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(AL関連の実践)【大学/初年次教育】交渉学を活用した深い学習へのアプローチ

田上正範(追手門学院大学)

追手門学院大学のウェブサイト

森朋子のコメントは最後にあります。

対象授業

 

 

第1節 目標

「交渉学」は、「『交渉力』を論理的に実証し、研究する学問」であり、「交渉力」とは、お互いの目的や意図を情報共有・共感し、当事者間の意志決定を基にして、長期にわたる良好な信頼関係を築くための力を指す。交渉に必要な能力として、分析力、コミュニケーション力、意思決定力があるが、本授業では、分析力とコミュニケーション力に注力し、交渉学の基本を身につける。到達目標を以下に挙げる。

 

 

第2節 授業実践例

(1) 授業概要

本授業では、交渉学で大切にする「Win-Winの関係」を構築するという考え方を重視している。相手に譲歩させる事でも無く、お互いにとって望ましいことが何かを考えるものである。長く、良い関係を作ろうとするコミュニケーションを目指し、その場限りの、一時的に良い関係を作ろうとするものではない。利害の対立する相手とより良い関係作りを目指し、中長期的に信頼を築く方法論を、演習を通じて身に付ける。個人ワーク、グループワーク、ディスカッションを組み合せて、理解を深める。

 

(2) 授業計画(全15回)

全15回の授業の流れを図表1に示す。

 

授業回 授業の概要
第1回
第2回
交渉の難しさを体感する
(過去の経験や実感との関連づけ)
第3回
第4回
学習目標の正しい理解を図る
(交渉理論の概念図との関連づけ)
第5回
第6回
交渉のトレーニング①
(受講生の全員が習得可能なレベル)
第7回
第8回
交渉のトレーニング②
(受講生の上位理解者向けレベル)
第9回
第10回
交渉のトレーニング③
(受講生自身のレベルで演習)
第11回
第12回
第13回
総合演習:リアルケース
(卒業後の実社会との関連づけ)
第14回
第15回
最終課題:身近な問題を事例化
(日常生活との関連づけ)

図表1 授業計画の流れ

 

授業計画のポイントは、スモールステップの積み重ねを意識して設計していることである。授業2-3回ごとに、全員参加可能なレベルから上位者レベルまでのトレーニングと、身近な題材から卒業後の実社会を疑似体験する題材まで、段階的に企てる。

 

〈第1-2回:全員参加〉

受講生全員が参加可能な体験型の演習:実際に1対1のペアで交渉を行い、交渉の難しさを体感する。

 

〈第3-4回:学習のゴール確認〉

15回授業後の学習目標の理解:前時の体験から、交渉の理論との関連づけを行い、交渉学の概要を知る。

 

〈第5-6回:全員習得すべきトレーニング〉

方法論のトレーニング1:受講者全員が習得可能な方法論として、マップ化による状況の可視化をワーク形式でトレーニングする。

 

〈第7-8回:上位者向けトレーニング〉

方法論のトレーニング2:受講者の上位理解者向けとして、ロジックツリー等を使い、問題の要因を分解し、構造化して整理するトレーニングを行う。

 

〈第9-10回:自分スタイルのトレーニング〉

方法論のトレーニング3:前時のマップ化、及び、ロジックツリー等を利用して、各自で演習を行う。個人の理解レベルに応じたワーク後、グループで理解を深める。

 

〈第11-13回:実社会(卒業後)の疑似体験〉

総合演習:これまでの学習を利用して、ビジネスのリアルケースを教材化した題材に挑戦する。

 

〈第14-15回:日常生活との関連付け〉

最終課題:身近な問題を事例化する課題に、グループ(チーム)で取り組む。これまでの学習を、チームメンバーと協力しながら行うことによって、日常生活と関連づける。

 

(3) 1回の授業の流れ

授業1回分の流れを図表2に示す。

 

時間 内容
0-10 1分間スピーチ(グループ内で個人ごと)
-20 前時の振り返り
-40ワーク1(個人ワーク、グループワーク)
-60ワーク2(個人ワーク、グループワーク)
-80発表・全体共有
-90フィードバック

図表2 授業1回分(90分)の基本構成

 

  

図表3 発表・全体共有の様子

 

授業実践のポイントは、ルーティンである。授業の始まりは、1人1分間のスピーチを、毎回グループ内で行う。自己紹介や、テーマを決めて行う場合や、グループを替えて行う場合もある。毎時、授業の最初に行い、授業のイメージを思い出させる。多感な学生の頭の中を、落ち着かせる時間である。

続いて、前時の振り返りを行う。前時の授業シーンや成果物等の写真を掲示しながら、授業内容を振り返る。振り返りは、学生アシスタントが行うこともポイントである。学生アシスタントは、本授業の履修経験のある学部学生であり、グループワークのファシリテーション、プレゼンテーションのモデル的な掲示、専門知識や技術を要しない質疑等に応対する。学生に身近な存在であるため、振り返りも身近なものになる。自分事として、受講生の共感を得やすいと考える。多感な学生の頭の中を、整理する時間となる。

学生の頭の中が落ち着き、整理された状態で、本時の課題(ワーク)を説明する。ワークは、受講生全員が理解可能なレベル(ワーク1)を行い、次に、その応用レベル(ワーク2)を行う。いずれも、個人ワークのあと、グループワークと続き、繰り返す。作業(ワーク)に慣れ、繰り返しの中で、理解を深めていく。

