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宗正久志(関西学院千里国際中等部・高等部)
関西学院千里国際中等部・高等部のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります
主な目標は、
① .アメリカの工業と農業の重要な特徴を理解すること
② .自分たちで仮説を立て、検証し、結論を述べるという簡単な探究のプロセスを理解し、実行すること
③ .教科書、資料集、地図帳などの中にある様々な情報を吟味し、自分たちの仮説に関する情報を見つけ、整理すること
④ .情報に基づいて、自分やグループの主張を組み立て、論理的に表現すること
⑤ .他者と積極的に話し合い、協力し、リサーチを行うこと
日本語や社会科が苦手な子でも楽しくクラスメートと協力したり、簡単なリサーチをしたりすることで、社会の授業に主体的かつ活発に探究的な問題解決学習に取り組めるような授業を心がけています。
(1)導入(10分程度)
最初の授業では、まず生徒たちに「今、世界で一番経済が強い国ってどこだと思う?日本って何番目くらいだと思う?」と聞き、隣の人(机は2人1組にする)と相談させ、机間巡視をし、相談を促します。その後、予想を聞くため、挙手をした生徒を数人当てます。大体の予想が出たところで、タブレットのGoogleアプリを起動し、「世界の経済ランキングは?」と聞いてみます。生徒はこの臨場感が楽しいようです。検索結果の中から、あらかじめ調べておいた信頼性の高いサイトへアクセスし、みんなでランキング(名目GDPランキング)を下位から見ていきます。この感じも生徒はドキドキして楽しいみたいです。
その後、そのランキング1位がアメリカ合衆国であること、また2位の中国とも2倍弱の差があることに気づかせます。そして、「なぜアメリカってここまで経済が強いのだろう?」と生徒に今回の主題となる質問をします。ついで、「じゃあ、アメリカって言ったらみんなどんなイメージかな?何でもいいからあげてみて。」と生徒に聞き、生徒が持つアメリカのイメージを膨らませます。すると、「でっかい」「アップルとかグーグルの本社がある」「スタバとかマクドナルドとか」という答えが返ってきます(反応が少ない場合は、教師が数名生徒を指名したり、いくつか用意しておいた写真を見せます)。その後、その彼らのイメージと主題の質問を結びつけて、「そんなイメージとアメリカが世界一の経済大国って関係あるのかな?」と再度質問し、生徒の興味関心を引き立てます。
(2)展開
展開①(仮説→グループリサーチ)(50分程度(2レッスン))
生徒が予想し始めたところで、生徒への本時のResearch Questionをホワイトボードに書きます。シンプルに「なぜUSAは世界一の経済大国なの?」です(図表1)。そして、「これからの授業で、この答えが出せるようにみんなで協力して考えてみよう。そして最終的にはそれぞれが結論を言えるようになろう」とこの授業の目標を提示します。
まず、クラス全体に簡単に、「仮説→検証・考察→結論」という探究のプロセスを可視化したシンプルな図を用いて説明し(図表2)、本時の目標としてグループで仮説を立てることを確認します。(これまでの授業で、グループでの調べ学習に慣れているので、今回は「仮説」という新しいステップを加えています)。
そして、グループを生徒の興味に応じて、工業チームと農業チーム (1グループ3~4名程度)、同じくらいのグループ数になるように分けます(この理由は、教科書や資料集がアメリカの工業と農業に着目しているからです)。その後、生徒はワークシートに沿って、まず個別に自分なりの仮説を考え、自分のノートにまとめます(図表3)。そして、最終的にグループ内で話し合い、自分たちのグループの仮説を立てます(図表4)。誰かの仮説をそのまま採用しても、全員の意見を反映させた形でも構いません。例えば、「アメリカの農業が発展しているのは、広い土地があり、大量生産ができる説」という感じです。本時の終わりにクラス全体に自分たちの仮説を発表します(図表5)。
2回目の授業では、授業全部を使い、前回分けたグループで協力・手分けして、教科書、資料集、用語集、地図帳、映像資料(NHK for Schoolを使用)から、なぜアメリカの工業や農業が発展しているのか、その特徴を探し、見つけた情報をどんどん付箋に書き出していきます (1つの付箋に1つの情報を書かせます) 。
展開② (情報の検証・考察→結論)(40分程度)
3回目の授業では、自分たちが集めた情報を整理し、特徴をまとめ、自分たちの仮説がどこまで正しくて、どこが異なっていたのか考察し、自分なりの結論を書きます。まず、前回情報を書き出した付箋をグループ内で確認し、情報をそれぞれの特徴にグループ化し、大きめの用紙(A3程度)に整理していきます。例えば、「降水量の低い牧草地では肉牛の放牧が盛ん」と「グレートプレーンズでは小麦が栽培される」は両方「自然を活かした農業」でまとめることができるでしょう。その際、教員は机間巡視をし、生徒が正しい方法で行なっているか、適切なまとめ方になっているかどうかを確認し、適時アドバイスをします。
