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(AL関連の実践)【高校】「生徒が主役となる授業をめざす」主体的、対話的で深い学びをマネジメントする                       山口陽子(大阪府府立岸和田高等学校 校長)

大阪府府立岸和田高等学校のウェブサイト

溝上のコメントは最後にあります

第1節 はじめに

「学校における主役の転換が必要である。」という思いは、校長として学校教育をマネジメントの観点から俯瞰するようになった時から抱き続けている。若い頃、「教員は舞台役者の素質がいる。語りかけ、聞き手(生徒)を授業に引き込む。」と先輩教員は言っていた。教員が授業の主役の文脈で語られていたように感じている。そうではなく、授業の主役は生徒であり、学校教育の主役は生徒であると考え、「生徒が主役となる授業をめざす」主体的、対話的で深い学びをマネジメントすることに努めている。

学習を含め様々な課題を多く抱える前任校では、教員は懲戒等を生徒の行動規範にしがちで、授業も然り、生徒が大人しく席に付き板書を写すことを多くの教員は授業規範としていた。生徒が自分の意見を持ち、それを述べることを望ましくないとさえ思っているのではと疑われた。そのような状況の中で、生徒が授業の主役になり主体的、対話的で深い学びの授業に参加した時、生徒が教員の予想をはるかに超える力を発揮する場面に遭遇した。当時、学校のキャッチフレーズを教員に募集していた。ある教員が授業の一環として、これを考える企画を立ててくれた。校長が教室に出向いて、経営ビジョンを生徒に伝え、最優秀作品を必ず採用すると約束し、生徒にキャッチフレーズの作成を依頼した。約1か月間、生徒はグループごとに考え、外部評価者を招いたプレゼンテーションの審査を経て「つながる 笑顔 イズトリ」を決定し、学校案内等に掲載した。選ばれた生徒は自己肯定感を感じ、全校の多くの生徒をも元気づけた。

さて、ほとんどの生徒が進学する現任校ではあるが、溝上教授が「いい生徒で落ち着いた授業ができているのに、なぜ、AL 型授業なのか?」と問われた。ここでも、生徒が授業の主役ではないと感じている。溝上教授に「熱心に学んでいるように見えても、板書を写すだけ、発問を聞き流すだけ。自分の頭で考えていない受け身のままの生徒が一定数いる。心を揺さぶるような気づきや学びたいという欲求が刺激されずにいる。多くの生徒が、敷かれた受験勉強レールに乗っかって、疑うこともなく、 与えられたものを右から左にこなしていくことが勉強と捉えている。驚くほど教員の指示に素直 である。これでは、高校での学習とは言えない。「なぜ?なんだろう。もっと知りたい。もっと伝 えたい。」という気持ちが、生徒の心に芽生える授業を、先生方が生徒と一緒に作ってほしい。そうすれば、生徒が、自ら学びに向かい自分の可能性を広げ、リーダーとして 21 世紀を拓き社会 に貢献できる資質・能力を獲得できる。」と回答している。

 

 

第2節 岸和田高校での実践

本来、授業改善はトップダウンではなく、教員の主体的な取組みでなければならない。 お互いが切磋琢磨する機会として公開授業週間を設けているが、上手く主体的な授業改善に繋がって行かない現状があった。そこで、京都大学の溝上慎一教授を招いて『進学校におけるアクティブラーニング』と題して教員研修を行った。2015年の冬のことである。溝上教授が語る社会の変化に伴う育成すべき能力の変化や授業改善の事例などを聞き、教員が気づき、その意識に何らかの変化が起こるきっかけとなることを期待した。

溝上教授を招いて、2017年の冬は「理数物理」と「英語Ⅰ」、2018年の春は「数学Ⅰ」と「日本史」を、本校教員を対象にして研究授業・協議を行なった。授業は、進学校の特性を踏まえて知識の習得を大事にしながら、生徒が興味を 持って自らの頭で考え、自らの考えを様々な手法でアウトプットすることで、自らの理解を深めていくよう工夫されるようになってきた。しかし、ごく最近、ドイツの高校と相互交流を始めた。本校の授業に、ドイツの高校生がバディ生徒とともに参加することになった。その感想文を読んで愕然とした。一部を引用する。

『授業参加はドイツの学校との違いが如実に顕れていて、いろいろの面で面白かったです。たとえば、授業中に生徒は眠っており、先生は一人でしゃべっており、生徒は静かに座って、先生の「モノローグ」聞いておりました。そして、生徒からの質問も先生の生徒への質問も無しに授業は終わりました。これって、不思議に思いました。しかし、先生が黒板にタイプライターを打つように漢字を記述する姿は大変魅力的でした。』

