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(AL関連の実践)【中学/社会】時代を大観する「視点」の学習者による設定-中学校社会科・歴史的分野- 郡司直孝(北海道教育大学附属函館中学校)
北海道教育大学附属函館中学校のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります。
対象授業
- 授業:中学1年生 社会科(歴史的分野)
- 生徒数:35名
- 教材:「新編 新しい社会 歴史」(東京書籍)
※小学校で使用していた教科書として「小学社会6上」(教育出版)
- 時期:2017年12月
第1節 歴史を大観する学習に関する実践経緯と本授業の位置付け
本稿は、中学校社会科・歴史的分野における、各時代を大観するための「視点」を、単元の学習前に、学習者が自ら設定する授業実践について報告するものである。
本校社会科は、このような中学校社会科・歴史的分野における、各時代を大観する学習のための授業構築について、様々な実践に取り組んできた。
当初は、時代の学習を終えた後に、授業者が学習者に対して「政治」や「経済」というような概念を、時代を大観するための視点として与えていた。その結果、学習者は、その時代を振り返る機会を得たものの、各視点の記述は、教科書の文を寄せ集めただけのものであった。何といっても、単位時間の学習がどこへ向かっているのかが明らかでないため、学習者にとって、その1単位時間の学習内容のどこに注目すべきかが定まっていなかった(そしてその結果、記述は「寄せ集め」となっていった)。
この課題を踏まえて、単元の始めに、学習者に対して、単元末に時代の特色を踏まえて時代を大観する学習活動に取り組むことや、そのための視点を、あらかじめ示すこととした。その結果、多くの学習者が、各単位時間に時代の「要素」を少しずつ収集し、単元末にはそれらを活用して、他者との意見交換や議論を踏まえながら、その時代を大きくとらえて論じることができるようになっていった。
しかし、次の2点が課題として検討されてきた。
① 視点として用いられる「政治」や「経済」という言葉は、聞き馴染みのある言葉にも関わらず、きわめて抽象度の高い言葉であることから、事象を収集するための基準としての役割を十分に果たすことができていない。学習者にとって、「視点」と具体とが行き来することができるような段階を設定する必要がある。
② (とくに筆者自身の課題であるが)これまでに小学校における学習を踏まえるという点がきわめて不十分であった。小学校での学習を活用する場面を設定する必要がある。
この2つの課題を克服し、時代を大観する学習のための授業構築の試みとして、本授業を位置付けたい。
第2節 本授業で育成を目指す資質・能力
本校では、2017年度学校研究から、育成を目指す資質・能力として「各教科等の資質・能力」「情報活用能力」「市民として求められる資質・能力」を設定し、すべての教科等の各単元で育成を目指す資質・能力を明らかにしている。本単元のうち、本稿において報告する授業では、以下の資質・能力の育成を目指している。
表1 目指す資質・能力
各教科等の資質・能力 |
(思考力・判断力・表現力等) 中世の日本を大観するための視点について具体的な歴史的事象に基づいて考察し、表現すること。 |
情報活用能力 |
(思考力・判断力・表現力等) 複数の情報を結びつけて新たな意味を見出したり、自分の考えを深めたりすること。 |
第3節 単元構成の工夫
本単元は、大きく「単元の始め」「各単位時間」「単元末」の3期に分けて構成している。各期での主な学習活動は、以下の通りである。
表2 単元構成
単元の始め |
- 学習者を4人1組に構成し、中世という時代の特色を表す具体的な事象から、それらを整理した概念としての「視点」を4つ設定する。
- 4つの「視点」について、グループの4人がそれぞれ担当する「視点」を決定する。
※次節において詳説する。
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各単位時間 |
- 授業者による講義を聴いて、内容を整理する。
- 授業末の10〜15分程度の時間で「中世とはどのような時代か」という課題(本校社会科では「単元を貫く学習課題」と呼ぶ)に対して、その時間での学習内容を踏まえながら、担当する視点からの記述を行う。
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単元末 |
- 4人が再度グループを構成し、「中世とはどのような時代か」に対して、各単位時間で少しずつ収集し続けてきた時代の「要素」を交流する。
- 時代の「要素」について、時代を大観するための整理・分析を行い、グループ内の他者と意見交換や議論を行う。
- 最後に学習者個々人が「中世とはどのような時代か」という課題への記述を行う。
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なお、本単元を構成するにあたって、本単元以前の地理的分野や歴史的分野での学習において、次のような工夫を行っている。
① 古代において、授業者が視点を与えた上で「古代とはどのような時代か」という課題を学習者に示し、それに対する学習者自らの考えを記述する学習活動を設定している。すなわち、学習者が中世と同様の学習活動を、古代において経験できるようにした。
