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(AL関連の実践)【高校/社会】グループワークを生かした世界史Bの授業展開
髙木一輝(岐阜県立各務原西高校)
岐阜県立各務原西高校のウェブサイト
溝上のコメントは最後にあります
対象授業
- 授業:世界史B(4単位)
- 教材:教科書『詳説世界史B』(山川出版社) 資料集『世界史のミュージアム』(とうほう)
- 実施クラス:3年次生世界史B選択者(40名・37名の2講座)
第1節 目標
世界史Bにおける標準の授業をアクティブラーニング型で実施することで、次のことを達成したい。
①クラス全員が課題を理解できるように、全員で協力することができる。
②生徒が主体的に課題に取り組むことで、知識の定着度を深めると同時に、歴史的な意義や因果関係など抽象度の高い議論を自ら追究する姿勢をはぐくむ。
③入試においていわゆる「M字分布」となりやすい世界史において、取り残されがちな成績下位層の引き上げを行う。
第2節 授業の流れ
事前学習
- 事前に授業プリントを配付しておく(1カ月分程度まとめて渡しておく)。
- 授業プリントの約半分が簡単な事項整理の表になっているので、その空所補充を予習として済ませておく。
冒頭(5分)
- 今日の授業で扱う内容について前後の授業のつながりから簡単に意義付けを行う。
- 授業プリントの中に書かれた「本時の課題」について確認する。
「本時の課題」は主に大学入試で出題された論述問題であることが多い。ただし指定語句を変更したり、追加したりしながら、難易度を調節することも多い。今年度最も苦慮するのがこのさじ加減である。簡単すぎてはグループで議論する意味がないし、難しすぎれば生徒のモチベーションが低下してしまう。時にはかなり難しい課題を課す時間があってもよいが、そればかりではいけない。今年度(平成29年度)の4月からこの形態で授業を実施しているが、適当な課題作成には答えがない状況である。
- 「クラスの全員が課題を理解できるよう、全員で協力して取り組む」ことを毎時間確認する。
学習活動(35分)
- 「さあ、どうぞ」という掛け声をかけると、生徒は各自課題に取り組み始める。
講座によっては生徒たちが勝手に机をグループ隊形に並べ替え(別に私がグループを指示したわけではないのだが)、話し合いを始める。クラスによっては席を立ち歩いて思い思いに議論を開始している。この学習形態が成熟するにつれて、だんだん話し合いが活発になり、騒がしくなるようになってきている。なお、生徒には教科書・資料集・用語集・電子辞書、なんでも使ってよいし、立ち歩いて話をしても聞きに行ってもいいから、講座全員が理解できるようにということをくりかえし指示している。
図2 授業の様子
(左)周辺の生徒同士で机を寄せたり、場合によっては席を立ち、自分より分かっている生徒の席まで移動して話し合う中で課題に取り組み、理解を深める。
(右)授業プリントの左側は事前に予習してくる知識パート。授業までに空欄を埋めておくことで、教科書や用語集に一度は目を通すことになり、この一時間の核となる知識が予備的に入ってくる。ただし、その理解度には個人差が当然発生する。課題に取り組む中で、その理解度の個人差がコミュニケーションを生む。
- 教員はファシリテーター役
生徒が各自学び合いの活動をしているところを見て回る。授業をこの形式にしても、生徒が雑談に走ったりすることはあまりない。ただ、どうしても課題の難易度によって煮詰まってしまうことがあるため、巡回する中で「○○はもうそのあたり分かっているみたいだったよ」とか、逆に「□□がここで詰まっているから教えてやって」などと声をかけて回る必要がある。基本的には生徒同士がコミュニケーションする中で「答え」にたどり着くことが最優先である。
