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(理論)教授パラダイムから学習パラダイムへの転換

※本ページは「(理論)アクティブラーニング論の背景」の一部を取り出し、最新版としてまとめたものです。

 

要点

 

 

はじめに

 

 

第1節 教授・学習パラダイムとは

 学習パラダイム(learning paradigm)は、教授パラダイム(teaching paradigm)との対比で理解されるものである。

 最大限簡潔に言えば、教授パラダイムは「教師主導(teacher-centered)」、学習パラダイムは「生徒主導(student-centered)」であることを特徴とする。教授パラダイムにおける典型的な授業形態は教師から生徒への一方通行的な講義であり、図表1に示すように「教員から学生へ」「知識は教員から伝達されるもの」を特徴とする。しかしながら、ここではもっと広くとって、教師が設定する学習目標に向かって行われるあらゆる教授学習の活動とする。

 それに対して学習パラダイムは、「学習は学生中心」「学習を生み出すこと」「知識は構成され、創造され、獲得されるもの」を特徴とする、生徒自身の観点で取り組まれる学習を指す。

 


 図表1 教授パラダイムと学習パラダイムの特徴
  *Barr & Tagg(1995)をふまえて筆者が作成。

 

 ベイン(Bain, 2004)は、教員が教室で行うことそれ自体が重要なのではない(=教授パラダイム)、学生がいかに考え、活動し、感じるか、そこに教員がどのような働きかけや手助けをすることができるかが重要である(=学習パラダイム)、と両パラダイムを対比させている。ビッグス(Biggs, 2003)も、教員が何をするかではない、学生が何を学ぶかが重要だと述べる。さらに、アンブローズら(Ambrose et al., 2010)は、学習パラダイムにおける学習は、プロダクト(product)ではなく(=教授パラダイム)、プロセス(process)なのだ、変化(change)なのだ、と述べる。

 

 

第2節 学習パラダイムによって教授パラダイムは否定されていない

 学習パラダイムは教授パラダイムに相対する概念として提示されたものであるが、提唱者の一人であるJ. タグ(Tagg, 2003)自身が述べるように、両パラダイムは決して二項対立の関係にあるものではない。教授パラダイムに基づき、教師主導で生徒に知識を伝達する講義の時間はあってよく、その時間は学習パラダイムによって否定されるものではない。タグが「学習パラダイムは活動の場を拡げ、教授パラダイムを越えたところに私たちを移動させるのである」と述べるように、学習パラダイムは教授パラダイムを基礎として、教授学習活動を豊かに拡張・発展させるものである。その特徴を示したのが図表2である。

 学習パラダイムは、教授パラダイムを含み込み、基礎としつつ(全生徒が枠へ到達)、それを越えて生徒個々人の個性的な学習成果を求めるものなのである。

 


 図表2 教授パラダイムに基づき、その枠を越えるところに学習パラダイムに基づく個性的な学習成果の空間がある

  *溝上(2018)、図表13(p.67)を改訂

 

 

第3節 文科省施策との対応

 高等教育において2008年に出された中教審・学士課程答申(注1)では、教授パラダイムから学習パラダイムへの転換は、「何を教えるか」よりも「何ができるようになるか」と表現し謳われている。各大学が自らの教育理念と生徒の成長を実現する学習の場として、学士課程を充実させることを強く求めたものであった(山田, 2009)。
 初等中等教育で出された、新学習指導要領の改訂に向けた2016年の中教審答申(注2)においても、「何を教えるか」よりも「何ができるようになるか」という表現のもと、教授パラダイムから学習パラダイムへの転換が謳われている。
 なお、2018年に高等教育で出されたグランドデザイン答申(注3)では、「何を教えたか」から「何を学び、身に付けることができるのか」へと文言が一部修正されている。

 

(注1)中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(2008年12月24日)
(注2)中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(2016年12月21日)
(注3)中央教育審議会『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)』(2018年11月26日)

 

 

文献 

Ambrose, S. A., Bridges, M. W., DiPietro, M., Lovett, M. C., & Norman, M. K. (2010). How learning works: Seven research-based principles for smart teaching (Foreword by Richard E. Mayer). San Francisco, CA: John Wiley & Sons.

Bain, K. (2004). What the best college teachers do. Cambridge, Massachusetts: Harvard University Press.

Barr, R. B., & Tagg, J. (1995). From teaching to learning: A new paradigm for undergraduate education. Change, 27(6), 12-25.

Biggs, J. (2003). Teaching for quality learning at university. 2nd ed. The Society for Research into Higher Education & Open University Press.

溝上慎一 (2018). 学習とパーソナリティ-「あの子はおとなしいけど成績はいいんですよね!」をどう見るか-(学びと成長の講話シリーズ2) 東信堂

Ramsden, P. (2003). Learning to teach in higher education. Second edition. London: RoutledgeFalmer.

Tagg, J. (2003). The learning paradigm college. Bolton, Massachusetts: Anker.

山田礼子 (2009). 学生の情緒的側面の充実と教育成果-CSSとJCSS結果分析から- 大学論集 (広島大学高等教育研究開発センター), 40, 181-198.

 

 

(お断り)厳密には、学校種によって「(大)学生」「生徒」「児童」といった呼称の使い分けがなされるべきであるが、内容によっては小学校と高等学校、ひいては大学も含めて同時に議論するような箇所もあり、表現が難しい。本ウェブサイトでは、原則「生徒」と表現し、内容によって「児童生徒」「生徒学生」「学生」等と表現することとする。読者の所属する学校種に応じてうまく読み取ってほしい。

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