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*『桐蔭AL通信』の原稿を本ページ用に執筆し直したものです
アクティブラーニングの導入にあたって、大きな障害となっていることのひとつは、授業進度の問題です。桐蔭学園で実施されたアンケートでも、「ALによる授業進度遅れ」を課題と捉えている教員が多いことが分かっています。以下、この問題についての対策や考え方を紹介します。
(1) 電子黒板・プロジェクターを活用する
即効性が高いのは、プロジェクター等を利用してスライドを映写することです。生徒がノートに写さなくてもよい内容であれば、すぐに次の展開に進めます。生徒がノートに写す必要がある内容であれば、机間巡視やちょっとした補足をすることができます。いずれにせよ、その場で黒板に書くよりも作業時間を短縮することができます。
図1 プロジェクターを活用する
スライドの内容をプリントアウトして配るのもよいでしょう。スライドを軸に授業を進める場合、スライドの横にメモ欄を設けたプリントをノート代わりに配付する方法もあります。
もちろん、板書には板書の意味があります。文字そのものや書き方がその教員の魅力になっていることもあるでしょうし、たった今出た意見を見事に板書していく教員に敬意を払う生徒もいるでしょう。しかし、その板書は本当に必要なのか(映写してはいけないのか、プリントにしてはいけないのか)を考えてみることも、有意義だと思われます。板書とスライドのあり方について考えることは、授業をデザインすることにつながります。
(2) 教科書・資料は自分で読めばいい
生徒が自分でできることは生徒に任せることが大切です。教科書や資料を読むといったことは、自分でできることでしょう。もちろんこれも、授業で教科書を読んではいけないということではありません。全員がいる場で読む必要があるならば読めばよいと思います。ただし、「どうせ授業のときに読む時間がある」と生徒が思うと、生徒が自分で読む動機は低下します。辛抱が必要なこともありますが、自分でできることは自分でやる、教室では授業でしかできないことをやるという意識を、生徒教員ともども高めることが大切だと考えています。
(3) 授業外学習をしないと参加できない
自分でできることは自分でやるということです。それをさらに進めて、授業外での学習を、アクティブラーニング型授業の前提とすることがあります。例えば、ある文章について要約をつくってきて、グループワークで意見交換するとします。すると要約を作ってきていない生徒は議論に参加できません。他のメンバーが議論をしている中で、自分だけ参加できないというのは生徒にはつらい状況です。実際、ふり返りシートにこのような感想が書かれることがよくあります。そこで「次の機会には改善しよう」とコメントを返したりします。
毎回の授業でこうしたしかけをつくる必要はありませんし、全科目でたくさんの宿題が課されては生徒がパンクしてしまいます。しかし、生徒が、授業外学習をしたほうが学びが楽しくなると認識することが大切です。そうなると結局は、教材や発問のおもしろさが求められます。
(4) 時間を管理する
授業の流れを細分化すると、たくさんの場面から構成されていることがわかります。そのひとつひとつの切りかえをスムーズにすることで、かなりの時間が生み出されます。そのための方法の一つとして、タイマー等を用いた時間管理があります。桐蔭学園では、多くの場合、ペアワークやグループワークの時間を指定し、プロジェクターにタイマーを表示しています。教員が自分の説明時間を指定することもあります。
時間に縛られ過ぎるのもよくないのでしょうが、授業時間には限りがあるので、それを効率的に使いこなすために管理することは大切です。
図2 プロジェクターを活用する
具体的な方法をいくつか挙げましたが、根本的には、生徒の学びにおいて、それは本当に必要であるか問い直すことです。例えば、ベテラン教員には「定番のネタ」というものがよくあります。長年の経験を通して、生徒の興味を喚起する話題を蓄積しているのです。それはたしかに面白い話なのです。ただ、本当にその話をこれまで通りに話すことが、生徒の学びになるのか。それとも、その話をやめる、もしくは短縮するなどして生徒たちがアウトプットする時間をとるのがよいのかなど、考えてみることが大切だと思います。
もうひとつ重要なこと。教科書の内容は、すべて「教員が説明」しないといけないものでしょうか。「生徒が学ぶ」必要はあるでしょうが、むしろ、授業を通して身につけるべきは、自ら学ぶ力ではないでしょうか。
網羅的に説明しないと教員としての責任を果たせないと考える方は多いと思います。しかし、それで達成されるのは、「教員が説明すること」であって、「生徒が学ぶこと」ではありません。自ら学ぶ力の育成には、むしろ「生徒が学ぶこと」に注力することが大切ではないでしょうか。
桐蔭学園の取り組みや考え方をいくつか紹介してきました。しかし、そうはいっても「キツイものはキツイ!」というのが本音です。そうした苦労や不安の中で、生徒の学びにスポットを当てて工夫を重ねていきたいと思っています。
(文責:関谷吉史 プロファイルはこちら)