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(AL関連の実践)【高校/家庭】授業展開の効率化とアクティブラーニング
黒田順子(神奈川県立港北高等学校)
神奈川県立港北高等学校のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります
対象授業
- 授業:高校1年生 家庭総合
- 生徒数:40名×8クラス
- 教材:教科書『家庭総合 パートナーシップでつくる未来』(実教出版)
資料集『トータルデータ 家庭科ガイドブック 資料集+成分表』(教育図書)
第1節 授業の目標
① 家庭総合の単元「住居」、「消費行動」、「家計のしくみ」の内容を取り入れた授業展開(4時間)によって、効率よく複数分野の学習を行う。
② 学習者本人の将来の生活スタイルを思考し、実生活と関連させながら学習内容の深化、定着を図る。
③ 他の学習者の意見を聞き、学習者本人の生活スタイルやその価値観について思考を深める。
④ 授業展開の中で、ワークシートを順序だてて仕上げ、前の消費者分野で学習した内容を復習し、それを活用する応用力を身に付けることができる。
第2節 授業の目的と流れ
(1)目的
① 一人暮らしの賃貸住宅を借りる想定で、賃貸契約の手順や住居の構造などについて理解する。
② 一人暮らしの社会人という想定で、給与明細の見方や、家計のやりくりについて考える。
③ 他の学習者と意見交換しながらさまざまな思考を共有し、自分の生活スタイルや価値観について考える。
(2)授業の流れ(4時間)
1時間目
- 授業の流れと目的について説明する。 ・・・講義
途中で各自の進度が違ってくるため、あらかじめ4時間分の流れと目的について説明しておく
- 賃貸契約の内容について説明する。 ・・・講義
特に契約時の支払いについて、生徒が未経験で知識が少ないため、丁寧に説明する
- 物件情報の見方、賃貸住宅に関する事柄を調べる。 ・・・各自の調べ学習
2時間目
時間 |
学習内容・学習活動 |
指導上の留意点 |
5分 |
(全体説明) 本時の流れと目的について ワークシートの書き方について |
部屋選びが単に家賃を決めるだけのものではなく、生活スタイルに関連していることを説明しておく。 |
20分 |
(グループ活動) 物件を選ぶにあたり重視する事柄について意見交換し、発表内容をボードに記入する。
|
出た意見を無理に1つにまとめることがないように説明しておく。 |
10分 |
(発表) 特に重視したい項目とその理由について発表する。 発表後、ボードは黒板に貼る。 |
ボードは発表後、黒板に貼るため、大きく記入してもらう。(書き方の指示をする) 発表は必ず全ての班にしてもらう。 |
10分 |
(各自) グループで出し合った意見、他の班の意見を参考に各自物件を選ぶ。 各自が選んだ物件について、物件選びで重視する事柄とその内容をまとめる。 |
ワークシートまとめは時間内に終わるよう時間配分を考える。 始めにグループで出し合った意見と異なるまとめでもよいことを説明しておく。 |
[生徒の様子]
- グループで意見交換している最中にわからない用語や図表が出てくると、手分けをして調べる様子が見られた。
- 仮想の設定であるが、現在の生活と照らし合わせながら自分の価値観を見出している。
- ワークシートを記入しながら、黒板に貼られたボードを眺めている生徒もいる。
図1 物件選びで重視する内容について意見を出し合い、発表内容をボードに書いている様子
図2 それぞれの発表を聞いたのち、各自が物件選びをしている様子
図3 2時間目のワークシート(大きく)
表1 ワークシートの記述内容「その物件を選んだ理由」
-
駅から近いことは多数の生徒があげている
-
駅や病院、スーパー・コンビニなどの生活をする上で必要な場所までの距離が近い
-
バス、トイレが別か。
-
耐震性 オートロックなどの防犯設備 安心安全な場所
-
家賃と距離とのバランス。 自分が支払いできる範囲の家賃。
-
階を重視したい(日照がかかわっているから)
-
新しさ
-
BSアンテナやインターネット環境
(生徒のワークシートより抜粋)
3時間目
- ワーク2「家財道具を購入する」 ・・・グループ活動
ワーク1で決定した住居に、どのような家財道具を配置したいかを考える。家財道具の選び方は、【安価】、【標準価格】、【やや高価】の金額設定より選択する。どんなものを購入したいかを考えることが、自分の生活スタイルを考える機会となる。グループでの意見交換をしながら自分の購入したいものを決定していく。
