このページは、溝上の学術的な論考サイトです。考えサイトポリシーをご了解の上お読みください。        溝上慎一のホームページ

 

(AL関連の実践)【高校/英語】楽しく思考力を育てる英語の授業(2)-生徒の変化からみられる効果-                             中村憲幸(東山中学・高等学校)

東山中学・高等学校のウェブサイト

「~(1)」のページで4月の授業が紹介され、「~2」のこのページで翌2月の同授業が紹介されます。
溝上のコメントは最後にあります。

対象授業

 

 

第1節 授業の目標

4月から質問作りを軸に授業を進めてきたことから、生徒が授業内に自分の考えを持ち、それをまとめる時間を持てるようになった。また、各レッスンの最後に課すライティングの問いにおいても、生徒たちは自分の考えを積極的に書くようになってきている。中にはこちらが驚くような観点を持つ生徒も出てきた。

そこで年度途中から、そういった『生徒の変化を偶然の産物とせずに、学習の過程で少しでも多くの「気付き」や「考え方の変化」の場を提供すること』を授業の目標に追加した。また、年間を通して様々なトピックについて自分の意見を述べさせてきたので、スピーキングについても『論理的に話せること』を目標に追加した。

 

  

 

第2節 授業の流れ(1つのLessonの進め方)

基本的に4月から行ってきているものと同じである。①「教え合いのための準備」、②「教え合い」、③「要約活動」、④「質問作り」、⑤「自分の考えを述べる」の5点は重要であると考えている。その中で、少し変化した部分について以下に述べる。

変化1 ④ 「質問作り」について

年度の最初の方は各Lesson内のセクションごとに一人一つ作る、という指示であったが、セクションが短くて質問を作るのが難しい時があり、また質問が重なる時もあったため、現在はLesson全体から各班で10問ずつ作るよう指示を出している。また、10問作った後、3問を選ばせるようにしている。全体から10問作ることで英文全体に目を通すことができる。また、その後3問を選ぶ際には、生徒たちが大切だと感じる感性に任せて3問選ばせるようにしている。この問題を選ぶ時間(と同時に選んだ理由について考える時間)と、選んだ問題に対する模範解答を考える時間をしっかり設けている。生徒のこの活動中の会話等を聴いていると、この質問を選ぶ時間と模範解答を作る過程の中に非常に深い学びがあると感じられる。

質問作り・選び・解答作りに1時間もしくは2時間費やし、その後各班の半分の生徒(2,3名)が時計回りに隣の班へ移動する。各班に残った生徒は移動してきた生徒に自分たちの作った質問を投げかけ、移動してきた生徒はその質問に答える。質問に答えた生徒は評価シートに質問者の評価をしてこの活動は終了である。(時間の許す限り移動を繰り返し、作った質問を多くの生徒へ投げかける機会を設ける。)


図1 質問作りの様子。班によっては意見を交換して考える班もあれば、各自考える時間を取る班も

 

 図2 質問をし合う際の評価シート

 

変化2 ⑥ 「自分が学んだこと・自分の中で考え方がどう変わったかについて、述べる」を加えた。

自身の学びを客観的にまとめる時間を取ることは非常に大切であると考え、各Lessonの進捗がさらにゆっくりになるが、この時間を追加した。

変化3 Essential Questionは教員から出すことに

セクション毎ではなく本文全体から質問作りをさせているので、あえて生徒に本文全体についてのEssential Questionを作らせる必要が無くなったため。生徒の考えを整理するための質問が要求されると感じている。

(例 AIについて学んだあとは“What is AI? And How would our lives be changed by AI?”と問いかける予定である。)

 

 

第3節 授業(50分)の流れ

① 授業の雰囲気作りもかねて、洋楽をみんなで歌う。1月は生徒のリクエストで映画レ・ミゼラブルのDo you hear the people sing(民衆の歌)を歌った。(今年度はクリスマスソング含め15曲ほど歌った。) (5分)

② ペアを作り、a)洋書を用いて読み聞かせ、b)日常的な話題(修学旅行の目的地とそこを選んだ理由・週末何をしたか、など)について、あるいはc)前回習った単元について自身で書いたものについてのスピーキング活動。生徒が飽きないように、毎回スピーキングの内容は変えるようにしている。 (10分)

③ 第2節で述べた「教え合いのための準備」、「教え合い」、「要約活動」、「質問作り」、「自分の考えを述べる」、そして「自分が学んだことを述べる」の時間にあてる。

 

1月の本校での公開授業(NEWSBREAK Lesson 9 Protecting the Ecosystemのまとめ)の際は、20分間を質問作り(前回の授業の続き)にあて、その後、上の変化1で述べた「生徒同士が質問をし合う」時間を10分取った。残り5分で教員からEssential Question(Why do we need to protect the ecosystem? 英語で書くもの)と「生態系について学習する前とどのように考え方が変わったか」(まずは日本語で書き、次の試験では英語で書くように指示を出した)の2つの作文を提示して、それについて書き始めるきっかけ作りの時間にして終了となった。

