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(AL関連の実践)【中学高校】
帝塚山学院中学校高等学校 -アクティブラーニング型授業を洗練させる取り組み-

帝塚山学院中学校高等学校・教育研究プロジェクト(執筆:筒井規子・道中博司)

(大阪府私立) 帝塚山学院中学校高等学校のウェブサイト

(溝上のコメントは最後にあります)

第1節 帝塚山学院中学校高等学校について

帝塚山学院中学校高等学校は、大阪にある中高一貫の私立女子校である。中高ともに、ヴェルジェコースと関学コースがあり、高校は音楽系専攻と美術系専攻がヴェルジェコースに加わってのプログラム体制となる。

本校は2016年、法人設立100周年を迎えた。開学以来、自ら学び、自ら考えるという「自学主義」を教育理念とし、現在に至っている。本校では、その理念を具体化するプログラムの一環として2008年度よりアクティブラーニング的視点を取り入れた「創究講座」を開設した。当時、社会のグローバル化と多様化が進む中でこれから先、このような力が求められる時代が必ず来るだろうと予見した上での判断であった。両コースとも、この「創究講座」や様々な体験型学習を通して、積極的にアクティブラーニング型授業を推進している。

 

 

第2節 10年前の改革

本校では、10年前に「教育研究プロジェクト」を立ち上げ、大きな改革を行った。

その委員会の主要な施策のひとつとして「総合的な学習」の充実があった。中高6年間の「総合的な学習」の主軸として「創究講座」を位置づけた。具体的には、中学校は表現スキルの習得を目指す「創究基礎」、高校はアクティブラーニングを通じたキャリア教育を行う「創究講座」の2つを設置した。中学校「創究基礎」では「活用型」の学びの基礎を大別して「見つける・調べる・まとめる・発表する」という4つの力として位置づけ、さらにそれらを細分化した発展的学びの基礎としての14スキルを身につけることを目標としている。例を挙げると、この「創究基礎」では「プレゼンテーションでの声の出し方」や「文献の調べ方」などの基礎的な技能の習得から始め、「卒業研究レポート」の作成とその発表までを行う。さらに高校「創究講座」では、生徒全員が論文を書きプレゼンを行う。また、課題を与えてディベートをするという取り組みを実施している。

 


図1 中学校「創究基礎」で身につけるスキル

図2 高校「創究基礎」で学ぶ学問領域

 

「卒業レポート」の制度は昭和42年に始まっており、実に半世紀以上の歴史を持っている。近年では優秀なレポートを書いた生徒によるプレゼン発表会も行っており、時代に合わせた内容のアップデートも行われている。また、この取り組みは本校の教育理念のひとつである「自学主義」とも密接に関わっており、「創究講座」の総仕上げとして重要な役割を果たしている。

 


     図3 昭和55年度卒業レポートの例        図4 平成28年度卒業レポートの例

 

10年前の段階では、現在大きな動きとなっている「高大接続改革」や「大学入試改革」はまだ全く公表されておらず、「アクティブラーニング」も、少なくとも中学校・高校の教育界では全く取り上げられていなかった。そのような中で、「創究講座」を開設して、生徒の発信力育成と主体的な学びの実践に向け、学校全体として先進的な改革を行った。それは、生徒が高校卒業後、大学で学び、社会に出て活躍するために、本当に必要な力をつける教育をするべきだという本校教員の強い思いの表れであった。

 

図5 創究講座における発表の様子

 

 

第3節 改革の成果

「創究講座」の設置に伴う生徒の学ぶ姿勢の変化に促され、各教科の授業を充実させるという意識が教員間に高まった。そこで、授業研究をより組織的に行うこととした。2012年から2015年の3年間は、各教科が、教科ごとの特徴的な授業を教員対象に実施するというスタイルをとった。各教科が思い切ったアクティブラーニング型授業を同僚の教員を相手にして実践する形となり、それぞれの特徴的な取り組みを全教員で共有することができた。いま振り返るとまさに、教員組織の意識が自然に変わるきっかけとなったように思う。