- 一番高価な購入品目を、クレジット購入する設定にし、一か月分の支払金額を決める。
(前の単元では、クレジット契約に関して支払方法や契約時の注意などを学習している)
4時間目
- 給与明細書の内容と見方について ・・・講義
- ワーク3「一人暮らしの家計簿」 ・・・個人
職業は会社員という想定で、一か月分の給料明細と支出について考える。
家計の支出項目「住居費」は、ワーク1で決定した家賃の金額を入れる。
ワーク2で購入した物品の「クレジット払い」について、月々の返済額を入れる。
図4 4時間目のワークシート(
大きく)
第3節 学習成果
- 授業時間が少ない中、分野横断的な授業展開によって複数分野の内容を効率よく取り入れることができた。
- 題材が「住む」「購入する」「生活する」「給与」などといった、生活そのものであるため、自分の生活スタイルに反映させやすい。
- グループワークや発表形式を取り入れることにより、単なる個人の作業にならずに済んだ。
- ワークの内容が、前のワークで決定した事柄や金額を記入する形になっているため、順序良く作業を進められ、他のワークより取組状況が良かった。
- 授業の始めに4時間分の流れを説明することで、見通しを持たせることができた。
表2 ワークシートの記述内容「家計のやりくりをして気づいた点」
-
意外と通信費が高いことに気づいた。
-
自由に使えるお金がないことに気づいた。日頃から節約しなければならない。
-
親が大変な思いをして節約していることがわかった。
-
自分が本当に必要なものを購入しているのかをよく考えたい。
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若いうちは高価なものを買うのは大変だ。
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一人暮らしを始めるには家賃だけではなく敷金や礼金も考えなければならいことを知った。
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今の生活と同じことをしようとすると大変な出費になる。一人暮らしをするなら生活の仕方から考えなければならない。
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自分の収入だけで家計を考えると必然的に光熱費や水道代などを節約しなければならないことになる。
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今回のやりくりはうまくいったが、予定外の出費もあるだろうから、うまくやっていかなければならない。
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クレジットを利用するとさらに支払額が増えて大変になる。
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収入からいろいろ引かれて自分に残るお金が意外と少なくなる。
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高い家を借りるなら娯楽費は減らさなければならない。
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実際にはこんなにうまくはいかないだろう。
-
計画的に使っていかないと借金をしてしまいそう。
(生徒のワークシートより抜粋)
第4節 今後の課題
- グループワークにかける時間とタイミングをうまくはかる必要がある。時間が多すぎると雑談になってしまうことがある。
- グループでの活動は、グループによって時間差がある。早く終わったグループが時間をもてあましてしまうことがあった。そのような時に、さらに深く意見交換できるような声かけが必要である。
- 個々に生活スタイルやその価値観を思考する題材ではあるが、ワークシート記入の作業に終始してしまい、意見交換が不十分なグループもあった。もう少し「深い学び」に結びつけるための「問い」について工夫する必要がある。
溝上のコメント
写真 (左)各グループの席上での発表 (右)全グループのまなボードを黒板に貼る
プロファイル
黒田 順子(くろだ じゅんこ)@神奈川県立港北高等学校
- 一言:授業展開に迷ったときは、授業の「ねらい」に立ち返るようにしています。アクティブラーニングにもっていく授業展開は少しずつ定着してきていますが、そこから「深い学び」に繋げることは容易ではないため、これからも試行錯誤していきたいと思います。