ドイツの生徒から見た本校の授業の真実。教室は静かで、教師が一方的に話し続けて、生徒とのやり取りはない。「モノローグ」とさえ表現されている。私が若い頃、聴かされた教員に求められている姿をドイツの高校生も発見したようだ。また、生徒たちは、眠ることを許されていると捉えられている。生徒が眠るような授業をすることは以前から問題とされてきたはずだが。すべての授業がドイツの生徒が観察したようではないと信じたいが、ドイツ生徒が入った授業では、このような風景が展開していたことは事実である。少なくとも校長が授業見学している場合は、生徒も教師に協力的でその場を取り繕っているし、教師も寝そうなあるいは、寝ている生徒を授業に呼び戻している。ドイツの高校生が見たように、一定数の生徒が授業で放置されているのであれば、残念なことである。以来、「これでいいの?」と伝えたくて機会を探ってきたが、ようやく12月の終業式で生徒に語った。本当は、先生の方を意識しながら。

ドイツの生徒の率直な感想が、本校の授業改善への活となることを期している。

 

   図表1 11/29国語の研究授業

 

(1) これまでのAL型授業導入のマネジメント

「高い志を持ち主体的な学びができる生徒。チャレンジ精神に富み、将来、21 世紀を拓くリーダーとしてグローバルに活躍する生徒」と、めざす生徒像を示しその育成のため2016年度より、すべての教科でAL型授業に取組むことを学校経営計画に記載している。この学校全体の目標を個人の目標にリンクさせるために、評価育成システム(大阪府の人事評価)を活用している。具体には、評価育成システムの「授業力」に関する目標を設定する際に、AL型授業に関する目標の記載をお願いしている。これは、教員が慣れ親しんでいる授業スタイルに変化の波を起こすためである。AL型授業に取組む機会を創出した。また、同じ教科担当者間においては、本校独自の「岸高スタイル」を用いて、学年ごとの3年間を見通した教科学習の到達目標や指導上の重点事項を設定するようデザインしている。

 

 

 

教員は、この順に学校組織の目標を個人の目標にまで落し込むことになる。それぞれの目標を達成できるよう自分の授業等を実践していくと、逆ルートで学校目標である生徒像に到達する。同じ方向にベクトルが合わされ、個人の力が教科の力に、そして学校全体の大きな力として合流していくようマネジメントしている。

先に述べたように、授業改善はトップダウンではなく、教員の主体的な取組みでなければならない。京都大学の溝上慎一教授を招いて、授業改善の事例などを聞き、教員が気づき、その意識に何らかの変化が起こるきっかけとなることを期待した。さらに、主体的にAL型授業に取組む教員集団を作るために、2016年度は校長マネジメント経費を思い切って投入し、7人の教員を溝上教授がAL型授業を監修する高校に派遣した。ひとりふたりの教員での見学は、その教員個人の体験で留まってしまう可能性が高いと考えたからだ。

メンバーは、実践事例を広めるキーパーソンの教頭や首席、教務主任を含め、大学入試と関連がある教科の教員を偏りなく参加させたいと考えた。すべての教員に周知することも、また重要だと考え、参加者を公募した後、校長が個別に声掛けをした。AL型授業に関心がある教員たちが、集団で他校の事例を直接見ることで刺激を受け、抱いた個々の思いを共有することができた。主体的なAL型授業の実践が、点から、その集合へと移行する大きな機会となった。また、これまで溝上教授を招いて、「理数物理」と「英語Ⅰ」、「数学Ⅰ」と「日本史」について、研究授業・協議を本校の教員対象に順次行なってきた。まだ未実施の「国語」については、この11月に研究授業を行う計画を立て、3回目となる今回の研究協議の内容は、今後の授業改善に教員が自分事として取組めるよう企画することを教員たちに委ねることとした。

(2) 職員研修(11月29日(3:40~)実施。

6限(2:20~3:10国語の研究授業後)今回の研修は「主体的・対話的で深い学びに向けた校内授業改善の取組の組織化を図る」ことを目的とし、10年目研修(法定研修)の課題の1つとして活用した。職員研修の企画実行チームを立ち上げ、リーダーを10年目研修教員の数学教員を指名し、他のメンバーは、AL型の公開授業を実施した理科・英語・地歴・国語(今回)の授業者とした。素案はリーダーが考え、校長も加わって研究協議の進め方を検討した。当日は、リーダーがファシリテータとして進行することにした。

(研修内容)教科ごとで「これからの社会で生きる大人に求められる力を育む授業」について話し合う。その力をどのような実践事例を交えてグループ討議を行い全体で共有し、学校の課題を考える。

(研修の進行)ファシリテータが、経団連の資料「学生に求める資質能力知識」を提示して、各教科でつけたい力を選び、各教科の授業でどうのようにできるかを問う。ディスカッションシートの作成をし、これに各自の考えを書き込む。