情報が整理できたら、その要点をワークシート3にそって、自分のプリントに整理します。そして、本時の最後に、グループ内で自分たちの仮説がどこまであっていたかを検証し、個人のノートに結論を書きます。書き方は、ワークシートの4にあるように、ある程度教員側でフォーマットを示し、論理的な表現ができるように助けます。
(3)まとめ(情報をクラスでシェアし、確認する)(40分程度)
最後の授業では、自分たちの仮説と検証結果をクラス全体に発表(5分程度)する準備をし、発表します。この準備中も教師はグループを回り、こまめに内容をチェックし、情報に大きな間違いがないか、結論は論理的に表現できているかを確認します。間違っていれば間違いに気づくような質問をします。なお、グループの結論は誰か一人の結論でも良いですし、グループでまとめたものでも構いません。「一番良い結論が発表できるように」準備させます。
その後、教員が各グループのよくできているワークシート3の表を1つ選び、カメラで撮り、クラスのスクリーンに表示し、グループごとに5分間の簡単な発表をさせます。
最後に、教師がこの単元で行ったリサーチの方法を生徒たちともう一度おさらいし、生徒たちが何をできるようになったかを確認して終了します。
毎時間の授業で意識していることは、まずは生徒の興味・関心を引くことです。ICTや身近なものを取り入れて、できるだけ世界と子どもたちを結び付けられるようにしています。そうすることで、生徒の自発的、主体的な学びが生まれると思います。
このグループリサーチで大切にしているのは、自分の主張を組み立てるために情報をどう使うべきか、などの「情報を吟味する力」です。敢えて、教科書や資料集、地図帳などに情報を限定しているのは、そうすることで、生徒は教科書の隅々まで読み、情報を比較、分析、評価しやすくなると思うからです。
生徒に役割分担を明確に与えるのも大切だと思います。学習者へ「自分の学習への責任」を自覚してもらい、自分が他のグループのメンバーにも必要な人間だと思い、思われることは自身の学習へのモチベーションや自信にも繋がるはずです。
全てをグループ学習にしない点も大切にしています。個人で考え、作業をする時間とペア・グループで協力する時間を分けることで協力する力だけでなく、自主的な学びや個人の成長にも効果的だと思います。
また、対象は中学1年生ですので、クイズを入れたり、グループ同士で内容や速さを競わせると楽しく学習することができます。
生徒達がグループワークをしている時は、机間巡視をこまめに行い、各グループが集中して取り組んでいるか、困っている生徒はいないかを確認し、フィードバックをするようにしています。
本校の生徒の学びへの姿勢は、ありがたいことに以前から非常に積極的で、私の授業を通してそれがより高くなったのかどうかは測れない部分があります。ただ、毎回とても楽しい雰囲気で授業ができているので、授業はやりやすいです。また、基礎知識の理解を問う定期テストの点数も全体として目標点を超えることができているので、安心しています。
現在、課題としているのは、生徒の知識以外の情報処理スキルや論理的思考スキルをどのように評価し、より高めることができるのだろうか、という点です。現在は、机間巡視をこまめに行い、生徒の分析や説明の様子を観察すること、フィードバックを随時行うこと、そして、まとめの文章を学期末に見ること、などを行なっています。定期テストにもそのような力を測ることができる問題を入れたいとも考えていますが、効率的な方法が見つかっていません。
また、この思考スキルに関しては、日頃の机間巡視の場面でも、出来ている子とそうでない子の差があることに気付いています。クラスの全員がより高いレベルで思考し、表現ができるよう、この課題が難しい子に関して、よりわかりやすいノートの整理方法や文章の構造化を促すような可視化ツール・思考ツールや支援方法がさらに必要であると思っています。また、能力の高い子が自分の力を伸ばしつつ、他の子も一緒に成長できるようなクラスの運営方法や課題の差別化もさらに考えていくべきでしょう。
授業進度や基本的な知識理解についても検討する必要があります。グループワークやペアワークをすべての単元には行えませんので、メリハリを効かせた授業計画がさらに必要ですし、基礎知識の担保も、現在はプリントなどを作って宿題としていますが、他にも効果的で楽しく取り組めるものをICTを中心に模索中です。
さらに、授業中の傾聴力もより高めていく必要があると思います。生徒の発言が多い分、聞く力が疎かになりがちです。相手の意見を聞く姿勢を習慣化し、それを踏まえて自分の意見を深めていくという基本的なプロセスを今以上に大切にしていきたいと考えています。
本校では、日本語が弱い帰国子女や外国籍の子どもも多いため、クラスの中で日本語や英語がその子に応じてうまく使え、しっかりと学習できる環境をさらに整える必要があると思います。特にグループでの議論などの際、言語は非常に重要です。現在は、使用する言語によってグループ編成をしています。ある程度の効果はあると感じていますが、さらに良い方法がないかも検討中です。
(*参考)(桐蔭学園の教育改革)個-協働-個の学習サイクル(関谷吉史)
宗正久志(むねまさ ひさし)@関西学院千里国際中等部・高等部