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(桐蔭学園)前に出てきて発表 by 関谷吉史

*『桐蔭AL通信』の原稿を本ページ用に執筆し直したものです

   
   

*「前に出てきて発表」の場面は、下記のYouTubeビデオで何度も出てきます。ご覧ください。
・YouTube:【アクティブラーニング】大学・社会へとつなげる桐蔭学園のAL(2015年7月2日) 
・YouTube:【改革2年目のさらなる進化】桐蔭学園 アクティブラーニング型授業の改革(2016年7月15日) 

 

 

第1節 なぜ「前に出てきて発表」なのか?

 さまざまなプレゼンや講演を視聴していると、内容はよいのだけれど、どうもおもしろくないということがよくあります。逆に、指摘したいことはいくつもあるけれど、実に魅力的だということもあります。この違いは多くの場合、話し手の「相手に伝える」という意識の質から生じるのだと思います。自分がいいたいことをいえばよしというのはダメで、この場合、聴衆に伝わるかどうかについて十分な配慮がなされていないわけです。聴衆から見れば、大切にしてもらっていないと感じられるわけですから、おもしろくないのも当然です。話し手が緊張してしまうのは仕方がありませんが、それにしたって緊張ゆえに聴き手への配慮を欠けば、聴き手にとってはやはりおもしろくないのです。こうなっては、学びの機会としては貧しいものとなってしまいます。授業の場でも、発表者の振る舞い次第で、よい学びの機会となることもそうでなくなることもあります。ここでは、前に出て発表することと学びについて少し考えてみます。
 理想は、クラスのだれもが、授業のテーマについてクラスのみなに伝えたいことを伝えられ、聴きたいことを聴けるという状態でしょう。学びに向かう心を軸に、だれもが自分とクラス全員を尊重し、自分の意見を提示することで、あるいは他者の意見を傾聴することで学びを進めていく。その過程で必然的に発表の機会が生じるということです。
 もちろん、理想通りにいくことはほとんどありません。たいていは授業デザインの中に「発表」の機会をあらかじめ織り込んで、意見の確認や共有の機会とします。併せて、発表者にとっては人前で話す貴重な機会、聴く側にとっても聴衆としての振る舞いを身につける機会とします。これらが社会人としてきわめて重要なスキルであることはいうまでもありません。特にプレゼンの力が求められる機会は、これからの時代、ますます増えることでしょう。

 

 

第2節 「前に出てきて発表」の効果

 桐蔭学園のアクティブラーニング型授業では、「前に出て発表」の機会を多く作るようにしています。その場で起立して意見をいうだけでいいのではないか、時間がもったいないのではないかという考えもあるでしょう。しかしそれは教える側の論理です。学ぶ側からすれば、その場で起立して発言することと、クラス全員と向き合って発言することは全くの別物です。相手がクラスメイトとはいえ、大勢の注目を受けるなかで自分の考えを述べる経験には、大きな意味があります。
 後にみなの前での発表が控えているとなると、そこまでの学習への取り組みがより真剣になります。ある種の「晴れの舞台」が控えているという緊張感があるからこそ学びが深まるということがあります。実際にやるまでは緊張したり、いやになったりすることもありますが、終わってみればそれがあったおかげで学習したということもあるでしょう。あるいは、自分自身やクラスメイトが一時的にでも主役となることで、生徒の授業へのかかわり方は格段に深くなるともいえます。緊張したり達成感を得たり、失敗すればいやな気持になったりと感情が揺れますが、そうした感情の動きとつながった学習内容は、理解が深まりやすいとともに長く安定した記憶として定着することでしょう。
 また、こうした経験をするたびに、みなの反応をもとにして、自分の話し方や学習内容について深くふり返る機会を得ることができます。このあたりのことは大人でもまったく同じでしょう。アクティブラーニングを導入してから、桐蔭学園では、各種の会議や研修等において、教員が「前に出て発表」をする機会が多くなりました(写真1を参照)。こうなると、ただ座っているだけというわけにはいきません。

写真1 研修会で教員も「前に出てきて発表」

 

 さらに、多様な人たちに向かって意見を述べ、反応を得る経験は、他者の立場を想像する思考の習慣を作るのではないかということです。
もちろん、以上のようなことを実現するためには、教室の雰囲気が発表者に対して寛容でなければなりません。その雰囲気を作るのは教員の仕事でしょう。また、どうしても発表をいやがる生徒については、教員の中で情報を共有しつつ配慮していくといったことも必要でしょう。

 

第3節 実施に向けてのポイント

 生徒に「前に出て発表」を求めるときの具体的なポイントをいくつか指摘しておきます。

・だれもが当たりうる状態をつくる
 自分が当たらないとわかれば、取り組みが鈍りかねません。桐蔭学園では、乱数発生アプリを使って指名することがよくあります。
・頭を整理する時間をとる
 生徒には、できれば発表で成功体験を得てほしい。そこでやや複雑な内容の発表を求めるときは、例えば1分の発表時間ならば、1分~2分ほどシミュレーションする時間を与えることがあります。
・発表用のシートを準備する
 内容の複雑さにもよりますが、ある程度の型を用意しておくのもよいでしょう。それをワークシートにして、項目や書き込み内容を確認しながら発表する方法です。
・聴く側の生徒の姿勢や体の向きについて指導する
 聴く側の生徒たちが、聴く姿勢をきちんととっていると、発表する生徒は「伝える意識」を高めます。また、振る舞いに気をつけるようになります。ある教員は、聴く側の生徒全員が「聴く権利」を求めて全員挙手するまで、発表者は発表をはじめないという空間を作っています。
・目線、体の向きなどについて、繰り返しアドバイスをする
 慣れるまでは大変ですが、繰り返していると、多くの生徒が上達してきます。細かいことでいえば、黒板の文字や黒板に貼った教材を見ながらの説明となると、黒板のほうを見ながら話してしまう生徒が多くいます。そうしたときには、「だれに伝えるの?」などと声をかけ、聴き手である生徒のほうを向くように促したりします(写真2を参照)。

写真2 「聴く側の姿勢や体の向き」「発表のときの目線、体の向き」

 

・発表後には全員で拍手をする
 発表がうまくいっても、うまくいかなくても、大勢の前で緊張感にたえて発表したことには変わりありません。そのおかげで、全員の学びが進んでいくことを認め、その労をねぎらうことを大切にします。拍手をしない生徒を放置はしません。
・発表の様子を動画撮影し、生徒に見せる
 桐蔭学園では全教員にタブレットが貸与されています。そのタブレットで授業の様子や生徒の様子を撮影することがしばしばです。自分の発表の姿を客観的に見ることは、貴重な学びの機会です。

 

最後に

 発表等の機会が、よい学びの機会となることはたしかですが、その効果を高めるには、目的に沿ったきめ細かな指導が必要です。

 

(文責:関谷吉史 プロファイルはこちら

 

*「前に出てきて発表」の誕生の経緯は、「(桐蔭学園の教育改革)桐蔭学園のアクティブラーニング型授業の改革2015-YouTubeビデオの解説」で説明されています。(by 溝上)

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