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心理学では、性格は「パーソナリティ(personality)」と呼ばれて研究が進んでいる。
若林(2009)は、パーソナリティを「各個人が認知している自己の行動や情動に現れる比較的安定したパターンについての心的表象であり、…(中略)…主観的には主に他者との違いとして認識されるものであるが、常に個人の行動になんらかの形で影響を与え、発達過程を通じて維持される」(p.315)ものと定義している。遺伝的な影響を受けつつ、環境(人やモノなど)への関わり、相互作用を通して発達するものである。
中学生・高校生のパーソナリティの変化を検討した研究は少ないが、オランダ人を対象にしたもので、中学生、高校生に相当する年齢期を1年間追跡調査したKlimstraら(2009)の研究がある。彼らは、中学生では1時点目(T1)と2時点目(T2)の相関係数がr=.43であったが、高校生ではr=.72であったことを報告している。パーソナリティ特性の安定性が中学生から高校生にかけて高まっていること、言い換えれば、変わりにくくなっていると議論している。
日本人データでは、Hatanoら(2017)の研究で同様の中学生、高校生の追跡調査の結果が報告されている。表1に示すように、パーソナリティの次元によって異なるが、中学生でrs=.46~.61、高校生でrs=.50~.68である。若干ではあるが、高校生のほうがパーソナリティの安定性が高い。いずれの場合でも、高校生の年齢期でパーソナリティが変わりにくくなっている状況を示唆する結果である。
表1 日本人中学生・高校生のパーソナリティ特性の安定性
パーソナリティの安定性(変わりにくさ)は前提としながらも、その安定性は決して完全なものではなく、成人期になっても年老いても、「調和性」や「勤勉性」は高まるし「神経症傾向」は低くなるという結果が示されるようになっている。ひいては、パーソナリティは変化するのだと主張されるようになっている(Van Alen, Hutteman, & Denissen, 2011)。しかし、そのような研究の流れのなかでも「おとなしい性格」に近いパーソナリティ特性である「外向性」は変化しないか、あるいは落ちていくという結果が示される(Donnellan, & Lucas, 2008; 川本ら, 2015; Leszko, Elleman, Bastarache, Graham, & Mroczek, 2016; Roberts & Mroczek, 2008; Terracciano, McCrae, Brant, & Costa Jr. (2005)。「おとなしい性格」にどう対応すればいいかに悩む教育関係者にとっては苦い情報である。
以上をふまえると、「おとなしい性格」の発達に関して少なくとも2つの実践的示唆があると思う。
第一に、理想的には小学校、中学校の関係者が、先々へのトランジション・リレー(「現場の改革に繋げよ!-学習指導要領改訂(案)に対するコメント」を参照)を見据えて、この問題をもっと自覚的に、積極的に取り扱うことである。高校までそういう指導や支援を受けず、おとなしいままでいいのだと思ってきた生徒を、高校生になって新たに指導・支援するのは難しい。結果的には、できない姿を先々へと送っていくことになるとしても、はやい時期から、生徒が不安になったり苦しくなったりしないレベルで指導・支援をしていくことが望ましい。
第二に、表1の結果で、1時点目(T1)と2時点目(T2)との相関が高いといっても、外向性の場合でr=.67である。すべての者が変わらないという結果ではない。変わっている者がいるからこそ、r=.67である。パーソナリティは変わりにくいとしても、変わらないわけではないという理解が重要である。
忍耐強く、この問題に取り組んでいきたい。
Donnellan, M. B., & Lucas, R. E. (2008). Age differences in the Big Five across the life span: Evidence from two national samples. Psychology and Aging, 23(3), 558-566.
榎本博明・安藤寿康・堀下一也 (2009). パーソナリティ心理学-人間科学, 自然科学, 社会科学のクロスロード- 有斐閣アルマ
Hatano, K., Sugimura, K., & Klimstra, T. A. (2017). Which came first, personality traits or identity processes during early and middle adolescence? Journal of Research in Personality, 67, 120-131.
川本哲也・小塩真司・阿部晋吾・坪田祐基・平島太郎・伊藤大幸・谷伊織 (2015). ビッグ・ファイブ・パーソナリティ特性の年齢差と性差-大規模横断調査による検討- 発達心理学研究, 26(2), 107-122.
Klimstra, T. A., Hale III, W. W., Raaijmakers, Q. A. W., Branje, S. J. T., & Meeus, W. H. J. (2009). Maturation of personality in adolescence. Journal of Personality and Social Psychology, 96(4), 898-912.
Leszko, M., Elleman, L. G., Bastarache, E. D., Graham, E. K., & Mroczek, D. K. (2016). Future directions in the study of personality in adulthood and older age. Gerontology, 62(2), 210-215.
日本パーソナリティ心理学会 (企画) 二宮克美・浮谷秀一・堀下一也・安藤寿康・藤田主一・小塩真司・渡邊芳之 (編) (2013). パーソナリティ心理学ハンドブック 福村出版
小塩真司 (2014). パーソナリティ心理学 サイエンス社
Roberts, B. W., & Mroczek, D. (2008). Personality trait change in adulthood. Current Directions in Psychological Science, 17(1), 31-35.
Terracciano, A., McCrae, R. R., Brant, L. J., & Costa Jr, P. T. (2005). Hierarchical linear modeling analyses of the NEO-PI-R scales in the Baltimore Longitudinal Study of Aging. Psychology and Aging, 20(3), 493-506.
Van Alen, M. A. G., Hutteman, R., & Denissen, J. J. A. (2011). Personality traits in adolescence. In B. B. Brown, & M. J. Prinstein (Editors-in-chief), Encyclopedia of adolescence. Volume 1: Normative processes in development. London: Academic Press. pp.261-268.
若林明雄 (2009). パーソナリティとは何か-その概念と理論- 培風館
*パーソナリティについて学びたい方は、導入テキストとして、榎本・安藤・堀下 (2009)や小塩(2014)をお勧めする。 また、より専門的に学びたい方は若林(2009)や日本パーソナリティ心理学会(2013)もよい。