最後に、グループごとで発表し、全体共有する。そして、そのフィードバックから、本時の学習ポイントを整理して終了する。実際に行った活動(ワーク)を体系化だて、言語化して認知するのである。活動と認知を繰り返し、展開している。課題やワークの内容は授業ごとで異なるが、授業の基本構成をできるだけ統一し、学習姿勢の安定化と理解の深化を図っている。

 

  

図表4 学生アシスタントの様子
(左:クラス全体への説明、右:グループワークでのファシリテーション)

 

 

第3節 AL調査フィードバックの解釈

AL調査による授業フィードバックを図表5に示す。

 

図表5 2016年度前期(交渉学入門)の授業フィードバック(大きく

特徴的なことは、全体平均と比べ、統合結果の「他者観(仲間)」「他者観(情報共有)」「AL尺度(外化)」が高いこと、また、「深い学習アプローチ」の値が全体平均より高く、さらに、プレ(開始期)と比べてポスト(終了期)が高くなることである。なぜ、深い学習アプローチが伸びたのか、AL調査の定量的な結果から、授業実践者としての定性的な検証を行う。

「他者観(仲間)」「他者観(情報共有)」「AL尺度(外化)」が高いことについては、毎授業で行う演習の影響が大きいと考える。当該授業は、自分の考えを述べる場面を毎授業で提供している。また、クラスづくり、仲間づくりを意識した授業を行っている。他者に対して主張する(話す)だけでなく、聴く姿勢も意識させている。AL尺度(外化)とは、授業において他者に対して自身の考えを主張する態度について測定するものである。これらの値が高い結果を示すのは、授業を通じて、クラスメイトとの関連づけを行っているからと考える。

 

図表6 AL尺度(外化)の全体平均と当該授業の結果(プレ:授業開始期、ポスト:終了期)

深い学習アプローチとは、学習内容を様々な事柄と結び付けて考えることによって意味あるものとするアプローチのことである。前節の図表1に示す授業計画(15回)の通り、本授業では、経験や実感との関連づけ、理論との関連づけ、卒業後の実社会との関連づけ、日常生活との関連づけを計画的に行っている。ここで、深い学習アプローチの質問項目ごとの結果を、図表3に示す。

 

図表7 深い学習アプローチの質問項目ごとの結果

質問項目「1.できるかぎり他のテーマや他の授業の内容と関連させようとする」「2.自分がすでに知っていることと結びつけて、授業内容の意味を理解しようとする」「3.私は、授業内容の意味を自分で理解しようとする」「4.様々な見方を考慮して、問題の背後にあることを理解することが、私にとって重要だ」「5.新しい考えを理解するとき、それらを現実生活と結びつけようとする」「6.授業のための読書の際、著者の意味することを自分から正確にわかろうとする」「7.学術的な読書の中で新しい考えに出会ったときは、じっくり考え抜く」「8.授業で学んでいることについて、自分なりの結論を導くための根拠を注意深く調べる」

 

深い学習アプローチの質問項目1、2、3、4、5は、授業計画及び授業内容に即したものである。そのため、授業開始期(プレ)に比べ、終了期(ポスト)の値が高くなるのは、授業者の狙い通りと考える。また、授業計画の後半で行う総合演習は、ビジネスのリアルケースを基にした教材を用い、卒業後のワークキャリアをシュミレーションする機会として設けている。加えて、授業の合間に、授業者自身の経験やゲストを通じて、人生(ライフキャリア)に触れる機会を意識的に設けている。つまり、学校から仕事・社会へのトランジションを想起させる場面を提供しているからと考える。

一方、浅い学習アプローチは、全体(平均)よりも当該授業の方が低い。浅い学習アプローチとは、個別の用語や事実だけに着目し、表面的な内容理解を行うアプローチのことである。当該授業は、コミュニケーションの方法論の認知と活動を繰り返し、展開している。授業では、必要な知識や情報を最小限のみ提供し、授業で取り組むワーク(活動)が活性化すれば、必要以上に提供しない。ワークの活性の度合いで、追加情報の提供・変更・保留を判断しているため、用語や事実だけに着目する場面が少ないからと考える。

 

 

第4節 今後の課題

「深い学習アプローチ」は、あることと他のことを「繋ぐこと」、あるいは「関連づけること」を測定するものであり、「外化」と同様、社会との接続を意図したものと考えられる。しかし、多くの大学の授業は1回90分を15回しかない。そのため、授業時間外の活動と授業とをいかに繋ぐかがポイントとなる。ここで、授業者だけでは補えない重要な要素として、学生アシスタントの存在を挙げる。TAのような専門性を持たない代わりに、受講生との距離が近い存在である。受講生のつまずきや悩みを共感し、一緒に考える存在である。しかし、学生は4年間で卒業してしまう。学生アシスタントの安定性が今後の課題と考える。

 

 

文献

田上正範「交渉学を活用したアクティブラーニング型授業の効果検証」、関西大学高等教育研究 第9号 (2018 )、pp.79-84.
  http://www.kansai-u.ac.jp/ctl/activity/pdf/kiyo_no.9_pdf/kiyo_no.9_10.pdf

 

 

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プロファイル

田上正範(たがみ まさのり)@追手門学院大学 基盤教育機構 准教授


  • 一言:社会に役立つ実践力を身に着けることを目指しています。教室の中でどれだけ失敗しても、どれだけ成功しても構わない。それよりも教室の外で、どれだけ実際に使ったから、どれだけ活用できたかを大事にしています。様々な角度から、社会との接点を教室の中でつくることを心掛けています。

 

 

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