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田所竜翔(大阪府立岸和田高等学校)
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溝上のコメントは最後にあります
歴史の授業の中でもとくに単調に陥りやすい文化史を、時代背景とともに捉えて生徒の理解を導くこと。
「文化」は、その時代の背景を強く映し出している。国風文化が誕生した要因も,平安時代の政治や社会を背景としている。平安王朝の形成や摂関政治のもと、奈良時代にひきつづき仏教が発展し、諸条件が相互に関連して文化の国風化が進んだと考えられている。
ここでは、政治(外交)における「遣唐使」に注目する。以前は、大陸文化の受容に大いに貢献してきた遣唐使を停止したことが、国風文化誕生の契機と解釈されてきた。しかし、近年の研究では、9世紀前半の遣唐使派遣が最後となることから、894年の遣唐使停止を国風文化の画期とすることは誤りであると考えられている。9世紀以降は中国からの海商が多数渡航しており、また、国風化を重視する傾向はすでに奈良時代から進行していた。すなわち、遣唐使停止は国風化の契機ではなく、国風化の結果の一つであり、かつそれを加速させる要因であったとみることが適当である。
近年、教科書の記述や高校入試の問題などの中で、遣唐使停止を国風文化誕生の要因とみなすような説明や記述がようやく無くなってきたようである。しかし、現在使用している教材(資料集)でも、国風文化の「背景」に「遣唐使の派遣停止」とあり、生徒によっては誤解を招きかねない説明がなされている。また、遣唐使停止と国風文化誕生との時期が近いことから、生徒自ら関連させて解釈してしまうことも十分に考えうる。こうした点に留意し、国風文化および遣唐使を、史資料に基づき正しい理解へと結びつけることが大切である。
(1) 導入(5分)
前回の授業内容の復習
【学習活動】教員の発問「国風文化はいつの時代の文化か?」に対する解答
【 留意点 】10~11世紀 / 平安時代中期 / 摂関政治 などの解答を引き出したい。
(2) 展開その1(10分)
「国風文化」を象徴する文化の具体例(問1)やその発生要因(問2)に関する考察
【学習活動】
【 留意点 】
(3) 展開その2(10分)
大陸文化の受容に貢献してきた遣唐使を停止した理由(問3)に関する史料読解(『菅家文草』)
【学習活動】
【 留意点 】
(4) 本題(20分)
展開その1・2を踏まえて、「遣唐使停止」と「国風文化誕生の契機」の関連性に関する考察。
【学習活動】
【 留意点 】
(5) まとめ(5分)
9世紀の貿易の様子を解説。遣唐使停止は国風文化誕生の契機ではないことを理解させる。
【学習活動】プリントにまとめを記入
【 留意点 】遣唐使停止は「国風化を加速させる」要因であることを理解させる。
(1) 教科書の引用
教科書本文を引用することで、今回のテーマを考察するヒントを散りばめることができた。日頃は使用頻度の少ない教科書であったが、基本的な知識から整理して考察を深めていく場合にも利用価値があるとあらためて実感できた。
(2) 史料読解による知識吸収
考察だけではなく、史料読解やその内容の整理をすることで、新しい知識を吸収させることもできた。前回の授業内容(国風文化の基礎事項)に、今回の新しい内容(菅原道真の建議)を組み合わせることで今回のテーマに挑戦する流れは、理想の形となったと思われる。
(3) Yes/Noによる明確な回答
生徒の発表(8グループ)では、Yes/Noの意見がちょうど半分ずつに分かれた。YesまたはNoのどちらか一方であえて答えさせることで、このテーマに議論の余地があることが生徒にも伝わったようである。ただ、正しい解答は何なのか、という曖昧な部分を残したまま終わった感覚があることも否めない。
(4) 生徒の反応
生徒が容易に結びつけてしまいがちな「遣唐使停止」と「国風文化誕生」とが、原因・結果という単純な関係ではないという点は、授業最後の生徒の様子から十分に伝えられたと感じた。過去の教科書の記述が近年になって修正されてきた点も、教科書を「すべて正しい」と思い込んでしまいがちな生徒にとっては新鮮な話であったようである。
(1) 個人→ペア→グループ
