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五味智子(大阪府立岸和田高等学校)
大阪府立岸和田高等学校のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります
物理が苦手な生徒とそうでない生徒の決定的な違いは、物理現象と式の繋がりが見えているかどうかであるように思う。物理では単に公式の丸暗記ではなく、一つの式を立てるために物理的な意味を理解する必要がある。しかし、それは授業をただ聞いているだけで習得できることではない。生徒自身が考え、実際に式を立てる作業が必要となってくる。
高校の物理では身近な現象を扱う場合が多く、イメージがつかみやすい一方で、適切な式や成り立つ法則を判断するためには、物理的視点をもって思考し、さらに問題演習を行うことが必要不可欠となってくる。しかし、身近な現象ゆえに生徒は学習前から誤った理解をしていることも多い。したがって、一人でじっくりと考えることも必要であるが、その誤った概念を他者との議論で「気づき」、正していくことも重要であると考える。またその際には、直接的な解法だけでなく、アプローチ方法や答えの論拠について議論する必要があり、そのためには、物理法則や数学的知識の正しい理解も必要である。よって、アクティブラーニング型授業での他者との話し合いを通じて、問題の解法を知るということだけでなく、自然と物理の理解を深められるような授業を目指している。
単元名:第1部 物体の運動とエネルギー 第3章 仕事とエネルギー 4 力学的エネルギーの保存
2017年10月に、1年生に対して実際に行った授業を紹介する。約1時間の授業時間を使い、図1のプリントを行った。
授業プリントの構成について:
「講義と議論 ― 基礎問題の演習 - 理解を深める問題での発表」と、段階を踏みながら「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」の向上を図る。
授業ではどの過程においても考えることを意識することが重要である。物理では式の意味を理解して使いこなさなければならない。上で述べたように、ただ授業を聞いているのでそのような力はつくはずもなく、常に「なぜそのようになるのか」と疑問の目で現象を見て思考しなければならない。授業の50分ではできることが限られているが、問題解決への系統的なアプローチは必要であり、またそれらの経験を通して得られた「気づき」が、学習意欲の向上に繋がると考えている。
授業の流れ:
まず初めに、力学的エネルギー保存則に関わる重要な「保存力」の説明をする。「保存力」である重力のする仕事が、経路によって変化しないことを確認させた後、「非保存力」である摩擦力のする仕事を取り上げることで、「保存力・非保存力」の違いを理解させる。
次に、力学的エネルギー保存則の成り立つ例をとりあげ、実際にそれを導くように指示する。多くの生徒が中学校の学習で、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されるイメージをもっているため、初めから速さをもつ物体となると混乱する。しっかりと生徒が「力学的エネルギーとは何か」、「仕事とエネルギーの関係」を理解し、イメージをつかめるような工夫をしていく必要がある。また、どのように考えたのかメモを取るように指示し、次回の発表のための準備をするよう指示する。
時間 | 学習内容・学習活動 | 指導上の留意点 |
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【保存力についての講義】
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【非保存力についての講義】
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+ 次回15分発表 |
【力学的エネルギー保存則の導出】
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生徒の様子:
【保存力についての講義】
生徒は教師の説明を聞きながら、重力のする仕事について考えていた。ペアで答えを確認し合い、なぜそのように考えられるのかを説明できるようになることを目標とし、答え合わせの際には、2組のペアに説明するよう指示をした。
【非保存力についての講義】
生徒は教師の説明を聞きながら、保存力との違いを考えようとしていた。摩擦力がする仕事が経路によって異なった値になるということは、すぐに理解できていた。
【力学的エネルギー保存則の導出】
生徒は、既習事項の確認をし、中学でも学習した力学的エネルギー保存則を文字式を用いて導く方法を考えていた。説明の仕方は大きく分けて2通りの答えに分かれ、一つは学習したばかりのエネルギーの原理を用いるもの、もう一つは1学期に学習した、等加速度直線運動の式から導出するものであった。ほとんどのペアが答えにたどり着き、代表で1組のペアに説明をするよう指示をした。
図2 ペアワークの様子
クラスによっては集中して活動できているクラスと、できていないクラスがある。また、そのときの生徒の気分によっても集中力が左右されることから、授業の導入で興味・関心をどれだけもたせられるかが重要となってくる。さらに、ペアワークの際には、学習到達度の異なるペアや、コミュニケーションを取るのが苦手な生徒のペアが、あまり教え合えていない状況も見られるため、声かけに工夫が必要であり、今後の課題として取り組んでいきたい。
文献
溝上 慎一(編)(2016).高等学校におけるアクティブラーニング 実例編.東信堂
エドワード・F・レディッシュ(2012). 科学をどう教えるか:アメリカにおける新しい物理教育の実践.丸善出版
R.D.ナイト(2017).物理を教える 物理教育研究と実践に基づいたアプローチ.丸善出版
【参考ページ】
✓(講話)まなボードがあるとグループワークが進むのはなぜか?-認知カップリングの考え方
五味智子(ごみ ともこ)@大阪府立岸和田高等学校