(研修の流れ)(1)教科別のグループで行う。経団連の資料を参考に、「主体性」「実行力」「課題設定・解決能力」「創造力」付け加えてあと1つ2つ教科として考え出す。それらの力を育む授業づくりについて話し合う。(2)教科を解体しすべての教科が含まれるように新たにグループを構成し、(1)の教科で話し合ったことを共有しお互いの教科の特性を知る。 (3)各教科の発表から見える岸和田高校の課題を考え、全体で共有する。(4)溝上先生より、国語の授業も併せて、研修のご講評をいただく。

以上のような研究授業、研修の計画が企画実行チームから提示された。

溝上先生には、1つのグループに参加して一緒に議論していただくこととした。国語の授業者への助言については、研修開始までの間も活用した。最後に、これまでの3年間の流れを踏まえて、今後の岸和田高校の課題やAL型の授業改善にご助言をいただいた。

 

    
    図表2 11/29 研修の様子

 

(3) 『授業デザイン会』の立ち上げと授業改善の指標

新年(H31年)1月より、有志が『授業デザイン会』が立ち上る。11月29日の職員研修の際に公表された。目的は、「岸高の教員同士が教科の枠を越えて、授業実践の共有を行う。」「教員が本校の中で、研究授業、実践発表の機会を持つことで、モチベーションを高める。」ことで、参加者が一緒になって互いの授業について考え、アドバイスをしあい授業改善のヒントを得る。そして、実践し再び共有する(共有→改善→実践→共有)をめざす。教育に関する様々なトピックスについての話し合いを通じて、知識を深め、岸高の教員間の輪を広げる。月例会として、月1回の開催を原則とする。このような『授業デザイン会』の告知が教員研修の最後になされた。今後の展開を楽しみにしている。                                 <11/29研修時のマナボード>

また、生徒が主役となった授業の改善がどのように、進んでいるかの定点観測の方法として、次のような授業アンケートを2016年から授業改善の評価指数として用いている。

 

  

 

これら2項目の学校平均は、2015年3.04 →16年3.06 →17年3.08 →18年3.15(4段階の評価 満点が4)と授業アンケートでは、「授業内容に興味関心を持つことができ、知識技能が身に付いたと感じている」生徒が増えてきている。直近の自由記載では、今までに挙がってこなかったペアーワークやAL型の授業を求める声、注入型授業への不満等が散見されるようになってきた。教員たちの授業改善の実践が、このような生徒の意識の変化に繋がってきていると捉えたい。

 

  図表3 11/29研修時のマナボード

 

 

第3節 結び

育てたい生徒像は、「高い志を持ち主体的な学びができる生徒。チャレンジ精神に富み、将来、21 世紀を拓くリーダーとしてグローバルに活躍する生徒」である。日々の授業が学校生活で最も 多くの時間を占めている。だからこそ、授業の在り方が生徒の育成に最も重要な鍵を握っている。これに対して溝上教授も「生徒が教員の設定する枠を超えていく学びを、進学校の AL 型授業では求められる。」 と指摘している。いまや、本校が育成をめざす 21 世紀社会を拓くリーダーは、様々な場面で飛躍知を創造することまでも求められている。その実現へと、従来型授業では学びの姿勢ができている進学校だからこそ、生徒がもっと知りたいとハートを燃やし、マナビの枠を越えていくようなAL型授業を追及したい。ところで、SSH 等の「課題研究」では、生徒は課題を発見し解決することを学んできた。このような学びをすべての教科科目で生徒ができるように、初めは経営戦略としてトップダウンで AL 型授業を開始した。今では、SSH第1期の効果検証の結果を触媒にして、教員たちの主体的 な取組みへと徐々に変化してきている。今後の課題は、教員それぞれが主体性を持って、生徒が自らマナビの枠を越えて学べるような 授業へと改善していくことである。

新年1月から『授業デザイン会』という自主勉強会がスタートしようとしている。今後の取組が発展的に継続していき、教員間でのさらなる授業改善の切磋琢磨が起こるのを期待している。

冒頭に述べた「学校における主役の転換が必要である。」というパラダイムの転換を教員の一人ひとりが意識し、授業の主役は生徒であると考え、「生徒が主役となる授業をめざす」主体的、対話的で深い学びを実践していくことで、生徒が教員の設定する枠を超えていくと考える。

 

  
    図表4 11/29 研修 ディスカッションシート(大きく

 

 

溝上のコメント

 

 

プロファイル

山口陽子(やまぐち ようこ)@大阪府府立岸和田高等学校 校長


  • 一言:学校は生徒が主役。当然、授業も生徒が主役。組織として授業改善に取り組むには、教員が慣れ親しんでいる授業スタイルに変化の波を起こすための仕掛けがいると考えています。 やがて生徒の変化に触発された教員たちが自発的な取り組みへと深化させていくことを期待しています。

 

 

 

 

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