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(記事・書籍等)大学入学共通テストモデル問題例・試行調査 国語問題分析-AL型授業推進の中で見えてくること-(1)
川妻篤史(桐蔭学園)

(溝上のコメントは最後にあります)

第1節 大学入学共通テストモデル問題―モニター調査の結果も交えながら―

2017年11月に「大学入学共通テスト(仮称)」の試行調査が行われました。この調査に先立ち、「大学入学共通テスト(仮称)」の国語と数学のモデル問題例が公表されています。記述式は2017年5月、マークシート式は2017年7月に公表されました(http://www.dnc.ac.jp/corporation/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/model.html)。まず本稿では、2017年5月・7月に公表されたモデル問題例の国語問題分析を行っていきます。2017年11月に行われた試行調査については、次稿で扱います。

さて、モデル問題例が公表されたとき、各メディアは記述式の問題ばかりに注目しましたが、マーク式モデル問題も公表されていたことに注目すべきです。記述式問題ばかりを見て、「大学入学共通テスト(仮称)」が目指すところを判断するのは危険です。本稿では、マーク式問題についても少し触れて分析したいと考えています。

また、メディアではモデル問題例ばかりに注目が集まっているようですが、「モニター調査の結果」にも注目したいところです。独立行政法人大学入試センターはモニター調査の目的について次のように記しています。「『大学入学共通テスト(仮称)』における記述式問題の導入に向けて、問題の条件設定や採点基準、採点体制や試験時間等の在り方など、モデル問題公表に向けた検証を行うため、モニター調査を実施」。大学1年生約400名を対象に行われており、解答者の傾向を把握する上で貴重な調査です。

国語記述式問題の問題数や時間については、このモニター調査から次のような形が適当とされています。40字程度の問題2問(約5分×2)、80~120字程度1問(約8分)、計3題程度(20分程度)。したがって、これまでのマーク式80分に記述式20分程度を加えた100分程度に設定するのが適当だろうとされています。検討されている問題数や時間は、モニター調査に基づくものであり、妥当な線ではないかと思います。ただし、マーク式が現行のセンター試験と同じ形であるとすれば、100分程度という時間設定は大変厳しいものだと言えるでしょう。そもそもこれまでのセンター試験80分という時間設定自体に無理があります。このあたりの見直しも同時に進めてもらいたいところです。

モニター調査の結果報告の中に気になる記述があります。「大規模での一斉の共通試験では、資質・能力を適切に問うとともに、客観性・公平性を確保した短期間での採点が必要である。」「受験者が思考・判断・表現を求められる具体的な場面を適切に設定することにより、解答のパターンがある程度限定され、短期間での客観性・公平性を確保した採点が見込める。」この記述から分かる通り、大学入試センターは「客観性・公平性を確保した短期間での採点」を目指しており、そのためには、「思考・判断・表現が求められる具体的な場面を適切に設定」した出題にして「解答のパターン」を限定しなければならないというのです。ここで気になるのは、解答のパターンを限定するために条件設定がなされたテストで、思考力・判断力・表現力をしっかりと問えるのだろうか、ということです。この点は、最後に改めて検討したいと思います。

 

 

第2節 記述式モデル問題例の特徴-「活用問題」-

記述式モデル問題例1は、市が作成した景観保護に関するガイドラインをめぐる親子の会話を題材にした問題であり、記述式モデル問題例2は、駐車場の賃貸に関する契約書を題材にした問題です。「市が作成した景観保護に関するガイドライン」や「駐車場の賃貸に関する契約書」は、まさに「現代の社会生活で必要とされている実用的な文章」であり、問題例1・2ともに「現代の社会生活で必要とされている実用的な文章を読んで内容を理解し、自分の考えをもって話し合うこと」という学習指導要領「国語総合」を意識した問題であることがよくわかります。

