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【大学/教育心理学】協同教育の視点から進めるアクティブラーニング -振り返りを重視した授業デザイン-                             関田一彦(創価大学教育学部)

創価大学教育学部のウェブサイト

森朋子のコメントは最後にあります。

対象授業

 

第1節 はじめに

私は20年近く、協同教育の考え方を活かした授業づくりを試行している。常に試行錯誤であり、科目によって授業で用いる方法(活動や課題)は異なるが、ある程度パターン化してきている。今回は、溝上先生のアクティブラーニング調査の対象となった教育心理学Iという科目の事例を報告する。私はこの科目を2015年度から担当しており、本稿では調査当時の授業実践について解説する。

 

 

第2節 私の実践

(1) 科目の説明

教育心理学Iは、教育学部教育学科の2年次前期に配当されている選択必修科目である。2014年までは(前任者が)、2単位科目として週1回90分の授業を15週行っていた。それを2014年度のカリキュラム改訂に際し、週2回90分の授業を15週(計30回)行う3単位科目に改めた。これにはいくつかの理由があるが、アクティブラーニングを行う時間的余裕を確保することも、そのうちの大きな理由であった。

教職教養科目でもある教育心理学Iでは、大きく児童生徒の学習領域と発達領域について扱う。これを入門として後期には、学習領域の内容に特化した教育心理学IIと生涯発達の視点をいれた発達心理学Iが開講されている。別の教員が担当する発達心理学Iは、教育心理学I同様、週2回3単位の選択必修科目である。一方、私がIに続き担当する教育心理学IIは、週1回の2単位選択科目である。科目概要など、当時のシラバスの一部を以下に示す。

なお、教育心理学Iでは、全11章からなる教科書を用い、ほぼ毎週1章ずつ進め、全章を扱った。ポスター発表など大きな課題がある場合を除き、週2回の授業では、1回は教科書内容の確認を中心とし、もう1回はその内容理解を前提とした応用課題や関連事項の掘り下げを心がけた。

科目シラバスからの抜粋

■授業概要

学校という組織において、教員という専門家集団によって営まれる、学習指導と生徒指導に集約される「教育」という活動を、心理学的な視点から考えてみたい。
教職課程の科目でもあり、幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程を含む)に関する理解を深めることも、この授業のポイントである。

この授業は、各自の予習を前提としたディスカッション中心のスタイルをとる。ディスカッションを通じ、相互に学習経験や既習知識の活用・関連付けを促す。そのため、授業中はペア・グループ活動を多用する。

■到達目標

①幼児、児童及び生徒の心身の発達に関する基礎知識をもつ。

②幼児、児童及び生徒の学習の過程に関する基礎知識をもつ。

③教育現場の諸課題に対する教育心理学的な考察ができる。

④自らの理解を他者と共有し、よりよい課題解決や状況理解に至ることができる。

上記①~③が十分にできればB以上、加えて④ができればA以上が期待できる。

■履修上のアドバイス

教育学科の心理コースの方は必ず履修し、単位が取れるように頑張って下さい。上級科目履修の前提になります。 ※毎週の授業に必要な学習時間(小テスト、レポート、課題など)
授業は、事前課題⇒授業⇒ミニテスト⇒事後課題の流れに沿って展開した。

 

(2) 授業デザインの特徴

この授業における授業デザインの特徴(工夫)は色々あるが、大きく2つに分けて整理しておく。一つは、振り返りを重視した一連の課題設定である。ひとつ一つの課題については「課題解説」を参照いただくとして、いくつもの課題を繋げることで、学生に自らがこの授業とどのように向き合っているのかを意識させることをねらっている。まず、学び始めシートを使い、振り返りの起点をつくる。次にほぼ毎回の授業で対話ジャーナルを使って振り返る。そして、学び始めに対し、学期途中の状態を点検する中間振り返りを行う。最後に、ポートフォリオを使った学期終わりの振り返りによって、自己評価・相互評価を促す。

 

 図1 振り返りを重視した課題設定と気づきへの問い

 