ちょうどこの時期、全教員が「アクティブラーニング入門」として、鈴木健生先生の講座を受ける機会があり、アクティブラーニングをワークショップで体験することができた。その結果、本校が創立以来「自学主義」という教育理念のもとで発展的に行ってきた取り組みが「アクティブラーニング」という視点から明確に定義され理論化されていることを確認できた。授業研究と教員研修を通じて、教員がアクティブラーニングに組織的に取り組むことで、本校の実践がより洗練されていくことを実感した。そこで、「アクティブラーニングの理解と授業への活用」を翌年の授業研究のテーマの一つとして位置付けた。

研究の成果として、例えば英語科は、「アクティブラーニング型授業」が教科の特質(言語活動)と結びつきやすく、グループ学習による文法の教えあいなどの協働作業が「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」の発見に繋がり、生徒のモチベーションが上がったと報告している。今後の課題として、「アクティブラーニング型授業」の指導形態や実践例を研究し、モチベーションの向上だけではなく成績アップにつながるかどうか検証する必要がある。今年の授業研究では、「英文法の知識を協働学習で発表することで定着を図る」という授業の効果検証を進めている。

 

<授業実践例> 竹村紗季「協働学習と発表で英文法の知識を定着させる授業」

 

 

第4節 アクティブラーニング型授業の具体化

(1)2016年2月 校内教員研修(全教員対象):産業能率大学(当時)鈴木健生先生 「アクティブラーニング型授業とは」

2015年5月19日に大阪府私立高等学校進路指導研究会で鈴木教授の「アクティブラーニング実践」研修を受けた現副校長が、校内でも研修の必要性を感じ、鈴木教授に教員研修の講師を依頼した。「アクティブラーニング入門」として、これまでの本校の実践とアクティブラーニング型授業とが、どのように違うのか、または通じるところがあるのかを知る機会にするためのものであった。鈴木先生の実践的な研修で、アクティブラーニングという言葉と定義が教員組織内で身近なものとなった。

 

図6 鈴木先生の全体研修の様子

 

(2)2016年4月~2017年3月 授業研究(2016年度)

鈴木先生の研修を経て、翌年の校内授業研究のテーマの一つを「アクティブラーニングの理解と授業への活用」とし、各教科それぞれの視点でアクティブラーニングの定義を行い、アクティブラーニングについての知識を深めることを目的とした。

上述の「創究講座」の実践でもわかるように、アクティブラーニングは本校が得意とする分野であり、「創究講座」以外の授業実践の中にも優れた例がすでに存在していると考えた。そこで授業研究プロジェクトを通じて普段の授業を検証した結果、各教科にも様々なアクティブラーニングの実践を発見することができた。普段の授業実践がすでにアクティブラーニングである実技4教科は互いの方法論を共有し、5教科の教員にとっても自らの指導に照らして多くの気づきがあった。その過程を通じて、教員全体のアクティブラーニングへの理解が深まった。

 

(3)2016年9月 桐蔭学園視察(管理職)

本校の教員が訪問した際、桐蔭学園入試広報部長の佐藤透先生が長時間に渡り、授業見学を中心として、非常に丁寧に対応してくださった。桐蔭学園では1年間をかけて学内での意識改革を進め、見学当時には9割以上の授業で何らかの形でアクティブラーニングを導入しているとのことであった。英語(高2)と古典(高2)の授業を見学し、生徒が中心でありながら、教師がクラスをコントロールし、主体的で深い学びがなされる授業に感銘を受けた。そうした授業を実践するには教員の確かな力量が求められる。桐蔭学園では試行錯誤しながらも、1年をかけて今のレベルにまで授業力を向上させてきたとのことで、本校でも組織的に取り組む必要性を強く感じた。

 

(4)2016年10月 「アクティブラーニング実践フォーラム」参加(管理職)