このモデル問題を見たとき、「やはりね」と思ったと同時に、「授業でこんな文章も扱っていかなければならないのか」とも思いました。「国語総合」の教科書は、学習指導要領に従って作成されていますので、確かに「実用的な文章」を扱っていないわけではありません。しかし私の場合、授業で扱うのは著名な学者や作家が書いた随筆文・評論文や小説ばかりで、実用的な文章としては新聞を扱う程度です。公共機関が発行したガイドラインや契約書の読解を授業で扱った経験はありません。大学入学共通テスト対策としてガイドラインや契約書などといった実用的な文章の読解方法を解説しなければならなくなる日が来るのかと思うと、戸惑いを禁じ得ません。そもそもそんな授業は「国語科の授業」と言えるのかと言いたくなります。私と同じようにお思いになった国語科の教員も多いのではないでしょうか。

ところで、先ほど「やはりね」と思ったと述べました。これは、小学校・中学校からの接続でいえば当然の帰結といえるからです。実用的な文章を扱う問題は、小学校・中学校を対象に行われているPISAや全国学力調査においてすでに出題されています。こうした流れがいよいよ高校に押し寄せてきたということです。小学校から中学校、中学校から高校という接続を考えるならば、中学校までに育ててきた力を高校でもしっかりと育てようとする流れは、自然です。

小学校や中学校では、多くの学校が「言語活動の充実」を教育目標に掲げて、具体的な取り組みを行っており、教科を超えた、学校の全体取り組みとして行われていることに注目する必要があります。これはもちろん、「言語活動の充実」が学習指導要領に掲げられているということが大きいわけですが、「言語活動の充実」は何も小学校・中学校の学習指導要領だけに掲げられているわけではありません。高校の学習指導要領にもしっかりと「言語活動の充実」が明記されています。にもかかわらず、高校において「言語活動の充実」が学校全体の取り組みになりえないのはなぜか。それは、PISAや全国学力調査のようなテストが存在せず、「学力」を測るテストとして大学入試が大きな存在感を示しているというところが大きいと言えそうです。進学校の高校現場においては、大学入試が大きなウェイトを占めており、「学習指導要領にどんなすばらしいことが書いてあっても、大学入試が変わらなければ」とおっしゃる教員の方々が多いのが現状です。こうしたことから言えば、大学入学共通テストの問題が「言語活動の充実」につながる出題になったということの意味は非常に大きく、学校現場を揺るがす大きなムーブメントにつながる可能性があります。ただし、これは可能性でしかありません。「言語活動の充実」は、教科科目の壁を超えて、学校全体を挙げて取り組む必要があるからです。しかし、高校現場において、教科科目の壁を超えることは至難の業です。私は、アクティブラーニングがこの教科の壁を超える一つのきっかけになるのではないかと考えています。

桐蔭学園では、アクティブラーニング型授業導入の中で、活用問題の開発を始めました。活用問題とは、「習得」した知識・技能を「活用」しながら取り組む課題のことです。主に単元の終わりに行うことを想定しており、生徒主導の学びである「探究」へ導くものであると位置づけています。まさに「習得→活用→探究」のプロセスは、学力の3要素を踏まえながら学びを深めていく過程といっていいと思います。安彦忠彦氏は、「活用」をさらに「活用Ⅰ」「活用Ⅱ」に分けて考えています。そして、安彦氏が考える「活用Ⅱ」は、まさに実社会・実生活につながる課題に取り組む学習活動であり、記述モデル問題1・2が活用Ⅱの力を問う問題になっています(図1)。

図1 習得-活用(活用I・II)-探究

 

 

第3節 記述式問題解答状況

大学入試センターのホームページにて、モニター調査による記述式モデル問題の解答状況が公表されています(表1を参照)。この解答状況からいくつか気になるところを分析していきます。

表1 国語(記述式問題)

 

 

第4節 記述式問題分析(モデル問題例1問1)

モデル問題例1問1は、会話文中の傍線部「一石二鳥」について、その内容を問う問題です。「一石二鳥」の「一石」と「二鳥」について、それぞれの要素について説明すると同時に、それら要素同士の関係も踏まえて40字以内で記述しなければなりません。解答状況を見て気になったのが、「一部正答50.6%」です。この結果が示すところは、すべての要素を絡めてしっかりと解答できていない者が多かったということです。問われている内容は決して難しいものではありません。ほぼ同内容の問題がマーク式問題でもモニター調査されており、そちらの正答率は88.9%でした(図2を参照)。

図2 モデル問題例1問1

 

