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1時間目:即興ディベートの説明と事前準備
◆論題①:"Doraemon should go back to the world of the 22nd century."
2時間目:即興ディベート(ジャッジを含む)の練習(論題①)
3時間目:即興ディベート(協働学習【RWLS】)
◆論題②:"All the vending machines in Nagasaki Higashi High School should be removed."
4時間目:エッセイライティング(個による内化【RW】)
◆テーマ:"When you walk around Nagasaki city, you will find so many vending machines available on streets. Discuss their advantages and disadvantages in 100 words or more."
5時間目:エッセイをペアやクラスで共有(外化【RWLS】)
本校は2015年度よりスーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受け,以下5つの研究開発単位を設定しています。
英語科では,上4.および5.のプログラム開発を継続しています。2016年の7月に溝上先生をお招きし,第1回授業研究会を開催しました。溝上先生には国語と英語の研究授業を参観していただき,ご講演と研究授業への指導助言を賜りました。その時の授業内容(高校2年国際科を対象)を次にまとめています。
活動 | 内容 | 備考 | |
---|---|---|---|
① | 新出語の内化・外化 (ペア活動) |
生徒Aが新出語の定義を英語で述べる。 生徒Bはその新出語を答える。 |
2語ずつで役割を交代する。 |
② | 新出表現・文法事項の内化・外化 (ペア活動) |
宿題として新出表現等を用いた英文(2文)を辞書を用いて作成させておく。 生徒Aが英文を読みあげる。 生徒Bは即興で応答する。 |
2文ずつで役割を交代する。 |
③ | 本文の内化・外化 (個による活動と一斉活動) |
150wpm以内で内容を確認しながら音読させる。 次にCD音声を流しながら所々でCDを止める。 止めたところから指導者が指示した語数をさかのぼって答える。 |
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④ | ペアプレゼンテーション(2組)とQA | 貧困や食糧難を扱った本文の内容(Table For Two)と 関連するテーマを取り上げたペアプレゼンテーションと質疑応答を行う。 | 聞き手はコメントシートを記入し,発表を評価する。 |
⑤ | ペアディスカッション | 本文と関連するオープンクエスチョンを聴き,ペアでディスカッションする。 (Suggest a plan to collect donations at school so that we can help the TFT project.) |
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⑥ | 指導者(日本人教師とネイティブ講師)によるまとめ | 本時を総括する。 |
溝上先生からは,単にプレゼンテーションで終わるのではなく,質疑応答やオープンクエスチョンまで発展できていた点を評価していただきました。一方,指示の多くがネイティブ講師からなされていたため,日本人教師(私)の役割が不明であったことをご指摘いただきました。また,最後の授業のまとめがプレゼンテーションへのフィードバックのみになってしまったので,クラスや授業全体のまとめを行うようご助言いただきました。
その後,溝上先生による指導助言を実践するとともに,私自身の反省を込めながら,高校3年生では「即興ディベート」に挑戦しました。スピーキングをProduction(暗記したものを発表する力)とInteraction(即興でやりとりする力)に細分化すると,プレゼンテーションは前者,即興ディベートは主として後者のスキルを伸ばすための活動と位置づけられます。特に4技能が統合されるように試行錯誤した実践例をご紹介いたします。
即興ディベートの活動では,本校AL型授業のスローガン「ともに学び、自ら深める、 」のうち,「ともに学び」の部分に焦点を当てました。ディベート後の活動として,「長崎の街にたくさん自動販売機が設置されていることの長所と短所」について100語以上のエッセイを書かせました。即興ディベートによるスピーキング(リスニング)活動からライティング活動へ系統的に発展させることをねらいにしたためです。ディベート活動でインプット・アウトプットした内容や言語材料を振り返り(再内化),エッセイにまとめていきます。この再内化は,スローガンの「自ら深める、」に当たる部分です。また,英語理解の授業で採用している教科書(VISION QUEST English ExpressionⅡ 啓林館)の「対比」表現を参考にさせました。「ともに学び、自ら深める、 」のスペース部分(本校では『将来へのトランジション』を表し,個々の教員が考えることにしています)は,「地元」の現状を考えさせることで社会的な課題や実生活と関連させ,「○○すべきだ」と提言できる力を涵養したいと考えました。こうした活動はSGH課題研究の根幹とも一致するものです。
1年次と2年次に実施したアカデミックディベートとの違いを以下のとおり説明しました。
その後,論題①を提示しプリントに沿ってチームで準備させました。 プリントには教師によるモデルを言語材料として提示し, そのモデル文を参考にチームで英文を作成していきました。以下は,モデル文の一部です。
即興ディベートの進め方とジャッジの観点(ルーブリック)について再教示し,初めての即興ディベートを実施しました。生徒も楽しみながら取り組んでいる様子でした。
前時と同じ4~6人のチームを作り,以下A~Eの役割分担を決めさせます。 4人チームの場合はAがBを兼ね,6人班の場合はC'を置き2人で交互に質問させます。
A 立論(1分)
B 質問への回答(1分)
C 質問(1分)
(C') 質問(1分)
D 反駁①(1分)
E 反駁②(1分)
All the vending machines in Nagasaki Higashi High School should be removed.