溝上慎一先生の基調講演は、学校から仕事・社会へのトランジション課題の解決、学びのリレー(トランジションリレー)が必要であることを強調した内容であった。学んだものが学校で完結するのでなく、よりスムーズに意味を持って、社会・仕事へとリレーされるべきであるという溝上先生の講演は、本校の取り組みに強くマッチするものだと感じた。

 

(5)2016年11月 桐蔭学園「アクティブラーニング公開研究会」参加(国語科・数学科・英語科教員)

参加した教員は、「アクティブラーニングの視点からの授業改革」について多くを学んだ。国語、数学、英語の教員が参加し、それぞれに大きなヒントと示唆を得た。

たとえば、講義・演習というかたちが多い数学科も、グループワークを通して理解がいかに深まるかを実感できたと報告している。また、実生活と結びつきが強い単元では、具体的な例を用いてアクティブラーニングを取り入れることにより、数学を学ぶ意味を生徒が見出す実践例に触れることができ、大きな学びとなった。

教員が参加した教科では、その後アクティブラーニング型授業の実践に向けた取り組みが加速し、教科間で連携してアクティブラーニングを行うことで、2020年入試で求められるような「教科を超えた思考力が身に付く」といった展望を得ることができた。

 

(6)2017年2月 校内教員研修(教育研究委員・分掌部長・教科主任対象):桐蔭学園 佐藤透先生

 


                   図7 佐藤先生の教員研修の様子

 

佐藤先生には特定の授業ではなく、多くの授業を見学していただいた。その時の先生の感想は、「(佐藤先生自身が)授業をしたくなる生徒たちだ」であった。また、「チョーク&トークが残っている授業があり、非常に惜しい」との批評もいただいた。本校には、アクティブラーニング型授業へ対して非常に開かれた態度を備えており、主体的な学びを進んで行う雰囲気があるので、これをより明確に導入することで、一気に授業のレベルが向上するだろうとの指摘もあった。

その後の主管教員への研修でも、その感想は何度も繰り返された。研修を受けた教員は、その言葉に励ましをいただき、これまでの取り組みが正しかったことに喜びと手ごたえを感じたようであった。

 

(7)2017年4月 校内研修(全教員対象):京都大学 溝上慎一先生

溝上先生には公民(高2)と英語(高2)の授業を見学、全体研修の中で講評と解説をいただいた。公民の授業では、生徒に対しても授業の講評をいただき、教員だけでなく生徒にとっても大きな学びとなった。

 

図8 溝上先生の授業講評の様子(公民)

 

ペアワークや発表など、アクティブラーニング型授業への本校生徒の取り組み姿勢の良さは、溝上先生からも褒めていただいた。ペアワークの指示に、ほぼ全員の生徒がきちんと向き合ってペアワークを行っている点や、クラスメートの発表を聞く生徒の態度などが、自然に適正に行われているとの指摘をいただいた。他校では傾聴の姿勢を根づかせることから指導が始まるケースが多いとのことで、本校の生徒はすでにそれができているとのことであった。

 

図9 溝上先生の授業見学の様子(英語)

 

<授業実践例> 乾菜摘「アクティブなインプット学習から協働学習につなげる授業」

 

本校では、教育理念としての「自学主義」が伝統的に根づいており、生徒だけでなく教員も、アクティブラーニング型授業を自然なものとして受け止める土壌があった。それが授業の様子や生徒の態度に表れているのだと思われる。

一方で、まだ改善が必要な点として、事前準備の無い当意即妙な生徒の発言・発表が不足していることが挙げられた。準備したプレゼンテーションや発表は非常によくできており、高いレベルにある。しかし、事前準備なしでの当意即妙な対応を身につけることは、指導を洗練させれば、もっと良くなるはずだとのことであった。溝上先生の「ここまでできる生徒たちならば、もっと高いレベルに到達できるポテンシャルがあるはずだ」との指摘にはたいへん勇気づけられ、与えられた宿題へ早急に取り組んでいきたいとの思いを強くした。

