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(桐蔭学園)話すことが苦手な生徒の成長 by 関谷吉史

*『桐蔭AL通信』の原稿を本ページ用に執筆し直したものです

 

 

第1節 話すのが苦手だからこそアクティブラーニング!

 保護者や学校説明会に来場される方々から、「うちの子は話すのが苦手だからアクティブラーニングに向かないのではないか?」という不安の声をうかがうことがあります。しかし、そうしたときには、こう答えます。「だからこそです」。
 桐蔭学園におけるアクティブラーニングは、変化の激しいこれからの社会へ出ていく子どもたちが、たくましくしなやかに活躍していくために必要な力を身につけることを目指すものです。自ら課題を発見・解決する力、対話的に学ぶ力、論理的思考力、表現力、基礎的な知識……こうしたものをバランスよく育成するにはアクティブラーニングが効果的だと考えたのです。「そのような力は不要だ」「別の方法で身につけるのだ」「アクティブラーニングではその力はつかない」ということであれば、教育についての話し合いができます。しかしたいていの場合、アクティブラーニング導入の意義には納得するが、うちの子のことを考えると不安だというのです。これは素直な言葉なのだと思います。ただ、大切なことは子どもたちの成長のはずです。今できるかできないかではなく、生徒・保護者・教員の間で連携をはかりつつ、子どもたちの成長を助けていくことです。

 

 

第2節 指導のしかた

 さて、実際の指導についてです。基本的には、意義を説きつつアクティブラーニングに参加してもらうのがよいと考えています。対話的に学ぶ力を育むことは大切だし、深い学びにつながると学校として考えているからです。
 もちろん、個別には柔軟に対応する必要があります。話しやすい相手を選ぶ、教員が話しかける、頷いただけでも「いいね」と伝える、一言何か言えたら成長を認めるなどもよいでしょう。無理にやらせないこともあるでしょう。
 そんなことしていいの? という質問を受けることがありますが、いいに決まっています。目指しているのは、一人ひとりの生徒が力をつけることであって、型通りにアクティブラーニングをすることではありません。
 ただし、こうした対応をするためには、生徒本人と授業担当者や担任が、コミュニケーションをはかる必要があります。そもそも人と話すのが苦手な生徒ですから、教員が傾聴の姿勢を持っていないと話になりません。教員間での情報共有、クラスメイトや保護者とも連携することができれば、さらによい対応ができると思います。

 

 

第3節 生徒の事例

 話すことが苦手な生徒の成長について、本校で見られた例を紹介します。
 日頃から教室でほとんどしゃべらない生徒(高校1年生)が、発表をすることになりました。やはり、なかなか言葉が出ません。そのクラスは傾聴の姿勢がよく身についており、じっと言葉を待っています。やがて説明が始まりました。教室後方の生徒には聴き取れそうにありません。教室はいっそう静まり返ります。すると、説明の声がいくばくか聴き取れるようになってきました。下を向き、無意識にあちこち触ってはいるものの、発表内容自体は、準備してきたことが分かります。まじめに取り組んでいるのです。発表が終わると、いつも通りの拍手が起こります。その生徒の頑張りと、クラスの傾聴姿勢について、担当者はすぐに他の教員に話しました。保護者との面談でも、担任からその話が伝えられたそうです。
 その後も、その生徒は少しずつ成長しています。発表についての他の生徒からの評価コメントや、発表を撮影した動画を見て、あちこち触っていることに気づき、次の機会にはその克服を目標として設定。それをやりとげたということです。決して発表が上手なわけでも、緊張しなくなったわけでもありません。しかし自分の苦手なことと向き合って、少しずつ向上することに大きな意義があります。それを教員が承認することも本人の自信につながるでしょう。成功を自ら認め、他者から認められ、失敗を次につなげる。そうした学びの場面が、アクティブラーニング型授業のなかには多くあるはずです。

 

 

第4節 使うことを意識して

 もちろんこれは一つの例に過ぎません。逆に、ペアワークやグループワーク、発表での失敗経験や緊張から、生徒が学ぶ意欲を減退させてしまうこともありえます。そうしたことにならないように教員が配慮・連携することの必要性は、上に述べたとおりです。
 ただ、使わない力は伸びません。使わないうちに失われる力もあります。しかもそのことに、教員が気づくことは稀でしょう。これは恐ろしいことです。生徒の成長どころか、その逆のことが、教育の中で、しかもごく普通の教育の中で起こりうるのです。アクティブラーニングをしていると、あの子にはこんな力あったのかという発見がよくあります。教員は発見を喜びます。それはそれでよいのですが、「発見される」ということは、それまで埋没していたということです。このことを考えると愕然とします。
 講義中心の授業では使わない力を、アクティブラーニング型授業では使っている。このことを真剣に考えるべきではないでしょうか。

 

(文責:関谷吉史 プロファイルはこちら

 

*「話すことが苦手な生徒」については、「(桐蔭学園の教育改革)桐蔭学園のアクティブラーニング型授業の改革2015-YouTubeビデオの解説」の最後パート(9:40~)でも話しています。(by 溝上)

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