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(AL関連の実践)【中学・理科】できるだけ生徒に考えさせ議論させる授業を目指して
田中 喬子(花園中学高等学校)
花園中学高等学校のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります
対象授業
- 授業:中学1年生 理科
- 生徒数:35名程度×2クラス
- 教材:新編 新しい科学(東京書籍) 最新 理科便覧(浜島書店)
はじめに
本校の中学理科では英語イマ―ジョンを取り入れており、教員免許を持った外国人教員による英語での教科指導を中心として理科の授業が進んでいく。しかしながら、本校に入学するのは、帰国子女や幼少から英語を学んでいる生徒ではなく、英語に取り組んだのは公立小学校で行われている外国語活動だけという生徒がほとんどである。入学時から英語イマ―ジョンで行われる理科の授業を完璧に理解できる生徒はほとんどいないため、週に1、2回程度、日本人教員による日本語による理科指導を並行して行っている。今回紹介するのは、日本語による理科の授業である。
第1節 目標
理科は日常の生活や自分自身との関係が深い教科であり、習ったことや実験で経験したことを直接的に自分自身の生活に落とし込めるところに魅力がある。そのため、日々の生活の中で「なぜ?」と疑問を感じること、様々なものを比較しその違いに気が付けること、感じたことや気が付いたことを自分の言葉で説明できることを目標にしている。
第2節 今回紹介する授業を行うきっかけ
以前から中学生の指導を行っていたが、その中で苦戦していたことが2つあった。1つ目は、ノートを美しくとることに集中し話を聞いたり考えたりする余裕がなくなる生徒がいること(真面目な女子生徒に多い)、2つ目はノートを書くスピードが生徒によってまちまちであり全員が終わるのを待つことが難しいことである。そこで、授業中でないとできない事と家でもできる事の選別を行い、話を聞いたり自分の考えをまとめ相手に伝えたりすることは授業内で、ノートを書いたり問題を解く作業は自宅で行うスタイルに変更した。
第3節 授業の流れと工夫
① 学習テーマの発表(~5分)
- 「テレビなどで流れる地震速報の情報を正しく受け取れるようになろう」等生徒の生活に密着した内容を提示する。
図1 授業の様子
② 動画や写真などの教材を使った授業の展開
- 4月から何度も「授業中にノートをとらなくてもいいので、その代わりにどう思うのか、身近な例は何かなどを十分に考えてほしい」とお願いする。
- 文字を中心に説明するとノートを書くことに注意が向いてしまうため、教科書や便覧の図を提示したり、動画を流したりなど、文字ではない資料を使用する。
- 短時間(4分程度)でのペアワークやグループワークを毎回2~3回程度行い、自分自身の考えを人に伝え、相手の意見を聞く機会を設ける。
③ 振り返り(5分程度または宿題)
- 授業で使用したスライドや動画を生徒所有のiPadに配信する。
- 【宿題】学習内容のまとめと自身の感想をノートに書き、記入したノートの写真を撮ってloilonote(iPadのアプリ)で提出する。
- 感想に関しては“楽しかった”ではなく、授業中に考えたことや疑問に思ったことなどを書くように指導し、興味深い感想は次回の授業で紹介する。
- 提出したノートをチェックして返信することで生徒のモチベーションを上げる。
図2 記入したノートの写真を撮影
図3 生徒が宿題としてまとめたノート(同一生徒のノート比較)
左:この形の授業1回目 右:同様の形式の授業3回目
第4節 課題
- 生徒がイメージしやすいテーマ設定ができないと、1時間の授業全体がだらけてしまうこと。
私自身にも得意分野・不得意分野があるため、分野によってはかなり苦戦している。
- 宿題で行うノートへの記入内容に差が出てしまうこと。
ノートチェックの際に一つ一つコメントを書いたり、教室で良いノートを紹介したりすると、上図のように積極的に取り組んでくれる生徒もいる。しかしながら、とりあえずスライドを写せばいいと考えてしまう生徒もおり、こういった生徒に対するアプローチの仕方を考える必要がある。また、コメントを書けず〇などの印のみで返却したり、次回の授業までに返却できなかったりすることが続くと、雑に作ったノートが明らかに増えてしまう。
- クラス内での人間関係のトラブルが生じると、グループワークがうまくできない事もあること。
中学生の間におこる人間関係のトラブルを0にすることは不可能である。授業中と休み時間を切り離して考えるように諭すが中1、中2には難しいことも多い。
溝上のコメント
- アクティブラーニング型授業では、板書をできるだけ控えるのがセオリーになってきている。もっとも多い理由は、アクティブラーニングは時間がかかって進度の問題が生じるからである。この授業でもそうだが、多くの教師はICTを利用して対処している。
- この授業の注目すべき点は、進度の問題もあるだろうが、それよりも生徒が美しく板書することに一生懸命で、教師の説明をしっかり聞いたり課題について深く考えたりすることが弱くなる問題を何とか解決しようとしていることだ。すばらしい問題意識だ。
- ふり返りはいい。時間が足りないことは承知しているが、毎回必ずさせて、習慣化に繋げたい。ただふり返りの内容はしっかりチェックする必要がある。教諭も書いているように、「楽しかった」「おもしろかった」といったふり返りは大学でもかなり多い。なぜおもしろかったのか、そこで何を考えたのかを併せて書くように指導を重ねることが重要である。
- (課題について)中学生の対人関係は、発達的に見て児童期から青年期、成人期にかけて抜本的に変化する時期なので、難しい問題である。しかし大学生や大人になると、お友だちや親しい他者との親密圏での“おしゃべり”と、学習や仕事・社会での課題を基にしたより公共圏での“議論”との分別、切り替えが重要な能力として求められる。休み時間と授業時間との切り替えについては、どの学校の教師も多かれ少なかれ問題を抱えている。近い将来改善や発展の方策があれば是非報告をお願いしたい。
【参考ページ】
✓(講話)授業進度の問題をどう解決するか
プロファイル
田中 喬子(たなか きょうこ)@花園中学高等学校
- 一言:主に中学理科と高校化学を担当しています。生き物を観察したり、火を使って何かをしたりなどの経験が乏しい生徒が多いなと感じています。できる限り身近なものを取り入れることで、理科が日常生活で役に立つと生徒が実感できるような授業をしたいと思っています。