彦忠彦 (2016). 習得から活用・探究へ 溝上慎一 (編) 高等学校におけるアクティブラーニング:理論編 (アクティブラーニングシリーズ第4巻) 東信堂 pp.62-93

 

 

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