一方、生徒の中から深い気づきにいたる発言が飛び出すことがある。第一次世界大戦時の総力戦について説明させる課題に対し、「新兵器が次々と投入されるようになって、今までの戦争のように戦う兵隊の力量以上に、そういう兵器を発明して生産できるような体制がより重要になったということですか」などという発言をしてくる場合である。教科書や用語集など決まりきったデータであっても、その読み方や消化のしかたは生徒しだいである。時に全く見当違いな受け取り方をする生徒がいないではないが、その場合はユニークな着眼点を褒めると同時にその受け止め方の根拠(教科書や用語集など)に戻ってもう一度解釈を一緒に行うようにしている。
アクティブラーニング型授業にすると教員の知識が生きず、授業内容のレベルが低下すると指摘する教員もいる。しかし実際には、おそらく講義型でやっていたのでは全く触れることもできないような高度な質問が次々と生徒から出てくる。生徒同士が議論する中で、与えられた知識が有機的に結び付き、活性化するため、ただ聞いているだけでは浮かんでこない疑問が生まれてくるからであろう。
この35分間の間に、生徒の議論の様子やプリントに残されたメモを確認し、最後に発表する生徒を決めて声をかける。
図3 学習の様子
(左)プリントの右側に、この時間に取り組むべき「本時の課題」が配置されている。その下の余白に、生徒によってはチャート図風に、生徒によっては文章で、課題に対する説明を用意していく。
(右)時間の終わりに生徒の一人に課題に対する説明を発表させる。その内容を教員が板書し、最後に補足して授業を終える。
発表(10分)
- 生徒が解説:学習活動の間に生徒に目星をつけ、前に出させて課題の説明をさせる。
生徒の解説の後、私がフォローをし、解説を補完しているのが現状である。多くの生徒に発表経験を積ませるため、学習活動に入る前に抽選で一人発表者を決めておく、という方法も考えているが、未実施である。
第3節 アクティブラーニング型授業転換後の影響
① 授業進度アップ
講義形式で授業を進めるより、2~3倍程度はやく進んでいる。これは実施前から見込んでいたことであるが、1枚の授業プリントが確実に1コマの時間内で終了する。講義形式だと、「今日はこのネタに熱が入ってしまった」ということが多々ある(社会科教員には、ありすぎる)。
現在の授業進度であれば、問題演習時間を十分に確保することができる。授業の中でレポート課題に取り組ませるなど、授業進度に追われていてはじっくり向き合えないことも実施できると考えている。
② 成績下位層のレベルアップ
教員1名で40名を教えるより、複数の「教師役」が教室内に現れることで授業効果が高まるのではないかと考えていたが、ここ3ヶ年の前期中間考査の得点分布を比較してみるとそのことが裏付けられた。ここ3年間の3年次生はすべて私が担当しており、授業の範囲や平均点もおおよそ同程度である。ここで問題になるのは得点そのものより、得点分布なのだが、27年、28年の分布に比べて29年度は成績上位者の山が大きく、下位の生徒が少ないことが読み取れる。
図4 前期中間考査年度別比較
第4節 今後の課題
目に見えやすい数字の上では結果が出ているようにも感じられるが、今後改善すべき点も多々ある。
① 「全員が理解する」という目標に到達させる、ということについての課題
- 課題の難易度:学び合いの開始から20分程度が経過したときに、クラスの3分の1が到達するぐらいの難易度が適当(西川、2016)というのを目安にしているが、課題の多くはようやく4,5人が到達する程度である。課題のレベルを調節する必要がある。
- 学び合いの活性化:難易度ともかかわる問題だが、わからない場合に机を離れて分かっている人に聞きに行く、逆に分かった場合に分からない人に教えに行く、という姿勢がなかなか育たない。これこそがこの授業形態にした本来の目的である。「理解を深めるために授業がある」という認識を生徒に育んでいきたい。
② 振り返りの活用:プリントの末尾には振り返り項目があるが、フィードバックができていない状況である。
