（AL関連の実践）【中学/美術】同志社中学校・美術科におけるアクティブラーニングの試み　－鑑賞的体験の言語化を通した美術の俯瞰的理解

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（AL関連の実践）【中学/美術】同志社中学校・美術科におけるアクティブラーニングの試み－鑑賞的体験の言語化を通した美術の俯瞰的理解－　　橋本侑佳（同志社中学校）・竹内晋平（奈良教育大学）

(京都府私立）同志社中学校のウェブサイト

溝上のコメントは最後にあります

対象授業

授業：中学１年生　美術
生徒：36～37名×4クラス
単元：B鑑賞　「いろいろな美術と出会おう」

第1節　目的と方法

中学校１年生にとって美術科は，小学校までの図画工作科にかわる新しい教科である。鑑賞学習においても，「身の回りの作品などを鑑賞する活動」から「美術作品のよさや美しさを感じ取り味わう活動」へと変化し，対象の見方，感じ方をどのように広げる指導を行うのかが課題となる。指導の中で，生徒の「美術＝表現すること」というイメージが強いという実感があり，鑑賞学習に取り組む難しさから，「色々な美術と出会う」という単元を通して，様々な表現と出会いながら，生徒自身に美術の特性や意義を考えさせることで，本質的理解を促したいと考えた。

本授業実践では，中学校美術科の鑑賞学習において，生徒が身体的活動や追体験的活動を通して得た感覚等を主体的に言語化する活動を導入し，美術の俯瞰的理解に関する効果を明らかにすることを目的とした。具体的な方法としては，学習活動において鑑賞対象に応じた主体的な鑑賞的体験を設定し，各授業の後半で生徒が美術を俯瞰的に理解するための思考を促す発問を行い，それによって言語化された自由記述を収集する（本授業実践は同志社中学校において橋本が行ったものであり，授業構築および成果分析については橋本と竹内との協議に基づいている）。

美術科の授業においてアクティブラーニングを導入するにあたり，本授業実践では「鑑賞的体験」という学習過程を設定することとした。「鑑賞的体験」とは，学習者が身体的活動や追体験的活動を通して，作品の主題や表現様式等とかかわり，自身の認識や感覚等を持つことが出来る体験であると位置づける。また，「美術の俯瞰的理解」とは，作品理解にとどまらない美術の特性・意義に関する本質的理解である立場をとる。図１において，「鑑賞的体験」を通して得た感覚等を記述による言語化を行うことによって，「美術の俯瞰的理解」を促し，美術の特性や意義を思考するという主体的な学びの過程をアクティブラーニングと位置づける。本実践においては，「鑑賞的体験」に関する自由な感想を学習者に記述させるスタイルではなく，高い指導性をもって学習者の思考を'美術の俯瞰'へとガイドするには意図のある発問を設定することが有効であると考えた。発問によって俯瞰的な視点を与えることを通して，学習者は「鑑賞的体験」からどのような美術の特性を読み取ることが出来たのかという意味づけを行う契機となる。その思考の内容を記述することで，学習者は主体的な学びとしての「美術の俯瞰的理解」に到達することができると考えた。

図１　本研究における鑑賞的体験を言語化する学習

第２節　授業実践の概要と経過

前節においてふれた「鑑賞的体験」の設定によって「美術の俯瞰的理解」を図る本授業実践の概要と経過は，下記のとおりである。

(1) 単元のねらいと概要：

美術の表現は，多種多様であり，様々な作品が存在する。中学校１年生１学期，「美術」という教科が始まったばかりの生徒にとって，多様な美術の表現に気づくことは，今後の表現や鑑賞活動において，幅広い視野で美術に向き合い，自分なりの見方や考え方を身につけていく上で，効果的であると考える。

本実践は，３回の授業を通して，生徒に様々な作品との出会いを提供すると共に，それぞれの授業で「鑑賞的体験」を設定する。その体験を通して，生徒自らが「美術とは何か」を考え，美術の意味について言語化することで自身の学びを再認識し，「美術の俯瞰的理解」につなげていくことをねらいとして，アクティブラーニングの視点を取り入れた実践を行う。教員からの一方的な作品解説や美術史的な見方の説明ではなく，生徒が主体的に作品や「鑑賞的体験」に関わり，美術とは何かを考え，気づくように考えた。全ての学習は，男女約２名ずつの４名グループで行い，１クラスあたり９グループで実施した。

(2) 学習展開：

第１時「美術にはどんな描き方があるだろうか」

本時の目標：様々な肖像画・自画像の鑑賞を通して，美術表現の多様性に気づく。
　肖像画・自画像の鑑賞を通して，写実性・リアリティを求める表現だけが美術ではないことに焦点を当てる。美術は，目の前に忠実に再現されたものと認識している生徒が多く，その見方を広げていくことが目的である。様々な肖像画・自画像をカード状にしたものをグループで鑑賞し，協力して分類したり，共通点を見つけたりする活動の中で，互いの考え方や意見を交流し，美術の意味に気づかせたい。