この結果が示唆するところは、非常に興味深いものです。モニター調査被験者の大学生たちは、複数の要素を自分で考えてつなぎ合わせながら解答を作ることを苦手としていたということです。国語の授業では、「ここはどういうことを言おうとしている?」などと発問する機会が多くあります。活気のある授業であれば、生徒たちは口々に思いつく答えを発言します。今回のモデル問題例の問いであれば、生徒たちからは「治安が維持されること!」とか「環境資源として活用されること!」などといった発言が飛び出すことでしょう。私たち教員は、こうした発言に「そうだね」「そうだね」と言って対応します。こうした発言が教室を活性化させますから、教員としては大歓迎といったところです。

ところが、こうした生徒たちの発言は、一つの要素を発言するばかりで、複数の要素を適切につなぎ合わせたものになっていないことがほとんどです。ここに欠けているのは、必要となる要素を洗い出し、それら要素間の関係についてしっかりと思考するという姿勢です。モニター調査の結果を見るかぎり、このような授業と同じ状況がテストの解答にもあらわれているのではないかと考えられます。いや、同じ状況があらわれているという言い方は不適切かもしれません。なぜなら、モニター調査の被験者は、私がここで紹介したような形の授業を受けてきた可能性が高く、しっかりと思考する力を育てきれずにいたかもしれないからです。私たちは、こうした形の授業を通して、しっかりと思考し、判断して表現できることよりも、素早く反応して答えられることの方に価値があると生徒たちに教えてきたのかもしれません。

こうした問題に完全な形でしっかりと正答できるように育てていくには、まず個人で取り組んでみる時間を確保することが大切です。個人で思考する時間を確保するということです。「一石二鳥」を「一石」と「二鳥」に分けて、「一石」とは何のことで、「二鳥」とは何のことか、「一石」と「二鳥」はどのような関係にあるのか。こういったことをしっかりと思考した上で表現できれば、今回のようなモニター調査の結果にはならなかったはずです。

桐蔭学園のアクティブラーニング型授業では、授業デザインにおいて「個⇒協働⇒個」という流れを重視しています。「アクティブラーニング」と言われれば、いかにも生徒たちが活発に発言する場面を想像することでしょう。そうだとすれば、教員の発問に間髪入れず答える元気な生徒たちの姿は、まさにアクティブラーニングだということになります。しかし、間髪入れず元気に答えを発言することが「アクティブ」だといっていいのでしょうか。元気に答えた生徒は、教員に「そうだね」と言われて、そこで思考をストップさせてしまいます。何よりも問題なのは、いままさに思考している(もしくは思考しようとしている)生徒たちはこの元気な生徒の発言によって思考をストップさせられます。アクティブラーニング型授業は、まず個人がしっかりと思考できる時間を確保します。この時間を確保せずにペアワークやグループワークに入ると、しっかりとした思考にもとづく協働になりません。今回のモニター調査の結果から、あらためて「個」から入ることの重要性を再認識した次第です。

「個」で思考した後、「協働」の場面で自分の答えと他のメンバーの答えの違いに注目できるようになれば、自分に足りない要素や自分で見出せなかった関係性に思い当たることも可能です。要素や関係性を踏まえた記述答案を書くには、自分の答案の可否を判断できる力が求められます。「個⇒協働⇒個」の流れを意識したアクティブラーニング型授業を実践していれば、十分にこの記述型問題には対応可能です。

40字程度の少ない字数で記述させる問題では、ろくに表現力を問えないので、わざわざ記述形式にする必要などないという方々もいます。しかし、記号選択式では思考力・判断力・表現力を問うものにならなかったことは先に述べた通りです。私たち教員が思っているほどに、生徒たちは複数の要素や関係性を踏まえて記述するということが得意ではないということを肝に銘じるべきです。

 

 

第5節 記述式問題分析(モデル問題例1問4)

モデル問題例1問4は、80字から120字で解答しなければならない記述問題です。この記述問題は、最も無解答が多い問題(「無解答」10.8%)でした。初めは80字から120字という字数の多さによるものかと考えたのですが、モデル問題例2問2も120字以内となっており、単に字数が多かったから書けなかったということではなさそうです。

