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(AL関連の実践)【高校/英語】アクティブなインプット学習から協働学習につなげる授業
乾菜摘(帝塚山学院中学校高等学校)
帝塚山学院中学校高等学校のウェブサイト
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対象授業
授業:高校2年生 コミュニケーション英語Ⅱ(1単位)
生徒:1クラス41名×6クラス
教材:Listening & Speaking Training Seminar 2(ラーンズ)
第1節 授業の目標
英語4技能のうちの「聞く力」・「話す力」に重点をおき、毎時間1つの文法項目を中心に自分の言葉で伝える力を身に付けます。テキストを中心にまずはディクテーションで出てきた文法や表現を完全にマスターし、次にインプットした表現を使って話す練習をします。発話のベースとなる表現や文法を身に付け、様々なテーマで話せるようになることを目指します。受け身になりがちなインプットの活動を、ICT機器やソフトウェアを活用して、出来る限りアクティブに取り組めるように工夫しています。学年目標として、英検2級・GTEC Speaking Test GRADE 4を掲げています。
第2節 授業の流れと活動の目的
冒頭5分は小テストをおこない、終わりの5分は片付け・連絡をおこないます。以下、残りの40分の授業の流れについて説明します。
<個 25分>
Task 1 Warm-up Question(リスニング)
目 的 集中してスクリプトを聴き、選択問題に答える。ここではスクリプトの概要をつかむことが目的なので、単語や細かい表現の解説はあえて行いません。
Task 2 Dictation(書き取り)
目 的 聞き取れない箇所やつづりの分からない単語を確認する作業です。生徒のレベルに応じて2~3分の時間で、自分のペースでディクテーションを行います。完璧に書けることが目的ではないので、書きとれない部分は空欄にするように指示します。
図1 ディクテーション&チェック
Task 3 Check(答え合わせ)
目 的 聞き取れなかった箇所やつづりの分からなかった単語をチェックします。ここでは聞き取れなかったのか、聞き取れたのに書き間違えたかの確認をします。つづりを間違った単語は後で何回も練習し、覚えます。
Task 4 Grammar & Expression(文法・表現)
目 的 スクリプト内の文法や表現を確認します。ディクテーションで聞き取れなかった表現や理解できなかった箇所を完全に理解することが目的です。
Task 5 Shadowing & Back Translation (音読・暗誦)
目 的 英文を見ながらCDに合わせて音読し、意味を理解しながら正しい発音をインプットします。最後は和訳のみを見ながら覚えた英文をアウトプットすることで表現を定着させます。
Task 6 Sentence Practice ①(英作)
目 的 例文をもとに、単元で学んだ表現・文法を使って英作します。
図2 英作
Task 7 Sentence Practice ②(自由英作)
目 的 様々な場面やテーマに対し、学んだ表現・文法を使って自由英作します。
<協働 10分>
Task 8 Speaking (ペア活動)
目 的 ペアで英文を発表します。お互い気付いた間違いは訂正するように指示します。スラスラと発表できるようになるまで練習します。ペアが発表している時は、相手に身体を向け、内容が理解できたら頷くようにします。相手にきちんと伝わっているという安心感を与えるためです。
Task 9 Speaking (クラス発表)
目 的 指名された生徒がクラスの前で発表します。この時も聞いている生徒は身体を発表者に向け、理解出来たら頷くようにします。発表後、教員がクラス全体に質問を投げかけ、生徒の理解を深めます。気付いた間違いは訂正するように指示します。
図3 ペアワークの様子
<個 5分>
Task 10 Recording (録音)
目 的 訂正した英文を覚えて録音します。内容、発音、明瞭さ、速度を評価規準にします。
図4 授業風景
第3節 アクティブラーニングへの工夫
(1) 評価規準について
「学力の三要素」の視点から、授業内の活動を以下のように分類し、それぞれの力が養えるような授業を目指しています。
A:知識・技能
(1) リスニング・ディクテーションを通じて内容を把握することができる。
(2) 既習の文法を理解し、使い分けることができる。
(3) 既習の文法を使って自由に英作ができる。
B:思考力・判断力・表現力
(1) 習った文法の知識や表現を活かし、状況に応じた英文をアウトプットできる。
(2) 相手の英文の伝えたいことを読み(聞き)とり、理解できる。