授業展開：

	指導内容	生徒の学習活動
導入	本時のめあてを説明する。	本時のめあてを知る。
	肖像画・自画像12作品を鑑賞
	各班に１セットのカードを配布する。「自分の部屋に飾るならどの作品を選ぶか」と発問し，一人ずつ理由を述べ，聞き合うよう促す。	鑑賞する12作品を知る。12作品から，自分なりの見方で，部屋に飾る作品を選び，その理由を聞き合う。
展開	12作品を２つのグループに分ける鑑賞的体験
展開	グループ内でユニークな分類を見つけクラスで共有するように指示する。「絵の描き方」に注目し，改めて，２つに分類をさせ，いくつかのグループの分類を，ホワイトボードのカードで共有するようにする。	各自が思いついた分類を紹介し合い互いのアイデアから，多様な発想にも気づく。「描き方」という視点で作品を鑑賞し，その分類を考える。
まとめ	「今日の活動を通して，あなたが見つけた美術の意味とは？」
まとめ	生徒の言葉を引用しながら，「かお」という共通点がある作品も，実際の色や形を忠実に描くもの，内面などリアルではない表現のものがあることを振り返らせる。	12枚の作品を通した鑑賞的体験を振り返り，授業を通して考えた「美術の意味」について，言語化することで，写実的な表現だけが美術ではないことを再認識する。

生徒の様子：
　12種類の肖像画・自画像の作品をはがき大のカードを使って，各グループで手に取りながら鑑賞した。生徒は初め，様々な作品の表現の見た目のユニークさばかりに反応し，写実的な「上手い，下手」といった見方に始終していたが，分類分けの発問によって，鑑賞する視点が定まり，生徒の見方が変化していった。

第２時「色と形にできること」

本時の目標：抽象絵画の鑑賞を通して，写実ではない表現（抽象表現）に気づく。
　抽象絵画を扱い，実際に色と形で画面を構成する鑑賞的体験を設定する。具象的な表現だけではなく，色や形を通して現実の再現だけではない表現を生徒自身が実感する機会になると考えている。自らの感覚を働かせながら，同時に周囲の友人の感覚を理解し交流することを通して，抽象表現の存在に気づくことを目的とする。

授業展開：

	指導内容	生徒の学習活動
導入	本時のめあてを説明する。	本時のめあてを知る。
	ピエト・モンドリアン「ブロードウェイブギウギ」，パウル・クレー「木立のアルリズミカルな風景に中のラクダ」の鑑賞
	共通の主題となっている「音楽」に気づかせ，いずれの作品も「色と形」で表されていることを確認させる。	２枚の作品に共通する主題を探りながら，具体的なものを描かない表現に気づく。
展開	「楽しい気分」を表す鑑賞的体験
	２種類の大きさ（６cm四方，３cm四方）の色板（両面10色）を配布する。19cm四方の台紙に色板を並べさせ，試行錯誤を重ねて，自分なりの表現に気づくよう促す。	一度で配置を決めず，様々な重なりや配色，置き方を工夫して構成する。
	各自の作品を机に並べ，クラス全員の作品を鑑賞しあう
	生徒に気に入った作品とその理由を紹介するように促す。	色や形での工夫，自分とは違う発想に気づき，互いの良さを認め合う。
まとめ	「今日の活動を通して，あなたが見つけた美術の意味とは？」
まとめ	生徒の考えを取り入れながら，「具体的なものを描かなくても，色と形で表現できる」抽象表現に気づくようにする。	抽象絵画の鑑賞と鑑賞的体験から，授業を通して考えた「美術の意味」について，言語化することで，抽象表現の存在に気づく。

生徒の様子：
　２点の作品を鑑賞し，共通して扱われている主題を生徒に問うと，どのクラスでも具体的なものを主題として答えたことが印象的だった。やはり生徒は，美術作品は具体的なモチーフを描くものというイメージを強くもっているように感じられた。
　しかし，「楽しい気分」を色と形で表す活動が始まると，生徒はとても楽しそうに，色板を選び，個々に様々な並び方を考え始めた。またグループの中で，生徒同士が自然に意見を交流し合い，色の組み合わせや向きについて，試行錯誤を重ねて，最終的にその配置を決めていった生徒が多かった。

