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(AL関連の実践)神奈川県立全日制普通科高校である本校はいかにしてALへの歩みを始めたか

作 :若井千明(神奈川県立港北高等学校 総括教諭)
監修:布川勝也(神奈川県立港北高等学校 校長)  

神奈川県立港北高等学校のウェブサイト

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第1節 港北高等学校について

港北高等学校は、神奈川県横浜市にある県立の普通科の高校である。2018年に50周年を迎える。平成25年から27年の三年間に「県立高校教育力向上推進事業Ver.2 確かな学力向上推進」事業の指定を受け、これに取り組む中で、アクティブラーニングと出会い、全校的なAL推進へと舵を切った。その頃、本校が育む力として、「自学力」という言葉を使い始めた。その後、平成28年度から平成30年度の三年間を神奈川県教育委員会県立高校改革実施計画(Ⅰ期)「授業力向上推進重点校」の研究指定を受け、「アクティブ・ラーニングの視点による『自学力』の育成」をテーマに、研修・研究を進めてきた。

 

※自学力とは・・・本校の教員の発案による造語で、2013年から使い始めた言葉。過去の研修の中で、「自学力」とはどういう力か各教科に考えさせたこともあったが、現校長により、「課題を発見し解決するために必要な『主体的続ける』」と定義された。(フォント等は常にこのようにしている。)

 

 

第2節 本校の研修について

「確かな学力向上推進」(H25~H27)の頃から続くスタイルが、今でも大筋で踏襲されている。図表1が、平成29年度、開発・広報グループが中心になって行った研修等の結果である。多忙化の中、この研修を避けようとする動きも、かつて、見られたが、ここで管理職の力が大きくものを言った。現在、この研修の年間計画は、定着しており、内容のバージョンアップが課題となっている。

 

 
    図表1 平成29年度 研修・研究授業などの実施結果

 

 

第3節 ALとの出会い

「確かな学力向上推進」事業の中で

@平成25年度

研究指定の中で、様々な授業の形を模索した年である。コの字型机配置による授業の研修を行ったり、研究授業などを行ったりしていたが、どこに向かって、何をしていけばいいのか、方向を定め切れずにいた時代であった。

 

@平成26年度

この年は、港北高校にとって、AL始動の年となった。ALが、様々な場所でささやかれ、教育誌や様々な研修会の中にも登場し始めていたようだが、ALに注目して、組織的に実践を進めようとしている高校は、近隣にはなかったように思う。(全国的には、既に多くの大学や高校で行われていた実践ではあったようだ。)その中で、本校は、ALを中心に据えた全校的授業改革への歩みを始めた。それは、その当時の担当者の熱意によるものであり、校長のリーダーシップによるところも大きかった。

ALとの最初の出会いは、産業能率大学教授の小林昭文先生による講演と本校生徒に対する模擬授業である。グループでの話し合いの中で、協力しながら物理の問題を解いていく授業の方式は、新鮮な驚きであった。かつては、教員が行っていたことを生徒同士でやらせるのである。どこかで見たことがあるような自然な流れにも見えた。仮に同じことを行っていても、その授業の意味や形が全くの別物であることを意識するかしないかということは非常に重要なことであって、その意識の存在がより大きな効果を生じることを改めて感じさせられた。何のためのグループワークで、何のためのアクティブラーニングかということを、強く、深く意識し、理解しているということが大事であることを学んだ。しかし、小林先生との質疑応答では、技術的な質問が多く、アクティブラーニングの本質とは何かという疑問を感じる教員は、少なかったように思え、それが残念であった。

同じ年の夏、京都大学の溝上慎一先生が来校され、「仕事・社会へのトランジションと変わる学校(高校・大学)の学び」について講演をしていただいた。京都大学高等教育開発推進センター教授が、神奈川の公立高校のプレハブ仮校舎の会議室にいらして、講演をしている。それだけでも、溝上先生の熱意が伝わってくるのだが、話そのものが、たいへん興味深く、多くの職員にとってハッとさせられる衝撃的とも言える話だった。京都大学の学生の現状から始まって、なぜ、今、高校教育が変わらなくてはならないのか、なぜ、アクティブラーニングなのか、一つひとつの話が腑に落ちていく。早口で語られる関西なまりの言葉が、頭の中にどんどんと流れ込んでくる。まさに、この講演こそが、港北高校のALへの覚醒であった。

 

@平成27年度

様々な刺激を受け、多くの教員が何かを始めようと思っていた。が、その試みがALと呼べるものなのか、そうではないのか、確かな手応えが得られぬまま、試行錯誤を続けている状態であったと考える。

夏休みに企画された一日研修は、下町壽男先生の盛岡三高でアクティブラーニングの実践報告であった。未履修問題から始まった授業に対する問題意識が、参加型授業を生み出したというお話であった。具体的な授業例をDVDなどで拝見し、ALの具体的イメージを、より一層確かなものにした。

 

