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原田俊子(秋田大学教育文化学部附属中学校)
秋田大学教育文化学部附属中学校のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります
(1)登場人物の心情を、心情描写や言動,情景描写から読み取り、主題に迫ることができる。
(2)物語を俯瞰的に見て、作者の意図的な仕掛けを捉えることができる。
(3)話合いや発表等の言語活動を通して、ものの見方や考え方を深めることができる。
本校の国語科は、「クリティカルリーディング」(評価・批評的読解)をコンセプトとして授業の研究実践を続けてきた。国語の学習の醍醐味として、初読の感想とは違う新たな読みを見付けたときに、読むことの喜びを実感し知的好奇心が刺激されることがあげられる。新たな発見ができる読みをするには、文章全体を関連付けたり、筆者の意図を考えたりして読むこと、グループやクラスで話し合って多様な考えに触れることが必要であると考え、 今年度の本校国語科の研究テーマを「協働的な学習を通して、多角的に文章・作品の主題に迫る読解力を育てる授業づくり」としている。
本教材は論説文等とは違い、筆者の論や主張を支えているものは何か、それは支えるに十分なのか等の、突っ込みどころがない。しかし、「銀木犀の木」に表れるような象徴表現を手掛かりに、「私」の成長譚としても読み進めることができる。契機となった「私」の心情の変化が、いくつかの特徴的な表現や伏線によって描かれている。一人称という形で書かれているため、心情の変化を、 微妙な表現の変化に即して吟味しながら読み解くのに適した教材であると言える。そこで、授業で配慮したポイントは次の①②である。
①文中の根拠に基づいた緻密な読解力や、分析的に読もうとする態度を養うための指導の工夫
②一人一人の読みを集団に広げ、個々の読みを深める協働的な学習の在り方
①について、本文の象徴的な表現を手掛かりにして「私」の見方を多角的に読み取ることができることをねらいとした。クライマックスの四文の解釈の曖昧さを掲げ、どう「私」が変わったのかについて、変わる前の「私」と変わった「私」の描写を探して読んでいく活動を設定した。その中で、たくさんの仕掛けや象徴的な表現、 伏線等を発見していけることをねらうとともに、そのような俯瞰的な読みを楽しいと感じてほしいと考えて行った。
②について、これまでも「個→小グループ→全体」と話合いを広げていく学習過程を設定してきたが、その中で「個」の意見がなかなか発揮されない場面もあった。今年度から学校全体で取り組んでいる「ミエルトーク(ファシリテーショングラフィックの手法を取り入れた話合い活動)」の手法を取り入れ、グループ活動が可視化されることで、学習過程の共有を図り、伝え合う力を高め、個の表現力を向上させたいと考えた。個々が注目したポイントを共有し、意見し合い、他者と自分の考えを再構築することができるように、記録用の本文コピーを各班に一枚準備した。また、話合いを全体に広げ、更に他者の意見を聞き自分の思考がどのように変わったかを自覚できるように、 グループでのミエルトーク後に再構築した自分の考えを付箋に記録するようにした。最後に学習を振り返る用紙を準備し、自分の言葉で趣旨をまとめることで、充実した学びを実感させたいと考えた。
※ 全校、全教科での取組「ミエルトーク」
〇グループでの話合い活動において、意見のみならず、疑問や根拠を可視化しながら問題解決の糸口を探っていく話合い活動。全教科・領域の学習活動に取り入れている。 思考力の向上の他に、各生徒の発言機会の確保による、発信力の向上をねらっているため、4人1組の小集団で の活動を基本としている。可視化の媒体は主にホワイトボード。
〇上図はミエルトークの進め方やそれぞれの役割や身に付けてほしい力などをまとめたもの。パネル可し、全教室の前面に掲示している。
(1)指導のポイント: 象徴表現や伏線を手掛かりに作品に迫る
(2)授業の流れ(総時数7時間、( )はH29告示 中学校学習指導要領国語で示されている指導内容)
(読む(1)ウ 内容の解釈)
(読む(1)イ 描写を基にした分析的な読み)
(読む(1)エ 根拠を明確にして表現の効果を考えること)
過程 | 学習活動 | 指導の手立て |
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い の 練 り あ げ ・ 課 題 設 定 |
1 クライマックス部分の確認として、一斉読をする。