当日は長時間に渡り本校に滞在してくださり、授業のみならず個々の生徒のプレゼンテーションにも講評をいただいた。さらに全教員への研修、管理職との懇談など、非常に刺激的で有意義な一日となった。この日の研修を境にして、大きく授業のスタイルを変えたという教員も出てきており、本校のアクティブラーニング実践に大きな影響を与えていただいた。

 


                   図10 溝上先生の全体研修の様子

 

(8)2017年6月 私学校長合同部会

中高連主催の本年度第1回校長部会において溝上先生をお招きし、「アクティブラーニング型授業への転換と先に見ていること」というテーマで大阪私学中高の校長対象に講演をいただいた。アクティブラーニング導入の社会的な意義を俯瞰する内容で、本校での研修会の内容と併せて溝上先生のビジョンと本校の進むべき道を改めて確認することができた。

 

 

第5節 これから ~今後の展望と課題~

(1)2017年4月からの授業研究

2016年度のアクティブラーニング導入に関する流れを発展させたものとして、2017年度の授業研究の目標を「高い授業力を備えた教師集団へ」とし、本校では「アクティブラーニングと2020年度大学受験指導に向けて~『帝塚山学院中高ではこんな授業が受けられる』を目指す~」というテーマで研究を進めている。 1学期には、約35の研究授業が実施された。その中で、特にアクティブラーニングを強く意識した実験的な授業については、教育研究プロジェクトで授業の録画をし、「学力の三要素」の観点から分析を行った。授業の映像はDVDにして教科で共有し、2学期の授業研究で研修素材として活用できるようにした。

録画や分析ができなかった授業の中でも、溝上先生の講演に強く影響を受けた実践を行ったものもあり、2学期以降はさらに多くの授業と研究を記録することで、全教員でアクティブラーニングの指導方法を共有していく。

 

(2)2017年7月 溝上慎一先生との懇談(管理職)

アクティブラーニング型授業の導入に際して、本校ではソフト面でのサポートはもちろん、さらにハード面でのサポートを目指すことが必要だと考えた。具体案として、大学ではすでに導入のさかんなラーニングコモンズの高校版を立ち上げることを本校では企画している。溝上先生には多忙を極める中にも関わらず、その設計についてアドバイスをしていただき、様々な資料や大学での実践を元に有益なアイデアをご提示いただいた。協働学習を通した発信がより自然に生じ、発表の練習がよりカジュアルかつ頻繁にできることをコンセプトとして、現在計画中の施設の改善を図っていく予定である。

また、本年度7月~8月にかけて、高校1年生が『学びみらいPASS』を受検する。教科学力だけでなく、リテラシーとコンピテンシーを測定することができる、高校以下では全国初めてとなる画期的なテストであり、この結果を分析することで本校のアクティブラーニング型授業の成果を目に見える形で示していきたい。本校の潜在的強みだと推測しているリテラシーとコンピテンシーを数値化できれば教員の意識改革につながり、授業実践もおのずとその結果を補強するように変わっていくだろう。溝上先生には本校の取り組みに対して、今後ともご指導と助言をいただければと考えている。

 

 

溝上コメント

 

【参考ページ】

(AL関連の実践)【中学校/英語】竹村紗季(帝塚山学院中学校高等学校)「協働学習と発表で英文法の知識を定着させる授業」

(AL関連の実践)【高校/英語】乾菜摘(帝塚山学院中学校高等学校)「アクティブなインプット学習から協働学習につなげる授業」

 

 

プロファイル

  • 筒井規子(つつい のりこ)@帝塚山学院中学校高等学校・副校長
  • 道中博司(みちなか ひろし)@帝塚山学院中学校高等学校・副校長
  • 一言:これまでの取組みを、「アクティブラーニング」「主体的・対話的で深い学び」という視点の実践を通してさらに良いものにし、「帝塚山学院中高の授業」というものを明確にして、広く発信していきたいと思います。
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