この問題は、「かおるさんはどのような意見を述べたと考えられるか」という形になっており、問題文中の会話に登場してこない「かおるさん」の意見を問うています。いわば問題の会話文中に出てこない人物の考えを想像して答えなければならず、答えが一つではない課題だと認識された可能性があります。しかも、意見を述べるという形になっており、自分なりに意見を考えなければならない問題だと思った可能性もあります。さらに、「それぞれの根拠となる記述を…引用し」とあり、根拠となる記述を引用することを求めています。議論をしたり、批判的に検討したりするときには、この「引用」がとても大切になります。しかし、高校の授業で「引用」の重要性を教えているところはほとんどないと思います。

以上のことから、モニター調査の被験者たちは、この問題を「難しい問題」と思い込んだのかもしれません。実際は細かな条件が4つも示されており、答えるべき内容はこの条件に従えば明確で、「難しい」と言えるほどのものではありません。日頃から批判的に考えたり、自分の意見を述べたりする習慣がある人にとっては、逆に問題で示されている細かな条件に窮屈さを感じるでしょう。いずれにせよ、批判的に考えたり、自分の意見を述べたりする習慣がある人にとっては、それほど難しいと感じる問題でなかったはずです。

アクティブラーニング型授業では、生徒同士が意見を述べ合う機会を設けます。時には相手の意見に対して批判することも必要です。この問題も、アクティブラーニング型授業で十分に対応できるようになると言っていいでしょう。

 

 

第6節 記述式問題分析(モデル問題例2問3)

モデル問題例2は、駐車場の賃貸契約書に関する問題です。問3では、次のような問題が出題されています。「新町Pとの契約書には、原パークとの契約書と比較して明確にされていない点があり、これが不利に働いてトラブルに巻き込まれる可能性があることに気づいた。この問題を解決するためには、どのような内容を契約書に盛り込んでおくべきか」。この問題に答えるには、二つの賃貸契約書を見比べて、抜けているところを見抜かなければなりません。この問題は、誤答率が最も高く72.9%でした。無解答もそれなりに多いのですが、やはり目を引くのは誤答率です。条件の一部を満たす解答は0%でした。さしあたり解答は書いたがまったく正解できなかった者が多かったということです。

誤答率の低さは、私たちの授業のあり方を考えれば、よくわかります。授業では、何か書かれていることから答えを見つけるという活動をよく行います。しかし、どうでしょうか。抜けているところ(書かれていないこと)を見つけるという活動はほとんど行われません。抜けている所を見つける活動には、教材をよく読みながら気になるところを発見できる「気づき」の力が必要です。「どうして?」「なぜ?」と自分で問いながら読み進める力です。与えられた問いの答えを教材文の中から探し出すことしか取り組んでこなかった生徒にとって、この問題は難しい問題にうつることでしょう。

アクティブラーニング型授業では、「ふり返り」を重視しています。私の授業では、「ふり返り」に次のことを書くよう指示しています。「学んだこと・気づいたこと・考えたこと・疑問・感想・次回の自分へ」。この中で特に重視しているのは、「気づいたこと」です。この「気づき」だけは、だれかが代わりに取り組むということができません。「考えること」「疑問をもつこと」の萌芽になる部分であり、生徒自身が気づかなければどうすることもできないところです。ふり返りに書かれた「気づき」は次の授業で生徒たちに紹介することにしています。クラスメートの気づきは、生徒たちに大いに刺激になります。自分たちで考えることができるのだという気持ちになれるからです。こうした「ふり返り」を通して自分で気づくということが習慣化していれば、このモデル問題にも十分対応できるようになるのではないかと考えています。

 

 

第7節 アクティブラーニング型授業で対応できる

今回示された記述式問題のモデル問題例の特徴をまとめると次のようになります。

以上、特徴を列挙しましたが、いずれもアクティブラーニング型授業で対応できるというのが私の考えです。

桐蔭学園のアクティブラーニング型授業では、次の4点を大事にしています。

まさにアクティブラーニング型授業は、「主体的・対話的に深く学ぶ」ことを目指した授業です。記述式問題の特徴で示したものはアクティブラーニング型授業で十分対応可能だとわかっていただけるのではないかと思います。