第３時「現代美術の表し方を見つけよう」

本時の目標：現代美術の鑑賞を通して，描かない，作らない，創造する以外の表現があることに気づく。
　現代美術の表現を取り上げる。タブレット（Apple社製）を使用して，写真を撮影して並べるという鑑賞的体験を設定する。活動全体を通して，描く・作る以外の美術の幅広い表現活動の方法を経験する。このことにより，現代美術という表現の存在に気づくことが目的である。

授業展開：

	指導内容	生徒の学習活動
導入	本時のめあてを説明する。	本時のめあてを知る。
	アンディ・ウォーホル「100本のコカ・コーラの瓶」の作品の鑑賞
	描かない，作らない表現があることに気づかせ，鑑賞的体験につなげる。	これまで2回鑑賞してきた表現との違いを通して描かない，作らない表現に気づく。
展開	「お気に入りの靴」をタブレットで撮影し，クラス全員分を並べる鑑賞的体験
	靴の向き，背景などの条件をそろえるように指導する。タブレットは生徒自らが並べていくよう指示する。	タブレットを協力して並べることを通して，複写・反復の効果を感じる。

まとめ	「今日の活動を通して，あなたが見つけた美術の意味とは？」
まとめ	生徒の言葉を引用し，「描かない，作らない表現も美術である」という現代美術の表現に気づかせる。	タブレットを使った現代美術の鑑賞的体験を通して考えた「美術の意味」について，言語化することで，現代美術という美術の表現に気づく。

生徒の様子：
　アンディ・ウォーホルのコカ・コーラを並べた作品を鑑賞し，「これが作品でいいのか」という反応を示した生徒も多くいた。撮影は非常に熱心に行っていたが，この鑑賞的体験において「お気に入りの靴を選んだ」ということが重要で，同じ条件のものを撮影し「並べる」プロセス全体が一つの現代美術の活動であるという実感を持つことは初めは難しいようであった。
　タブレットを並べる際には，生徒自ら率先して指示を出したり，明るさを調整したりするなどのこだわりや積極性が見られた。いつもとは違うタブレットの使い方に，興味関心が高められたとも考えられるが，「並べる」ことで「何かが出来上がっている」というプロセス自体を非常に楽しんでいた。

第３節　美術の俯瞰的理解に関する考察

本節においては，「鑑賞的体験」の設定が「美術の俯瞰的理解」に対してどの程度，効果的であったのか，授業実践・全３回の中で収集した生徒の自由記述の分析を通して考察する。

第１時で設定した多様な表現で構成された12作品の「鑑賞的体験」によって，生徒らが俯瞰的思考に至った可能性が下記の生徒の記述によって示される。

「ぼくは美術は最初どんなことをするか具体的にはあまり分かりませんでしたが，今日美術の授業を受けることによって，絵の書き方を学び，その書き方に色々な種類のものがあることが分かりました」（生徒Ａ）

「今日は「リアリティがある」「リアリティがない」で，絵を２つに分けました。そのことで，「リアリティがない」絵は，作者の「気持ち」「心情」を表していることもあるということが分かりました。「美術」とは，人物など，見たものをそのまま紙にかくという意味と，自分の気持ちを表してかくという意味があると思います」（生徒Ｂ）

上記２点の自由記述から，生徒らは具象表現の多様性について俯瞰的に理解することができたと考えられる。生徒らは「授業を受けることによって」，写実的に描くことのみが具象表現の方法ではないことへの認識に至ったといえる。生徒Ｂの記述は，写実ではない具象表現によって作者の「気持ち」「心情」が表わされるという解釈に到達している点で特筆される。

また，第２時において生徒らは「鑑賞的体験」を通して，美術表現のなかにはモチーフの再現とは異なる抽象表現が存在することに気づくことができ，その自身の気づきについては，言語化のプロセスによって自覚することができたと考えられる。

「具体的なものを使わなくても色と形だけでも感情を表現できると思った」（生徒Ｃ）

「今までは，具体的な物を書かなければいけないと思っていたが，色と形と並べ方だけで物事を表現できる事が分かった」（生徒Ｄ）

「具体的なものを使わずに，色（10色・正方形）だけで『楽しい気分』というのを表現することができた。つまり，'色'というのは気持ちを表現できる。心の気分を表せるというのが大きな特徴」（生徒Ｅ）

特に，生徒Ｅによる「色（10色・正方形）だけで『楽しい気分』というのを表現することができた」という記述は，モンドリアンやクレーによる作例からの造形的情報を踏まえた追体験的活動を伴う「鑑賞的体験」の有効性を具体的に示したものであるといえる。

そして第３時において，生徒らは学習前と学習後とを比較して，自身がどのようにして「美術の俯瞰的理解」に至ったのかについて，詳細に記述している。

「今まで，絵をかいたり，工作をしたり…，などが美術だと思っていました。でも，今回は写真をとる＆ならべるということだけで作品を作って，でもみんなでならべたときは，とてもきれいにできていました。今回は，美術は，表現方法なんだ！ということを学びました」（生徒Ｆ）

