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各レッスンで学んだ内容・表現・文法事項を活かした表現活動を行い、基本事項の定着と、表現力を伸ばすことを目標にしている。生徒は1年生の1学期からプレゼンテーション等の発表に挑戦し、基本的な文章構成(Introduction→Body→Conclusion)や文法事項・表現を学んで2年、3年とスピーチ内容・パフォーマンスの向上を目指す。発表活動には必ずオーディエンスがいるため、「どうしたら相手にわかりやすく伝えることができるか」を考え、文章表現や話し方(アイコンタクト、話す速さ、ジェスチャー等)、アイテムに工夫をするよう指導をしている。
① 速読練習(教科書の本文の通し読み) True or False Question
② レッスン全体の導入(英問英答、写真やビデオなどの視聴覚教材等)
③ レッスン後の最終目標の提示
④ 本文で扱う文法事項の教え合い活動
⑤ Partごとの本文理解や音読(平行してプレゼン等のテーマ決定、情報収集を毎回少しずつ宿題にする)
⑥ 発表準備、練習
⑦ 発表、自己評価・相互評価
発表活動があるLessonは、①~④までを2時間、⑤を5~6時間、⑥を1~2時間、⑦を1~2時間で行い、全体で9~10時間程度を目安に計画を立てている。すべてのLessonに同じように時間をかけることは難しいため、学期単位で「発表活動まで発展させるLesson」と「内容理解、リスニング等に重点を置くLesson」に分けて授業時間の調整をしている。
(1)身近な事柄の教材化(=自己関連性)とICTの活用
授業の導入部分では、いかに生徒の興味を惹きつけ、自分に身近な話題として認識してもらうかが課題となってくる。コミュニケーション英語ⅢのLesson4では、生徒に事前にアンケートを実施し、その結果を織り交ぜてイントロダクションを行った。「成功するために最も重要なことは努力か、才能か」という答えのない問いを単元を貫く問いに設定し、ペアで意見交換を行ったあと、アンケートの結果をパワーポイントを用いて説明した。アンケート結果の傾向がクラスごとに異なることや、ユニークな意見を取り上げて全体で共有することができ、トピックに対する生徒の自己関連性を高めることができたのではないか。
★個→協働→個のサイクル
個人で考える → ペアでの意見交換 → クラス全体で様々な意見を共有する → 再び個人で意見をまとめる。
生徒が多様なものの見方を吸収し、それを自分なりに消化して再び自分で考えることができるサイクルである。このレッスンでは導入で投げかけた問いについて考えながら本文を読み進め、最後にもう一度ペアで意見交換をさせて、考え方の変化、意見の深まりを感じさせることができた。
★ICT教材
ICT教材はこうしたレッスンの導入部分でも有用である。写真やグラフを見せたり、回収したプリントをスキャンして取り込むことで生徒が書いた英文を手書きの状態で見せたりすることができ、他の生徒への刺激となる。同時に視覚教材によって説明の時間を省き、生徒主体の活動により多くの時間を取ることができる。
(2)本文理解も目的を持って主体的に
表現活動の前段階である教科書の本文理解の過程でも生徒を受身にさせず、自分で考えながら読んで欲しい。そのため、授業の始めに“Today’s Question”を1つ提示し、その答えを探して重要な部分にアンダーラインを引きながら読んだり、メモを取りながら聞いたりする活動を行う。教科書のトピックに興味を持ち、目的を持って主体的に本文を読んで欲しい。“内容をわかりたい”と思ってもらえるよう、本文のポイントとなる問いを投げかけ、答えを見つけたあとはそれについて自分の考えを深め、他の生徒と意見を共有する機会を設けるようにしている。
(3)まなボードを利用した文法事項の教え合い活動(ジグソー学習)
文法事項の説明は生徒にとっては受身でつまらない時間になってしまいがちだった。さらに教える側も知らず知らずのうちに説明時間が延び、私自身の自己満足の時間で終わってしまうことが多かった。生徒も説明を受けただけで何となくわかった気になってしまい、実際に使おうとするとその表現の使い方がわからない場合が多い。一斉授業で説明をすると生徒は質問しづらく、こちらも生徒がつまずいているポイントを掴みにくい。
これらの問題を解決するため、グループで互いに先生役と生徒役になり、文法の授業をし合う活動を始めた。
① 3~4人グループ(ジグソーグループ)を作り、各自が担当する文法事項を決める。(グループの人数は学習する文法事項の数によって変わる)
② 同じ文法事項を教える者同士で①とは違う3~4人グループ(専門家グループ)を作り、その文法事項をどう説明するか話し合う。教員は机間巡視をし、生徒だけでは解決できない疑問にヒントを出す。使用したプリントは図5のとおり。
③ 話し合った内容をもとに、個人で「板書」の準備をし、説明のリハーサルを行う。(準備の仕上げは宿題に出す。)