2 クライマックスの表現内容(①~④)を確認して理解する。「私」の見方が変化しているかどうかを確認する。 (一斉) 3 本当に「私」の心情が変化しているのか、相対する姿を読み取ることで確認する。 (個→一斉) 4 本時のめあてを確認する 「私」はどんな風に変わったのか
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題 追 究 |
5 夏実との関わり方をどのように見つめ直したかについて、本文の象徴的、暗示的な表現等を手掛かりに読み取る。 (一斉→個→グループ→一斉)
6 ミエルトークをもとに自分の考えをまとめる。 (一斉→個) |
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り 返 り |
7 本時の振り返りをする。 次回の学習内容を確認する。 |
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(読む(1) エ 根拠を明確にして表現の効果を考えること)
(書く)
図表2 授業の様子
写真の説明
[1]学習活動2における共有場面に用いた拡大用紙の一部。前時までの学習の跡が記されている。この後の学習活動においても、全体で本文を共有する際に利用した。
[2] [3]学習活動3の様子。「私」の心情の変化がわかる変化前の相対する姿を本文中に個々で探している。
[4]学習活動5で行ったミエルトークの様子。ミエルトーク前半では、グループ内の各生徒から出された意見(象徴的・暗示的な表現)に、ファシリテーター役の生徒が線を引いている。
[5] 同じく学習活動5の場面。ミエルトーク中~後半では各生徒の意見を共有・吟味するとともにグループ内での結論を検討している。
[6] 学習活動5における全体共有の場面。各班で見つけた、本文の象徴的、暗示的な表現を全体で共有している。
【成果】
生徒が「あ、なるほど」と感じ、理解できる、もしくは少し気付いている状態で「象徴表現」「暗示表現」を紹介することが、本文を俯瞰的に読むことに繋がったと考える。これまで、場面毎に読んできた内容が、この活動によって、 全体を関連付けて読むことや、各場面や登場人物、情景描写等の必然性などを意識できる読みに繋がると思った。
書き手の意図を掴むために本文に着目する際、同じ箇所を指定していても、着眼点や、そこから読み取り表現する方法はそれぞれ異なる。グループ学習は、その際自らの考えを再構築する点で有効であった。 学習班、クラス全体へと、他者に個の考え方が反映されることで意欲が高まることを実感した。
ミエルトークを導入したことによる成果は、「個」の意見の発揮による話合いの深まりが挙げられる。ミエルトークには主張タイムという、グループ内の生徒全員が意見を発言する場面がある。一人一人の意見が議論の対象となり、 課題解決に向かう過程の材料となっている。課題に対して直接的でなく、決め手とならない意見でも、根拠となる部分の可視化で「こんな角度の見方もあるね」や、「この点はちょっと課題とは違うみたいだから、 逆にこれに関わる部分は除いて読んでいってもいいことになるな」という思考の方向性を示すことに繋がっていた。また、話合いの中で、同じ意見でも根拠が違っていたり、根拠とする文が同じでもそこから生まれる意見の視点が違っていたりすることで、 個々の意見が話合いの深まりを肌で感じられたと捉えている。同時に、これまで力のある生徒の有効な意見頼みでグループの結論を決めることが目立っていた話合いに変化を生じさせ、さらに「個」の意見を発揮しようという態度面の伸長に大きく 反映していたと捉えている。
【課題】
細部に着目しつつ、全体を俯瞰的に読むことには個人差も大きい。他の生徒の新たな視点に触れることで、 自己の価値判断の幅を広げることの有用性を生かすためにも、個に応じた指導の在り方を模索することが大切だと感じた。
本文に根拠を求めて読み取るミエルトークでは、全員が共有できる本文が必要だと思い準備した。その点は有効であったが、可視化という点では有効というところまでたどり着けなかった。 また、従来の「話合い活動」との違いやメリットを生かすための、国語科としてのミエルトークの活用法を模索していく必要性を感じた。
(*参考)(桐蔭学園の教育改革)個-協働-個の学習サイクル(関谷吉史)
(*参考)(AL関連の実践)島田勝美(秋田大学教育文化学部附属中学校)「理科の探究的活動による批判的思考力の育成-実験結果をめぐるクラス内での議論をもとに-」
原田俊子(はらだ としこ)@秋田大学教育文化学部附属中学校(国語)