- 「自分が理解する」ことよりも「全員が理解するために協力できたか」がこの授業がうまくいったかどうかの指標となる。このことを確かめるためにも、必ず生徒に課題を達成できたかを確認する必要がある。しかし、課題を回収して確認するなどの作業が時間的にできない状況にある。
- この授業を終えて、さらに浮かんだ疑問を書かせる項目が用意されているが、活用できていない。「問い」を立てることは、単に「勉強」するよりも高度な営みである。この部分までやり切らせることが、「深い学び」につながると思うが、やり切らせていないのが現状である。
参考文献
溝上慎一『高等学校におけるアクティブラーニング事例編(アクティブラーニング・シリーズ第5巻)』東信堂、2016
西川純『すぐ実践できるアクティブラーニング高校地歴公民』学陽書房、2016
溝上のコメント
- 髙木教諭のアクティブラーニング型授業で全国がもっとも注目すべきは、教諭が「講義形式で授業を進めるより、2~3倍程度はやく進んでいる」と述べるように、進度の克服の可能性を見せてくれていることだろう。この授業の基本装置として、当然のことながら「予習」がある。反転授業ではないが、予習を前提とした授業づくりである。予習をはやくからおこなうために、教諭は「1ヶ月分の予習プリント」を事前に配付する。
- 授業内の生徒の深い学びが、「高度な質問」に表れている。生徒一人ひとりの知識世界の中で、学習内容が既有知識や素朴な世界への見方、信念などと結びつき、その接続過程で「質問」が生まれる。質問は、「問い」や「疑問」に置き換えてもいい。問いや疑問が生まれる学習こそが学習パラダイムに基づくアクティブラーニング型授業の醍醐味である。すばらしい。教諭の考察を引用しよう。
「実際には、おそらく講義型でやっていたのでは全く触れることもできないような高度な質問が次々と生徒から出てくる。生徒同士が議論する中で、与えられた知識が有機的に結び付き、活性化するため、ただ聞いているだけでは浮かんでこない疑問が生まれてくるからであろう。」(第2節 学習活動より)
「「問い」を立てることは、単に「勉強」するよりも高度な営みである。」(第4節 今後の課題より)
- できる生徒だけが理解するのではなく、「全員で協力して課題を理解する」ことを目標としていることが、まずすばらしい授業観だと思う。授業ユニバーサルデザインの考え方にも通ずる。前に出てきて発表(説明)もあり、事前のグループワークとスムースに連動していて、グループワークの質をより高めていると見える。
- 学習活動において、グループを4人、2人と形式的に定めることなく、生徒が好きなようにグループを作りワークを始める。それでグループワークが全員参加で進むならば、すばらしいことだ。まったく問題ではない。形式はあくまで形式にすぎないと思わせる一場面だ。
- ときどきでいいので、図4のように、エビデンスをとることを他の教員にもお勧めしたい。同じ教科の同じ学期、同じ単元など、同一条件に近い成績を比較すると、豊かなリフレクションになる。組織的にアクティブラーニング型授業を展開していく上で、全員の教師がおこなってもらいたい作業でもある。
【参考ページ】
✓ (AL関連の実践)宮田隆徳(名城大学附属高等学校)「ScrapboxとYouTubeを利用した反転授業」
✓ (理論)深い学びとは
✓ (桐蔭学園の教育改革)前に出てきて発表
【参考文献】
✓ 小貫悟・桂聖 (2014). 授業のユニバーサルデザイン入門 東洋館出版社
✓ 田中博史・桂聖 (2016). ドキュメント算数・国語の「全員参加」授業をつくる (長州 田中桂塾 第1弾) 文溪堂
プロファイル
髙木一輝(たかぎ かずてる)@岐阜県立各務原西高等学校(世界史)
- 一言:授業に対し、常に刺激を求めて新しい目線を取り入れているつもりですが、そのたびに反省することばかりです。ただ、生徒にも「失敗したこと・負けたことが一番学びにつながる」と言っていますので、自分もめげずに次の一歩を踏み出したいと考えています。