④ ①で作ったグループに戻り、自分の担当する文法事項をまなボードを使ってグループメイトに説明する。
⑤ 生徒役はメモを取りながら説明を聞き、先生役に質問し、互いに教えあって理解を深める。
⑥ 振り返りシートを個々で記入し、各文法事項の理解度を自己評価する。
⑦ 提出された振り返りシートを元に、次の授業の冒頭に質問の多かった点や注意すべきポイントを全体で振り返る。
★主体的な文法学習
このグループ活動を通して、文法事項の重要な点、実際に使うときに注意が必要な点などをグループメンバーと共同して主体的に学ぶことができる。生徒からは「わからないことを気軽に聞くことができ、取り組みやすい」、「人に説明することで理解を深めることができた」という声が多かった。また、一斉授業で教員が教える場合はポイントを絞った説明になるが、一人の生徒の素朴な疑問にグループ全員で答えを出そうとすることで、思わぬ内容の深まりが起こる場面も少なくなかった。さらに、文法学習で生徒が自分から文法書を開き、納得がいくまで何度も解説を読んでいる様子を初めて見ることができ、受身にならない主体的な学習、自学力(※)の育成につながる学習形態としての効果を実感した。
※自学力…本校の造語。正式には「課題を発見し解決するために必要な『自ら主体的に学び続ける力』」。
(フォント等は、常にこのようにしている。)
★まなボードの活用
先生役が授業を行うときには、まなボードを利用した。宿題としてあらかじめ作ってきた「板書」となるプリントを透明なシートの間にはさみ、その上にアンダーラインを引いたり、単語を書き足したりすることができる。ボードを使うことで、グループのメンバーに見せながら説明ができるので有用だった。
★一人ひとりの役割を明確にする
グループ学習では、生徒間の習熟度の違い等によって活動に積極的になれない生徒が出てきてしまうことがあるが、ジグソー法を用いた活動では、グループ内での役割分担を明確にすることで、生徒全員に責任感が生まれた。最後には元のグループで“先生”として独力で文法事項の解説をしなければならないため、専門家グループでの活動にも助け合って熱心に取り組み、自分の発表に備えた生徒が多かった。「仮定法過去では、なぜ過去形の動詞を使うのか」など、優れた解説をした生徒にはクラス全員の前で再度授業をしてもらい、時制についての考え方を共有することができた。また、文法事項について調べる日ともとのグループに戻り一人ずつ授業をする活動の日は分けて設定し、その間に宿題としてよりよい解説ができるよう“先生としての授業準備”をさせることで、家庭での文法の勉強の仕方にもヒントを与えることができたのではないか。
★生徒を“飢餓状態”にさせることの大切さ
⑦では“プロの先生からの補足”として、結局は教員が補足説明を10分程度行うことになるが、自分で調べ、友達と考えても解決しなかった部分についての解説なので生徒の集中度は非常に高い。教員が一方的に説明すること自体がすべて悪いわけではなく、生徒達自身が一度「わからない、知りたい」と実感してから教員が解説することが必要なのだと感じた。
① 生徒自身に授業の見通しを持たせる
その日の授業の予定を黒板に書き、授業の流れを生徒に提示しているが、「今どの活動をしているのか」がわかるよう、改善していく。生徒の活動には制限時間を設けることが多いため、残り時間を全員が確認できるよう見やすいタイマーを使用する。
② ペア活動等の成果の可視化
短くても生徒の発表の機会をできるだけ毎回の授業で作る。インプットした事柄を確認するだけでも、前に出ての発表の機会を作ると、生徒は発表することを前提に各活動に入るようになるのではないか。しかし、限られた時間の中でこれをどのように組み込んでいくかが課題である。
③ 単元で扱う文法事項・表現などをどのように表現活動につなげていくか
レッスンの最後に行うプレゼン等に教科書の本文を読んで学んだ内容・表現・文法事項が活きてくるようにすることは大きな課題の一つである。身につけさせたい表現やスキルを早くから明確にし、そこから逆算してレッスン全体の計画を立てることが必要なのではないか。
④ 活動のマンネリ化、ルーティン化
生徒からの要望もあり、文法事項の教え合い活動は繰り返し行ったが、何度も同じ活動を重ねるとどうしてもマンネリ化し、生徒の集中力が低下してしまう。学習効果の高い活動をルーティン化することにもメリットはあるが、活動の内容を少しずつ高度なものにしたり、互いに評価し合い、競い合えるようにしたりすることも必要なのではないか。
⑤ 即興性をどう作るか
2020年度からスタートする新しい大学入試においては、ライティング・スピーキングの能力も求められる。ある程度の時間をかけて準備し、練習してきたものを発表する活動に加え、質問されたことに対して、即興的に英語で答えるような活動を授業にどう組み込んでいくかを考えていく必要がある。
潮来 友梨(いたこ ゆり)@神奈川県立港北高等学校