② 具体的事象から、それらの整理した概念としての「視点」を考え出すことは難しい。そこで、地理的分野と歴史的分野を並行して学習する中学校社会科の特性を生かし、本単元前に、地理的分野における「世界の諸地域」で、各州の概要を把握する際に、視点を授業者が例示した上で調査する学習活動や、視点を学習者自身が設定する学習活動を意図的に設定した。
第4節 実践について
本節で報告する授業は、前節における「単元の始め」に当たる時間である。以下にその構成と工夫を述べる。
(1) 本授業の目標や展開の説明
- 本授業のゴールである、「中世という時代の特色を表す具体的な事象から、それらを整理した概念としての『視点』を4つ設定すること」や、本時の展開について説明した。
- 学習者にとっては、これまでに経験した学習活動と同様のものに取り組むという見通しを明らかにした。
(2) 「視点」を考える個人の取組
- まずは学習者個人で「視点」を考える時間を設定した。筆者の授業では、本授業に限らず、他者との意見交換や議論を行う前に、必ず個人で取り組む時間を設定している。
- 小学校での学習を活用するために、学習者が小学校で使用していた教科書を持参させ、資料の一つとするように指示した。
- 学習の継続性や発展性を意識させるために、授業者から、地理的分野「世界の諸地域」での学習を思い出すよう声がけを行なった。
- 個人の取組から4人1組の取組に移行する際には、授業者が、全員必ず顔を上げるよう指示した後、本授業の目標や、4人1組で取り組む内容について、再度説明を行った。
図1 授業の様子1
(3) 「視点」を考える4人1組の取組
- 学習者は、個人での学習を踏まえて、それぞれが考えた視点を交流するとともに、グループとして設定する4つの視点を検討した。
- グループで検討されている視点が、抽象的で「何となく」設定されることを防ぐため、学習が15分程度取り組まれた後に、グループでの活動を一度中断させ、時代の特色を表す適切な視点となっているかについて、具体的な事象を根拠として示すことを求めた。学習者は、小学校と中学校の教科書や資料集等を調べ直し、視点の再構成に取り組んでいた。
- 検討が進むにつれて活動の目標等が見失われがちになる点を考慮して、授業者が、グループでの活動を一度中断させた上で、本授業の目標や設定する「視点」が持つべき役割について再度説明を行った。
図2 授業の様子2
(4) 4人1組で設定した「視点」の担当割り振り
- 学習者が、設定した4つの視点のうち、いずれの視点を担当するかについて検討を行い、割り振りを行った。
第5節 課題
具体的な事象を根拠にして時代の特色をとらえるための「視点」を設定することは、難易度が高いものである。だからこそ、教科の分野を横断して取り組むことが重要であると考えている。そのため、今後も同様の学習活動を継続・発展させていく必要がある。とくに、適切な視点の設定や時代の大観に関する資質・能力を、意図的・計画的に育成するために、3年間の授業計画の構築とその実践が課題であると考えている。
溝上のコメント
- この授業の最大の見所は、生徒が中世をどのような時代として理解するかを、単元の学習前に4つの「視点」から自ら大観する課題の設定にある。単元が終わってからのまとめとしての「視点」の整理でないことは、教諭の説明にみられるとおりである。附属中学校の授業だということはあるにせよ、これはすごいなといたく感心した。難度の高い課題設定である。
この難度の高い課題に取り組ませるために、いくつもの実践的工夫がなされている。一般的なアクティブラーニング型授業の工夫もあるが、それを除いてここでは以下の2点を指摘することができる。
(1)年間を通して、あるいは他の科目とも横断して、視点をもって単元を大観するという「視点取り」の方法論を習熟させようとしていることである。教諭の説明では、地理の学習や中世以前の古代の単元で、生徒は同様の課題に取り組んでおり、この授業では同じ方法論で異なるテーマ(中世とはどのような時代か)に取り組むという構造をつくっている。
(2)小学校で学習した歴史学習をふまえることである。これは視点取りに限定されるものではなく、既習知識を踏まえて新たな学習を重ねる「深い学習」をおこなうための方法の一つでもある。
- 視点取りのワークをおこなうなかで、私がもう一つ興味深く注目したのは、図2右の場面である。ワークを中断して、何度か「視点取り」の課題を説明し直す、生徒に何のワークをおこなっているのかを確認させるということをおこなっていた。というのも、さすがに難度が高いワークなので、生徒が調べ学習のなかで個々の歴史事象に焦点化しすぎて、「視点」を取るというワークの目標を見失う状況が散見されたからである。授業では、教師・説明→生徒・ワーク→教師・説明/確認→生徒・ワークが繰り返された。生徒の活動の様子をよく見ているなと感心した。
- アクティブラーニング型授業の基本形の1つである個-協働-個の学習サイクル(*参考)も、しっかり採られていた。
(*参考)(桐蔭学園の教育改革)個-協働-個の学習サイクル(関谷吉史)
プロファイル
郡司 直孝(ぐんじ なおたか)@北海道教育大学函館中学校
- 一言:生徒が、現在と将来での多様な場で活躍することができる力を育んでいきたいと願っています。そのために、生徒自身が持っている「これまで」の学びを大切にしながら、「これから」につなげていくことのできる授業構築と授業改善に引き続き取り組んでいきたいと思います。