今次の学習指導要領改訂において「主体的・対話的な深い学び」が強調されたが、「学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」学びになっていることが、主体的な学びの特徴とされている。「次につなげる振り返り」をほぼ毎回の授業に組み込むことで、学生の主体性を喚起したい。

 

 図2 課題解説(大きく

 

もう一つの特徴として、協同教育の考え方に立つ授業づくりの視点がある。学生同士が協力して互いの善さを伸ばしあい、有能になろうとする意欲を高め合う機会になるような授業を目指している。振り返りにおける相互評価もそうだが、授業ではグループ活動が基調となっている。

 

 図3 協同教育の考え方を活かそうとした授業の工夫

 

ほとんどすべての課題がグループ活動の素材となっている。自分で考え、まとめたものが常に仲間との学びの材料となり、仲間の学びに役立っていく様子を直接、間接に見聞きする中で、「授業に参加して学ぶ」ということの意味を再認識する学生は多い。

図4 授業風景

 

 

第3節 成長と課題

(1) 1回分の授業のデザイン

開始~10分 対話ジャーナル(ペアによる前時内容の振り返り兼ウォームアップ)

10分~20分 予習マップ(マインドマップで作った予習ノートを使って、予習範囲を互いに説明しあう)

20分~40分 予習範囲の理解度点検(教師の問いにチームで答える)時には前時の補足説明

40分~80分 点検結果を踏まえて、深化・発展課題を提示し、個人とチームで考える

80分~90分 ミニッツペーパー(発展課題の答えを個人で整理し提出)

(2) 成果

調査結果によると学期のはじめと終わりでは、様々なアクティブラーニング指標が有意に上昇している。授業におけるアクティブラーニングが有効に機能していたと思われる。学生たちが残した振り返りのコメントや授業アンケートからも、大半の学生には良い学習経験となったことが伺える。

 図5 調査結果(大きく

 

(3) 課題

教育心理学Iは選択必修科目ということもあり、教育学科の2年生の大半(80名前後)が履修する。ところが、教育心理学IIはその半分(30名程度)も履修しない。Iで経験した課題の多さに履修を尻込みしてしまうのが最大の理由である。Iでは履修者の10%前後が途中で履修を取り消し、残りの10%近くが結局息切れして単位を落とす。私のアクティブラーニング型の授業は学生に負荷の高いものとして認識されている。したがって、IIを履修する学生は、それなりに覚悟して履修するのだが、それでも履修取り消しや不合格の率はIと同様である。大学の2年次は中だるみする学生が増える傾向があり、カリキュラム上、教育心理学Iは学生にとって厳しめの授業になるように設計している。その意味で、落伍者が出るのは想定内ではある。

ここで私が課題と感じるのは、Iで身につけてほしい学習スキルや学習態度が十分に身についていない、あるいは使えない学生が、IIの履修者の中に相当数いることである。IIではIで学んだ学習スキルを前提に、その応用や深化を期待する課題が用意されている。そうした課題の出来具合を見ると、Iでの訓練が生かし切れていない(少なくとも私が不満に思うレベルの)学生が半数近くいることに気づく。調査ではアクティブラーニング指標が向上していたが、実践力として身につくところまで至っていないのかもしれない。これは、教育心理学Iという一つの科目の中だけで解決できる問題なのか、それとも2年次のカリキュラム全体の課題として扱うべき問題なのか、判断にできずにいる。ただし次年度以降の、教育心理学Iの授業改善のポイントだと認識している。

 

森朋子(*)のコメント  *氏のプロファイルはこちら

 

 

 

プロファイル

関田 一彦(せきた かずひこ)@創価大学教育学部 教授


  • 一言:他者の学びを支え高めることが自らの学びを深めることになる、という協同の価値に違和感を持つ学生にとって、私の授業スタイルは辛いかもしれません。学部生の間では評価が厳しい、課題の多い教員として知られています。チャンスを与えるのは教員の仕事でも、チャンスを活かすのは学生自身です。学生には自律・自立した学習者であって欲しいと思っています。

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