「私は，絵をかくこと，作品を作ることが美術だと思っていましたが，くつが美術になりました。つまり，私が考えたのは，美術はこの世界そのものな気がします。その時の光景・物などが美術で，それが美術の意味でもあると思います。くつを選んで，とって並べる，それだけで美術になりました」（生徒Ｇ）

生徒Ｆ・Ｇによる記述，「美術は，表現方法なんだ！ということを学びました」「美術はこの世界そのものな気がします」からは，本実践における鑑賞的体験によって美術の意味をそれまで以上に幅広く認識できたことが示唆される。タブレットPCによって撮影してそれらを並べるという行為を通して，生徒らは古典的な技法で表現されたものだけが美術ではないことを認識したと考えられる。「くつが美術になりました」「とてもきれいにできていました」という記述から，生徒らが驚きをもって俯瞰的理解に至ったことを読み取ることができる。両者とも，美術とは「絵をかくこと作品を作ること」であるとの認識が強かったが，「鑑賞的体験」を通してそれが変容し，その変容については言語化によって自覚できたと解釈される。

第４節　成果と課題

本授業実践の目的は，生徒が「鑑賞的体験」を通して得た認識や感覚等を言語化するという主体的な学びの過程を設定することが，「美術の俯瞰的理解」に対して有効であることを明らかにすることにあった。生徒が自身の理解や気づきを自覚しながら美術と関わっていくというプロセスは，アクティブラーニングの視点の１つである主体的な学びの過程を中学校美術科学習において具体化するモデルになるのではないかと考えている。その際に重要となるのは，やはり生徒自身による認識や感覚等の言語化と，それを方向付ける指導者からの意図的かつ有効な発問であるといえよう。今回は自由記述による言語化を中心としたが，口頭表現による言語化の効果についても今後の検討対象としたい。

付記：

本稿は，下記論文からの転載および加筆によって再構成したものである（大学美術教育学会『美術教育学研究』学会誌委員長より，転載許可を得ている）。
竹内晋平・橋本侑佳「鑑賞的体験の言語化を通した美術の俯瞰的理解－中学校美術科学習におけるアクティブ・ラーニングの視点導入に基づく試み－」，『美術教育学研究』第49号，2017年，pp.209-216
本授業実践は，平成28年度（2016年度）科学研究費（基盤研究（Ｃ），課題番号（JP26381203），研究課題名「教科目標への到達と感性の育みを促す言語活動等を視点とした美術科教育の基盤的研究」，代表者：竹内晋平）の研究助成を受けた。

溝上のコメント

アクティブラーニングの実践紹介で、英数国理社の紹介が先立つことはしかたがなかったかもしれない。しかし、教科にはそのほかに、音楽、美術、保健体育及び技術・家庭もある。このページでは、そのような教科におけるアクティブラーニング型授業の実践も紹介していく。第1弾は、中学校の美術における実践である。美術教育の専門家も指導に入っての授業実践であり、生徒の学びが深い。
この授業のポイントは、要は、作品等を通した鑑賞的体験（鑑賞作品の分類･同定、形や色の構成・配置、モチーフの選択･複写など）を言語活動にすることである。アクティブラーニングの定義である「認知プロセスの外化」（「（理論）大学教育におけるアクティブラーニングとは」を参照）を活動化するものだといえる。
鑑賞的体験を言語活動にすることで、自身の見方･理解を自分の言葉で外化する。また、グループワークにすることで、他の生徒の見方・理解と自身のそれとを比較することになる。結果、自他の構図を作り上げる学習構造となっている。自己と他者のズレを徹底的に創り出すことは、深い学び・理解に繋がる。単純に見えて奥が深い。
生徒のコメントを読むと、この授業を通して、美術が単なる教科としての美術学習ではなく、それを超えて、自らの生活世界の表現学習として捉えられていることがわかる。とてもすばらしい。学習とは、どこかで生活や人生、社会に繋がるものでなければならない。

【参考ページ】

✔ （用語集）深い学びとは

プロファイル

橋本侑佳（はしもとゆか）＠同志社中学校・美術（左）

竹内晋平（たけうちしんぺい）＠奈良教育大学・准教授（右）

一言：美術科の立場からアクティブラーニングの創造を目指して実践しています。今回の授業では、思考を促す上でどのような鑑賞的体験が効果的なのかを模索しました。生徒は、様々な鑑賞的体験の中で色々な表現に触れる中で、「美術とは何か」を主体的に考え、学ぶ時間となりました。これからも、実感的に理解することができる美術の学びを提供していきたいと考えています。