(3) 身近なトピックについて簡単な発表ができる。
(4) クラスメイトに内容が伝わりやすい英文を工夫して発表することができる。
C:主体性・多様性・協働性(学びに向かう力・人間性)
(1) ペアでサポートしながら英語のアウトプットができる。
(2) クラスメイトの発表を聞き、その意味を理解しようと努力できる。
(3) クラスメイトの発表を聞き、質問に答えることができる。
(2) 個の活動での工夫・成果
授業では1人1台パソコンとマイク付きヘッドフォンを使います。ディクテーションや録音は各自がパソコンを使って行うので、自分のペースで取り組むことができます。特にディクテーションは一度に聞き取れる量に個人差があるので、教室で一斉にやるとどうしても早々に諦めてしまう生徒が出てしまいます。その点この方法では全員積極的に取り組めています。
時間は必ず設定します。時間内にどれだけ聞き取れるかも、生徒の力の向上を図る目安になります。
最後に録音することで、その時間の取り組みを評価につなげることができます。生徒のやる気にもつながりますし、何より自分が英語を話せているという自信になります。
(3) 協働活動での工夫・成果
発表する時の、聞く側の姿勢を決めました。必ず発表者の方に身体を向けること。内容が理解できたら大きく頷くこと。間違っている時や理解が難しかった時は相手に伝えること。こうすることで発表者が安心して伝えることができます。時には生徒同士、相談しながら英文を書くこともあります。教師に聞くことは萎縮してしまう生徒も、これなら気兼ねなく取り組むことができます。
ここでも時間は設定します。協働活動は時間をかけすぎると、話が逸れてしまう傾向があるように感じています。少し短いと感じるぐらいの時間設定することで、生徒たちはより集中して学習できています。
図5 時間を見せる
第4節 1学期の振り返り
1学期は教材に慣れ親しむこと、コンピューター・録音デバイスの使い方を覚えることを中心に取り組みました。
教材はまず、自己紹介や住んでいる町の紹介など、これまでも多く扱ってきたテーマから始まります。生徒が構えすぎることなく授業に取り組めたと思います。スピーキングの授業で大切なのは、誰でも気軽に英語が話せる雰囲気を作ること。始めから難度の高い英文にしてしまうと、生徒は緊張し、間違えることを恐れ、積極的に英語を話さなくなってしまいます。発表の際には、あえて間違えた英文や、英語に自信のない生徒を指名することもあります。完璧な英語を話すことよりも、間違えてでも聞いている人に伝わる英語を話すことの大切さを教えていくためです。
週1回の授業なので、コンピューター・録音デバイスを生徒が使いこなすのには、思った以上に時間がかかりました。機器の不具合など、もしもの時は急遽紙に書いたものを提出させたり、その場で発表させたりと臨機応変に対応してきました。
第5節 今後の課題
授業の流れの中で、どうしても最初のインプットの部分に時間を多く割いてしまいます。そのため、協働学習の時間があまりとれずにいます。章が進み、より奥深いテーマになってくれば、1コマの授業を2コマに伸ばし、グループワークやクラス発表の時間を多くとれればと考えています。
1学期ではあまり評価にこだわりませんでした。2学期では機器の操作にも慣れてくれたはずなので、なるべく多くの評価をし、生徒へのフィードバックを増やします。
2学期では実際のテスト形式に挑戦します。まず8月はGTECのSpeaking Testを受験します。本番では時間制限の中で答える必要があるので、ほぼ即興で英語を話せるかが鍵となるでしょう。
生徒たちは前向きに英語学習に取り組んでいます。友達と英語で会話できた時の喜びや、先生が英語で話している内容が聞き取れた時の喜んだ顔をこれからもたくさん生み出せるよう、指導していきます。
溝上のコメント
【参考ページ】
✔
(用語集)深い学びとは
✔
(用語集)学力の三要素
✔
(講話)外化なしの学習は思考力育成を放棄しているに等しい-外化としてのアクティブラーニングの意義
✔
(桐蔭学園)前に出てきて発表
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(AL関連の実践)【中学高校】筒井規子・道中博司(帝塚山学院中学校高等学校・教育研究プロジェクト)「帝塚山学院中学校高等学校-アクティブラーニング型授業を洗練させる取り組み-」
プロファイル
乾菜摘(いぬい なつみ)@帝塚山学院中学校高等学校・英語
- 一言:授業を考える上で注意していることは、アクティブラーニングが単なるペア(グループ)活動で終わってしまわないことです。毎時間の目標を生徒に与え、授業の最後には「楽しかった」だけでなく「今日はこの力が身に付いた」と感じてもらいたいです。小さな達成感の積み重ねが生徒一人一人の自信に繋がります。