ここで一つ押えておくべきことがあります。それは、アクティブラーニング型授業が国語科の専売特許ではないということです。アクティブラーニング型授業は教科を超えたものであり、小学校や中学校で取り組まれてきた「言語活動の充実」も同じです。「最近の生徒たちは日本語力がなくなっている。国語科はいったい何をやっているのか!」などと、他教科の先生がたからお叱りを受けることがあります。しかし、これは国語科だけの問題なのでしょうか。高校の学習指導要領には次のように記されています。「各教科・科目等の指導に当たっては,生徒の思考力,判断力,表現力等をはぐくむ観点から,基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに,言語に対する関心や理解を深め,言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え,生徒の言語活動を充実すること」。「各教科・科目の指導に当たっては」とある通り、教科を超えて取り組まれるべき活動であるということがわかります。

今回の国語の記述式問題のモデル問題例は、教科「国語」として位置付けられていますが、国語科の授業のみで育成する学力というよりも、教科を超えてアクティブラーニング型授業を通して育成する学力が求められる問題になっています。そういう意味で、学校をあげてアクティブラーニング型授業を展開しているところは、大学入学共通テストの「国語」記述問題のために何か特別な対策を講じるといったことは必要ないでしょう。日々の授業でしっかりと学力をつけていくという、学校として当たり前のことを当たり前に実践していくことが大切になります。

 

 

第8節 マークシート式問題と記述式問題

とはいうものの、これまでのような国語科らしい問題はどうなってしまうのかと不安に思う国語科の教員も多いことでしょう。実際、私もその一人でした。いままで授業で扱っていた文学作品などは「実用的ではない」と軽視されるようになるのではないかと危惧する人もいるかもしれません。

「記述式問題」が公表された後に、「マークシート式問題」も発表されています。この「マークシート式問題」を見て、私は安心しました。こちらの方は、しっかりと文学的な文章が扱われています。マークシート式問題のモデル問題例の出題のねらいとして次のように記されています。「文学的な文章のみを題材として提示するのではなく、文学的な文章(短歌)について書かれた二つの評論を比較して読み、それぞれの筆者の短歌の解釈や論理の展開の仕方を理解する力を問うとともに、更に二つの評論の内容を基に生徒が他の短歌を鑑賞する言語活動の場を設定し、テクストを的確に読み取る力、及び推論による内容の補足や精緻化によってテクストを構造化する力も問うた」。文学的な文章だけでなく、それに関する評論も読むというスタイルはこれまでのセンター試験になかった形ではありますが、国語科でしか扱えないテーマ・教材であることは間違いありません。

このマーク式問題モデル問題例に対応できる力をつけるにはどうすればいいのか。これまで通りの教材で授業をデザインすればいいというのが私の考えです。ただし、文学的な文章と評論を比較して読むといった問題への対応は、ただ文学的な文章を作品として読むというこれまでの授業のあり方では不十分でしょう。私の場合、漢文の授業で現代文の評論と比較して読みを深めるという授業を行っています。LTD話し合い学習法を取り入れた授業スタイルで、教科書に収録されている漢文を読んだ後に、その漢文について書かれた評論を読んでグループでディスカッションします。授業を受けた生徒たちからのふり返りを紹介しておきます。

こうしたふり返りから見てもわかる通り、漢文と評論文を比較して読み進める授業スタイルが深い学びに到達する上で有効に働いているのがわかります。

 

 

第9節 共通テストという限界

改めてモニター調査の結果報告を引用します。「大規模での一斉の共通試験では、資質・能力を適切に問うとともに、客観性・公平性を確保した短期間での採点が必要である。」「受験者が思考・判断・表現を求められる具体的な場面を適切に設定することにより、解答のパターンがある程度限定され、短期間での客観性・公平性を確保した採点が見込める。」