 

 

第4節 授業内での工夫

① Lessonの内容に関するサイドリーダー・資料の活用

『学習の過程で少しでも多くの「気付き」や「考え方の変化」を持ってほしい』ということを念頭に置き、各Lessonに関するサイドリーダー等を用意することを心掛けるようにしている。例としては、1月に生態系のLessonを扱った際には、「アメリカでのマウンテンライオンとヒトとの共存の歴史」(大学の入試問題)、「ネパールのある国立公園でのトラとヒトとの共存についての実験」(インターネット記事)、「アマゾンの生態系」(洋書の抜粋)に関する英文の資料を生徒へ配布し、生徒とともに授業内に読んだ。ネパールでの実験についての資料には、「トラとヒトとの共存は条件さえ整えば可能である」と述べられており、生徒にとっては予想外であったようで、その様子は非常に印象的であり、教科書以外の教材の活用の重要性を改めて認識した。

 

② 生徒を飽きさせない授業形式のマイナーチェンジ

2月はAIについてのLessonを扱っているが、普段と異なる形式で授業を進めた。AIという生徒たちの関心が高い分野であることから、『「AIを用いた、近い将来発明されるであろう新製品または新技術」についてのプレゼンテーションを2クラス合同計11班で行い、お互いの考えた製品・新技術やそのプレゼンについて評価し合うこと』をゴールに設定した。そこで、「そもそもAIとは何か。」「AIの利点・不利点とは?」というEssential Questionを先に提示して思考を深めさせ、その後、各班新製品・新技術について考えるよう指示を出した。班によってはスムーズな班もあれば行き詰まる班もあったので、効果的な読み物であろうと思い、1月にラスベガスで行われたCES 2018という新製品博覧会についての記事を配布して実際にAIがどのように活用されているのかについて授業内に読んだ。お互いの発表の評価の後、上述した”What is AI? And How would our lives be changed by AI?”に各自の考えを書いこのLessonは終了する予定である。


図3 AIを用いた新製品・新技術のアイデアを出し合っている様子。楽しそうな表情が印象的です

 

③ 1つのLessonにかける時間

4月当初は最大2週間で終わらせていたが、現在は1Lessonにつき1カ月近くかけている。一つの物事に対して多方面から考えることによって生徒たちの考え方に深みが増しているように感じている。また、1つのLessonに関連する単語や英文法を繰り返し使うことで知識の習得面においても効果的である。

 

 

第5節 一年間を通して気付いたこと

① 楽しく学ぶことの重要性

年度を通して英語学習を続けるということが根底にあるので、「次は英語の時間か。いややなぁ。」と思わせない工夫や雰囲気作りが大切である。「英語は頭使うし疲れるけど、楽しい」という生徒の感想を聴くと、今年度はひとまず継続して学んでくれたことが窺える。

② 生徒たち同士の学び合いの効果

定期考査は昨年よりも難易度が上がり、試験範囲がはるかに広くなったにもかかわらず、平均点は試験の度に上がり、直近の定期考査では過去最高であった。教員が教える時間を減らして平均点が上がることは皮肉にも感じるが、生徒たちの学び合いこそ大切な事であると痛感した。

③ 質問作り、学びの振り返りの重要性

質問を作るためには全体像を把握しなければならず、全体像を理解するには要旨を掴むことも必要である。よって生徒たちの視点は英単語や英文法のみならず、英文の主旨に向けられる。また、作った質問の模範解答を作成する際に、他教科の教科書を取り出して学習する姿勢を何度も見た。質問作りの奥深さを感じている。

また、自身の学びを客観的に見つめることでメタ認知能力を上げることを狙いとして、これも年度途中から始めたことではあるが継続していきたい。

④ 授業デザインの重要性

いくら意味があると生徒が理解していても、毎回同じ流れではやはり飽きてくる生徒も出てくる。よって、時にはとても準備に時間がかかることではあるが、毎回の授業のトピックに応じてそのLessonの着地点を定め、そこから逆算してサイドリーダーや資料、動画、時にはプレゼンテーションの時間などを織り交ぜて授業をデザインすることは非常に重要であると感じた。

⑤ 生徒間の人間関係の変化

他の授業中にずっと眠そうにしている生徒や定期考査では結果が芳しくない生徒も、グループ活動となると鋭い発言をしたり、周囲をあっと驚かせる質問を考えだしたりする光景を何度も目にしてきた。こうした活動を経て、生徒たちは互いの話をしっかり聞き、互いに敬意を払うようになっている。とても嬉しい変化であった。

 

 

溝上のコメント

 

 

プロファイル

中村憲幸(なかむら のりゆき)@東山中学・高等学校


  • 授業をしっかりデザインすることと、生徒に愛をもって接することがとても大切であると感じています。時にはうまくいかないこともありますが、その時は何が良くなかったのかをしっかり振り返ります。授業の成功(大袈裟ですが)を再現性あるものにすべく日々考え続けます。せっかく英語を学んでいるので4技能全てを伸ばしてあげたい!

Page Top