とくに考察させる場合、やはりまずは個人で考察することから始める。自分の考えたことを文字に記すことができるかどうかは様々な要因(知識の問題、読解力の問題、やる気の問題 etc.)があるが、他人と意見交換する前には必須の時間となる。
ペア(2人)かグループ(4人)かは、テーマによって判断する。クローズドクエッション(ここではYes/Noや用語など解答が限定される質問)の場合は、主にペアでおこなうことが多い。一方、オープンクエッション(ここでは解答が自由で制約のない質問)の場合は、多様な意見に触れさせたいので主にグループを用いる。
(2) 考察時間の計測・表示
ペアまたはグループで考察する場合、残り時間を黒板に大きく表示するようにしている。「残り1分」や「残り10秒」の音声も自動で鳴るように設定しており、常に時間も意識させながら議論の活性化を図っている。
内容によって異なるが、基本的には5分。生徒の様子を見て間に合っていない場合は、3分追加などおこなう。かなり短い設定時間であるが、短いくらいの方が生徒の集中力は保てる。無駄のない議論を交わしてもらうがための時間設定をしている。
(3) 生徒の解答を(極力)否定しない
ペアやグループなどで代表が発表する場合、基本的にはオープンクエッションを与える。生徒の自由な発想で、教員としても思い掛けない意見が出たり、突拍子もない意見が出たり、生徒全体が意表を突かれたような反応をする時は、授業の意義があったと思える時でもある。
もちろんその理由等はできる限り論理的な内容であることが望ましいが、明らかな間違いでない限りは、どの生徒の意見も尊重している。歴史において、その可能性を完全に否定できない以上は、生徒の解答を潰さないようにしている。
(1) 本題への誘導的な授業展開
国風文化が誕生する背景にある「遣唐使停止」という知識は、中学校における学習範囲である。その上で、展開その1や展開その2の資料がプリントに提示されているため、生徒を本題である「遣唐使停止は国風文化誕生の契機であるかどうか」に向かって誘導しようという意図が見え透いてしまっている。また、こういったテーマに取り組む以上は、その解答は「No」であるのだろうと生徒が予想してしまう。授業全体の構成やプリントに提示する情報を練り直すことが必要である。
(2) 生徒が発表する際の立ち位置
生徒の発表については、授業の準備不足によって失敗を招いたと言わざるをえない。溝上教授による度々のご講演や関連する授業例の中で、「生徒を前に立たせて発表させる」意義や重要性を確認してきた。しかし、今回は授業展開を考慮すると生徒を前に立たせる時間の余裕がなかったこともあり、グループの座席で立たせて発表させた。座席で立たせて発表する方法でも、発表者と聴衆との双方向のやり取りを実現させようと考えていた。結局、生徒の発表に最もリアクションをするのは私教員自身であり、「みんな(生徒)に向かって発表しよう」と伝えても、自然と教員の方へ発表者の顔や身体が向くという始末に。生徒が発表する時間をいかに大切にさせるか、この点は反省あるのみであった。
(3) 生徒の発表内容の有意義な利用
生徒に発表させることがゴールではない。発表させるまでの展開も重要であるが、発表した後に生徒の意見を集約していく作業も、教員の腕の見せどころであろう。今回は、生徒の発表に一つ一つ質問を返したり解説を付け加えたりと取り上げたが、すべての生徒の発表を終えた時点で、「では、すべての意見を踏まえた上で、どのようなことが言えるのか」といった観点で整理することを疎かにしてしまった。教員自身が用意しているまとめ(解答)に話を移す材料として生徒の意見の中の注目すべきポイントを拾い上げるなど、授業の中で生徒の発表内容を効果的に利用することが理想であったが、不手際に終わった。「生徒たちの力で自分たちの答えを導く」という形が、アクティブラーニングの土台であると再確認させられた。
(*参考)(桐蔭学園の教育改革)桐蔭学園のアクティブラーニング型授業の改革2015-YouTubeビデオの解説
(*参考)(AL関連の実践)島田勝美(秋田大学教育文化学部附属中学校)「理科の探究的活動による批判的思考力の育成-実験結果をめぐるクラス内での議論をもとに-」
田所 竜翔(たどころ りゅうぞう)@大阪府立岸和田高等学校(日本史)