今回の記述式問題モデル問題例は、2015年12月に発表された「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)で評価すべき能力と記述式問題イメージ例【たたき台】」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/033/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/12/22/1365554_06_1.pdf)と比べた場合、短期間で採点できるよう変更がなされているのは明らかです。結果報告では「受験者が思考・判断・表現を求められる具体的な場面を適切に設定することにより」とされていますが、思考力・判断力・表現力を問う問題として適切に設定されたとは言いがたいというのが私の印象です。受験者の思考力・判断力・表現力を問う問題としては2015年12月の「記述式問題イメージ例【たたき台】」の方が適切なものでした。「記述式問題イメージ例【たたき台】」の例3は次のような問題になっています。「今後の公立図書館の在るべき姿について,あなたはどのように考えるか。次の1~3の条件に従って書きなさい。条件1 200字以上,300字以内で書くこと(句読点を含む。)。条件2 解答は2段落構成とすること。第1段落には,今後の公立図書館が果たすべき役割として,あなたが重要と思うものについて書くこと。その際,文中に示された公立図書館の今後の可能性のうち,今,あなたが重要と考える事項を一つ取り上げ,本文中の言葉を用いて書くこと。第2段落には,仮にあなたが図書館職員だとした場合,図書館において,第1段落で解答した姿を実現するために,どのような企画を提案したいかを記すこと。その際、企画の内容に加えて企画の効果についても記すこと。条件3 本文中から引用した言葉には,かぎ括弧(「 」)を付けること。」この問題の答案を採点するのは、たしかに大変であり、時間もかかるでしょう。採点に際しては、ルーブリックを用いた評価が求められることになります。しかし、「探究」につながる、実社会につながる問題としては、どう考えてもこちらの方が適切です。

採点のために、思考力・判断力・表現力を問う問題の質を犠牲にしたのは確かです。今回の記述式問題モデル例を全否定するつもりはありません。記述式問題モデル問題例のような短い記述によっても評価できる部分が多々あるからです。しかし、高大接続改革の中で目指されたのは、センター試験に代わるものとして「思考力・判断力・表現力」を問う入試を作ることだったはずです。私は「記述問題イメージ例【たたき台】」を見たとき、「探究」につながる「活用」を問うテストになりそうだと大きな期待を寄せました。しかし、今回発表された「記述式問題モデル問題例」は、その期待に沿うものではありませんでした。共通テストとして実施しなければならないということも大きな壁になっています。こうした「活用」を問うテストをなぜ採点に難のある共通テストの形で行わなければならないのか。速やかな採点、客観性・公平性を確保した採点を求めるのであれば、無理に「活用」を問うテストにしなくてもよいのではないか。各大学で行われる個別試験に委ねても良いのではないか。もし「活用」を問うテストとして「大学入学共通テスト(仮称)」を実りあるものにしたいのであれば、採点に時間をかけることになったとしてもルーブリックを用いた評価をとり入れることを検討すべきです。

 

文献

文部科学省「高等学校学習指導要領」(2009)

安永悟・須藤文「LTD話し合い学習法」ナカニシヤ出版(2014)

文部科学省「『大学入学希望者学力評価テスト(仮称)』で評価すべき能力と記述式問題イメージ例【たたき台】」(2015)

溝上慎一編「高等学校におけるアクティブラーニング(理論編)」東信堂 (2016

大学入試センター「『大学入学共通テスト(仮称)』記述式問題のモデル問題例」(2017)

大学入試センター「第1回、第2回 モニター調査実施結果の概要について」(2017)

大学入試センター「『大学入学共通テスト』マークシート式問題のモデル問題例」(2017)

大学入試センター「第1回、第2回 モニター調査実施結果について」(2017)

 

 

溝上のコメント

 

【参考ページ】

(理論)大学教育におけるアクティブラーニングとは

(桐蔭学園)個-協働-個の学習サイクル

(AL関連の実践)【高校】川嶋一枝(静岡市立高等学校)「ワークシートにおける「個-協同-個´」の学びの構造化」

 

 

プロファイル

川妻篤史(かわつま あつし)

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  • 学校法人桐蔭学園 国語科教諭。教育企画室室長・教務部次長。明治学院大学外部評価委員。
  • 一言: アクティブラーニング推進委員として学内の授業改革を推進してきました。「授業に学ぶ楽しさと成長できる喜びを」をモットーに、AL型授業推進に取り組んでいます。アクティブラーニング型授業推進を通して最近感じるのは、教員が教師としての原点を見直すことの大切さです。“ALをALする”ことで、教員自身も学び、成長していかなければならないと思っています。教育企画室にて中高版IR活動を始動。エビデンスに基づいた教育実践を目指しています。

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