「授業力向上推進」事業の中で

@平成28年度

3年間の研究指定における研究テーマを、「『自学力』の育成~アクティブ・ラーニングの視点による授業改革~」として、研修・研究を開始した。直近3年間の「確かな学力向上推進」事業の中で行われていた年4回の全校研修会、年2回の全教科による公開研究授業が、そのまま引き継がれた。職員の中には、多忙化の中でも、このような研修が頻繁に行われることについて協力的な態度で臨む雰囲気ができていた。さらに、「確かな学力向上推進」事業の中では、教職員や生徒の変化を測るデータがあまりにも少なかったとの反省があり、教職員及び生徒の意識・行動アンケートを年2回行うことになった。(図表2にその一部を掲載)

 

   
    図表2 生徒の意識・行動アンケートの一部(大きく

 

 

この年の8月22日、一日研修での講演で、京都大学溝上慎一先生に再登場いただき「これからのアクティブラーニング」をテーマに語っていただくことができたのは、本校の授業改革にとって、とても大きなことであった。本校の「確かな学力向上」から「授業力向上」の要に、溝上先生の話があり、職員のAL推進に対する大きなブースターとなった。

この頃から、新聞でもアクティブラーニングについて取り上げられることが多くなった。本校にも取材に来た読売新聞の記者が、生徒の生の声を直接聞きたいとの要望があり、一年生の数名の生徒について、副校長同席のもと、生徒がアクティブラーニングについてどう思っているのか聞き取りを行った。結果は、驚くべきもので、「もっとアクティブラーニングをやりたい」「グループ学習で、理解が深まった」等、アクティブ・ラーニングの視点による授業に対して、非常に肯定的に捉えていることが、生徒の口から直接語られた。このことは、研修を担当する開発広報Gにとって、非常に嬉しいことであり、その後の研修実施に向けて大きな自信となった。

※読売新聞 2016年8月2日(火曜日)3面 「アクティブ授業 戸惑う教師」を参照

 

@平成29年度

授業力向上推進事業の2年目となった。研修の内容については、前述の「本校の研修について」で紹介したとおりである。

特に、8月の授業力向上研修Ⅱにおいて、関西大学教育推進部 森朋子教授による講演「理解を深める授業デザイン」の中で、「なぜアクティブラーニングなのか」ということに併せて、「個→協働→個」「内化→外化→内化」の適切な割合の提示など、授業方法に具体に踏み込んでお話をいただいたことは、とても有益であった。

また、9月2学期初めの研修Ⅲでは、校長の言う授業での取組み「本時の目標・流れの提示、本時の問い、本時のまとめ」について、教科毎に意見をまとめ、最終的には、職員会議の議題として取り上げ、改めて学校全体で実施することになり、その成果が早速、2学期末の生徒による授業評価に表れたことも特筆すべきことであった。

どの研究・研修も、教員・授業の変化が、生徒の行動の変容、ひいては生徒の”未来力”につながらなければ、生徒の評判がいくら良くても、その価値は半減してしまう。未来につながる資質・能力の育成に向け、さらに研修・研究を続けていきたい。

 

 

第4節 まとめ

数年前まで、遠慮がちに「授業改善」と呼んでいたものを、今は、大きな声で「授業改革」と叫んでいる。教授者の視点から学習者の視点へ、教師主体から生徒主体へ、生徒のOutputの重視などの大きな変化を考えれば、当然とも言える。学校は、教授の場から、学習の場へと変化したのだ。「学校改革」とも言えるかもしれない。社会の急激な変化に伴い、学校も変わらざるを得ない。世界は、ますます小さくなり、自分の居住する地域や日本のことだけに関心を持っていれば、事が済む時代は終わった。特に、学校で生徒に関わる者として、狭小な視点にとどまることは、生徒にとって大きな損失である。我々は、どこに向かって、何をすればいいのか、刻々と変わる世界と対峙しながら、職務を遂行しなければ、「学校の勉強は、社会に出ても役に立たない」と言われてしまうのだ。

この数年の研修を通して、「主体的・対話的で深い学び」を実現するには、主体性の部分が最も重要であると考えるようになった。それは、様々な経験の中で培われる。小さな成功体験の積み重ねでもあるし、留学体験であることもあるし、災害などの悲しい出来事が発端になることもあると思う。杉田玄白や前野良沢が「解体新書」を、満足な辞書もない環境の中、オランダ語の原著「ターヘルアナトミア」から翻訳し得たのも、まさに、強い目的意識を持った主体的な学びに他ならない。

本校の職員は、新年度になると相当数の入れ替わりがある。特に、最近は、大量採用時代の教員が退職を迎え、若い新採用に代替わりする時代に突入した。それでも、研修の中で、授業改革への理解は、決して浅くなっているわけではない。高校生が、未来を見据え、様々な学びや様々な体験につながる場所として、本校が変わり続けていくために、これからも、様々な学校の実践や、大学での研究成果などについて、勉強していきたい。

 

 

溝上のコメント

 

 

プロファイル

布川勝也(ふかわ かつや)@神奈川県立港北高等学校 校長


  • 一言:ALと出会う前から「書く」ことを推進していました。平成28年度に本校に赴任し、ALの名のもとに既に推進されていた協働学習と私の「書く」ことが融合し、真のAL、「深い学び」に向かって一歩前進できたと自負しています。

 

 

 

 

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