以下は教師によるモデル文の一部です。
教員がタブレット等で時間を明示して進行します。
◆3-6教室(進行:一ノ瀬)
◆英語教室(担当:Matthew)
図3 授業風景
立論および反駁①と反駁②を評価(審査)するために,発音,声量,ジェスチャー,内容の4項目に関するルーブリック(ジャッジペーパー)を作成しました。事前に配付しておくことで,高得点をとるためにチーム内で学び合いやサポートする態度が見られました。進行役の教員も同じルーブリックで審査し,その後の定期考査の評価の一部としました。
自作プリント中の教師モデル文は,あえてやや難度の高い英文を掲載しました。生徒達はこのモデル文を参考(内化)に,個のレベルに合わせて易しい英文に書き換えたり,自分たちのオリジナルの英文を準備したうえでディベート(外化)に取り組みました。ディベート中も相手チームの論点を聴いたり,メモを取ったりするなどのインプットが行われていました。さらに,エッセイライティングを課すことで学習内容を振り返るよう意図しました。まとめとしてエッセイをペアやグループ内で発表させ,内容や表現の良さを出し合いました。
図6 エッセイの一部
約40名のクラスを2つに分け,日本人英語教員とネイティブ教員をそれぞれにModeratorとして配置しました。このことで学習者への指示や授業運営が責任を持って行われるメリットが生じました。また,一部の生徒によるプレゼンテーションよりも活動への主体的参加が促され,自己の役割を果たそうとする積極的な姿勢が見られました。事前に配付したルーブリックによって評価規準を明確化し,ピア評価を実施することもできました。さらに他チームをジャッジしメモをとることで様々な視点を批判的に考えることができたのではと推察します。
ディベートの次の活動としてエッセイライティングに取り組ませました。すべての生徒が100語以上のエッセイを提出し,72%の生徒が150語以上、39%の生徒が200語以上記述できました。このことはディベートによりインプット・アウトプットしたものを振り返るとともに,実際にどのような種類の自販機がどのような場所に設置されているかを自主的にリサーチすることができたためであると考えます。校内の自販機をスタートに,長崎市内の自販機へと地域や社会について考えさせる契機になったと思います。
教師側が改善すべき点としてルーブリックによる審査の問題が挙げられます。ルーブリックを細かく設定しすぎたため審査時間が想定よりも長くかかってしまいました。また,今回は個人の力量が問われる反駁よりもチームで協働して作成する立論に採点のウエイトを置きましたが,「即興性」を評価するのであれば反駁により大きなウエイトを置いた方がよかったのではと反省しました。今後ルーブリック(ジャッジペーパー)全体をシンプルにする,あるいは反駁に特化したものを取り入れ,スムーズに活動をファシリテートしたいと思います。
生徒は即興で話すことにまだ慣れておらず,発表の持ち時間を余してしまうことが多かったです。しかし今後もこのような系統的アウトプット活動を継続し,スピーキングの即興性を高めながら4技能の育成を図りたいと思います。
【参考ページ】
【参考文献】
✓ 西岡加名恵 (編) (2008). 逆向き設計で確かな学力を保障する 明治図書
✓ ウィギンズ, G.・マクタイ, J.(著) 西岡加名恵 (訳) (2012). 理解をもたらすカリキュラム設計-「逆向き設計」の理論と方法- 日本標準
一ノ瀬憲二(いちのせ けんじ)@長崎県立長崎東高等学校