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(AL関連の実践)【高校/数学】アクティブな取り組みを通じて数学的な思考力をつける授業
廣井望(花園中学高等学校)
(京都府私立)花園中学高等学校のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります
対象授業
- 授業:高校1年生 数学Ⅰ(3単位)
- 教材:サクシード 数学Ⅰ+A
- 実施クラス:高校1年生 特進Aコース Bグレード28名
第1節 授業の目標
特進Aコースの数学の授業は習熟度別に行っている。Bグレードは下位グレードであるため、数学が苦手な生徒が多い。授業では教師の説明を聞き、練習問題を解くときにペアワークやグループワークを取り入れることで知識の定着を図っている。また、単元ごとに行う復習ではグループワークを行っている。教科書やノートに頼らず、自分たちの知識を持ち寄り、話し合い、正しい答えを導くために活動させている。受験で必要とされる数学の力だけでなく、社会で生き抜くための考える力・自分の伝えたいことを相手に伝える力・グループの中で引っ張っていく力をつけさせたい。
第2節 授業の流れ
① 前回の内容の小テスト(4分)→ペアで答え合わせや内容の確認(2分)
ペアでの確認後に解答を配布する。
目 的
- 授業の内容を定着させるように復習をする習慣をつける。
- ペアワークでは自分の解答を相手に説明することで知識を定着させる。
② 例題解説(7分)
教師が黒板で例題の解説をする。理解しているか一区切りごとに確認する。分からない生徒がいれば、どこまで理解しているか、どこからが分からないかを答えさせ、確認する。
③ 練習問題 (5分)
留意点
- つまずく場合があるので時間は短く設定しておく。
- 手が動かない生徒が出てきたらヒントを出す。
④ ペアワーク(5分)
③で行った内容を確認し、2人の答えが一致することを目指す
目 的
⑤ 答え合わせ(3分)
③・④の活動の間に生徒が1人でできそうなところまでは黒板に書いておく。残りの部分は生徒を当てながら説明し、最後に解答を配布する。生徒の様子を見て②③の時間は調整する。
*基本的には例題を2問扱うので②〜⑤をくりかえす
図1 授業風景
図2 ペアワーク 図3 グループワーク
第3節 授業で気を付けていること
一番大切にしていることは発言しやすい雰囲気作りである。説明するときは「分かったか」「ここまで大丈夫」などと生徒に問いかけると、生徒は発言をしてくれることが増えた。グループワーク・ペアワークは全員が取り組み、話し合った上で納得して答えを揃えることを第一としている。1人だけが合っていることよりも2人が同じ考えで同じ間違いをしている方が話し合いとしてはよいということを強調している。応用問題では手が止まる生徒が増えるため、グループワークに切り替えることが多い。分野ごとにプリントを用いて、そこまで内容を理解しているかどうかを確認している。教科書、ノートは使わないでグループごとに取り組み、答を出すために話し合いや学び合いをさせている。
第4節 1学期の振り返り
最初の授業時になぜアクティブラーニング型授業を導入していくのかを説明した。このクラスは入学したばかりの高校1年生なので、初めからすぐに順応してくれた。溝上先生や増田さんに授業見学に来ていただいたのが4月なので、指摘していただいた点はできる限り改善するように心がけた。練習問題を解き、答え合わせをした後は出来ていた生徒に挙手させるようにした。その場でクラスの中でどの程度が理解できているのかを知ることができるし、褒めることで自信をなくしている生徒や数学への苦手意識が強い生徒の自信ややる気につながったように感じた。定期考査ごとの振り返りではグループワークやペアワークに積極的に取り組めたという生徒がほとんどであった。ワークの時間を増やしてほしいという意見もあった。
第5節 課題
- 進め方に慣れておらず、講義型の授業と比べると同じ範囲を教えるのに時間がかかる。定期考査によりグレード分けを行うので、テスト範囲を揃えなければいけない。もう少し工夫して進めなければいけない。
- 時間が足りないこともあり、振り返りのワークシートを書かせられていない。自分の取り組みに対しての振り返りは定期考査ごとの授業アンケートのみである。
- 時間を意識させきれていない。以前はタイマーで残り時間を伝えていたが、iPadを卓上に置き、全員が時間を見ることができるようにしている。声かけをしているが、あまり時間を気にして取り組んでいるようには感じられない。
- ペアワークではペアによっては活動できていないところがある。溝上先生にご指摘いただいた後は、声掛けを行い、できていたが、少し難しい問題になると進まなくなる。4人1組なら活動はできている。
溝上のコメント
- 年度はじめの4月に、花園中学高校で最初に見学したAL型授業である。教師の指示は生徒たちにしっかり通り、生徒の注意喚起も随時なされ、講義型授業の力量は高いと感じられた。
- AL型授業を始めてまだ10日ほどの時期であり、ペアワーク、グループワークのルールが教師のなかでも一貫していなかった。しかし徐々に、基礎的な知識・理解の確認・定着にはペアワーク、応用問題にはグループワークと使い分けるようになったようだ。
- 生徒の理解度やペア・グループワーク時の態度や様子には目が行き届いており、頻繁に「声かけ」「問いかけ」がなされる。生徒の集中力が少し落ちたりだれ始めたりするところで、絶妙なタイミングで教師に声かけられるので、生徒は50分集中して学習するような雰囲気がつくられている。すばらしい。
- 数人の生徒がワークに参加していないことがある。ワークに全員参加させることが課題である。もっとも、教室全体がワークに参加していない生徒で覆われるほどの状況にはなっていない。技法としては十分なAL型授業を実現できているので、授業開始時の雰囲気づくりから途中途中の声かけまで、できることをいろいろして生徒全員の主体的な学習を促してほしい。全員参加を実現するうえでの留意点や技法化できることが見つかれば、次の機会に教えていただきたい。
- 花園高校の生徒に限らないが、タイマーを見せてもよく見ていない、時間を気にしていない生徒が見られることが少なくない。この授業もその一つである。この点、どのようにすれば生徒が短い時間を意識して、集中してワークするようになるのか、これもまた次の機会に教えていただきたい。
- AL型授業を導入して、進度の問題に悩まない教師はいない。しかし、教師も生徒も慣れてくるので、根気強く続けてこの問題を積極的に克服してほしい。生徒が心から主体的に取り組めば、むしろ進度がはやまって2~3ヶ月はやく教科書が終わった、という報告もある。期待したい。
【参考ページ】
✔
(桐蔭学園)教室をコントロールする
✔
(AL関連実践)【中学高校】木村浩一(花園中学高等学校・教務部長)「花園中学高等学校 授業改革の取り組み-アクティブラーニング型授業導入を目指して」
プロファイル
廣井望(ひろい のぞみ)@花園中学高等学校・数学
- 一言:数学が苦手な生徒が積極的に取り組むことができるような授業を目指しています。生徒たちが授業を通じて「わかった!」「自分でできる!」と感じて、自信に繋がれば嬉しいです。